-第一章十四節 囮と救助と決意-
{おいおい…いよいよ不味いぞ!?…
マトックとデクスターはノックアウト…
更に重症の宗玄にハリットは完全にビビッちまってる…
このままクエスト失敗どころか!…
全滅endまで見えて来た!?…}
「……ッ!!!…」
__ギリィ!!……バシュゥ!!!…ドシュッ!!…
__グオオオァァァァァ!!!……
マトックは暴れるサイクロプスのアッパーカットを貰い大ダメージでダウン、デクスターもサイクロプスの目を潰す事に成功するが振り落とされると踏み潰され、その惨状を目にしたハリットが恐怖で身が竦み動けなくなると、宗玄も遂にはサイクロプスの攻撃に被弾し動けなくなる。そうして残ったのはマサツグとアヤだけとなるのだが、アヤは何を思ったのかサイクロプスの瞼に向かい矢を撃ち始めては突如バトルフィールドの外側にある乱立に生えている木々の方へと走り出す。
……ダッ!!!…
「ッ!?…アヤ!?…」
「マサツグはマルコさん達を起こして
この場所から離れて!!!
私は何とか粘って見るからギルドに救援を!!!…」
「なッ!?…」
__グオオオァァァァァ!!!…
…ズシン!!…ズシン!!…ズシン!!…
アヤがサイクロプスの目を撃った事にマサツグと宗玄が驚いて居ると、アヤはその木々の方に走りながらマサツグ達の方に振り返り指示を出す。アヤ自身も時間が無いと言った様子で慌てて走り出して行くのだが、その指示は明らかに囮になると言うもので、マサツグがその事で戸惑って居るとサイクロプスはアヤの誘導に乗ってかアヤの方へと歩き始める。その際サイクロプスの足は最初の時より早く歩いて居る様に感じ、アヤとサイクロプスの歩幅を考えるとサイクロプスの方が速く見える。しかしアヤはそれでもとばかりに走りながら弓矢を撃っては自身の方へと誘導し続ける!
__バシュゥ!!…バシュゥ!!…バシュゥ!!!…
「こっちよ!!デカ物!!…貴方の相手はこっち!!!…」
__ズシン!!…ズシン!!…ズシン!!…
アヤが木々の有る方へ移動するのが先か…サイクロプスが先にアヤを捕まえるか…とにかくアヤは移動しながらサイクロプスに向かい矢を放ってはダメージ等もはや気にしない様子で走り続け、サイクロプスも攻撃を感じる方へ愚直に追い掛け歩き続けては同時に腕を振り回す!マトックに宗玄と一撃でダウンさせた腕は今までのが嘘の様にブンブンと振り回され、その様子にマサツグが指示に従うか助けに行くかで悩んで居ると、宗玄が戸惑った様子でマサツグの名前を呼んでは判断を急かす!
「マ…マサツグ殿!!!…」
「あぁ~もう!!…何やってんだよ!?…
俺一人で行けって言うのかよ!?…
そんな事出来る訳!……だあああぁぁぁぁ!!!…
…畜生!!!!」
__バッ!!…ダッダッダッダッダッダッダ!!!…
「畜生!!…畜生!!!…畜生!!!!…
畜生!!!!!……ッ!!!…
畜生おぉぉぉ!!!!!!…!」
その宗玄の呼ぶ声にマサツグもビクッとした様子で反応しては色々と悩んだ表情で頭を掻き毟り、アヤを置いてはいけないと言った様子で一度は助けに行こうとするのだが、アヤがあそこまでして他のメンバー及び自身を助けてくれたと改めて考えると足が思う様に動かず、叫び出し始める。そして何も出来ない自身に苛立ちを隠せない様子を見せてはマルコ達が眠る馬車の方に走り出し、そして自分の無力さを呪う様に嘆き叫んでは急いでマルコ達を起こし、この場から逃げるよう指示を出そうとマサツグが考えるのだが、その時間も無いと言った様子で次の瞬間…マルコ達の乗る馬車が目の前に見えて来た所で一番聞きたくない悲鳴がマサツグの耳に飛び込んで来る!…
「ッ!!…マルコさん達の馬車!!…
とにかく早く起こして!!…」
__キャアアアアアアァァァァァァ!!!!…
「ッ!?…う…嘘だろ!?…」
