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戦闘終了と後始末の付け方

「さぁてメスガキちゃんの焼死体は何処にあるかなぁ。できれば原型は留めといてくれよ?」


斬り飛ばされたワイバーンの頭から昇り、断層をひょいとジャンプして胴体部分に着地する。そこには、メスガキの焼き加減最悪の焼死体も、それどころか姿すらも無かった。


これいかにと思い、しゃがんで周囲を探す。そうすると腰を抜かしたのか、ガクブルでよちよち歩きをしながら逃げようとするメスガキを見つけた。


「三日雷の前に振り落とされたのか?運が良い奴だな、っと」

「ヒッ!?」


当然のことながら、逃がすわけには行かないので、降りてメスガキの目の前に立ち塞がる。そしたら驚いたメスガキが飛び跳ねて、ひっくり返った亀のように尻もちをついた。


「喧嘩売っといて逃げようとするのは、大将失格だろ」

「う、うるさい!な、なんなのよ貴方は!?いや、貴方達だけじゃないわ!あの放火魔のサイコパスも!不気味なサディストも!血みどろバーサーカーも!!一体何なのよぉ!!」


そう叫ばれても、俺が言えるのは一つしかない。


「何って、勇者様とその仲間達だよ」


自分で言っておいて、少しだけ笑ってしまう。勇者なんぞに微塵も就くつもりはないが、皮肉や冗談にしては上出来な部類に入るだろう。


「ゆ、勇者!?貴方みたいな変態が!?し、信じられない!!」

「同感ではあるよ。変態の部分以外はな」


女の子と話すのは大好きだけど、口の悪いメスガキと話していても、まんじりとも楽しくない。かえって、イラつくだけである。精神衛生上、そろそろ終わりにした方が良いかも知れない。


ということで、俺は三本の中で一番扱いやすいフランザッパを抜いて、こう聞いてやった。


「そろそろトドメを刺すけど、サックリ殺されるのとジックリ殺されるの、どっちがマシ?どうしてもって言うなら両方でも構わないぞ」

「どっちも同じじゃない!?って、まさか私を殺すつもりなの!?」

「えっ、逆にどうして殺さねぇ理由があるの?俺としては教えて欲しいくらいだけど」

「あるわよ!こんな可愛くて清純な美少女を首ちょんぱにして良心の呵責とかないの!?」

「ない」

「断言しやがったこのクソ野郎!!」


俺にそんなものを期待しても無駄である。なんせ生まれた時にへその緒と共に、プライドと良心に捨てている。残っているのは性欲と下心だけだ。それに、昔から悪ガキには近所のババアがお仕置きするように、舐め腐ったメスガキには俺の愛ある罰が必要なのだ。


「大丈夫だって、ちょっとだけだから、ちょっと痛いと思うけど、直ぐに痛くなくなるから。いやマジだって、俺経験豊富だから大丈夫だって」

「ち、近寄るんじゃないわこのド変態野郎!!本当に、本当の本当に近寄らないでよぉ!!」

「そんなこと連れないこと言わずに、ヤろうやぁ」


フランザッパを片手に携えながら、ジリジリと近づいていく。それに対してメスガキの方は、尻もちをついた状態から立ち上がれないようで、足元や掌の草を刷り潰しながら、どうにか逃げようと足掻いているが、全く後退していない。


「あ、謝るから!人間のことを馬鹿にしたことも、貴方を変態扱いしたことも謝るから!!だからお願い!お願いします勇者様ぁぁ!!」


初めて会った時の舐め腐った態度と打って変わって、目尻に涙が溜まっては直ぐに流れ出し、自信満々のウザかったドヤ顔は、見る影もなく破壊されてクシャクシャに握り潰されている。フランザッパを見て怯える様は、檻の隅で丸まっている小動物のようである。


此処まで来れば、哀れすぎてトドメが刺し辛くなる。これじゃあ俺がまるで本当に悪党じゃないか。


元々悪党だから、問題ないけど。


「来世で、爆裂可愛い美女に生まれ変わったら考えてやるよ」

「い、いや、いや……いやぁ!!」


フランザッパをメスガキの顎元に突き付け、せめて苦しまないようにと喉笛を掻き切ってやろうと刃を横に倒す。


その瞬間であった。



……ショロロロローーーー。



水の流れる音が聞こえた。


「……」


思わず手を止めて、無言で下を向く。


…………うん、あぁね。


フランザッパを鞘に戻して、あの湖のように青く透き通った空を仰ぐ。もうさ……それをされたら負けだよ。倒す倒さない以前に、これ以上どうしろと。殺されるよりも酷いことになってるよ。


