-第一章四節 お祭りモードとメイドさんと緊張の待ち時間-
一人絶望した様子でギルドを出たマサツグは無駄だと思いつつも一度逃亡を考えては現段階で出来る移動手段を全部試す。まずは別の町に移動しようと改めて王都の外に通じるゲートに行くのだが、王都守衛の人間達にはもうマサツグの手配書が回っているのかゲート手前で止められ、もう一度ギルドに戻っては馬車に乗る手続きを踏むも途中で出場者とバレると別の町への移動を断られる。徒歩も馬車も駄目となり王都を出るゲートでは守衛が特定プレイヤーを出さない様に監視し、いよいよ打つ手が無くなって来た所でマサツグが最後の空路に賭け、乗り場に言っては乗せてくれと頼むも…
「すまねぇな…アンちゃん…
アンタを乗せるな!…
って、御上からお達しか来てるんだ…
下手に乗せると俺の首が飛んじまうよ!…」
「…はあぁ~…クソォ~…
やっぱ打つ手無しかぁ…」
「すまねぇな……
それにしても御上から乗せるなってお達しが
出てるって事は指名手配?…
いや、だとしたら守衛達が捕まえに来る筈だよなぁ?…
…ッ~アンちゃん?…一体何をやらかしたんだい?…」
「ンな事俺が聞きたいよ…」
飛行船乗り場のチケット購入口で販売員が申し訳なさそうにマサツグに謝っては乗船を拒否し、その言葉にマサツグがやっぱり駄目かと言った様子で肩を落とすと更に販売員のおじさんはマサツグに謝罪をする。そしてマサツグに別に追われても居ないのに指名手配されている理由について尋ねられるのだが、マサツグ自身も如何説明したら良いのか分からないので適当にはぐらかす。スプリングフィールド王国全体がマサツグを逃がさないとばかりに退路を塞ぎ、その行動力にマサツグが驚き悩み…頭を抱えて居るとあっという間に時間は過ぎて行く。初回プレイ時間にして約五時間…ガッツリ遊んで戦って脱獄を企てるも上手くは行かず、その日は初めてのダイブと言う事も有りマサツグが色々と疲れると、その日はゲームをログアウトして休む事とする。布団の中に入っては初めての体感と面倒臭さの両方に襲われ、数分もしない内に寝てしまうのであった。
そうして次の日…目覚めては祝日である事を確認し、同時に昨日の出来事も徐々に思い出すとマサツグは徐にゲームの電源を入れてログインする。昨日散々な事が有ったにも関わらず、やっぱりこのゲームは面白いと感じて続ける事を決めると昨日作ったばかりのアバターを選択してゲームを再開する。するとゲームの方でも朝なのか雀の鳴く声が聞こえる宿屋の一室…ベッドの上で目を覚ますとベッドから体を起こし、色々と確認し始める。
__チュン!…チュンチュン!…
「……えっと…
予定では今日がその御前試合だったよな?…
…はあぁ~…面倒だけど…行くか…
どうせ逃げられないし…
何より…昨日逃げる手段を考えてる内に
何か腹も立って来たし!…
それにあの騎士様にデカい啖呵も切っちまったし?…
やるしかねぇよな?…」
__ガチャガチャ…
マサツグがイベント確認画面を開いてはその日のスプリングフィールド大陸で行われるイベントについて調べると、トップ画面には堂々と御前試合の事が表記されてそのイメージキャラクターにあのムカつく騎士団長様が笑顔で映って居た。剣を構え得意げに笑みを浮かべるその姿にマサツグが少し苛立ちを覚えるも、さっさと身支度を整えては宿屋の店主に部屋の鍵を返してチェックアウトし、王都へと歩き出す。ゲーム内の時間にして朝の8時位だろうか…まだ朝早いと言うの既に王都はお祭りモードで町の人や冒険者達は活気に満ち溢れていた。
__ワイワイ!!…ガヤガヤ!!…
「ッ!…もうこんなに!?…
出店も開いてるし!…それにあれは?…」
「フン!!!…」
「ヌオオオオ!!!…」
「……腕相撲?…」
宿屋を出て直ぐ目に映るは立ち並ぶ出店に、楽しそうにそのお祭りを満喫する町の人達、出店で買ったであろうホットドックやフィッシュ&チップスを頬張りながら待ちゆく冒険者と十人十色。子供は元気に駆け回りいかにも異国の町…ファンタジーらしい雰囲気が感じられ、その様子にマサツグは再度このゲームの完成度に感動する。そんな中片隅では樽を台にして屈強そうなオジサン達が唸りながら腕相撲大会が開かれていたりと本当に楽しそうな雰囲気を出している中、メインイベントである御前試合まで時間が有ると感じたマサツグは一人…改めて王都の観光へと歩き出す。
「……一応集合時間まで時間は有るな?…
ちょっと見て回るか…」
__コッ…コッ…コッ…コッ…
「……へぇ~…色々有るなぁ~…
…大抵どのゲームでも犬や猫は居るよな?……ッ!
