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(4)取り引き

「……きっとどうにかなります。店が無くても調香屋はできますし、それで少し稼げば――」

「道具は売られたんじゃないのか?」

「それは、そうなんですけど……」

「さっきの金。あの役人に渡さなければ、生活費くらいにはなっただろうな」


 確かに、その通り。雨風は凌げなくても、あれがあれば食べることに困ることはなかった。

 ホウリのものになるよりはマシだと思って差し出したけれど、今思えば惜しいことをした。溜息をついて肩を落とす私の傍で、院瀬見さんがフッと吹き出した。


「いいことを思いついた。なぁ、アオバ。俺と取引をしないか?」


 そう持ちかけてきた院瀬見さんの雰囲気ががらりと変わった。

 さっきまでは人の良さそうな顔をしていたのに、今はどうだろう。どこか強引ささえ感じさせる雰囲気と、何かを企むような危険な香りを微かに漂わせ始めた。私の体はとたんに警戒で強張った。


「取引……ですか?」

「実は今、俺は少々厄介な状況に見舞われていて、それをどうにか回避したいと思っている。もしそれに協力してくれるというなら、三食の食事付きで、寝起きする場所を提供しよう」


 一瞬、耳を疑った。

 三食食事付きで住む場所も与えてくれる……?一文無しの上に宿無しの私には、その言葉は天の救いのよう。頭で考えるよりも早く、私の手は院瀬見さんの腕をしっかり掴んでいた。


「本当ですか!」

「取引に応じてくれるな?」

「何でも言って下さい! 何でもしますし、協力します!」

「それじゃ、俺の婚約者になってくれ」

「……はい?」


 予想もしない言葉に、声は思いっきり裏返った。

 話によると、院瀬見さんは黒龍隊の元総長であり元上官から大量の縁談を持ちかけられて困っているとのことだった。今のところ、所帯を持つつもりがなく断り続けているらしいけれど、どうにもしぶとい上官だそうだ。何度断っても、次の日にはまた新たな縁談を持ってやってくるため、手を焼いているらしい。そこで、元上官を諦めさせるべく〝婚約者〟が必要となったというわけだった。


「婚約者がいれば諦めてくれるだろうからな。それに丁度、黒龍隊専属の香術師が恋人と駆け落ちしてしまって、非常に人手が足りない。備蓄できる薬香や怪我をした隊員達の手当もしてくれると非常に有難いんだが?」

「つまり……黒龍隊で働きつつ、元上官を騙すために偽の婚約者を演じろということですね?」

「協力してくれるなら、黒龍隊の寄宿舎の一部屋を提供しよう。もちろん、給料も出そう。どうだ? 悪くない話だろう?」


 確かに、悪くない話だった。何もかも失った私に、選択の余地なんてあるものか。


「嫌ならいんだ、嫌なら。このまま路頭に迷うおうと、俺には関係ないことだからな」

「誰が断るといいました? もちろん、お引き受けします! 婚約者でもなんでも、好きに使って下さい」

「おぉ、そうか! よしっ、取引成立だ」

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