-第一章三節 ハイドリヒと決闘の約束と逃げられない-
「……その前に聞きたい事が幾つか有るんだが良いか?…」
「ッ!…何だ?…」
__ドヨッ!?…ザワザワ…ザワザワ…
マサツグが一人ある事を決意し金髪騎士に質問が有ると問い掛けると、金髪騎士は不思議そうな表情を見せてはマサツグに返事をする。その際金髪騎士の後ろに居る騎士達も困惑した様子でザワ付いては隣の騎士と顔を見合わせる様に振り向き合い、マサツグの言葉に疑問の様子を浮かべ始める。まるでこの数を目の前にしているのに一向に退く気配を見せないマサツグに対し、蛮勇なのではと!?…と慌てた様子を見せて居る様にも見えるのだが、マサツグと金髪騎士は全く気にしない様子で互いの顔を見合い、金髪騎士にいたっては自分の後ろでザワ付く他の騎士達に叱咤し始める。
「…ッ!!…五月蠅いぞ!!…何を無駄話している!!!…」
「ハッ!…ハハァ!!…申し訳ありません!!!…
…ですがこの様なやり方は如何なものかと!…
王に知られましたら…さぞお悲しみに!…」
「ッ!!…う、五月蠅い!!!…
それは分かって居る!!…
だがもう引き返す事が!!…」
金髪騎士が振り返り後ろに整列している部下に五月蠅いと怒ると、慌てた様子で部下の騎士達が敬礼をして金髪騎士に謝罪する。しかし部下の騎士達の中にはこの状況やり取りが好ましく感じていない者がいるのか、その金髪騎士に注意をする姿が何処と無く見て取れ、その際騎士達はマサツグに聞こえない様に小声で会話していた。大平原のど真ん中で見られる騎士達の奇妙なその光景に他の誰かが見て居たらまず間違いなくスクショを取って、仲間内で騎士達の謎行動とゲーム内で拡散するだろうが生憎誰も居らず、その様子をほど至近距離で見ているマサツグ自身も不思議そうな表情をして様子を伺いつつも騎士達に話し掛ける。
「……はあぁ~…こっちの話を聞いて貰っても良いか?…」
「ッ!?…な、何だ!?…」
「…あんた達の目的はこのトカゲの盗伐でその証拠が欲しいんだよな?…」
「ッ!…そうだ!…」
マサツグが騎士達に呆れた様子を見せては大きく溜息を吐き、金髪騎士に話し掛けると金髪騎士はビクッとした様子で驚き、マサツグに返事をする。まるで先程の会話を聞かれたのかと警戒している様子にマサツグが少し困惑するも、改めて騎士達の目的について尋ね始めると騎士達はマサツグが理解してくれたのかと一瞬表情を明るくして見せるが、直ぐにまた高圧的な態度を取り始める。その様子にマサツグが騎士達様子や態度に対して疑問を持つが、これ以上は関わるのは面倒と本能的に感じると詮索しないよう表情と態度をそのままに話を続ける。
「あんた達の話がちゃんと約束出来るものなら…
そのまま何もせず帰るって事だよなぁ?…」
「そうだ!…それがあればこちらは任務完了するのだ。
勿論貴殿の…あ、いや…貴様の命は保証しよう…
何なら今から王都まで護衛をしてやっても良い!…」
「本当に返してくれるのか?…
こっちは今日デビューしたばかりの
下っ端冒険者だぞ?…
その約束は確かなものなのか!?…
大人の世界で口約束ってのは曖昧で反故にされる事が
常なんだぞ!?…」
「くどい!!…
それにそんな世知辛い話をしているのではない!!!…
…コホンッ!…約束しよう!!…
我らがスプリングフィールド王国騎士団が
貴殿をしっかり責任を持って!!…
送り届けて見せよう!!…」
マサツグが金髪騎士の言葉を信じる様に確認の言葉を口にすると、その言葉に同調するよう金髪騎士の表情が明るくなっては約束するとマサツグに答えるのだが、徐々に先ほどまでの態度が演技だと言わんばかりに口調と表情が崩れ始める。その様子にマサツグがもう駄目じゃん…と感じつつも再度世知辛い話を織り込んでの確認をすると、もうメッキは完全に剥がれ切ったのか金髪騎士はマサツグに素のツッコミを入れてはくどいと興奮した様子で文句を口にする。その一連の話に後ろの騎士達は緊張した様子でマサツグの回答を待ち、金髪騎士の方も最初のクールな悪役態度は何処へやら…表情豊かにマサツグを見詰める。その様子にマサツグが悩んだ表情を見せては金髪騎士にバレないよう鑑定を使用する。
「……鑑定…」
__ピピピ!…ヴウン!…
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「ハイドリヒ・リステリン」
「スプリングフィールド王国騎士団団長」
Lv.65
HP 55600 ATK *** DEF ***
MATK *** MDEF ***
SKILL
スプリングフィールド王国騎士剣術 Lv.9