うわあぁ!?…」
改めて体感する臨場感に大人ながら童心に帰る気持ちで王都を歩き、色々見て回ると昨日時点では気付かなかったものを多数見つける。まずは王都の町で飼われているペット、普通に犬や猫と言った良く見る動物を飼って居るのが見られるのだが、その中にはモンスターも含まれているのか昨日リンチにされかけたウサギを飼っている人の姿を見つける。椅子に腰掛け膝の上に乗せては優しく背中を撫で、ウサギも気持ちが良いのかうっとりとした様子の表情を見せては口元をヒクヒクと動かす。そしてマサツグがウサギに気が付くと思わず驚くと後ろに仰け反り、そのウサギを飼っている人はマサツグが驚いて居る理由に気が付いたのか、笑顔で大丈夫と答える。
「だいじょ~ぶですよ?…
この子は大人しい子ですから…」
「え?…あ、あぁそうですか…申し訳ない…」
「ほっほっほ…良いですよ?…
冒険者さんみたいですし
…警戒されるのも無理は無いかと…」
ウサギの飼い主は優しそうなおばあさんで町の様子を見詰めては笑みを浮かべ、ウサギの背中を撫でる…そんな暮らしをして居ると言った様子でマサツグにウサギは大人しいと優しいトーンで伝えると、マサツグは戸惑いながらも返事をしては驚いた事に謝罪をする。その様子にウサギおばあさんは優しく笑うとマサツグに仕方ないと察した様子で話を進め、また町の様子を眺めながらウサギを撫で始める。そんな様子にマサツグがホッコリしながらもウサギおばあさんに一礼をするとその場を後にする。その後各名所と呼ばれると事を巡っては王都を楽しんで居ると、あっと言う間に集合時間が迫って来る。
__コッ…コッ…コッ…コッ…
「……やっぱこのゲームスゲェわ!…
別に冒険しなくても町を歩いてるだけで
楽しいもんな!…って、もう時間か…
…はあぁ~…一気に憂鬱になって来た…」
町中をただ歩くだけでも新鮮でその様子を眺めて一人王都を満喫するのだが、時間が迫って来ている事に気が付くと楽しいテンションから一転、重く暗いテンションに一気に下がる。これから城に向かい戦いたくも無い相手と戦う事を考えては憂鬱になる。しかし行かなければ行かなかったでまた面倒事になるとマサツグが理解すると、マップを頼りに王城に向かい歩き始め、その道中マサツグ同様御前試合に参加するのかそれとも観戦なのか、冒険者がちらほらと集まり目立ち始める。勿論町の人・観光客などのNPCも良く見かけるのだが、圧倒的に冒険者が多いのか王城への道は人でごった返し、思う様に前へ進めない。
__わいわい!…ガヤガヤ!…
「ちょっ!…進み辛!?…
これ集合に間に合うかな!?…」
__コッ…コッ…コッ…コッ………
「あとちょっと!…あとちょ…
…っと!!…ぷあぁ!!…
はあぁ~!!漸く抜けたぁ~!!!…
それにしても…
あれだけの道幅が有るのに詰まるのか!?…」
思う様に道を進む事が出来ず時間内に間に合うかどうかすら不安になり始めるマサツグなのだが、ただ波に乗る様に歩き続ける事15分…何とか王城手前の広場までやって来ると軽い鮨詰め状態から解放される。漸く解放間を得られた事に言葉を漏らして居ると抜けた事に大きく息を吐いては同時に大きく伸びをし、そこそこ道幅が有ったにも関わらずそれでも鮨詰め状態であった事に驚いて居ると、何処からとも無く御前試合の参加者に呼び掛ける声が聞こえて来る。
「御前試合参加者はこちらですぅ~!」
「…ん?」
「御前試合参加者はこちらですぅ~!!」