__バッ!!!…ッ!!!!…
マルコ達の馬車が見えて来てマサツグが更に急いだ様子で駆け込もうとした瞬間…マサツグの後ろから突如女性の悲鳴らしき叫び声が聞こえて来るとビタっとマサツグの足を止めさせ、恐怖と後悔の念が波の様に押し寄せて来ては恐る恐るマサツグを振り返らせる。そして次にマサツグの目に映ったのは間違いなくその一番見たくない光景であり、マサツグの考えが一気に吹き飛ぶ光景であった。月明かりに照らされる草原のバトルフィールドでサイクロプスが何かを捕まえた様子で両手を挙げてはその捕まえたものを握り潰そうと力を入れ、そのサイクロプスの手の中には先ほど囮を買って出たであろう体の線が細い女性が捕まっているシルエットが投影されていた。そしてそれを目撃した瞬間マサツグの頭の中はパニック状態になるも気が付けば馬車にではなく、その掴まっている女性を助ける為に剣を抜いてはサイクロプスに向けて走り出していた。
__スッ…チャキッ!!…バッ!!!…
「アヤァァァァァァ!!!!…」
「ッ!!!…来ちゃダメ!!…私は良いから!!…
マルコさん達を!!…」
「こっちを見ろオオオオオオオォォォォォォ!!!!…」
剣を抜いて来た道を全力疾走で駆け抜け始めると、もはやTPの配分など気にする様子を微塵も見せないでアヤの名を叫びながら駆け抜け、更にサイクロプスが自身の間合いに入るとダッシュ斬りで間合いを詰め始める!そのマサツグの様子はサイクロプスに捕まって居ても分かったのかアヤがマサツグに逃げるよう声を掛けようとするのだが、体全体を圧迫されているせいか思う様に声が出ない!そしてマサツグがアヤの言葉を聞けないままダッシュ斬りでサイクロプスの足まで移動すると、自分の持っている剣で斬り掛かり始める!
「アヤを!!…放せえぇぇぇぇぇぇ!!!!」
__フォンッ!!!…ガッ!!…
「ッ!?……グッ!!!!…
構うかああぁぁぁぁぁ!!!!…」
__ガッ!!…ガッ!!…ガッ!!…ガッ!!…
勢いそのままサイクロプスの足に向かい威勢良く斬り掛かるが、その剣の刃は分厚い皮膚によって止められる。そしてサイクロプスも今は捕まえた何かの方が気になると言った様子でマサツグの事を完全に無視しては両手に力を入れ続け、その事にマサツグが気が付くも今は無我夢中とばかりに剣を振り回してはサイクロプスを斬り続ける。しかしここでネックになって来るのがマサツグの今装備している武器…トライアルソードである。確かにこの武器は絶対に壊れる事は無いのだが初期武器なだけにまともにダメージを与える事がかなり難しく、ましてやサイクロプス等の大型モンスター及び自分より格上のモンスターには不向きの武器なのである。何度剣を振り回した所でその分厚い皮膚に邪魔をされてはまともにダメージを与える事が出来ず、遂には痒いと思われたのか足で引っ掛けられるとマサツグは簡単に吹き飛ばされる。
__……ゴゴゴゴゴ…ブォン!!…
「ッ!!…ぐぅぅ!!!…」
__ふわぁ……ドサァ!!…バラバラバラバラ…
「ガハッ!!…ゴホッ!!…受け身を取り損ねた!…
それに引っ掛けられた程度で五割とか…
キツ過ぎだろ!!…
…けどそうも言ってられねぇな!!!…」
マサツグが吹き飛ばされると受け身を取る事も出来ずに宙を舞っては地面に叩き付けられ、ダメージを負う。その際何故かアイテムポーチ内のアイテムを幾つか地面にばら撒いてしまうのだが、それよりもアヤの事と考えると地面に落ちた回復薬を手に取るとその場で封を切りガブ飲みし始める。そしてHPを回復させると空き瓶を落とす様に捨て口を拭い、一度回復すると言う行動を取ったからかピタっと冷静さを取り戻しては何か方法が無いかを考え始める。
__ゴクッ!…ゴクッ!…ゴクッ!…ゴクッ!…
…パァ!!…カランカランッ…
{…とは言え悠長に構えている時間も無い!!!…
何か!!…何か方法を考えるんだ!!!…
何かある筈だろ!?…こう言う時何をやって助けた!?…
如何やって相手の注目を集めた!?…
奴の弱点は!?…本当に目だけなのか!?…
もっと観察するんだ!!…
何かしら突破口が!!!……?……}
「クッ!…アアァァ!!…」