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{ッ!?…何だよこのアスタリスク!…
計測出来ない!?…
俺の鑑定のレベルが足りないのか?…
それとも表記されないのか?…
どちらにしても…
やっぱり面倒事に匂いがするぅ~!…}
「…さぁ!どうした!?…答えを聞こう!!」
マサツグが金髪騎士の鑑定に成功するとそのステータス画面には今までのゲームに見た事の無いものが表示される。名前・レベル・HPとここまでは良いのだが、攻撃力・防御力・魔法攻撃・魔法防御とアスタリスク表記で全くの不明。その表記を目にしたマサツグがただ困惑した様子で鑑定結果を見詰めては、自分のスキルが悪いのかそれとも補正が掛かって居るのかと戸惑いの表情を見せる。そんなマサツグの事など知らないハイドリヒは答えを聞こうと笑みを浮かべては鼻息を荒くし、マサツグに答えを尋ねる。そんな様子にマサツグが更に戸惑うのだが、マサツグも折角苦労して手に入れた素材を簡単には渡したくないと考えると相手のステータスに戸惑いながらも覚悟を決め、ある名台詞をハイドリヒに向かってこう答える!
「すぅ……」
「……?」
「だが断る!!!!」
マサツグが軽く息を吸って沈黙した後ハイドリヒ達は期待した様子でマサツグを見詰めては不思議そうにするのだが、沈黙を置いた後次に出て来た言葉はまるで某有名奇妙な冒険の台詞で、その言葉を口にした途端マサツグは某奇妙な冒険風の作画になりそうな雰囲気を出してはハイドリヒにハッキリと断って見せ、その言葉にハイドリヒは予想外と言った表情で驚いて後ろに軽く後退りをして見せ、同じくハイドリヒの後ろに整列する部下の騎士達まで動揺した表情を見せる。
「なっ!?…」
__どよっ!?…ザワザワ!!…ザワザワ!!…
「相手が自分より強いと分かって居ても…
誰であろうとも…
上から目線で悪態を吐く奴にはNOと言ってやるのが
俺の性分でね…
例えどんなに追い込まれても!…
危機的状況でも!!…
ソイツが気に食わなければ答えは全てNOだ!!!」
{……くぅぅ~!…
一生で言ってみたいセリフを言ってやったぜ!!
露○先生!…}
そんな動揺の表情を露わにする騎士達を前にマサツグは更に一歩も退く気は無いと自分の性分も含めてハイドリヒ一同騎士団に断言すると、マサツグは心の中で密にその台詞を言っていたキャラに感謝する。今まで言ってみたかった言葉ランキング(自分の中で)一位の言葉を言えた事にマサツグが喜び、予想していた答えと違う答えが返って来た事に更に戸惑いの表情を見せては、如何するんだ?…と言った様子で騎士団全員が戸惑い始める。
「き!…貴様!!…本気で言っているのか!?…
…覚悟は出来ているだろうな!?…」
「こうなりゃ自棄だ!!…
とことん付き合ってやるぜ!」
{……って、勢い任せで何口走っちゃってんの!?…
俺!?…}
「ッ!?…げ、迎撃の用~意!!」
マサツグに言い分を断られた事と反抗の意思を見せられた事の両方でハイドリヒは戸惑った様子を見せてマサツグに正気かどうかを確かめ、そのハイドリヒの言葉にマサツグは不敵な笑みを浮かべて自棄を起こした様子で剣を構える。だが内心は勢い任せの自分の行動と言動に戸惑い、自分自身にツッコミを入れると言う何ともどうしようもない状態なのであった。そして反抗の意思をマサツグが見せた事により後ろの騎士達がどよめいて慌てて迎撃の構えを取り始め、その場は直ぐにマサツグと騎士達の一触即発の緊張状態になる。そしてこの事態を招いた件の騎士様はと言うと何故か俯いてはまるで怒りに震えて居る様に小刻みに震え、何も言わずにマサツグと部下の騎士達の間に立っていた。そうして互いが緊張状態になり身構えて居るのだが、少しして居ると突如ハイドリヒが静かに笑い始めては徐々にお腹を抱えて大声で笑い始める。
「フ…フフ……フハハハハハハハハハハハハハ!!」
「ッ!?…だ、団長!?…」
「……一応伺うけど何がおかしい?」
当然突如笑い始めたハイドリヒに部下の騎士達は戸惑い、マサツグもその様子に困惑した表情で剣を構えて居ると、部下の騎士の一人が心配した様子でハイドリヒに声を掛け、マサツグもハイドリヒに警戒しながらも突如笑い始めた理由について本人に尋ねる。その場がたった一人の騎士団長が笑い出した事に混沌と化し、両者の警戒がその笑い出したハイドリヒに向けられている中、ハイドリヒは徐々に笑い声を抑えた様子を見せ始めてはマサツグにその笑い出した理由について話し始める。
「これが!…笑わずに!…居られようか…!!