「うん……ごめんな、本当に。もう帰っても良いよ」

「な、なによその目は!!謝るんじゃないわよ!もう殺しなさいよ!!殺せェェ!いっそ惨めに殺せェェェェ!!」

「今より惨い状態ってある?」

「わぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


恐怖が羞恥心に勝ったらしい。猫並みの俊敏さで素早く立ち上がると、凡そ生物の限界を超えた速度で、未だに残っている魔物達の群れの向こうへと一目散に逃げ去って行った。


地面にポツポツとした跡を残しながら。


「強く生きろよ……」


心の中で親指を立てながら、メスガキを見送ってやる。あんな経験をすれば、これから先、例えどんなことがあっても強く生きていけるだろう、多分きっと。


そんなこと(メスガキ)より、俺にはやることがある。大将首であるメスガキが逃げた今、目に見える戦果を示してやらなければならない。


面倒なことに、勝者には勝者としての責務がある。面倒であるが、やるしかない。


俺は後ろに転がっているワイバーンの首に、もう一度乗り上げると、フロヴィアを高々と掲げて、戦場全体に響き渡るように大きく声を張り上げて宣言してやった。


「魔王の四天王は勇者であるこの俺が討ち取った!!この勝負、我らの勝利は確実である!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それからは、掃討戦の一言に尽きた。


あんなメスガキでも、旗頭としての役割をしていたらしい。メスガキが逃げ出した後の魔物達の統率は目に見えて動きが鈍っていた。そこに俺の勝利宣言で更に勢いづいた兵士たちが追い打ちを掛けたことで、もはや烏合の衆同然である。


魔物を一体ずつ複数人で囲んで叩くのを繰り返していけば、兵士でも簡単に処理は出来る。わざわざ俺達が張り切らなくとも、既に勝利は確実なものになっていた。


ワイバーンの頭に乗りながら暫くの間、兵士達の奮起をボォーと眺めていると、いつの間にか、立っている魔物の姿はすっかり見当たらなくなっていた。


『や、やったぞぉ!俺達、魔王軍に勝ったぞぉぉぉ!!』

『ウォォォォォォォ!勇者様さいきょぉおぉぉぉおぉう!!』

『見てくれたか全国の幼女しょくぅぅぅぅぅん!!俺はやったぞぉぉぉ!!』


闘い終わっても熱が抜けずに、あちらこちらで勝鬨を喧しく騒ぎ立てる兵士達。気持ちは分からんでもないが、それにしても煩すぎる。下手をすれば、オーガ達の咆哮の数倍にもなる歓声が、戦場を埋め尽くしていた。


「たいしょーう、こっちは終わったぞぉ」


そんな兵士達の勝鬨の間を割って、汚い咀嚼音と気の抜けた声が聞こえた。見下げると、そこには謎の生肉を片手に貪るシヴァルがワイバーンの顎に腰かけていた。


「おうシヴァル。手に持ってるそれ、何の肉だ?」

「オーガの肉だけどよ、スゲェ固ぇぞ。食うか?」

「食うかよ。腹壊すわ」


ワイバーンの首から飛び降り、こっちから迎えに行く。獲りたて新鮮な生肉の血とシヴァルの口から垂れる涎が混ざり合いながら滴り落ちて、なんとも汚い絵面になっている。


「ならオークの肉はどうだ?丁度大量に手に入れた所なんだぜ」

「種類の問題じゃねぇよ。つか肉食ってないでアリアとミレーヌを探すぞ。あいつらを野放しにしてたら、何しでかすか分からねぇからな」


シヴァルも大概だが、アリアは勢い余って人に火を付けそうだし、ミレーヌだと御助け料とかで金を徴収しかねないので、事を起こす前に合流せねば。


辺りを見渡して二人を探すと、鎧で身を固めた兵士達ばかりの中で、ローブを羽織ったピンク髪の女とチェインメイルを装備した緑髪の女は、かなり目立っていた。丁度、向こうも俺を見つけたらしく、目が合ったので手招きをすると、真っ先にアリアが兵士たちの合間を縫って、俺に向かって走り出してきた。


「リューくぅん!ボク頑張ったよぉ!!」


勢いそのままにアリアが俺の胸に突進を喰らわしてきた。鳩尾に突き刺さるような衝撃と柔らかいお胸の弾力に、あわや押し倒されそうになるが、マウントを取られたら何をされるか分からないので、寸での所でふんじばる。


「ゴブリンとかぁ、コボルトとかぁ、ボクいーっぱい燃やしたんだよぉ!ねぇねぇ、褒めてくれる?」

「お、おう。が、頑張ったな?」

「えっへへ~」


ご褒美が欲しいとねだる上目遣いでわざとらしく小首を傾げ、恐るべき凶器をグイグイと押し付けるアリア。中身はアレだが、ガワだけは良いので、その魅力に抗えず観念して頭を撫でてしまう。