__ギシギシッ!…メキメキッ!…
自分の今持っている剣では倒すどころかダメージすら与えられないと悟ると、アヤだけでも助けようと自身の今までのゲームの知識を引っ張り出して来ては、策を考え始める。ジッとサイクロプスを見詰めて弱点を探し、他に何が効いた等別のゲームの知識を持ち出しては考え、ひたすらにアヤを助ける事しか考えていない様子で思考を駆け巡らせるのだが、その間にもサイクロプスは両手でアヤを締め上げて藻掻き苦しませ、アヤの体からはミシミシと不穏な音が聞こえ始め、アヤの抵抗力も弱まり始めるといよいよ危険域に突入し始める!しかしそんな時マサツグがサイクロプスの耳に何故か気を取られるとその事だけが気になり始める。
{…耳?……いや別に何もおかしい事なんて無い…
だってサイクロプスって基本人型……人型?…
耳…人型……ッ!!!!…}
「そうか!!…その手が有った!!!…
まだあいつにとって弱点である部分が!…」
__バッ!!!…
マサツグがサイクロプスの耳を見詰めて奇妙な考え事をしていると、ふとある事を思い付く。しかしその考えは成功するか如何か等全く分からず、完全に博打状態なのだがマサツグはこれしかないと考えると、その足は怯えて竦むハリットの方に向けられていた。何故ならこのマサツグの考えたアヤの救助プランは絶対にハリットの協力が必要だったからである。そしてマサツグが急ぎ怯えるハリットの元まで駆けて行くとハリットの肩を揺らし始める!
「ハリット!!…ハリット!!!!…」
「……ふぇ?……ッ!!…マ、マサツグさん!?…」
「確かハリットはファイアボールを唱える事が
出来たよな!?…まだ撃てるか!?…」
マサツグがハリットの肩を掴んで揺さぶり名前を呼ぶと、少し間を置いてハリットが放心状態から意識を取り戻す。顔が近いマサツグにビクっとした反応を見せて怯え始め、それとは裏腹にマサツグはハリットが意識を取り戻した事にまだチャンスは有ると言った様子で笑みを浮かべると、ハリットにまだ魔法が打てるだけの気力と魔力の残存具合を尋ねる。そして直ぐにハリットが動けるよう同時に抱き起し、縋る気持ちでハリットの答えを待っていると、ハリットは困惑しながらもマサツグに答える。
「え?…は、はい…で…出来ると思ます…
でもそれより皆さんが!?…」
「助ける方法が有る!!…ハリット!…
サイクロプスの耳に向かって
ファイアボールを打ってくれ!…」
「ッ!?…えぇ!?で、でもそんな事したら!!!……
…ッ!?アヤさん!?そんなアヤさんまで!?…」
マサツグの質問にハリット戸惑いながらも答え、杖を持たされると状況が飲み込めない様子でただ怯えては護衛メンバーの心配をするのだが、マサツグは助けられるとだけ答えるとハリットに何の説明も無くサイクロプスに捕まっているアヤの姿を見せると少し急かした様子でファイアボールをサイクロプスの耳に目掛けて撃つよう指示をする。勿論それを聞いたハリットは戸惑いの表情を見せてはマサツグに意見を言おうとするのだが、アヤが捕まっている様子を目にすると今度はアヤが死んでしまうと言った様子でまた怯え出し始める。それを見てマサツグがハリットに魔法を撃つよう再度指示を出すと安心させる様に言葉を掛ける。
「大丈夫だ!!…俺に任せてくれ!!!…
…正直なところ言うと不安は有るが…」
「えぇ!?…」
「でも勝算はある!…
頼む撃ってくれ!!!」
マサツグがハリットに焦りながらも笑顔を見せて任せろと答えると、その時のハリットはマサツグのその姿を誰かに見立てるようハッ!とした様子で見詰めるのだが、少し間を置いた後でマサツグが不安を口にすると全てが台無しになる。そのマサツグの一言にハリットが不安の表情に変わりマサツグを頼りない目で見詰め直すのだが、直ぐにマサツグが勝てると自信満々に答えて再度魔法を唱えるようお願いをすると、その答えを聞いてビクッと戸惑った反応をし、ハリットは目をギュッと瞑って葛藤する。そうして数秒悩んだ様子を見せるのだが、時間が無いと言った様子で無理やりマサツグの事を信用したのかマサツグに返事をする!
