-第一章五十三節 護衛再びと眠気の葛藤と母親-
旧・スプリング大聖堂での戦いが終わり…誘拐されていた人達の解放も終わり…ギルドによる行方不明者及び被害者の確認が現実時間にして一時間位で終わると、今度は各町・村に返す為の馬車手配等が始まる。本来ならマスターオーダークエストは大聖堂の制圧・信者達の逮捕が目的なのだが、マサツグ達はまだ用が有ると言った様子でその場に残ってはクエストを終えた冒険者達の様子を見ていた。
__ワイワイ…ガヤガヤ…
「…はあぁ~~……やっと終わったなぁ…
ある意味で長かった!…」
「まぁ…そうだな…
…で、如何するんだ?…本当にやるのか?…」
「え?…やらないのか?…」
「いやそうじゃなくて……
ちゃんと取り合ってくれるかが
不安だって意味なんだけど?…」
漸く掃討戦も終わったと言った様子でマサツグが大きく伸びをして呟き、その言葉に隣でモツが疲れた表情を見せて同意をするのだが、この後にやろうとしている事に対して不安を覚えた様子を見せると、マサツグに確認の質問をする。その質問にマサツグは戸惑った反応を見せて青いつなぎ服を着た何処かのイイ男みたいな一言を口にした。そのマサツグの言葉にモツが寒気を覚えながらも否定し、理由を話すとそのやろうとしている事のタイミングをずっと伺っていた。
__………ガラッ!…ガラッ!…ガラッ!…ガラッ!…
「ッ!…来たみたいですね!…それではみなさ~ん!…
慌てず各町・村ごとに分かれて貰いまして、ギルドが
要請しました馬車に乗り込んでくださ~い!!…
くれぐれも怪我が無い様にお願いしま~す!!」
__バタバタバタバタ……
「ッ!…如何やら来たみたいだな!…」
暫くして遠くから馬車の音が聞こえて来るとギルド職員達が待っていたとばかりに誘拐された人達を先導し始め、それに合わせてマサツグ達も来た!と言った様子で動き出すとまず先導をしていたクラリスの元へ向かう。目的は勿論女将さんから受けた依頼…リコちゃんを無事ブルーベルズの農村へ連れて帰る為である。マサツグ達がクラリスの元まで行くと向こうも二人に気が付いたのか、不思議そうな表情でマサツグ達に話し掛ける。
「こっちはクランベルズ~ブルーベルズ行きで~す!!…
慌てず馬車に!……あれ?…
マサツグさんにモツさん?…如何して?…」
「クラリス、頼み事が有るんだが…良いか?…」
「え?…はい…今でないと駄目でしょうか?…」
クラリスは他の冒険者達と一緒にマサツグ達は帰ったものと思っていたのか…二人が残っている事に若干戸惑った様子で尋ね出すと、マサツグはクラリスに両手を合わせてお願いし始める。そのマサツグの様子に戸惑った反応を更に見せ、若干慌てながらも同意するが今は忙しいと言った様子で用件を尋ね出し、その問い掛けにマサツグは今すぐでないと駄目と言った表情で馬車を指差すと馬車の護衛を買って出る。
「今まさに頼みたい事がこの馬車の護衛を
買って出たいって内容なんだが?…」
「え?……え、えぇ…可能ですけど……
その話はもうマスターオーダーとは関係ありませんよ?…
例え受けたとしてもこれは私個人からの依頼に
なりますし…報酬等も…」
「あぁ!…いや!…報酬目的じゃなくて…
あの村にこのクエスト絡みの依頼が一個有ってさ?…
それの報告と……モツゥ?…
これって、納品になるのかな?」
__ブホッ!!!…ゲフッ!…ゲフゲフ!!…
マサツグがクラリスに護衛の仕事を買って出ると、クラリスは戸惑った表情を見せて出来ると答える。その際クラリスはまだマスターオーダーの仕事だと二人は勘違いして居るのでは?と考えたのか、もう無理に手伝わなくて良い旨をマサツグとモツに伝えて護衛の仕事をした所で報酬は出ないと話し、困惑した表情を二人に見せるのだが、二人は構わないと言った様子で首を横に振る。そしてマサツグがその護衛の仕事を受けるに当たってその理由をクラリスに話し出すのだが、マサツグはその理由の説明に戸惑った様子を見せるとモツの方に振り向いてはトンデモナイ質問をし、そのマサツグの言葉を聞いたモツが今まさにお茶を飲もうとして居た所で噴出し噎せ返る。
「ッ~~!!…バ!…バカ野郎!!…
お茶噴き出しちまったじゃねぇか!!…
急に何を!?…
何奴隷商人張りの事を言い出してんだよ!?…
ゲホッ!!ゴホ!!ッ!!……あぁ~…しんど!…」
「す…すまん!……」
「え…えぇ~っと……」
