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(8)覚悟

「ヒユリ、そんな言い方は――」

「総長、私は反対です! 何を企んでいるかわからない小娘を黒龍隊に置くなんて……すぐに追い出して下さい」


 その言葉に、院瀬見さんの表情が変わった。不敵な笑みを浮かべ、ふふっと低く落とすような声を漏らして胸を張って見せた。


「ほう。それでは、何か? 俺がこれからも、毎日毎日……渡会さんが持って来る縁談地獄に遭えばいいと言うんだな?」

「そ、そうは言ってないじゃないですかっ。ただ私は、得体の知れない者をここに置いておくのが嫌だと言ってるんです!」

「得体もなにも、香術師だと言っただろう」

「いや、ですから、そういうことじゃなくて!」

「はぁ……そうか、俺はこれからも縁談地獄に遭うのか。そうか、好きでもない女との縁談を受け続けなければならないのか……まぁ、ヒユリがそう言うのなら仕方ないな」


 深呼吸よりも深い溜息をつくと同時に目元を手で覆い、あからさまに肩を落とす院瀬見さん。そんな猿芝居に誰が引っかかるのかと思っていたが、これがヒユリさんには効果があるらしい。

 院瀬見さんを悩ませてしまったことに罪悪感でも覚えたのか、ヒユリさんは言葉を詰まらせ、苦々しい顔つきで院瀬見さんを見つめる。一瞬の沈黙に気まずさを感じる中、それを吹き飛ばすように「そういえば」と、カガチさんが話を切り出した。


「ここに置くと言いますが、部屋はどうするのですか? 確か、寄宿舎の部屋は全て埋まっていたはずですが?」

「なんだ、一つも空いてないのか?」

「えぇ、ありませんよ。一つも」


 今年に入って黒龍隊入隊の志願者が多く、例年よりも2倍ほど若い隊員が増えたらしい。

おまけに、今は1人部屋を3人で使っているところもあるという。

 困ったことになった。いや、それどころの問題ではない。そもそも満室だなんて話は聞いていない。私と院瀬見さんが互いに顔を見合わせ、どうしたものかと考えていると、院瀬見さんが不意にヒユリさんを見てハッとした。


「男の部屋に入れるわけにもいかないからな。ヒユリ、お前の部屋に住まわせてやれ」

「ど、どうしてそうなるんですか! 私は絶対に嫌です!」

「おいっ、ヒユリ!」


 これ以上ここにいたら私を押し付けられるとでも思ったのだろう。ヒユリさんは一目散にその場から逃げ去った。その足の速いこと……追いかける間もなく、あっという間に姿が見えなくなった。


「おや、逃げられてしまいましたか。まったく、仕方ありませんね。総長、私の部屋で――」

「却下だ」


 と、言い終わる前に院瀬見さんは即答した。


「おや、私は大歓迎ですが?」

「お前がよくても、総長として認められん。お前と同室にしたら確実に間違いが起こる」

「信用されていないとは寂しいですね」


 カガチさんはわざとらしく肩を落としていたけれど、なぜか笑顔で楽しそうだった。

私としては、同室にならなくて心底安心したけれど、唯一の同性であるヒユリさんに断られたのは少々複雑だった。

 残るは男性隊員と同室になるしか道はない。不安を抱きつつ、すがる思いで院瀬見さんを見やる。どうにかしてくださいと、目で訴えてみた。すると、困ったと言わんばかりの顰めっ面を返された。


「院瀬見さん……そんな顔されたら困るじゃないですか」

「あぁ、すまないっ。んー……そうだな。連れてきた責任は俺にあるか。俺は一人部屋がいいんだが、俺と同室の方が何かと都合がいいだろう」

「えっ? そ、それじゃ、院瀬見さんとですか?」

「そういうことだ」


 食事も住む場所も心配ない、それは間違いない。けれど、それはあくまで1人部屋だということが前提だった。まさか黒龍隊の総長と同室になろうとは、誰が予想できただろう。

けれど、今は嫌がっている場合ではない。この先の生活を考えれば、いくらでも我慢できる。それに相手は黒龍隊の総長。私よりもずっと大人の男性だ。私みたいな子供が傍にいたって、何とも思わないのだから問題ない。


「院瀬見さん、よろしくお願いします!」

「ん、わかった。とりあえず、部屋の場所を教えておこう。ついてこい」

「はい!」


 院瀬見さんに連れられ、私は寄宿舎の最上階へ向かった。ずらりと同じ色の扉が等間隔にずらりと並んだ廊下を進み、その突き当りの最奥にある彼の私室へとやってきた。


「あまり綺麗とは言えないが。まぁ、文句は言うなよ」


 招き入れられるまま、私は中へと踏み入れた。

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