フハハ…!!…
まさかこの数の騎士を相手に立ち向かおうと
考える大馬鹿者が居るとは!!…」
「ッ!?…大馬鹿で悪かったな!…」
「いや!…別に良い!!…
私はそういう馬鹿は好きな方だ!!…
あぁ~!ハハハ!!…ハァ…ハァ……ふぅ…
よかろう!…
ならば貴様と私の一騎打ちと行こうか!!」
「…は?」
ハイドリヒは反抗された事が余程おかしかったのか笑う事を抑えながら話そうとするも一向に落ち着かず、若干笑いながらもマサツグの事を大馬鹿と称しては無謀と笑い、その様子にマサツグがカチンと来た表情を見せては聞こえる様にハイドリヒへ文句を言う。しかしハイドリヒはまるでマサツグを褒める様に話し始めては楽しんだと言わんばかりに笑いを抑え、まるでマサツグの文句に対して何とも思っていない様子で仁王立ちすると、突如マサツグに一対一の決闘を申し込む。勿論その突然の決闘の申し込みにマサツグは一言漏らしては困惑し、後ろで控える部下の騎士達も困惑してはハイドリヒの後ろ姿を見詰める。そんな困惑した状況の中、ハイドリヒだけはマサツグに向かい笑って見せては当然の様に決闘の理由を話し始める。
「…今この場で我々が貴様に戦いを挑めば
何の問題も無く勝って当たり前!……
しかしそれは栄えあるスプリングフィールド
王国騎士団の行動として民の目から見れば如何映るか?…
ただでさえ先ほどのオオトカゲ討伐で体力を使い、
その消耗した所を我々が襲う…
それでは、数の暴力と非難されの栄えある
スプリングフィールド王国騎士団の名に
泥を塗る事になる!…」
「…はぁ……」
「そこでこの一騎打ちだ!
近々、スプリングフィールド王国の王城闘技場にて
御前試合がある!
その時に私と貴様が一騎打ちをし決着をつける!」
「……拒否権は?…」
意気揚々とハイドリヒが何故一騎打ちを思い付いたかを話し始めるとマサツグはぽかぁん…と取り残された様子で一言返事をしては立ち尽くし、後ろの騎士達はただただハイドリヒの思い付きに翻弄されている様子で戸惑い始める。その騎士達の様子からも分かる様に明らかに任務と関係ない…分かり易く言うと台本と違うと言った表情を見せてはオロオロとし始めるが、ハイドリヒはそんな事など関係無いとばかりに話を進める。まるで久々に好敵手を見つけたと言わんばかりに目を輝かせ、その目を見たマサツグが面倒臭いと感じては断れないのか?と尋ねるも、ハイドリヒはやる気満々でマサツグにこう答える。
「勿論無い!!!…
貴様とて先ほど我々に対抗する意思を見せたのなら
最後までその意地を見せて見ろ!!…
決闘の見届け人は我が王と国民全員だ!!…
決着はそこで着けよう!!!
それまで首を洗って待って居ろ!