幾らゲームの中とは言え近年稀に見るリアルで見事な噴射で、お茶を噴出した際モツの口の近くで小さな虹が出来ると、その戸惑い具合が良く分かる。一通り咽て徐々に落ち着きを取り戻し始めるとモツはマサツグに対して怒涛のツッコミを入れ出し、更にそれで咽ると目に涙を溜めて息を整え始める。そんなモツの様子を見たマサツグが思わず引いた様子で謝ってはモツの背中を摩り、目の前でそんな光景を見させられているクラリスはただ戸惑うしかなくて、そしてモツがやっと落ち着きを取り戻し始めると説明下手のマサツグに代わって説明をする。
「……はぁ……実はさ?…
俺達がクラスアップクエストを達成して
村に戻ったら丁度信者共が村を襲っている最中で…
他の冒険者達と追い返す事には成功したけど…
その時にはもうここで捕まっていたリコって
女の子が攫われた後で…
その際その村の女将さんに連れ戻してくれって
頼まれたんだ…っで!…その娘ちゃんを送り届ける
のに護衛の任務をって事なんだけど……
まさかの奴隷商人で焦ったわ!…」
「い…いやぁ~そんなつもりは…」
自分達がこのクエストを受ける切っ掛けになった出来事…ブルーベルズ襲撃事件で自分達が体験・受けた依頼の内容をクラリスに話し出し、その話を聞いたクラリスが若干驚いた様子で頷き理解していると、モツは再度マサツグの奴隷商人発言についてツッコミを入れる。そのモツのツッコミを受けてマサツグは苦笑いしながら手を頭の後ろに持って行き、そんなつもりは無かったと言い出すとクラリスも釣られて苦笑いする。
「あはははは……なるほど!…分かりました!…
では護衛の件!…よろしくお願いいたします!!…
…でも珍しい方々ですね?…」
「え?…何が?…」
「いえ…
…あんまりこう言う事を言うのは如何かと思いますが…
やっぱり大抵はギルドが頼まないと動かない人が
大半なんですよ…明確な報酬が有るのと無いのとじゃ
やっぱり違うみたいで……悲しい話ですよね…
この依頼も王国がギルドに出した正式な
依頼じゃなければ…受けて貰えたかどうか…」
「ッ!………」
クラリスが苦笑いしながらもマサツグとモツの申し出を了承すると、表情を笑顔に戻して二人に護衛の依頼をお願いする。そして護衛の依頼を受けたマサツグとモツが頷き返事をする際、クラリスは徐に二人の事を珍しいと言い出し、その一言に疑問を持ったマサツグが不思議そうに理由を尋ねると、クラリスはある話を話し始める。それはとても悲しい話である意味で現実…クラリスはその話をする際悲しい表情を見せては淡々とこのクエストの裏の話を二人に話し、その話を聞いたマサツグとモツは暗い雰囲気になり始めると、思わず人のエゴについて考えさせられる。
…ここでちょっとだけこのゲームのNPCについて説明しよう…前に軽く触れた通り…このゲームの中でのNPCにはそれぞれAIが搭載されており、ほぼ人間と変わらない自我を有してこのゲームの中で生活をしている…
ではそんな彼らが死んだ場合如何なるのかと言うと、冒険者の場合…プレイヤー達と変わらず最後に立ち寄った町にリスポーンし、何事も無かった様に活動を再開する。但しそれは特定のキャラ…重要なNPCにのみ限った事で、普通の冒険者だとゲーム内時間で約一年…一年が過ぎないとリスポーンがされない様になっている。これは一応サーバーのデータ容量の軽減に繋がって居るらしく、詳しい事までは分からないがとにかくそう言う仕様になっているらしい…
ではこれが町の人・村の人となった場合…一気に話が変わる!…何故なら…町の人・村の人に場合は先程例に挙げた特定のキャラが出ない場合はAI共々ただ消滅するからである。これは新たに無尽蔵にNPCが入れ代わり立ち代わりする…本当の世界を模して作って居る為の致し方ない処置で、もしそのNPCの家族の内…誰かが死んだ場合は、本当に亡くなったと言う…悲しい現実だけしか残らない仕様になっている。
だがこれはただゲームをする人間からすればこの仕様はプレイする上で大した問題では無く軽視され、先程話して居たクラリスの言う通り…報酬が無ければ助ける義理は無いと言う悲しい思想に直結する内容でもあり、今回の様に大事件・大騒動が起きた場合、本当に報酬が無くても…本当に助けに行く人が居るのか?…とマサツグとモツが改めて考えさせられると、少し寂しく感じるのであった。そうしてその場の雰囲気がズ~ンと暗く…まるでお葬式の様な空気が漂い始めていると、空気を読んでいるのか…読まないのか…突如クラリスの背後から襲い掛かる様に飛び掛かる一人の影が乱入して来る!