「…参加者はあっちに集まるのか…
…いよいよだな!…」
参加者を募る声に反応してマサツグが振り返ると、そこには一人のメイドさんが看板を高く掲げては必死に集まって来た人の波に対して呼び掛け、御前試合に出場する冒険者達を集めていた。遠くからでも分かる見事なグラマラスボデーにおっとりとした口調、参加者じゃなくても気になると言った様子の冒険者も居た中、気のせいだろうかそのメイドさんはマサツグに対して呼び掛けて居る様にも見えるのであった。勿論そんな事に気が付かないマサツグはとにかく行くかと言った様子で覚悟を決めるとそのメイドさんの方へと歩いて行く。
__コッ…コッ…コッ…コッ…
「あの~すいません…
御前試合に参加申し込みはここですか?」
__……ッ!…ッ……
「あ、はいそうです~!」
マサツグがメイドさんに近付き、声を掛けるとメイドさんもマサツグに気が付いた様子で返事をする。その際チラッとだけマサツグの事を見ては何やら妖しい笑みを浮かべるのだが、勿論マサツグ君は鈍感なのでその事には気が付かずメイドさんの手続きを正直に待つ。身長は150位だろうか?…見事なヴィクトリアン様式のメイドさんで、顔は少し吊り目ながらも気品を感じる優しいクールビューティ、髪はフードで多少隠れていてもハッキリと分かる位の緋色の艶やかな髪で、さすがお城で働くメイドさんとマサツグが一人納得する。そうして目の前のメイドさんにマサツグが関心を持って居ると、メイドさんは掲げていた看板を一時下ろす。
__カコンッ!…
「……えぇ~っと…それでは…
申し訳ございませんがお名前をお伺いしても
宜しいでしょうか?」
「え?…あ、あぁ!…すいません…
マサツグと言います。」
__ピタッ!…
メイドさんが自分の隣に設置されて在る机から参加者リストらしき紙の束を取るとマサツグに名前を尋ね、その問い掛けにマサツグが一瞬戸惑うも直ぐにハッ!となり謝ると、自分の名前をメイドさんに教える。するとその名前を聞いた瞬間メイドさんの動きが一時的にピタッと止まり、紙の束を見詰めていた目が今度はマサツグの顔へと…驚きの表情が向けられる。その様子に勿論マサツグは気付き如何したのかな?と言った様子で軽く首を傾げて居ると、そのメイドさんは再度マサツグに名前を尋ねる。
「も…申し訳ありませんが…
もう一度お伺いできますか?」
「え?…えっと…はい…
マサツグと言います…」
「………。」
「……えっと?…」
メイドさんに驚きの表情を向けられたままマサツグがその問い掛けに戸惑うも了承し、もう一度名前を教えるとメイドさんは聞き間違いではなかったと言った様子で表情を戻すとマサツグを見詰める。ただ何も言わずにメイドさんに見詰められ、マサツグがどう反応したものかと困惑し固まって居ると突如としてメイドさんの態度が変わり、今度はリストとマサツグの顔を交互に確認してクスクスと笑い始める。
__チラッ…チラッ…チラッ…チラッ…
「……ふふふ!…やっぱり…
そうなんですか~…へぇ~…貴方が…」
「え?…あ、あの~…」
メイドさんが一人何か納得した様子で呟いては笑い、紙の束をそっと机の上に戻すとゆっくり…マサツグを見詰める。何で見詰められているのか?…笑われているのか分からないマサツグは当然更に困惑し、その理由を尋ねようとメイドさんに恐る恐る声を掛ける。するとメイドさんはやはり静かに笑いながら笑顔を作ると次の瞬間マサツグが混乱する一言を言い放つ。
