『閑話』常識外れの賞金稼ぎ共(バウンディ・ワーカーズ)
今回は2話投稿です
「―――無茶苦茶だ」
ある一人の兵士が、呆然としながらも呟いた。その兵士は、先ほどまで顔を青くしていた新人の兵士である。
二転三転と、物語のページを飛ばしたように様変わりしていく現状に、遂に頭で考えるのを辞めようとした若い兵士に、やたらと馴れ馴れしい中年の兵士が肩を叩く。
「アンタ、あいつらを初めて見たのか?」
「あっ、えっ……あの人達は一体何ですか……?」
正に今暴れ散らかしているあの四人の事を知っているような口ぶりのったので、若い兵士は思わず聞いてしまう。すると、その中年の兵士は、やけに自慢げに鼻を鳴らしながら喋り出した。
「あいつらは、ここらで有名な賞金稼ぎ共だ。金になるなら要排除リスト入りの魔物だろうが、千人殺しの凶悪な殺人鬼だろうが、何でも狩っちまう正真正銘の怪物さ」
魔物の中でも特に危険な個体を記録した各国共通の要排除リストや、殺人以上の罪を犯して逃亡した犯罪者の手配書は、どれぐらいの脅威なのかを数値化する為、独自の基準に基づいて設定された賞金とその魔物の特徴を付随して公表されている。
そのような賞金首を専門にしている荒くれ達は、賞金稼ぎ共と呼ばれる。
若い兵士は賞金稼ぎ共が換金する為に持ち込まれた、魔物の死体や捕まえた犯罪者を引き取る手続きを何度か行ったことがある。
腕はピンキリらしく、子供が寄ってたかって殴れば倒せそうなものから、どうやっても自分では倒せないような大型なものまで、色々な魔物や犯罪者を連れて、守備隊の屯所前に賞金稼ぎ共はやっては来ていた。
だが、此処まで常識はずれな賞金稼ぎ共など、若い兵士は聞いたことが無い。
そこでふと、若い兵士は最近になって守備隊の間で騒がれている噂を思い出した。
何でも、長らく要排除リストの中でも放置されていた『一五毒蛇』が、遂に討伐されたという話であった。
一五毒蛇は15の頭を持った、山と見間違えんばかりの巨大な毒蛇の魔物である。
鉄どころか魔法で加工された鉱物製の魔剣すら溶かす毒の体液とブレスと15の頭の内、14頭を切り落としても生き残る生命力に、討伐するには騎士団でも甚大な被害が出ると判断され、長らく放置されていた最悪の魔物と名高い正真正銘の化け物であった。
しかし、最近になって守備隊を超えて、騎士団の屯所に一五毒蛇の首を丁度15頭、言葉の意味そのままに雁首揃えて突き出した賞金稼ぎ共が居たというのだ。
その話を酒の席で同僚から聞いた時には、根拠のない単なる噂話だと笑い飛ばしていた。
そして今、そんな自分こそが笑い飛ばされる方であると、若い兵士は今になって気づいてしまった。
何故なら、それを実現してしまう常識外れの怪物共が居ると、知ってしまったのだ。あの四人組であれば、一五毒蛇であろうが、魔物の群れだろうが。
魔王すらも、倒してしまうかもしれない。
「何をしている!お前達!!」
とぼけていた若い兵士の頭に、外壁の上からでも耳をつんざく守備隊長の大号令が突き刺さる。それは同じようにとぼけていた兵士たちを現実に引き戻し、改めて眺めているだけだった、四人の怪物が作り出した公平な戦場を認識させた。
「あの四人組に続けぇ!此処からは死ぬ為の戦ではない!勝つための戦だ!!生きて魔王軍に勝利するのだ!!」
既に天秤はこちら側に大きく傾いていた。突然現れた四人によって、統率の揃った魔物の軍勢に綻びが生まれている。
それぞれの魔物の特徴に合わせた兵列は、大小入り乱れ混沌とした渦中に変わり、強大かつ残虐な暴力に晒された魔物の中には耐え切れず、ラキ・ルーメンスの命令を無視してでも群れから逃げ出す個体も相当数いる。
こうなれば敵は魔物の軍勢ではなく、魔物の大群である。つまりは、守備隊がいつも行っている駆逐業務と変わりはしない。
勝機はもう、鼻先を掠めていた。
その匂いを感じた者達に、恐れは消えていた。
「「「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」」」」
戦場へと我先に躍り出る勇士達の声と足音が重なり合う。止まる理由も阻む感情も失った者達に残っていたのは、紛れもない王国を守る意思と魔物と戦う闘志のみであった。
匂いを鋭敏に嗅ぎ取って調子づいた者達、その勢いに魅せられた者達問わずに巻き込んだ突撃は、こちらに吹きこんだ風と勝機に乗り込み、もはや誰にも絶やすことの出来ない気炎を燃やす火種となる。
若い兵士もまた、その風に乗せられて、まだ手に馴染まない新品の槍を固く握りしめながらも、走り抜ける仲間たちの背中を追いかけていた。
「気持ちいいだろ、あいつ等はよ」
隣で話しかけてきた中年の兵士が、走りながらも意気揚々と喋っている。
若い兵士はいち早く戦場で戦っている四人を真っすぐ見据える。自分たちでは到底叶わない魔物を簡単にぶっ飛ばし、笑いながら戦場を自由気ままに闊歩していく暴れぶりは、絶望しきっていた魂を清々しい爽快さで満たしてくれる。
一体、あの四人がどんな人間で、どうして自分たちの為に戦ってくれるのかは分からない。
でも、もしも王国を救う為でも、魔物を倒す為でもなく、やりたいようにやっているだけだと、そう思えたら。
「えぇ、最高に気持ちいいです」
自然と笑みが零れた。
「というか、あの四人を知っているなんて、貴方は何者なんですか?」
「俺はジョニー、ただの騎士に成り損なった男さ」