__……ッ!…ダッダッダッダッダッダッダッダ!…
びょ~~ん!!
「せんぱ~~い!!!」
__ガッシ!!…
「ッ!?…うひゃあぁぁ!?!?…」
後ろからクラリスに向かい飛び掛かって来たのは言うまでも無く受付嬢のリン!…大聖堂の中でアレだけ絞られ怒られたと言うのに全く凝りていない様子で懐く様に抱き着き、突如抱き着かれた事にクラリスが吃驚したのか戸惑ったのか良く分からない悲鳴を上げると、そのクラリスから初めて聞いた悲鳴にマサツグとモツが思わず聞き返し、戸惑ってしまう。
「ッ!?…うひゃぁ?…」
「ッ!?…ち、ちが!!…ッ!!…
コラ!!リン!!!…何するのよ!?…」
「えへへ~♪…別にこれと言ってぇ~♪…」
「はぁ!?…ちょっ!!…怒るわよ!?…」
マサツグとモツが戸惑った表情を浮かべて復唱し聞き返すと、マサツグとモツの反応に顔を赤くしてはクラリスが必死に否定しようと頑張る。その間後ろでは今だリンがクラリスの背中にくっ付いており、その事にクラリスが気付くと振り返り様にリンに怒って見せるが、リンは反省していない様子で恍け始める。そんな返事をするリンにクラリスは更に戸惑ってはイライラした様子でリンに放すよう怒って見せるのだが、リンはこの後に起きる事を予測してか一向にクラリスの背中から離れる様子を見せない。
「い~や~で~す~♪
だって放しても放さなくても怒るじゃないですか~!」
「貴方が余計な事をするからでしょ!!!」
__ドタバタドタバタ!!……
リンが生意気に反抗してはクラリスが怒る!…次第にクラリスがリンを捕まえる為に回り込もうとすると、リンもクラリスに捕まらないよう一緒に回り出す。マサツグとモツを置いてけぼりにし、目の前のその様子がまるで自分の尻尾に興味を持ち出し、その尻尾を追い駆けてその場をグルグル回る犬に見えて来ると、マサツグとモツも如何したものかと悩んでただ見詰めて戸惑う。そうして互いに息を切らし始めては一度落ち着き、クラリスはもう一度リンに質問し始める。
「…はぁ!…はぁ!…もう!…何なのよ!!…
いい加減に!…離れなさい!!…
一体!…何が!…したいの!?…はぁ!…はぁ!…」
「…はぁ!…はぁ!…こうでも!…しないと!…
あの!…雰囲気は!…拭えそうに!…なかったので!…」
「ッ!!……はぁ!…はぁ!…」
息を切らしながら今だ腰折れ状態になっても頑なにくっ付くリンに、クラリスが息を切らしながら怒気の混じった声で何がしたい!と問い掛けると、リンは呼吸が整っていない様子で先程の暗い雰囲気をぶち壊したかったと話し出す。それを聞いたクラリスが戸惑った反応を見せるもまずは呼吸を!…と言った様子で整え始め、リンも腰折れの状態のまま呼吸を徐々に整えると、クラリスに話し掛ける。
「先輩は!…心配性なんですよ!…
物事を悲観的に考えては!…
上手く行くかどうかで天秤に掛けちゃって!…
要らない心配ばかり!…大丈夫ですよ!…
確かにこの世の中は!…世知辛いですけど!…
こうして!…マサツグさんや!…モツさん!…
こんな風に何が無くても!…
助けてくれる人は居ます!!…そして!…
それを!…バックアップするのは!…
私達!…ギルドのお仕事なんじゃないですか!?…」
「ッ!?…」
「だから大丈夫です!!…
何度だって人は立ち上れる!!…
誰かが諦めない限り!!…
何度だって立ち上れる筈です!!!……
…とあるおじいちゃんの受け売りですが……」
