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『閑話』ラキ・ルーメンス、逃亡成功……?

「あんな奴らが居るなんて聞いてないわよぉ……」


だだ広い草原で、まるで砂漠地帯で遭難したかのように、項垂れて彷徨う人影、いや魔族影があった。


そう、魔王軍四天王であり、つい四日前にリュクシス達勇者一行から命からがら逃亡したラキ・ルーメンスである。


「誰か助けてよぉぉ……」


ラキが助けを求めても、空虚に消えるばかり。既に集められるだけ集めた自慢の魔物達も、もう居ない。新しく従えようにも、ここ辺りの魔物は、首都を襲う戦力として粗方乱獲してしまい、最早魔物の影すらも、ここ数日は見かけていなかった。


「お腹減ったぁ、喉乾いたぁ……歩くの疲れたぁ」


食料や飲み水は首都を攻め滅ぼした後に、好きなだけ手に入るとタカを括って、そんなに持って来ていなかった。移動も現地のコボルトの背中に乗って移動していたので楽だった。


それが今やどうだろうか、予備の僅かながらの食料や飲み水は昨日底を付いて、空腹の警鐘と喉の渇きが収まらない。夜通しで歩き回ったせいで、足が鉛のように重い上に、帰る為の方角も分からない。


加えて、あの憎たらしいロクデナシ勇者に、あられもない醜態を見られてしまった。お嫁にいけないどころか、死んでしまった方がマシなほどの恥をかいてしまった事は、ラキの精神に一生の傷を残している。


既に肉体と精神、共にラキは限界を迎えようとしていた。


「誰か私を助けなさいよぉぉぉぉ!!うわぁぁぁぁぁ!!私は魔王軍四天王のラキ・ルーメンスよぉぉぉ!!」


肉体よりも先に精神が限界を迎えてしまったようである。その場で寝転がり、お菓子を買って貰えない子供のようにジタバタと駄々を捏ねてしまう。


「わぁぁぁぁぁぁ!!まおうしゃまぁぁぁぁぁぁ!!」


遂には、駄々の捏ね方に横回転が加わり、草原で奇声を上げながら右往左往に暴れる様は、もう完全に幼児退行をしていると言っても過言ではなかった。


「あっ」


そして転がった先は、下り坂となっていた。


そうとも気づかなかったラキは勢いそのままに、空中へと派手に放り出された。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


一弾みを挟んでから、ラキの身体が坂道を丸太のようにゴロゴロと下り、止まる事すら出来ない推進力は、傾斜が終わっても衰えずに尚、転がり続けた。


「へぶしっ!?」


そうして転がり続けていると、何か固い物が頭にぶつかり、ラキの身体は停止した。


「頭がぁぁ!私の頭がぁぁ!!」


パッカリと割れたかのような痛みに、たんこぶで盛り上がった頭を押さえて悶える。そしてようやく痛みが治まると、傷を付けた憎き障害をラキは探し、足元に転がる鍬を見つけた。


何でこんな所に鍬が?と考えるまでもなく辺りを見渡せば、そこは作物豊かな天国であった。


「あっ、あぁ!!」


実際には、刈り入れ時間近の野菜畑だが、そんな些細な違いはどうでも良い。未だに痛む頭など忘れて、ラキはフワフワの土壌へと飛び出した。


「食料よ!ご飯よぉ!まさに神の恩恵、いや魔王様の恩恵よぉぉ!!魔王様ありがとぉぉ!!」


恥も外聞も気にせず、必死に土壌で葉が生えている場所を手で掘り進めるラキ。すると茶色い土壌の中から細長い赤色のニンジンがひょっこりと出て来た。


付着した土なんぞには目もくれず、ラキはニンジンを取り出してかぶりつく。


土特有の苦みと、調理されていないニンジンのクドイ甘さは、ハッキリ言えば食べ物としての範囲外ではあるが、飢えで極限状態だったラキには、最高のご馳走の味であった。


「うまい!」


そのままニンジンを数口で間食すると、また別の場所に生えた野菜を掘り進める。


次に出て来たのはデコボコで不揃いなジャガイモの房、これもガブリと頂く。


ニンジンよりも固い触感に葉が折れそうになるが、土塗れの中でも気力が湧くような味わいに、ラキは構わずに噛み砕き、これも余すことなく完食した。


「うまぁい!!」


最後のメインディッシュとして、ラキは特別大きい葉をした土壌を掘り返した。


そこに眠っていたのは、なんと丸々肥え太った株あった。涎を垂らしながら食いつくと、口内に瑞々しさの爆弾が着火し、乾いた喉と空になった胃袋の両方に潤いを与える。


「うまぁぁぁぁぁい!!」


やっと空腹を満たしたラキは喜びの余り、美味しい作物を生んでくれた土壌にキスをし、抱きしめるように五体を投げ出した。


「ふぅ……私、ここに住むわ……」


食料を見つけ、腹も満たしたラキは夢見心地にそう呟く。此処こそが、私の帰るべき場所なのだと、気づいてしまったのだ。


そうしていると、ラキの周囲に影が差す。まだ日が明るいのに、どうしたのかと顔を上げると。


鼻水垂らしたアホそうな小僧が、ラキの事を好奇心いっぱいに見下ろしていた。


「……何見てんのよ、株で頭叩かれたくなかったらどっか行きなさい」

「おとーちゃぁーん」

「待ちなさい!!いや待って!!」


急いでラキは小僧の口を塞ぐ。


食い散らかした野菜の残骸、その近くで横たわるラキ。ここで騒がれでもすれば、間違いなく野菜泥棒をしていたのがバレてしまう。そうなれば末代の恥では済まない、魔族全体の恥である。


このクソガキを黙らせなければ。ラキは気持ち悪いぐらいに媚びた猫なで声で、最終兵器であるこのボディで誘惑した。


「ねぇぇ?私の事黙っていてくれる?そしたら良い事してあげるわよ」

「とうちゃーん!角生えた頭おかしい人が野菜泥棒してるぅ!!」

「こんのクソガギャァァァァァァァ!!」


誘惑するには、小僧の年齢とラキの色気が足りなかった。


遠くから魔物達の大行進にも劣らない、踏み鳴らしていく足音が近づいて来る。


「くぉぉらぁぁぁぁぁ!ワシらの畑を荒らす奴はどこじゃぁぁぁぁぁぁ!!」


凶悪犯並みに殺気だった村人達が釜や鍬を振り回しながら、ラキ目掛けてやって来たのだ。


「ヒエェェェェェェェェェェ!?」


慌てて立ち上がろうとするが、余りの迫力に、ラキは腰を抜かしてしまう。それでもあの殺人鬼集団から逃げ出さねばと両手足を動かしているが、一歩も進んでいない。


そうこうしている内に、ついにラキの身体を村人達が捕まえた。


「獲ったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「離しなさいぃぃぃ!あっ!誰よ今胸触ったのは出てきなさい!!足も触るんじゃないわよ!!そこのアンタどこ触ってんのよ!!変態変態!ド変態ぃ!!このド変態パラダイスがぁぁぁぁ」

「アバス村長、こいつどうする!!」

「一旦、馬小屋で捕まえておくぞ!!処遇はその後に決めるぞ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


無数の手に揉みくちゃにされながら、胴上げ状態で運ばれていくラキは、耐え切れず叫んだ。


「私は、私は魔王軍四天王なのよぉぉぉぉぉぉ!!」


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