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エピローグ:いざ、逃避行の旅へ

「そういう訳なんで、俺達はこれから国を捨てます」

「アホですか貴方!!」

「オボッ!?」


開口一番、ミレーヌの槍の柄で頭を思いっきりぶん殴られた。ワッケーロから少し離れた平原に俺の間抜けな声が空虚に響く。


「何すんだオメェ!俺の超天才な頭脳に傷ついたらどうするんだ!」

「黙りなさい!折角貴方が勇者になれたというのに、それを捨てるとはどういうことですか!これから国庫を自由にできると思ったのに!!あの財宝の数々を自由にできると思ったのに!!」

「まだ諦めてなかったのかよ!」


相変わらず、金に関わるこいつの執念は異常である。幼少期からどんな教育を受けたら、こんな風に育つのやら。


「でもぉ、ミレーヌちゃんの言う事も分からなくもないなぁ。ボクも王妃様から側室の上手な虐め方を教えてもらったのに、試せなくて残念だよ」

「マジで王妃と会って来たのお前?凄いな……」

「うん!これでいつでもリュー君に側室が来たら、合法的に排除できると思ったのに……」


唇を尖らせてアリアが文句を垂れるアリア。どうやって仲良くなったのかは兎も角、王妃がどうしてそんなことを知っているのかが激しく気になる所だ。もしかして、あのクソ爺って側室が多いのか?


「ふごごごぉっ!ふごぉごふごごおごごふ!!」

「お前は先ず口に入れた飯を食ってから喋れ、シヴァル」


王城から盗んできた食料を両脇に抱えるだけに留まらず、顔が倍以上に膨らむまで頬張りよって、お前はウサギか。いや、こんなごつくて見た目が怖いウサギは居ないか。


口に入れた食料を一息に飲み込み、シヴァルは改めて喋り出す。


「どうして俺らが国から逃げんだよ?」

「さっき話しただろうが!聞いてなかったのかテメェ!!」


完璧かつ劇的な演説と計画により、オルガノ王から魔王討伐の許可を得た後、俺はすぐさまに城内をウロウロしていたこいつらを搔き集め、着の身着のままワッケーロから抜け出した。そして、今に至るまで、どうしてこうなったのかを説明していたのだが、この野蛮人には政治は理解できないらしい。なので、もう一度簡単に説明してやろう。


「オレタチ、ユウシャ、マオウ、タオス」

「マオウ、ツヨイカ?」

「ツヨイ、ツヨイ」

「ワカッタ、オレヤル」

「「ウホッ、ウホッ、ウホッ」」

「何を共鳴しているんですか貴方達」


気にするんじゃねぇミレーヌ。これが蛮族流の会話の仕方だ。


「それよりさぁ、これからどこに行っちゃうの?」

「何処にって、そうだなぁ……」


アリアにそう聞かれると、言葉に詰まってしまう。逃げる理由は考えていたが、逃げた後の事までは考えが及ばなかった。頭の中で昔覚えた大陸地図を広げ、適当な候補地を検索し始める。


バルムンク帝国……仮にも勇者である俺の素性がバレたら、何されるか分からんから却下。


レイナス神聖法国……指名手配犯ミレーヌが居るし、あそこはきな臭い噂が絶えないから却下。


魔導国家エリュオン……文化資本が高いので悪くはないが、あそこだと仕事の食い扶持が無さそうだから却下。


ミッドワン湾岸共和国……確か、あそこは治安がそこそこに悪くて、海上に発生する魔物のお陰で討伐の仕事が絶えないとの聞いたことがある。地理的にも、ここから東に真っ直ぐ行けば、隣同士なので辿り着くはずだ。


「よし決めた、ミッドワン共和国に向かうぞ」


おおよそ東と思われる方向を指差し、行き先を宣言する。それに対して他の面々は言うと、悪くはない反応であった。


「そりゃ悪くねぇな大将!あそこじゃ取れたての魚が食えるんだぜ!しかもスゲェ美味ぇときた!それにデケェ魔物が海にうようよ居るようだから面白そうじゃねぇか!!」

「ボクはリュー君となら何処へでも行くよ!でも、大きな船の上で愛の告白……そんなことされちゃったら、ボクどうなるか分かんないかも……」

「あそこには海賊が居るとのことでしたね。もう国王から搾り取れないのでしたら、損害代わりに貯め込んだ財宝を頂くとしましょうか」


うん、欲望たっぷりで大変よろしい。


これで当面の方針は決まった。ミッドワン共和国に辿り着くまでに、どれくらいの距離が有るのか分からない。しかし、こいつさえあれば、何とかなるだろう。


俺はポケットから、玉座に刺さる聖剣といった勇者の紋章があしわられた金色のエンブレムブローチを取り出し、それをマジマジと眺めていると、高価な品物には目敏いミレーヌが横から話しかけてきた。


「どうしたんですかそれ?何処から盗んできたんですか」

「お前と一緒にすんな。貰ったんだよ、あの国王の爺からよ。こいつさえあれば、何処に行っても勇者だって認められるだろうよ。そうなりゃ金の心配は無くなるぜ」


魔王討伐という約束をこじつけた際、ついでとしてオルガノ王に勇者としての証を要求した所、このエンブレムブローチだ。


こんな純金製かつ、国旗にも描かれている王家の紋章が入ったこいつをチラつかせれば、一般人相手なら直ぐに信じてくれるだろう。俺が見る限りでは、それぐらいの価値がこれにはある。


「これ見せびらかして勇者だって言えば、何処の宿でもタダで泊まりたい放題、酒場なんかも食い放題だぞ。いやぁ、本当に良い物貰ったわ」

「そいつを寄こせや大将!!」

「誰が渡すか」


食い放題に反応したシヴァルを軽くいなしつつ、絶対に無くさないよう、今度はポケットではなくレザーアーマーの内側の狭いスペースに捻じ込む。こうすれば、余程のことが無い限り、落とすことは無いだろう。


「そろそろ行くぞ。早くどっかの村にでも着かねぇと野宿する羽目になるしな」


他の奴より一足先を歩いて、振り向いた拍子に手招きをする。


これから始まるのは、俺が勇者にならない逃避行。こんなロクデナシの集まりだ。どう転ぶのか予想が付かない、明日も同じように生きている保証すらない波乱万丈の旅となるだろう。


そんなの俺達からすれば日常茶飯事なのだ。どんな出来事が巻き起ころうと、過ぎれば晩酌の肴に早変わりするし、懲りる様子などあったもんじゃない。


「はぁい」

「おうよ」

「分かりましたよ」


何時ものようにロクデナシ共は同じように、俺と並んで歩き出す。やはりそうだ。ロクデナシの仲間にはロクデナシしかいない。だからこそ、こいつらには肩を並べることも背中を預けることも出来るのだ。


それじゃあ出掛けるとしようか。夢も希望もロマンスの欠片すらもない、クソッタレなロクデナシ共が逃げるだけの物語の序章へと。


いつの日か俺が出す自伝のタイトルはきっと、これに違いない。


「『ロクデナシ勇者による、ロクデナシ共の、ロクでもない逃避行譚』の始まり、ってか」

初めまして、フラスコビーカーと申します。初めて第一章を描き切りましたので、記念に後書きを書かせていただきました。


今後、様々な人に見ていただけるように努力(タイトル変更、あらすじ変更、出来る限り毎日投稿)をしていく所存です!まだまだ、ロクデナシ達の奇行や武勇伝を残していきたいと思います!!では……!!

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