「…貴方が…
我がスプリングフィールド王国騎士団・騎士団長様に
喧嘩を売ったお馬鹿さんですね?…」
{………へ?…}
「どんな頭の悪そうな人が来るかと思えば…
意外と普通の方なのですね?…」
「……ッ!?…」
先程の真面目で綺麗なメイドから突如一転…少し砕けて取っ付き易くなったと思えばまさかの罵倒、突然の言葉にマサツグの思考が停止し動かなくなると心の中で声を漏らし、困惑し切った表情でメイドさんを見詰める。そうして固まって居ると更にメイドさんはマサツグの事を予想外と言った様子で口に手を当て上品に笑って見せ、その様子にマサツグがビックリした様子で完全に固まり動けなくなる。しかし直ぐにメイドさんの態度はまた先ほどの丁寧な…おっとり口調に戻る。
「では、此方へどうぞですぅ~。」
「………。」
「……?
もう直ぐ開会式が始まりますのでお急ぎを?…」
「…え?…えぇ~?…」
元の口調に戻ったかと思えば今度はマサツグを控室にまで案内しようとし、そのコロコロキャラが変わるメイドさんにマサツグが考える事を止めると、メイドさんが不思議そうな表情を見せてはマサツグに近付き、手を取る。そして無理やり連れ込むようマサツグの手を引っ張り、他に集まって来た者達とは別に王城の門を潜って行く際、マサツグが一切気付く気配を見せないままあるボロローブを纏う者に目を付けられていた事を知り由も無いのであった。そうしてマサツグとメイドさんが門を潜ると目の前に有名なネズミシリーズアニメに出てきそうな西洋のお城が現れる。巨大な城壁の中央奥にその立派な城が立っており、手前には綺麗に剪定された庭園が広がっていて、その庭園より右側に兵士達の訓練場と一緒に闘技場があった。城内の中に闘技場が有ると言うのも少し不思議に感じるも、その頃にはマサツグの思考も戻って来たのかメイドさんに連れられるまま闘技場へと向かって居る事に戸惑いを覚える。
「……ッ!?…え?あっ…えぇ!?…
ちょ!…ちょっと!?…」
「お城の中で噂になってましたわよ?…
この国一番の騎士様に喧嘩を売った身の程知らずが
御前試合に出るって…
この御前試合も元々は兵士や騎士達の戦いを
民衆に見て貰う事によって、いかに我が国の屈強か…
民衆に安心と安全を教えるものだった筈なのですが…
騎士様が返って来るなりいきなり王様に…ンン!!…
{王よ!!…
今回は冒険者も参加させて民衆が
楽しめるようにしては!?…
最近の冒険者たちの中には中々骨の有る奴も
居るようで、その者達と我が兵や騎士達
が戦う事により互いに切磋琢磨する!…
更に民衆へのアピールに繋がると思うのですが
如何でしょうか!?…}
…って、貴方が逃げないように王様に
持ちかけた余興らしいですし?…」
{あのパツキン歯磨き液ヤロー手の込んだ事をしやがる…
ていうか何このメイド!ちょいちょい毒を吐いてくる!…
城の人間はこんなんばかりか?…}
闘技場へ向かう道中…マサツグがメイドさんに困惑した様子で声を掛けようとするのだが、メイドさんの口調がまた変わるとマサツグの噂はお城で評判と言った様子で話し始めては、わざわざハイドリヒの物真似をしては王様との会話を再現し、その様子にマサツグがハイドリヒに対して面倒臭い奴と感じては眉を顰める。そしてその様子を楽しそうに話すメイドさんの態度にも困惑し、マサツグが王城で働く人間は全員がこうも何かしら性格に問題が有るのかと考えて居ると、マサツグ達は闘技場へと辿り着き一般の人達とは別に裏口から入って控室に向かう。その際メイドさんが引っ張るマサツグの手を漸く放し、フフフッ!と笑いながら突如ある事を話し始める。