…ふぅ!…フハハハハハハハ!!」
「……ッ!!…あぁ、団長待ってください!!!…
あのトカゲは!?…」
「そんなもの最初から如何でも良い!!…
元より証拠が無くとも王は全てを理解する!!…
何とでもなる!!…」
言いたい事だけ言うと満足した様子で一息吐いては高笑いをし、マサツグに背を向けて王都へ帰り始めるとその様子にマサツグがただただ困惑して固まり、部下の騎士達も困惑し慌てた様子でハイドリヒの後を追い始める。その際トカゲを討伐した証拠について部下の騎士の一人がハイドリヒに尋ねるとハイドリヒは必要無いと答え、その答えを聞いた部下の騎士達が戸惑って居ると更にハイドリヒに質問をする。
「えぇ~!?…では最初のあの言葉は!?…」
「……ひ、久々の獲物を取られた事に対しての
嫌がらせ…かな?…」
「子供ですか!?団長!?…」
「う、五月蠅い!!…
師匠!…じゃなくて将軍もここの所忙しい様で
暇なんだ!!…」
部下の騎士に尋ねられた事にハイドリヒが答えるのだがその答えが余りにも下らなく、理由を聞いた部下の騎士がハイドリヒに困惑した様子でツッコミを入れると、ハイドリヒは若干顔を赤くしては部下の騎士に反論し始める。そして徐に言い訳を言い始めるのだがその理由も如何しようも無く、部下の騎士達は終始戸惑った様子を見せては王都へと引き上げて行く。それまでのハイドリヒと部下の騎士達の会話はマサツグより距離を取ってから話していた為マサツグの耳には入らず、ハイドリヒ達の真意は分からずじまいなのだがマサツグは面倒な事に巻き込まれたと感じると一人その場に立ち尽くしては独り言を口にする。
「一騎打ち?…泥を塗る?…
冗談も休み休み言えってんだ!!…
結局は良い格好がしたいから合法的な弱い者苛めを
提案しただけだっつ~の!!…
それも強引に!!…はあぁ~……上等だぜ!!…」
__スゥ…チャキッ!……ドッカ!…
「…ゲーム開始早々ウサギにリンチされそうになるわ…
オオトカゲに襲われるわ…
挙句の果てに王都お抱えの騎士団団長に
喧嘩を売られるわ……
ここまで面倒事に巻き込まれるとかそうそう無いぞ?…」
一人その場で愚痴を零しながら武器を仕舞い、大きく溜息を吐くとその場に座り込んで休憩し始める。今までのウサギとトカゲの連戦に、騎士団長との一騎打ちと面倒事続きで疲れ、こんな最初から畳み掛けられる様な事は無いと黄昏る様に草原の風を感じては一人空を見詰める。面倒事に巻き込まれた…一人そう感じては色々考えるのだがこの時ある疑問を感じるとマサツグはその事について悩み始める。
{……さて、如何するかなぁ~?…
まともに戦って勝てるかどうか…
まぁ、まず勝てないだろうし…
…はあぁ~…
いっそここから始めるんじゃなくて別の国から…
…って、あれ?…そう言えば…これ…
俺が逃げれば意味が無くなるのでは?…
騎士団長と一騎打ちするにしても
俺が居なければ意味が無いし、
騎士団長達の目的の物は俺が持っている…
つまり俺がこの国から逃げれば良いのでは?…
さすがにこんな事で指名手配になる筈も無いし、
名前も知らない相手を指名手配するのは難しい筈!…
だとすればワンチャン!!…}
面倒事に巻き込まれたと悩んでは目を閉じ、騎士団長との一騎打ちで勝算が有るかどうかを自身で考えるも見つからず、最初にゲームを始める場所を間違えたと嘆いて居ると、マサツグはハッと気が付いた様子で目を開き思い付く。
逃げれるんじゃね?…と…
そして騎士団長がマサツグの事を個人特定して居ない事・件の素材はまだ自分が持って居る事・自身から参加表明していない行事をバックレた事による指名手配が無い事などを考え上げ、逃げれるのではとその場で悩んだ様子で座って居ると先ほどまである意味苦戦して居たウサギ達に何故か囲まれ始める。別段襲われると言った様子も無く、シンボルと接触しても武器を構えても抜いて居ないので戦闘エリアは形成される事無くただウサギ達と戯れている構図が出来上がる。そんな事に気付かないマサツグが一人悩んだ様子で座っては考え、考える事数十分…HPとTPが全快した所で通知の音が聞こえるとその音に反応してマサツグが動き、ウサギ達もマサツグが動いた事に反応しては文字通り脱兎の如く逃げ出し始める。
__……ピロリン♪…
「ッ!?…」
__ビクッ!!…ダッ!!!…
「え?…え!?…な、何が!?…
って、全快しただけか……
…はあぁ~…
いつまでもここで悩んで居ても仕方が無い…
一旦王都に戻るとすっか…」