__コケッ!…
リンはクラリスの事を心配症と話してはもっと気を楽にして物事を考える様に諭し出し、そのいつもと違う様子で話をするリンにマサツグとモツは困惑する。そんな中リンは話の内容にマサツグとモツを引き合いに出しては辛い事だけじゃないと更に語り掛け、自分達の仕事が如何言うものかを改めて自覚させるよう話すと、人は丈夫と説いて見せる!…だがその話も何処の誰か知らない人の受け売りなのかボソッと正直にその事を呟き、今までの話にオチを付けて見せるとマサツグとモツは何故かホッと安心し、その話を聞いたクラリスもフッと笑みを浮かべると頷き、リンに返事をする。
「……ふふ!…そうね!……」
「えへへ♪…」
「……でも…」
__グルンッ!…ガシッ!…
「あっ!…」
クラリスが気を取り直した様子で笑みを浮かべて返事をし、そのクラリスの反応にリンが顔を上げて笑みを浮かべるも、次瞬間クラリスが一言呟いては隙を見るなり振り返って、リンを前に見据えて不気味な笑みを浮かべる。その笑みはやはり先程の出来事に対してご立腹と言った様子で目が笑って居らず、リンがしまった!…と言った表情で青くなり始めると、クラリスがすかさずリンの腰に両腕を回す!
__ガシッ!…
「それとこれとは別よね?…リン?…」
「あっ!…あぁ!!…」
「覚悟は……良いかしら?…」
「ッ~~~~!!!…
いやあああぁぁぁぁぁ!!!!…」
クラリスがリンの腰に手を回しては怒りを徐々に露わにし、その問い掛けにリンが青ざめ恐怖を感じ…声を漏らし出すと、クラリスは容赦の無い覚悟の問い掛けをリンにする。その問い掛けが引き金とばかりにリンが徐々に冷や汗を掻き出し、それに合わせてクラリスも腕に力を入れ始める!…その事はリンにも伝わっているのか腹部に感じる圧迫にリンが遂に悲鳴を挙げ出し、それを合図にクラリスがリンを持ち上げるとその場でパワーボムを決めて見せる!
「いい加減に!…学びなさぁい!!!」
__ドゴオォォ!!……どよ!?……バタッ!…
「あうぅ~~……」
「…ふぅ!…全くもう!!…では、お願いしますね?」
その一連の流れに躊躇は無く…何処にそんな力が有るんだ!?とマサツグとモツが驚いては戸惑いつつも疑問を感じる中、一応手加減はしたのか大した怪我を負った様子の無いリンはその場で目を回し倒れていた。そうしてクラリスとリンが馬車の近くでプロレスをし、その様子を馬車の中から見ていた人達が驚き戸惑った様子で見詰めて居る中…クラリスが改めてマサツグとモツに護衛の件をお願いすると、二人は思わず戸惑い退いてしまう。そんな一連が起きるも馬車に各町・村へ送り届ける人達…誘拐された人達が全員乗り込むと、馬車は一斉に目的地に向かい出発し、その際各馬車にはギルドの者が代表として一人乗車するのだが…クランベルズ~ブルーベルズ行きの馬車には目を回したリンが乗る事に…
「…よし!……全員乗ってますね?…
では、お願いしま~す!…」
「……本当に大丈夫かな?…」
「……完全に伸びてるもんな?…」
「あうぅ~~……」
クラリスがマサツグとモツを含めた全員が馬車に乗り込んだ事を確認し、馬車の御者に出発の声を掛けると馬車はゆっくりと進み出す。その際何故クラリスでは無くリンが乗る事になったのかと言うと、クラリスはあの事件の詳細を記録する為まだ大聖堂に残るとマサツグ達に説明し、そのギルド代表の穴を埋める為にリンを乗せると言っては気絶したままのリンを馬車に乗せたのだが…そのリンはと言うとまだパワーボムが効いているのか、馬車の中でまだ目を回す。そんなリンに色々と心配した様子のマサツグとモツが見下ろす形で見詰めて居ると、暫くして大聖堂からクランベルズまでは本当に近かったのか約二時間程度で到着する。
__ガラガラガラガラ!……ドドォ!…ヒヒィ~ン!!…
「ッ!?…アンナ!!…」
「ッ!?…お母さん!!!…」