「ふふふ!…
その件の冒険者さんに会えて本当に良かった…
あの子が久しぶりに目をキラキラとさせて
王様に意見して居たんだから…」
「え?……ッ!…」
「……哀れな冒険者様に一つ助言を…
もし騎士様が突きの構えを取られたら
お気を付けになった方が良いですわよ?…」
「ッ!?…は、はぁ…ご丁寧にどうも…」
{突きの構え?…如何言う事だ?…
まず、なぜこのメイドはそんな忠告をするのか?…
と言うかさっきから口調がおかしいぞ?…}
メイドさんがまるでハイドリヒの母親の様な目線で語り始めると、その話にマサツグが不思議そうな表情を見せてメイドさんを見詰める。その時のメイドさんの表情は母親の様な優しい笑顔を見せており、マサツグがその表情に若干困惑していると、メイドさんは表情をスッと先ほどまでの澄まし顔に戻しては突如マサツグに助言をする。それは恐らくハイドリヒの事であろう…特定の構えを見せたら気を付けるようマサツグに忠告すると、メイドさんから何故その忠告を受けたのかとマサツグが動揺し返事が雑になる。そして心の中でその忠告とメイドさんの真意について若干考えてしまって居ると選手控室に辿り着いたのか、闘技場の数ある部屋の中ある一室の前に立ち止まるとメイドさんはクルリとマサツグの方に振り返ると、部屋の中で待つ様に声を掛ける。
「ここですぅ~。
こちらの控室でお待ちになってて下さいませぇ~。」
「え?…あ、はい…
案内ありがとう御座います…」
「いえいえ、それではご健闘お祈り致しますぅ~。
それではぁ~…」
__コッ…コッ…コッ…コッ…
「……まぁ~た口調が変わってるし…
一体どうなってるんだ?…あのメイドさんは一体?…」
メイドさんの言葉にマサツグが戸惑いながらもお礼の言葉を口にしては頭を下げ、そのマサツグの態度にメイドさんはスカートの裾を摘まんで会釈をしては健闘を祈ると笑顔で答える。そして部屋の前でマサツグとメイドさんが別れ、メイドさんはそのまま別の参加選手を呼びに戻るのかマサツグと一緒に歩いて来た道を引き返し歩いて行くのだが、また口調が変わって居る事に気が付いてはマサツグは案内をしてくれたメイドさんに疑問を感じながらも案内してくれた控室の中へと入って行く。
__ガチャッ!…ギイイィィィ…
「失礼しま……って、あれ?…何処ここ?…
え?…他の選手は?…」
__………。
「…えぇ~……本当にここで合ってるの?……お?…」
そこは控室と言う割には他の選手の姿が無く寧ろ応接室の様な豪華さが目立ち、マサツグが部屋を間違えたのかと困惑する。誰もいない部屋でマサツグ一人…本当にここが控室で合って居るのかと戸惑いつつも中に入ると部屋の中を見渡してはふと目に付いたトロフィー等を見つけ、そのトロフィーなどを少し調べて見るとそこには色々な功績と共に誰が闘技場で優勝したか等、色々と書かれていた。その中には勿論ハイドリヒの名前が入っており、それを見たマサツグがやっぱり…ともはや呆れた様子で溜息を吐く。
「…はあぁ~……やっぱり有りますよねぇ~?…
なんせ国一番の騎士様ですからねぇ~…
…って、俺もそういやあのオオトカゲを倒してから
レベルアップしてたよな?…
確認しておかないと!…」