「……ッ……ッ……ッ!!…
マサツグさんの事!…信用しますからね!?…」
「ッ!!…よし!…
じゃあ準備が出来たら詠唱してくれ!!…
詠唱を終えたらあの岩の陰に向かって
走ってくれよ!!…」
「りょ…了解です!………ッ!!!…
《…ぐ、…紅蓮の火球よ!!…我が目の前に…》」
ハリットが怯えながらも気丈に振舞った様子でマサツグの言う通りにすると答えると、マサツグはその答えを待っていた!とばかりに笑顔を見せて魔法を唱え終えた後のハリットに指示を出し、一人サイクロプスに向かって走り始める!その際マサツグの様子からはもはやサイクロプスに対しての恐怖心は無く、寧ろ怒りを覚えた感じを全身から滲ませており、ハリットがマサツグの指示に返事をし、体を震わせながらも魔法を詠唱し始めるとマサツグはサイクロプスの足にではなく、アヤが捕まっている手の下へと走って行くのであった。
{…恐らく俺の考えが正しければ
アイツは一発でのた打ち回る!!……
その時が勝負でアイツを倒すきっかけにもなる!!…
あの腕が下りて来た時が勝負!!!…}
「《立ちはだかる障害を焼き払え!!…
ファイアーボール!!!》」
__バヒュン!!…コオオォォ!…
ドゴウゥ!!!…ッ!?……
マサツグがサイクロプスに向かい走って行き、ハリットがマサツグの指示通りに魔法を唱えてはサイクロプスの耳に向けて杖を構え、ファイアボールを放つ!そしてマサツグの指示通り魔法を撃った後のハリットは指定された岩の陰へと走り出し、自分が放ったファイアボールが着弾するのを見詰める。杖の先から放たれたファイアボールは真っ直ぐにサイクロプスの耳に向かい飛んで行き、見事耳の中に入るよう直撃し軽い火柱を立てはそのショックに驚いてかそれとも熱かったのか、捕まえていたアヤをパっと放して耳を押さえるとその場で仰け反って悶え始める。
__グオオオァァァァァ!!!……ヒュウウゥゥゥ…
「ッ?!…何とか予想通り!!…
何とぉぉぉぉぉ!!!…」
__バッ!!!…ガッシ!!…
「んん~~しょっと!!…」
そして解放されたアヤはそのまま地面へと落下して行くのだが、走って来たマサツグが待ってましたと言わんばかりに駆けつけては、ちょっとでも衝撃を和らげようとジャンプして受け止め、全身をバネの様に衝撃を緩和しては見事に着地し、アヤを受け止め切る!そして更に重症のアヤに極力衝撃を与えないようお姫様抱っこのままハリットに指示した岩陰へと全力でダッシュし始め、アヤを心配した様子で声を掛ける!
__ダッダッダッダッダ!!!…
「アヤ!!アヤ!!!…」
「あ…あぁ…ッ!!…
カフッ!!…コフッ!!……はぁ!…はぁ!…
……?…ま、マサツグ?…」
「鑑定!!…」
__ピピピ!…ヴウン!…
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「アヤ」
「森の狩人」
Lv.18
HP 149 / 1550 TP 245 / 265
[バッドステータス]
「骨折」「ヒビ」
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「…よかった!…体力は残ってる!!…
でも骨折とかデバフが!!…」
マサツグが揺らさないよう急ぎつつも走ってアヤに声を掛けると、アヤは辛い痛みに耐える表情を見せながらも目を開き、意識が戻った様子を見せては吐血交じりに咳き込み、息を切らし始める。そして自分が今マサツグの抱えられて居る事に気が付いているのか尋ねる様にマサツグの名前を呼ぶと、マサツグはアヤを鑑定してちゃんと生きて居る事を確認すると漸く安堵する。しかしそのアヤのステータスには色々とバッドステータスの「骨折」等が付いており、油断出来ない状態に有る事も同時に確認し、マサツグがその表情を曇らせているとアヤがマサツグに謝り始める。
「ケホッ!!…コホッ!!…
ごめん…私…先輩なのに……
マサツグに行けって言ったのにッ!!…ゴホッ!!…
足引っ張っちゃって…」
「ッ!?…無理に喋らなくて良い!!!…
今は休む事に専念!!…任せてくれ!!…」
自分が囮になると言った手前…囮になるどころかサイクロプスに捕まり、死の淵まで追いやられてそれをマサツグに助けられたと理解すると、無理をしてでも謝ろうとし吐血をしてしまう。それを見てマサツグが慌てた様子でアヤを労り、気にするなと声を掛けると更に急いで指定した岩場の陰へと走って行く。そうして一度サイクロプスから距離を取り、指定した岩陰まで無事に走り切って隠れるとハリットと合流を果たす!