__わああああぁぁぁぁぁぁ!!!…
クランベルズに馬車が止まり馬の嘶く声が辺りに響き渡ると、周囲の目が集まり始める。まるで馬車が来る事を知っていた様に人が馬車の方へと集まり!…今か今かと言った様子でソワソワとし始めると、誘拐された人達が馬車を降りて被害者の家族が感動の再会を果たす。娘が居りてくれば名前を呼び慌てた様子で駆け寄り、呼ばれた方もその声が聞こえた方を確認しては慌てて駆け寄る。その他にも恋人同士・夫婦・家族と色んな人が喜び…そして抱き合い互いに涙を流して生還を喜ぶと、クランべルズの玄関口は感動の渦に包まれ、その様子を馬車の中から見ていたマサツグとモツはただただ良かったと言った様子で見守り続ける。
「…本当によかったな!……」
「…そうだな?……
この光景を見れただけでも
やり遂げた甲斐は有ったってもんだな!…」
「あうぅ~……ッ!…
先輩!!もう勘弁してください!!!…
ジャーマンだけは!!!…って、あれ?…」
マサツグとモツが達成感を感じつつ思い思いに言葉を口にし、ただその光景を見詰めて居るとクラリスのパワーボムから復帰したのか、慌てた様子でリンが起き上がり始める。その際夢の中でも技を掛けられていたのか聞いた事の有る技名を口にし、気忙しく起きるリンにまだ馬車に残っている人及びマサツグ達が驚いた反応を見せると、その雰囲気はコミカルな物に代わってしまう。リンは何故自分が馬車に乗っているのかと戸惑った様子で馬車の中を見渡し、そんなリンの様子にモツが思わず呟いてしまうと、収拾が付かなくなる。
「……折角の感動が台無しになったな?…」
「え?…え?…あれ!?…ここは?…」
「あぁ~っと…細かい話は後でするから…
とにかく落ち着け?…」
__……パシン!!…ヒヒィ~ン!!…
ガラガラガラガラ!…
ただリンは何故自分が馬車に乗っているのかが不明な様子で戸惑い出し、マサツグが見かねた様子でリンに声を掛けると落ち着かせる。そうして馬車の中は微妙な空気になったままクランベルズの人達を降ろし切り、それを御者が確認すると次に馬車は農村ブルーベルズへと向かい出発し始め、クランベルズの人達が動き出した馬車に気付くと手を振って見送り出す。
__ッ!!…ありがとぉ~~!!!…
わあああぁぁぁぁ!!!…
「え?…手を振ってくれてる?…え?…何で?…
確か私は先輩に?…
…って、そんな事言ってる場合じゃない!!…」
__バッ!!…ガッ!!!…
「お元気でぇ~~~!!!!…」
クランベルズの町の人達の様子にリンは困惑した表情を見せるのだが、手を振ってくれる事に返事をしないといけないと感じたのか、窓から顔を出しては子供の様に手を振り返し、徐々に遠ざかるクランベルズを見詰めたまま硬直すると、マサツグとモツに質問をし始める。その内容は言うまでも無く…クラリスにパワーボムを食らった後の話である。
「……所で…この状況は一体?……」
「……状況も分かっていないのに手を振っていたのか…
…まぁ良いか?…
簡単に説明するとリンは今ギルドの代表!…
これでOK?…」
「いや簡単すぎるだろ!?…もっと分かり易く!…」
「なるほど!…分かりました!!…」
「分かったのかよ!?…」
リンが不思議そうな様子でマサツグとモツに話し掛け、その問い掛けをするリンにマサツグが呆れた様子で苦笑いすると、先程のリンの対応は天然だと理解する。そんなマサツグの苦笑いにリンはえ?…と軽い疑問を持った様な表情を見せるのだが、マサツグがとにかく簡単にリンがこの馬車に乗っている理由について話すと、その余りの簡単具合にモツがツッコミを入れる!しかしリンは今の説明で理解出来たのかマサツグに向かって敬礼して返事をし、そのリンの理解能力にモツが驚き戸惑った様子を見せては更にツッコミを入れる!ドタバタとしながらも馬車はブルーベルズに向かい…その間モンスター等に襲われる事無く…ただただ馬車に揺られる事数時間…ここでマサツグとモツの元に強敵が現れる!…
