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僅かな可能性の為の命がけの時間稼ぎ

「ガガグァァァァァァァ!!」


魔法を帯びた斬撃と、魔法を弾く鱗が衝突したその時、爆発にも似た衝撃と飛び散る稲妻が弾け飛ぶ。だが逸れることも消えることは無い。ドラゴンであるウルザードの鱗ですらも受け止めることが出来ない一閃が、両断せんと更に唸りを上げて僅かに、されど確実に押し込んでいた。


それでも斬撃は、込められた魔力を尽きれば、威力が衰える。アレほどまでに眩しく光っていた一閃は、やがて細くなっていき、ついには消えてしまう。


「ガ、ガ、グァァァァァァァァ!!」


未だ、ドラゴンは健在であった。しかし、ウルザードの額に、一枚の焼き割れた鱗。それだけがリュクシスの渾身の一撃がどれだけの威力であったのかを証明していた。


盾にすれば、どんな攻撃を受け止める無敵の盾、鎧にすれば、無数の攻撃にも傷一つ付かない鎧となる鱗を、見事に一刀両断にする芸当は、この世に何にも居ないであろう。しかし、その内側にまではついぞ届きはしなかった。


果たして、この攻撃に意味があったのだろうか。全力でも尚、鱗一枚を傷つけるのが精一杯の相手に、勝てるのか。


そんなくだらない絶望は、リュクシスには関係なかった。


ウルザードの頭上に躍り出ていた2人の影が、金色の瞳を黒く染める。


捉えたのは、激しい稲妻の閃光と共に飛び出していたリュクシス。そして雷斬代わりに携えるのは、涙と鼻水を振り撒いて宙を暴れるラキ。


「ビェェェェェェェ!何するのよぉぉぉぉ!!」

「メスガキ、お前さっき言ってたよな?」


喚くメスガキを無視して、リュクシスは一方的に喋る。ラキ自身が言い放った言葉を復唱して。


「『どうやってあの怪物に触れられるって言うのよ!!』ってよ。つまり触りさえ出来れば、操れるんだよな」

「あ、貴方それを信じてる訳!?頭おかしいんじゃないの!?」


仮にも魔王四天王を名乗る人類の敵、況してや弾みで出てしまったような言葉に命を懸ける馬鹿は居ない。そもそもこれまで痴態しか晒していないラキなど信じられるのか。


リュクシスから言わせれば、そんな疑念は思考の邪魔でしかない。信じられるのは、自分の剣の腕前と、半年間共に戦ったロクデナシ達の実力、後は。


「そうだな、だったらお前が証明して来い!俺の勘は当たるんだってな!!」


自身の勘だけである。だからこそ、目晦ましに放った、こけおどしの一撃には意味がある。


そう言い切ると、リュクシスはウルザードの頭を狙い、そして。


「精々、俺の役に立ってくれよ、ラキ!!」


ラキの身体を力任せに投げ飛ばした。


「あぁぁぁぁぁぁ!!」


勢い任せに突き進むラキの身体は、そのまま一直線にウルザードの頭を目掛けて突き進む。しかし、ウルザードも自分に飛び罹る物体、ましてや怒り狂った原因のラキを、黙って見ているつもりはない。


「グルゥゥゥゥウァァァァ!!」


迎え撃たんと見上げて口を開く。その喉奥には、リュクシスが目撃したように、盛る業火のブレスが待ち構えていた。


しかし、そのブレスが放たれる事は無い。


呪術技法(カースドスペルアーツ)贄柱(・にえばしら)!!」

荒打鬼(あらだき)ぃ!!」

「グルゥ!?」


ウルザードの顎を、柱と拳が襲う。その真下には槍底を付くミレーヌと、拳を突き上げるシヴァルの姿があった。


「失敗したら呪いますからね!!」

「滅茶苦茶やりやがるな大将も!乗ったぜ!!」


突如としての予想外な衝撃に、耐え切れずウルザードの顎は閉じてしまう。だが、その前に一発の火弾が口の中に迷い込んでいた。


その発射元は無論、ウルザードを目前としながらも、臆することなく準備を整えたアリアからであった。


「ギュッと凝縮!一点集中!火弾(ファイアーバレット):アスガルドフォイア!!」


残り全ての魔力を限界まで濃縮した火弾が、喉奥で燻る業火と連鎖反応を起こす。


「ガガガガガガアァァァァッァァァァァ!!」


即ち、ウルザードの口内で、溢れんばかりの炎の大爆発を引き起こした。


ドラゴンでも、鱗で覆われていない内部で、しかも自身のブレスが爆発を起こしては、効果は有ったらしい。溜まらず頭部が地面へと落ちていく。


「ガァァァァァァァァァァァァァ!!」

「キャァァァァァァァ!助けてぇぇぇぇぇぇ!!」


しかしまだ一手及ばない。ブレスが無くとも、焼き焦げた口で叫びながら、振り上げたウルザードの爪撃が、後少しで触れ兼ねない距離まで近づくラキを、確実に捉えていた。


付与(エンチャント・)(ヴェント)


その時、リュクシスの澄んだ声と共に、ラキの後ろで風が靡く。


平気で人を切り殺そうとするし、馬で引き摺り回したり、挙句の果てにはドラゴンに向かって投げ飛ばすような外道達である。


でも同時に、その常識の枠からはみ出した強さには、驚かされるばかりである。だからこそだろうか、リュクシス達を信じている訳でも、頼りにしているわけでもないのに。


ラキに巻き付く恐怖が、少しだけ和らいだ。


「『怪鳥・(ファンタズマ・)飛行(ヴォ―ロ)』!!」


ラキを飛び越え、視界一杯を雄大に羽ばたく風の翼が、頬を掠める。それはリュクシスの斬撃より生まれた、ドラゴンと見間違えんばかりの風纏う大怪鳥であった。


振りかざされる双爪と、受け止める双翼が激しい火花を散らしてぶつかり合う。だが腹の底を探って搔き集めた残りカスの魔力では、精々一瞬の動きを止めただけで、大怪鳥は直ぐに切り裂かれてしまう。



それでも、ラキが双爪を潜り抜けるだけの時間稼ぎにはなった。


「やってやるわよこんちきしょぉぉぉぉ!!」


ウルザードを目前にして、ラキは叫ばずにはいられなかった。それもこれも、全てあの勇者を名乗るロクデナシのせいだ。だから。


これが終わったら、あのニヤケ面をぶん殴ってやる。


従属契約 開始(エンゲージ・スタート)ぉぉぉ!!」


ラキの手が、ウルザードの額に触れた。

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