「…ッ!!…マサツグさん!!…」
「ハリット!!…ナイスだった!!!」
「いえ!…それよりも!!…」
「分かってる!!!…
アヤとにかく今はここで大人しくしてるんだぞ!?…」
岩陰まで走って来たマサツグにハリットが気付き声を掛けると、マサツグはハリットの援護に感謝する。しかしハリットは照れるより先にアヤの容態に気が付いたのか、心配した様子でマサツグに声を掛けては慌てて駆け寄り、アヤの様子を確かめようとする。その事にマサツグが深刻そうな表情で頷いてはそっとアヤを下ろし、自身のアイテムポーチから飛び出さずに残っていたHP回復ポーションを探し出し見つけると取り出す。
__ガサゴソ!…ガサゴソ!…
「……あった!…とにかくこれを!…」
「あっ!…私に!!…医学を持っていますので!!…」
__ッ!……コクンッ!……キュウゥゥ…ポン!…
マサツグがHP回復ポーションをアヤに差し出そうとするのだが、その前にハリットが慌てた様子でマサツグにポーションを渡すよう声を掛けると、アヤの容態は私が見ると言った様子で真剣な表情を見せる。そのハリットの真剣な表情にマサツグが一度は戸惑うもののコクンッ…小さく頷いてハリットにポーションを手渡すと、ハリットはポーションを手に取って封を切ると慣れた様子でアヤを若干抱き起し、介抱をする様にポーションを飲ませ始める。
「アヤさん!…少し体を起こしますよ?…」
「え…えぇ…」
ハリットの問い掛けにアヤが掠れ声ながらも返事をしてはハリットの持つポーションに口を窄め、ハリットが同意を聞いてポーションを口元にまで持って行くと少しずつ飲まそうとする。しかしそんなハリットとは裏腹にアヤはまだ戦う気で居るのか、ポーションを急いで飲もうとすると当然ながら満身創痍でそんなに一気にポーションを飲む事が出来ず、咳き込んでは吹き出してしまう。
__ゴクッ!…ゴクッ!……ッ!!…
カフ!!…コフッ!!…
「あぁ!!…焦らないで下さい!?…
ここなら安全です!!…見た所…
あのサイクロプスはデクスターさんの
ナイフで目を潰され…
片耳も満足に使えないようにしましたから!!…
ここまでの特定は!…」
「……?…貴方がやったの?…」
「ッ!……いいえ……
確かにファイアボールでサイクロプスの耳を
焼いたのは私ですが…
その作戦を考えたのはマサツグさんです…」
「ッ!?…ま…マサツグが?…」
咳き込むアヤにハリットが少し戸惑った様子で安心させようと言葉を掛け、サイクロプスの今の状態をアヤに伝えてはここまで来ないと言うのだが、そのハリットの言葉にアヤが苦しそうな表情を見せながらも困惑すると、その状態にしたのはハリットかと戸惑った様子で尋ね掛ける。その尋ね掛けにハリットは首を左右に振っては違うと答え、自分がやった事を正直にアヤに話してはその策を考えたのはマサツグと話し、その答えを聞いたアヤはマサツグの方を振り向いては困惑した様子で視線を送る。一方そのサイクロプスはと言うとまだ耳を押さえてその場で悶える様にして地団太を踏んで叫んでおり、その様子と言うより足音と振動にアヤは気付いてマサツグに困惑の視線を送り、ハリットは自分が何も出来なかった事を悔いる様に俯いて居ると、スッ…と突如マサツグが立ち上って岩場から姿を現し、サイクロプスが悶えている方へと突如歩き出し始める。
__ガザッ!!…ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
「ッ!?…マサツグさん!?何処へ!?……
もうあの様子だとあの場所から動く事は
有りません!!…ここは…
ここは一度馬車に居る皆さんを起こして
この場から離れた方が!?…」
「……アイツをぶっ倒す!!!…」
「えぇ!?…」
マサツグが一人サイクロプスが悶えている方へと歩いて行ってはその様子に気が付いたハリットが呼び止めようとし、宗玄が言っていた様にマルコ達を起こそうとマサツグに話し掛けるのだがマサツグはまるで怒りに満ちた様子で俯いてはただサイクロプスの居る方へと歩いて行く。そしてハリットに答えるようただ一言…サイクロプスを倒すと怒気の混じった声で返事をするとハリットは困惑した様子で声を挙げ、マサツグはその間にも止まる事無く歩いて行き、徐々に岩陰から離れて行く。
__ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
「駄目ですマサツグさん!!…
これ以上の戦闘は無意味です!!!…
早くマルコさん達を起こして町に!!…
ギルドに救援要請を!!!…」
「マサツグ!!…行っちゃダメ!!!…
今の貴方じゃ!!…コフッ!…
私達全員でも勝てない!!……
引き返してぇぇ!!!…」
「……悪いな二人共…
今更だけどそのお願いは聞けそうにないわ…」
徐々に離れて行くマサツグに…足音にアヤとハリットの二人が戸惑うも直ぐにハリットが慌てて止めるよう別の案を口にしながら呼び戻すが、ハリットの声は届かずマサツグはただサイクロプスに向けて歩みを進める。そして倒れながらもマサツグに止めるよう掠れ声で叫ぼうとするアヤの声も当然届かない…別に風が強く二人の声が掻き消されている訳でも無く、距離が開き過ぎて届かない訳でも無い…ただマサツグは何かに揺り動かされるようサイクロプスに向かって行っては俯き、拳を固めた様子で怒りを滲ませる。そうしてある程度の距離までマサツグが一人歩いていると剣を鞘から抜いては構え始める。
__ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…スゥ…チャキッ!!……
「…この任務だけ…の仲間かもしれないけどよぉ…
ここまでやられるとさすがに俺もイラっと来る訳よぉ…
例え相手が格上でも…
どんなに大きかろうが強かろうが!…
ましてや自分の先輩がやられたと
あっちゃ尚更なんだわぁ!?…」
遠くから叫ぶ二人の声はもはやマサツグの耳に届いていないのか、マサツグはただ剣を手にサイクロプスの所に向かい歩いて行っては独り言を話し始める。その際マサツグの独り言からは怒りの念が感じ取れ、剣を握る手にも異様なまでに力が入るとそのやる気を出したマサツグの執念が感じ取れる。そしてマサツグが悶えるサイクロプスの前に立つと静かに武器を構え、俯いた頭を上げてサイクロプスを今から叩き斬ると覚悟を決めた表情を見せると更にこう叫ぶ!
「覚悟は出来た!!…
こっからはただテメェを斬る事しか考えねぇ!!!…」
__ッ!?…グオオオアアアァァァァ!!!…
グオオォ……
「行くぞ!!!…この野郎おぉぉぉ!!!!」
__ブォン!!!…ドゴオォォォォンン!!!…
サイクロプスが残った片耳でマサツグの叫び声を聞いたのか、マサツグの居る方に振り向くと完全に頭に血が上った様子で吠えては腕を広げて振り上げる!しかしマサツグはそれを見ても逃げる所か剣を構えてサイクロプスに向かい突貫して行き、サイクロプスの腕を潜り抜けて見せると更に叫んで戦闘を再開し始める!ただ一つ…マサツグは怒りと同時に闘志を燃やし、心の中で…
{ここで逃げたら男じゃあねぇ!…
ただアイツを絶対ブッ倒す!!…}…
と、決意に駆られた様子でマサツグが走り出しては単騎で深手のサイクロプスに立ち向かい、そしてそのマサツグとサイクロプスが戦う上空からその様子を眺めて誰にも全く気付かれる事無く満足そうに見詰める者が一人…姿を隠してただただ笑みを浮かべていた…
「くふふふ♪…一時は如何なる事かと思ったが…
何とかわっちの思惑通りに事が運び出したわ!…
丁度良い具合に周りの目障りな虫達は消えおった!…
もうマサツグとわっちの遊戯を邪魔する者は居らん!!!…
さぁ!…見せておくれ?…お主の中に宿る潜在能力!…
その力!…その知恵!…その勇気!…
わっちを楽しませるに値するか…
それともここで惨めに踏み潰されるか…
お主はわっちの為に…強くなれるかを!…な?……」
月明かりに照らされ影を作る事無く姿を消し、宙に浮いては漸く待ち望んだ光景に笑みを浮かべる謎の人物…まるでこうなる事をずっと望んでいた様にその場でクルクルと喜びに舞ってはマサツグとサイクロプスの戦いを見詰めているのだが、そうは行かないとばかりにマサツグとサイクロプスの陰に隠れて再起を図る者が一人…こうしてサイクロプスとマサツグの一夜限りの戦いがここに幕を斬るのであった。