__ガラガラガラガラ!…
「……暇だなぁ~…ふっ…あああぁぁぁ……」
「……また豪くデカい欠伸だな?…はっ…ああぁぁ……」
「モツだって欠伸してるじゃん……とは言え…」
「本当に何もないなぁ~……」
マサツグとモツの元に現れたその強敵の名は…睡魔。余りに何も無いのどかな風景に温かい気温…更に心地の良い馬車の振動が仇となってマサツグとモツを深い眠りへと誘い、まるで手招きをしている様に抗う事叶わず…ウトウトと舟を漕ぎ出してしまう。マサツグとモツがそれぞれ暇だと呟いては大欠伸をし、何も無い事で逆に困った様な反応を見せていると、馬車の中では既に睡魔にやられた者が数名…リコちゃんは勿論、緊張の糸が切れた様に娘さんや奥さん…挙句の果てにはリンまでが熟睡しており、その様子にマサツグとモツが呆れた様子の視線を送っていると、また睡魔が襲い掛かる!
__グラァ!…
「ッ!?…っと、いかんいかん!……
にしても…ふっ…あああぁぁぁ……本当に何もない…
…いや何も無い事は良いんだが…」
「何か有った時は直ぐに動けるよう
俺達は起きてないとな……でも、これはキツイ!…
かなりの強敵……?…」
「……Zzz…」
「……お~い…
ヤブ~…眠いのは分かるけど辛抱な…」
何度も寝落ちをしていしまいそうになり、その度に船を漕いでは欠伸をする…互いに声を掛けては起き続けるよう努力はするもののやはり抗えず、寝てしまいそうになる。何も無い事がこれ程までに苦痛と感じた事が無いと言った様子で起き続け、いざと言う時の為に目を開き耐えようとするが…何度も言うが寝てしまいそうになる!ゲーム内時間にして現在夕方6時頃…ここまでの間に朝から恐怖の飛行体験をして、ギルドで謎の白昼夢…そして大聖堂での掃討戦と司祭を二人相手にしている事から疲労は溜まりに溜まって今に至る…眠くて仕方が無いのだが根性で耐え続け、揺れる馬車の中二人はただ農村に早く辿り着く事を願っていると、いつの間にかゲーム時間は深夜の11時になる。その際マサツグとモツは気付かなかったのだが、自分達が乗っている馬車は普通の馬車と違ってかなり速く走る事の出来る馬車らしく、普通の馬車だと2日掛かるブルーベルズへの道のりが約1日で行けてしまい、ブルーベルズに到着すると御者からお呼びが掛かる。
__ガラガラガラガラ!……ドドォ!…
ヒヒィ~ン!!…
「ッ!?…な、何だ!?…敵襲か!?…」
「あぁ~っと…旦那方?…
一応ブルーベルズに着いたんですが?…」
「……え?…」
馬車が止まるとその揺れにマサツグとモツが驚き、何が起きたのかと慌て出すが御者がブルーベルズに着いたと説明すると、二人は戸惑いの声を漏らす。恐る恐る二人が馬車から降りるとそこには御者の言う通りブルーベルズの農村が見えており、村にはまだ信者達の襲撃を受けた後が残って居ながらも復旧は進んで居るのか、綺麗な夜の小麦畑等が見て取れる。その様子にマサツグとモツは速くね?…とブルーベルズへ辿り着いた事に対して疑問を持ち、自身の頬を抓って夢では無い事を確認するとただその場に立ち尽くす。そしてとにかく時間帯が深夜である事…馬車の中の人達も完全に寝ており如何する事も出来ないと考えると、御者に質問をする。
「……あのぅ~…とりあえず今日はここで…
止まってて貰うって事は出来ますか?…
馬車の中で皆寝ちゃってて…」
「へ?…へぇ…構いやせんが……
せめて村の中に馬車を入れても良いでしょうか?…
さすがに村の外に馬車止めるとモンスターに
襲われかねないんで…」
「あぁ…それは大丈夫だと思います…
…じゃあ…その手筈で…」