「隙あればイチャイチャしていますね……オークに頭から食われて死ねば良いのに」

「不吉なことを言うんじゃねぇミレーヌ!お前が言うと洒落にならねぇんだよ!!」


遅れて合流したミレーヌから、恨めしそうな視線と呪いの言葉を送られる。いつもなら軽く受け流す戯言だが、下手をしたら、あいつの周りに居る隷呪がやり兼ねない。


「3割を討伐、2割が逃走、残りの5割は私たちが……ですかね。これだけ活躍すれば、さぞ報酬が期待できるでしょう。いや、盛って8割の魔物を私たちが倒したことにすれば……」

「変な皮算用しているようだが、多分報奨金受け取るの無理だぞ。一応勇者の仲間って扱いだからタダ働きになるだろうし」


と忠言してやると、夢心地だったミレーヌの顔面が途端に真っ青となり、この世の全てに絶望したかのように、その場で崩れ落ちた。仕舞いには「そんな……ウソダドンドコドォォォ!!」と訳の分からないことを宣い始める。こいつめ、国相手にどれぐらいの金を搾り取る気だったんだ?


「そ、そんなに落ち込むなって。ほら、酒場で飯奢ってやるから、な?」

「リュー君の言う通りだよ!それに、お金なんかよりも大切なものはあるよ!僕に取ってのリュー君みたいに!!」

「そうだ!金なんかよりも肉を食え!オーガの肉分けてやるからよ!」

「うるさい!同情するなら金をくれ!一律1万ペルからしか受け付けませんよ!!」


鬼が宿ったような迫真の顔で金をせびるミレーヌ。もう手遅れの守銭奴(ミレーヌ)は放って置くとして、やるべきことをやるとしようか。


「行くぞお前ら。魔物を殲滅したんだ、もう用はねぇしな」

「えっ、どこに行くの?」

「城にだよ。魔王軍倒したって報告しねぇとな」

「城に!?もしかして本当にリュー君、勇者になるつもりなの!?」


遠くでも堂々と鎮座するテルモワール城を指差しながら言ってやると、アリアが目を丸くして驚愕する。そりゃ、今あのクソ爺の国王に謁見でもしようものなら、見事に魔王軍幹部を倒した次世代勇者として祭り上げられること請け合いだろう。


このまま戦場から雲隠れ……でも構わないが、俺の所在が一度割れた以上、何処かで情報が洩れてまた捕まる可能性が高い。


なので、布石を討って置く。その為にも癪だが、敢えて勇者という汚名を受けるとしようか。


「ならねぇよ、俺に考えがある。良いから付いて来い」

「はぁい、リュー君がそういうなら、大丈夫だよね」


こういう時、アリアは聞き訳が良くて助かる。俺の夜遊びもこれくらい寛容だったら良かったのに。


「待てよ。まだあちこちに肉が落ちてんだぜ?もったいねぇだろ」


そこでシヴァルが待ったをかける。そこら辺の魔物の肉を貪り食っているのを見ると、恐らく、戦場に落ちてる肉を全て食わないと、こいつは動かないだろう。


「そんな落ちてる物を食べたらダメだよ。お腹壊しちゃうんだから」

「ハラヲ……コワス?」

「無駄だぞアリア、こいつ腹を壊すという概念自体が消失してる。おーいシヴァル、そんな生の肉より、国王のクソ爺から飯たかりにいくぞ」

「どうした大将!早く行かねぇと置いていくぞ!!」

「おぉ、その調子だ。ついでにそこで不貞腐れてるミレーヌも連れてけよ」

「おう!!」

「私のことは放って置いてください……待ちなさい、その持ち方は止めてください頭に槍ぶっ刺しますよ!!」


頭に槍をザクザクと刺されながら、ミレーヌを俵担ぎして門の方へとシヴァルが走っていく。これで途中の道に迷わない限りはテルモワール城に着くだろう。案内役にミレーヌも居るし、万一ではあるが。


俺もシヴァル達に続いて後を追う。


さて、どうやって騙くらかしてやろうか。オルガノ王は簡単でも、ハルクス兄貴が邪魔になるな。だが、こっちは魔王の幹部を倒したという実績を引っ提げている。そう無下に俺の提案を断れないだろう。それ盾にして何としてもこじ付けてやる。


頭の中で、これから行われるであろう壮大な演劇を夢想していると、不意にアリアが俺の顔を覗き込む。


「ねぇリュー君。どんな事考えてるの?」

「おっ、バレたか?」

「だってリュー君って、悪いこと考えてる時はいつも笑ってるから」


自分では全く気付かなかったが、アリアが言うのならば、そうなのであろう。これからは表情筋に力を入れることを意識しておこう。

それで、アリアにはこうとだけ答えておこうか。


「そりゃぁ、逃げる算段をだよ」

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