__ヴウン!…
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「マサツグ」
「春王蜥蜴を討ちし者」
Lv.15 「剣士」
HP 1650 TP 400
ATK 130+10 DEF 125+60
INT 50 RES 75
AGI 100 LUK 999
装備
武器 トライアルソード
頭装 無し
体装 トライアルメイル
足装 無し
装飾 春王蜥蜴の腕輪
MS [剣術Lv.3]
SS [鑑定LV.2] [採取術Lv.2]
[技術向上] [超幸運]
[初級剣術マスター]
[術技]
兜割り TP 10 ダッシュ斬り TP 15
火炎斬り TP 20
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「ッ!!!!…やった!!…
遂に!!…遂に覚えた!!!…
Foooooooo!!!!…RPGの醍醐味!…
剣術技キターーーーーーーーーーー!!
うっしゃああぁぁぁ!!…
これで対等とまでは行かなくてもまだ戦え!!…」
ハイドリヒの名前が書かれたトロフィーを手にマサツグがこの後に待っているその騎士様との戦闘を考えて居ると、ふと自分がオオトカゲを倒した時のレベルアップを思い出しては確認しようとステータス画面を開く。トロフィーを元の位置に戻し、自分のステータスを確認するとそこにはLv.1からLv.15まで一気に能力が上がった様子とこのゲーム初めての特技を習得した表記されていた。それを目にしてマサツグが漸くRPGらしくなってきたと興奮しては大喜びし、グッとただ喜びを噛み締めていると闘技場の方から歓声が上がっているのが聞えて来る。
__ワアアアアアアァァァァァァァァ!!!!…
「え!?…歓声!?…あれ?…開会式は!?…
俺は!…
っと言うより本当にこの部屋で待ってればいいの!?…」
マサツグが一人喜んでいる中、歓声が大きく聞こえては自分の世界から一気に現実(ゲーム内)に戻され、歓声が聞こえて来た事に戸惑っては開会式はどうなったのかと心配し始める。闘技場に全員が整列して宣誓をすると言った事をするのだと思っていた矢先、そうなのかそうじゃないのかすら分からず、更に本当にこの部屋で待って居ればいいのかが心配になって来てはマサツグは落ち着かない様子で部屋の中を歩き回る。その間にも闘技場からは歓声が上がってはPvP(プレイヤーvsプレイヤー)、PvC(プレイヤーvsAI)で白熱している様子が伺える。ただ一人応接室で待たされているマサツグが非常に不安になりながらその外から聞こえて来る歓声に耳を傾けて居ると、突如部屋の扉を叩く音が部屋の中に響く。
__…コンコン!……ガチャ!!…
「ッ!?…」
「…失礼します!……
マサツグ殿…でしたね?…お待たせいたしました…
貴方様の対戦相手の準備が整いましたのでお呼びに
上がりに来ました…」
「……ホッ!…
忘れ去られていなかったぁ~!…」
ノックの後数秒の間を置いて兵士が入って来るとマサツグが驚くのだが、兵士がマサツグに挨拶をすると準備が出来たと伝えてはマサツグを呼びに来たと説明し、その言葉を聞いた瞬間マサツグはホッ!と安堵した様子を見せる。その様子に若干兵士が戸惑うも、マサツグは兵士に連れられて応接室の様な控室を後にすると今度は闘技場の戦闘エリアの方に出るゲートの前まで移動し始める。その道中…闘技場では今だ激しい戦闘が繰り広げられているのか、激しい剣戟音の嵐や魔法が炸裂し合う音等で盛り上がっている様子が多々感じられる。