「了解いたしやした!…」
モツが申し訳なさそうに御者に質問をすると、その質問に御者は戸惑った反応を見せる。しかし出来ない訳では無いらしく、戸惑った様子で了承しては御者の方からもお願いが飛び出し、そのお願いにモツが村の方を確認して馬車が止められそうな場所を見つけると了承する。今回の事は仕方が無いし…土地の持ち主も了承してくれるだろうと希望的観測をしてはモツがその場所へ馬車を先導し、馬車をその先導した場所に止めると御者は馬を離し始める。そうして今日は村まで辿り着いているにも関わらず外で止まる事になるのだが、マサツグとモツは最後にこれだけはと言った様子でリコを抱えると、あの女将さんの宿屋へと歩き出す。
__ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
「……こんな時間に行って起きてると思うか?…」
「…多分起きていないだろうな……でも…
早く会わせてやりたいじゃん?…」
「だからって…こんな夜中……あぁ~もう!…
考えるのも面倒になって来た!…」
真夜中の農村…女の子を抱えて大の男二人が歩いて行く…この場に警察官が居れば間違い無く職質されるのは確定だがそこはゲームの世界!…モツがリコを抱えるマサツグに寝惚け眼で質問をすると、その質問にマサツグは寝惚けた様子で返事をする。その返事ももはや眠気で有耶無耶に聞こえ、モツが返事の理解に苦しんでいると考える事が如何でも良くなってくる。そうして二人は宿屋の前に辿り着くと扉に向かってノックをし始め、女将さんが出て来るのを待ち始める。
__ザッ…ザッ…ザッ…ザッ……コンコン!……
「………。」
__コンコン!……
一回目…宿屋の扉をノックするも誰も出て来ず…二回目…今度は強めに扉をノックするもやはり誰も出て来ない…それも当然、普通の人間ならもう眠りに就いている時間でこの時間帯に扉をノックする等ただの非常識!…返事が無い事にマサツグとモツは互いに顔を見合わせ溜息を吐くと戻ろうとするのだが…
「……はあぁ~……やっぱり出て来ないな?…
仕方が無い!…あの馬車に戻ろ…」
__ポォ!……
「ッ!…え?…」
「…誰ですか?…こんな夜中に…」
__ガチャッ!!…ぎいいぃぃぃ~…
マサツグとモツが振り返り馬車の方へ歩き出そうとした瞬間!…後ろから明かりを感じて振り返ると、そこには扉越しではあるが一人の人影とランプを手にする何者かが立っており、そのランプを手にする者は扉をノックして来た人物を確認するように玄関の鍵を開け始める。そして扉を開けて姿を現したのは当然女将さんな訳なのだが、その女将さんの顔を見るとまともに寝ていないとばかりに目の下には隈が出来ており、充血も見られてはハイライトが無い…
「……一体何の御用で…
って、冒険者さんと…ッ!?!?…
リコ!?…リコォ!!!…」
「いやぁ~…こんな夜更けに申し訳ない!…
いち早く届けようと思ってこんな時間に…」
「はあぁぁぁぁぁ!!…
有難う御座います!!…有難う御座います!!!!…」
ボロボロ状態の女将さんが扉を開けてまず確認したのは尋ねて来た人物がマサツグとモツである事、大聖堂に行った筈…と困惑した表情を見せるも次にマサツグが抱えているリコに目が行くと、女将さんはマサツグごと向かえるかの様に手を伸ばし、マサツグが謝りながらリコを差し出すと、女将さんが酷く喜んだ様子でリコを受け取る。リコは小さく寝息を立てては女将さんの腕の中で眠り続け、生きて居る事に女将さんが涙を流して喜び始めると、目に活力を取り戻してマサツグとモツにお礼を言い始める。こうしてマサツグとモツは女将さんからの依頼を見事達成した事になるのだが、ここで二人は何を思ったのか女将さんに報酬の話をし始める。