ウサギがマサツグを中心に逃げ出す光景をチラッと確認するとマサツグが何事かと、またオオトカゲが現れたのかと辺りを警戒するが当然影も形も無く、ただHPとTPが全快した事に気が付いては眠そうに大きく溜息を吐き、王都に戻る事を決める。その帰り道何事も無く今まで来た道を辿るようマサツグが王都へと戻りゲートを潜るのだが、町に戻った瞬間改めてなのか王都の説明が表示されると同時に、最初スポーンした時とは全然違う王都の光景を目にしては一人戸惑いの表情を見せる。
「…ふぃ~!…何とか戻って来れ……なにこれ?…」
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「スプリングフィールド王国・王都・ストロべリンズ」
スプリングフィールド大陸の中心部に由緒正しき王家のお膝元。城下町は活気に溢れ、大きな問題も起きない程の治安の高さを誇り、外部からの侵入者は何が有っても守り切り、民の為に最善を尽くすと言う賢王が治める王都。尚この国では王様がギルドに対して信頼を置いているらしく、新人の冒険者に対しても仕事の斡旋を惜しまずに行って居るとの事で、新人から熟練者まで冒険者にとっては優しい町となっており、駆け出しならここからスタートするのが無難とされている。…因みに今までの冒険者アンケートで、人気の町ランキングが有るのだが、他の追随を許さない首位をキープしている。
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__ワイワイ!…ガヤガヤ!…
「…おい!飾りが足りないぞ!?…残りは!?…」
「これで全部っす~!!親方!!…
ふぅ~!よいしょ!!…」
マサツグが王都に帰って来ると行きは何も無かった筈の通りが何故かお祭りムード一色になっており、職人か業者かが忙しそうに指示を出してはせっせと町に装飾品や看板などを設置して居た。中には出店も出るのかその準備をしている者が幾人居り、その様子にマサツグが呆然と立ち尽くしては戸惑って居ると、やはり急だったのか辺りからはその職人や冒険者達の少し戸惑った様子の声が聞こえて来る。
「…にしても急っすよねぇ~?…
確かに明日は御前試合だってのは聞いてたっスけど…
今回は催しが違うとか?…
今まで御前試合は騎士同士が戦うだけのもの
だったスけど…何でまた?…」
「知らねぇよ!…
御上の考える事なんて俺達に分かる訳がねぇだろ!?…
まぁ何にせよ!…今は仕事を早く片付けるぞ!…
早く終わらせて一杯飲みに行こうや!」
__ウィ~~~ッス!!!!…
「おい、こんなイベントあったっけ?」
「いや、春王祭までまだ先だし…
あるとするなら…御前試合だっけか?…
でもあれは別にここまで大層な物じゃなかったような?…」
やはり突然の事なのか職人に町の人・他の冒険者と困惑した様子を見せては王都を行き交い、いつもと違う王都の様子に目を輝かせる。イベントが始まるのかと戸惑いつつもマサツグは周りを見回しながらその詳細を知って居るであろうギルドへ向かい、その道中王都の広場にやって来ると何やら謎の人集りが出来て居る事に気が付く。王都の広場中心には噴水が設置されており、その噴水の手前に冒険者や町の人が集い、そして視線の先は高札へと目が向けられていた。
__ワイワイ!…ガヤガヤ!…
「…ん?…何だ?…高札?…」
__コッコッコッコッ…
「……え?…」
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「スプリングフィールド王国主催」
「御前試合」
参加希望の者はギルドに申請する様に
尚、参加者にはそれ相応の褒美が与えられる
奮っての参加を募る!!
スプリングフィールド王国騎士団長
ハイドリヒ・リステリン
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「………何だか嫌な予感がする!…」
マサツグがその人集りの出来ている方へと歩いて行き、噴水の前に立って居る高札を目にするとそこには御前試合に参加する者を募る文章が書かれていた。参加者には褒美が出るとされており、その褒美が如何言う物なのかと興味を持った様子で話す町の人や腕試しをしようかと悩む冒険者も居る中、マサツグだけはその高札に嫌な予感を感じ取ると慌てた様子でギルドへと駆け出して行く。王都の広場からギルドまでは目と鼻の先であり、マサツグが迷う事無くギルドの中に駆け込むと一目散に受付へと駆けて行く!