着々と進む御前試合にマサツグも徐々に緊張し始めては遂にゲート前に辿り着き、その際ゲート付近に居る者へ目を向けるとマサツグ同様御前試合に出場するであろう選手が呼ばれるのを待って居た。明らかに高ランクの装備でガチガチに固めた者も居れば、マサツグ同様駆け出しの格好で呼ばれるのを待つと言った、色々な人がゲート横に設置されて在る簡易ベンチに腰掛けて待って居た。それを目にしてマサツグが軽き唾を飲み込むと案内をしてくれた兵士がマサツグにここで待つよう指示される。
「…ではこちらの方でお待ち下さい……
順次呼ばれて行きますので呼ばれたら
ゲートの前に立って待って頂き、
ゲートが開きましたら入場をお願いします!…
ではご武運を!…」
「は、はい…」
「……ッ……ッ……ッ…」
「え?……?…」
兵士がマサツグに案内と説明を終えると敬礼をし、その場を後にすると持ち場へと戻って行く。マサツグは緊張した様子で兵士に返事をして一呼吸落ち着き、他の選手同様にその簡易ベンチの空いて居る所に座ろうとするのだが、隣からブツブツと念仏を唱える様な声が聞こえて来てはそれが気になり、マサツグがその声に耳を澄ませる。するとその隣に居た奴は如何やら怯えているらしくただひたすらにこう呟き繰り返していた。
「騎士団長は嫌だ!…騎士団長は嫌だ!…
騎士団長は嫌だ!…騎士団長は嫌だ!…」
{えぇ~~~~ッ!?…隣の奴ヤベ~~~!!!…
え!?…そんなに嫌なの!?…
一体お前と騎士団長との間に何が有った!?…
…てかそれなら何でこのイベントに参加したんだ?…}
そんな隣でブツブツ呟く声を聞いてマサツグが隣に座る選手に疑問を抱くのだが明らかに聞ける状態では無く、ただただ戸惑い座って待って居ると次に呼ばれたのはその隣の選手。顔面蒼白で立ち上がってゲートの前へと歩いて行き、闘技場へと向かって行って扉の向こうで姿を消す。その後マサツグが彼の姿を見る事は二度と無いのだが、嫌な消え方をした選手としてマサツグの記憶の隅に残るのであった。そうして順調に御前試合は消化されて行き、遂にマサツグ一人だけがゲート前に残されると順番が巡って来たのか、兵士の人に名前を呼ばれる。
「…最後の御前試合!!…出場者…マサツグ!!…」
「ッ!!…いよいよか……はぁ…」
__スッ…コッ…コッ…コッ…コッ……カツ!…
{……最後かぁ…何でよりにもよって最後なんだ?…
こっちは駆け出しだっつうの!!…
俺よかもっとトリに相応しいプレイヤーは
居ただろうが!!!…}
マサツグが兵士に呼ばれて立ち上がっては重い足取りで闘技場のゲート前に移動し、ゲートの前に立つと如何して最後になったのかと色々心の中で運営に文句を言い始める。別に望んで参加した訳でも無い御前試合に…初めてまだ二日しか経って居ないのに…色々な不満が募ると同時に動悸が激しくなるのを押さえつつ、闘技場前の門前に立って待って居ると、遂にマサツグの目の前の扉が開いては光が差し込み、マサツグを闘技場の舞台へと誘う。目の前には石で出来て居るであろう四角いリングに円形状の観客席、その観客席と一緒に屋根付きの観客席が設けられており、明らかに豪華な椅子が二つとその椅子に座る二人の要人…その二人は間違いなく王様とお妃様であろう。まだ闘技場に足を踏み入れていないのにハッキリと分かるその光景にマサツグは戸惑いつつも、覚悟を決めると闘技場へと一歩…足を踏み出すのであった。