「……所であのぅ~…報酬の件なんですが…」
「ッ!!………分かっています!…
依頼料はお幾らですか?…
娘を助けて貰っておいて申し訳ありませんが
そんなに多くは…」
マサツグが申し訳なさそうに報酬の話を切り出し、女将さんがピクっと反応するとリコを抱えたまま微動だにしなくなる。恐らくはマサツグが報酬の話をし始めた事で多額の報酬を取られると警戒しているのだろう…しかし女将さんはそれを覚悟でお願いしたと言った様子で分かっていると言うと若干俯いて申し訳なさそうな表情を見せ、多くは出せないと許しを請う様に話し始めるのだが、マサツグはそんな女将さんに違うと言った様子で首を左右に振ってはモツと一緒にある事をお願いし始める。
__プルプルプルプル!……?…
「…今すぐ一晩泊めさせてくれませんか?……」×2
「え?…」
「いや…もう…眠くて眠くて…限界なんです…」
「お願いします…お金はちゃんと払いますから…」
女将さんがマサツグ達にお礼を言って頭を下げる様子から一転…今度はマサツグ達が女将さんに泊まらせてくれと頭を下げ始める。報酬の話から突如お泊りの話に代わり、女将さんがリコを抱えたまま困惑した様子で声を漏らすとマサツグとモツは続けてお願いの言葉を口にする。完全に不意打ちを食らった様子の女将さんは目の前の光景に戸惑いっぱなしで何が何だかと混乱した表情を見せる。しかし部屋は用意出来るのかマサツグ達のお願いを了承し始める。
「え?…えぇ…直ぐにご用意出来ますが…
あの…報酬は?…」
「お泊りで!!!…今すぐに!!!…」
「は…はい!…分かりました…」
女将さんがマサツグとモツのお願いを了承する一方で改めて報酬について尋ねるも、二人はまさかのリコ救出の依頼報酬を宿屋に泊まる事と言うと、女将さんはただ戸惑いの表情を見せる。その際マサツグとモツは眠気に襲われながらも必死に訴える表情を見せており、その二人の表情に女将さんは困惑を隠し切れない様子で返事をしては、二人を空いてる部屋へと案内する。
__コッ…コッ…コッ…コッ…
「…こちらが空いておりますので
どうぞお使い下さいませ…」
「では…遠慮なく!…」
__バフゥ!!…ZZzzzzz……
二人は眠いのを堪えた様子でフラフラと歩き、女将さんに用意された部屋へ案内されると直ぐにベッドに倒れ込んでは爆睡し始める。装備等も外す事無くベッドに倒れ込む二人に女将さんは戸惑うも、それだけ必死に自分の娘を助ける事に躍起になってくれたのだと感じると、自然と眠る二人に対して頭を下げ、お礼の言葉を口にする。
「……本当に!…有難う御座いました!!…」
__ZZzzzzz……
女将さんがお礼の言葉を口にして頭を下げ、数分してから部屋の扉を閉める。そうして頭を下げられていた本人達はと言うと、ゲームをログアウトして現実世界に無事帰還し、ヘッドギアを外しては大きく伸びをしていた。その際今の今まで寝むかった筈の睡魔は何処かへ消え去り、ただゲーム世界へのダイブし過ぎで体が固まった様なダルさを覚えていた。
__ガチャ!!…コトッ!…
「ッ~~!!!……あぁ~…疲れた~…
幾ら連休でも初日これだとしんどいわ…」
__コンコン!…
「お~い!ご飯やで~!はよ出て来いや~!」
「ッ!…は~い!今行く~!!」
マサツグが一人自分の部屋の中でぼやいていると、扉をノックされる。その数秒後に母親のご飯が出来たと言う声を聞き、マサツグが返事をすると食事が用意されてある居間へと移動する。その後は何事も無くただ食事を食べて風呂に入り、寝る前の歯磨を終えてと布団の中に入ると、ゲームの中のマサツグ同様…疲れたと言った様子で爆睡し始めるのであった。