__バアァァァン!!!…
「ッ!?…あ、あぁ…お帰り…」
__ダダダダダダ!!!…バン!!!…
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「スプリングフィールド王国主催」
「御前試合参加者一覧」
マサツグ(鍵) 宵闇 ノックス
ラムセス十世 ミサカ ♰クロイツ♰
ダンペイ わんちゃ もち
イガグリ栗夫 ANK ふうか
鳳来 Nengan カピバラさん
etcetc……
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「………。」
マサツグが勢い良く扉を開けては周りの冒険者達がビックリした様子でマサツグを見詰め、受付嬢も驚いた様子で振り返り焦った様子で入って来たマサツグを見つけると、戸惑った表情で挨拶をする。しかしそれ所で無いマサツグは真っ直ぐにギルド受付へと向かい、急遽設置されたであろう看板に気が付くと今度は真っ直ぐ看板に向かいズカズカ走り近づいては看板を掴んで凝視する。何となくその看板が如何言う物かを察した様子で確認すると、そこには御前試合への参加希望者の名前が記入されており、時すでにお寿司とばかりに堂々トップにマサツグの名前が書かれてある事を確認する。更にそのマサツグの名前の隣にだけ鍵のアイコンが付いており、まるで登録解除出来ないと言って居る様に見えると、それを見てマサツグがただ看板を掴んだまま固まり、受付嬢は勿論周りの冒険者までもがマサツグの心配をし始める。
「…あ、あの!…大丈夫?…」
「……あ…」
「……あ?…」
「ッ!!!…
あんのパツキン!…
歯磨き洗浄液やりやがったなぁ~~!!!!!」
「え?…えぇ!?…」
受付嬢はマサツグを心配した様子で声を掛けるがマサツグは戸惑った表情のまま固まり直ぐには答えず、少ししてからガックリと首を落とし項垂れるとマサツグの様子に更に戸惑い心配する受付嬢。その様子は勿論他の冒険者の目にも止まり、何事かと言った様子でギルド全体が戸惑って居るとマサツグが小声で一言呟き、その声に反応して受付嬢がやはり心配した様子で復唱すると、次の瞬間マサツグは勢い良く頭を上げては声を上げて叫ぶ!その言葉に冒険者一同が驚き、マサツグが見ている看板に何か問題が有るのか?と集まり見に来るのだが、マサツグの事情を知らない為困惑してはマサツグを困惑して様子で凝視し、そして突如マサツグが叫んだ事に受付嬢が戸惑い困惑の声を上げる。マサツグは叫んだ後また項垂れては苦悩して居る様な声で呻き始める。
「あああぁぁぁ~~~~……
……何が超幸運だよ…
面倒事ばかりじゃね~か…」
「え?…えぇ!?…」
マサツグが呻いては自身のSSに有る「超幸運」が本物なのかと嘆くと同時に、心成しかあのパツキン歯磨き洗浄液野朗の歯を輝かせながら笑顔を見せる図がマサツグの目に浮かび、そのマサツグの嘆く姿に受付嬢ただ戸惑う様子を見せるしかない。その様子にギルド内の冒険者が戸惑いながらも良く有ると言った様子の生暖かい目で見ては静かにまた…何事も無かったかの様に談笑を始める。ここまで来るともはやプロの技の様なモブ対応にマサツグは気付かないまま、項垂れてはゆっくりと参加者登録の看板から離れてはギルドをゆっくり後にする。その時のマサツグからはまるで始めたばかりとは思えない程の哀愁が漂っており、冒険者一同モブ対応をして見せるもマサツグが叫んだ理由について激しく悩まされる。
ここまでマサツグがゲームを始めて約二時間…
それまでに大量のウサギとエンカウントしたと思えば今度はオオトカゲとドッタンバッタンと大騒ぎをし、辛く苦しい戦いを経て勝利したと思えばまた今度は騎士団がやって来ては素材を寄こせと言って来る。二時間の間に立て続けに大多数のモンスター及び中級レアボスモンスター、そして騎士団長様と面倒事が一気に押し寄せて来る事に頭を抱えると一人マサツグは嘆き呟く。
「……俺が求めていた冒険はこれじゃないんだよなぁ!…」
間違ってイベントに参加してしまっても直ぐにキャンセルする事が本来なら出来るのだが、もし名前の横にロックアイコン(離脱不可)が付いてしまうと絶対に逃げる事が出来ない。それこそイベントが終わるまでログインしないと言う手を使わない限りは絶対にイベントエリアに転送されてしまう。そんな本当に逃げられない状態になったマサツグが項垂れ軽く絶望すると嫌々ながらも出場を決意せざるを得ないのであった。こうしてマサツグはスプリングフィールド王国主催の御前試合へ参加する事になってしまい、更にこれがきっかけでこの先のマサツグの冒険は更に波乱万丈なものへと変わる事をこの時のマサツグは全く…全然!!…知らないのであった。