-第一章九節 迷子のマサツグとお詫びとギルドへ-
さて…王城での表彰式が終わり表彰者の各々が玉座の間を後にして王城の出口に向かい歩き出し、新たな冒険へと向かって行く中、マサツグはと言うと同じ様に王城の外に向けて歩いて居るのだが、今だ王城内に居た。本人は別に王城内を探検したいと思って留まって居るのではない…寧ろ外に出たいと思い歩き続ける…しかし外に出る事が出来ない…何故なら…マサツグは方向音痴だったからであった。
スプリングフィールド城・一階通路・東棟…
表彰式から30分前…
「……ヤバい!…完全に迷った!…
ここは何処なんだ?…
……もしかして俺…城の中で遭難した?…」
この迷子になった理由と言うのも最初マサツグは他の者達の後を追って一緒に王城の外に出ようと考えたのだが、運悪くハイドリヒがその出口に向かう道中で誰かを待ち構える様に立って居るのをマサツグが見つけたのがきっかけであった。昨日の御前御前試合に今日のハプニング…その二つが重なりマサツグ自身も相手にしたくないと言った様子でその道を諦め、別のルートから出ようとした結果がこのザマである。そして自分自身も方向音痴だと言う事は重々承知しているのだがハイドリヒを避ける為に反対の道を進み始め、城の窓からこっちが外に通じて居ると確認しながら歩くものの外通じる道は見つからず、ただ歩き回っては同じ光景をグルグルグルグルと見続け、気が付けば30分掛けても今だ出口を見つけられずに居た。
__ガチャッ!!…
「ん?…アンタは?…新人か?…」
「あっ…いえ…えぇ~っと…
外へ通じる道は?……ッ!?…」
「へ?…迷子?……まぁいいか…
出口ならあっち……」
「あっ!…どうもすいません!!…
お邪魔しましたぁ~!!!…」
城内で人を見つけては道を尋ね、そして言う通りに歩いて行こうとするもハイドリヒが狙ったかの様に待ち構えている…そんな状態にマサツグが戸惑いつつも更に王城内を彷徨い続け、何度も人に道を尋ねては辺りの警戒とまるでスニーキングミッションの様な奇妙な状態になる。その間マサツグの様子を見た城の従者が困惑したり…不審者を見る様な目でマサツグを見詰めるのだが、遂にハイドリヒから一度として見つかる事無く王城の出口に辿り着く。ここまで辿り着くのに一時間が経とうとしており、漸く見つけた出口の前でマサツグが息を切らして扉に手をやると、扉の先には昨日見た庭園の光景が広がる。
__ガチャッ!!…ギイイィィィィィ…
「ぜぇ!…ぜぇ!…や…やっと外のに出れた!…
はあぁ~…
…ったく!何で朝からこんな苦労を…
…まぁ…表に出る事が出来ればもう大丈夫だよな?…」
__コッ…コッ…コッ…コッ…
「………。
…折角手に入れたんだから…
やっぱ刀身をみて見たいよな…」
マサツグが外の光景に安堵し、朝から何故ハイドリヒに追われなければならないのだ!?と漏らしつつも王城の庭へと出て行く。昨日の御前試合が嘘の様に静かな雰囲気を感じさせる庭園では小鳥が囀り、マサツグがその様子に昨日の出来事は夢なのでは?と錯覚を覚えるのだが、ずっと手にしている刀にふと目をやっては夢では無いと言う事を確認する。そして漸く念願の武器を手に入れたと言う実感とその武器を見てみたいと言う気持ちが重なり、マサツグが少し移動してから鞘と柄を両手で握っては刀の刀身を見ようとするのだが…
__グッ!!…
「……あれ?…」
__グッ!!…グ!!!…
「……抜けない?」
玄関先で刀を抜くのは如何かと思い、一応庭の方に移動してから刀を抜こうとするのだが、刀を抜く事が出来ない。刀が抜けない事にマサツグが戸惑い、両手に力を入れ直して再度挑戦するもビクともしない…まるで刀がセメントで糊付けされた様にガッチリと固定されており、一向に抜ける気配が見えないのだがそれでもマサツグは諦め切れない様子でチャレンジするが、TPだけが消費されてやっぱり抜けない。
__ググググ!!!…ガガガガガ!!!…
「…!!…!!!……!!!!……ダアア!!!…
駄目だ!!…はぁ!…全然抜けねぇ!!…はぁ!…
ふぅ~……まさか不良品!?…って訳でも無いし…
そうなるとステータスが足りない?…
もしくはスキル開放とか?…
やっぱり何か条件があるのか?…」
大きく力んでもやはり抜けない刀にマサツグが戸惑い、叫んで見せては息切れを起こす。そして少しでも鞘から抜けたか?と疑問を感じ、刀に目をやるも鞘からは1mmとも抜けた様子は無く、それを目にしたマサツグが更に戸惑う。抜けない刀を見詰めてはマサツグがまさかの事態を考えるが、直ぐに冷静になっては違うと別の可能性を判断し、とにかく今の自分では抜けないと悟ると落ち込む反面、楽しみが増えた様子で笑みを浮かべる。そうしてマサツグが庭園で刀を手に見詰めながら立ち尽くして居ると、今度は修練上の方から突如声が聞こえて来る。
「ん?…あれは……スゥ…
お~い!!…冒険者殿~?」
「ッ!…あっ!…将軍!!」
「そんな所で何を~!!!……ッ!…そうだ!!…
時間が有るのなら少しだけ付き合っては貰えんかぁ~!」
「え?…良いですけど……?…」
呼ばれた声に反応してマサツグが修練上の方に振り返るとそこには白熊…もといラインハルトが立っており、マサツグに向かい声を張り上げては何をして居る?と尋ねようとしているのだが、次に思い出した表情を見せてはマサツグに用が有るとまた声を張り上げる。マサツグとラインハルトの距離はせいぜい4,5m程度で然程離れていないのだが、ラインハルトの呼ぶ声にマサツグが不思議そうな表情を見せては返事をし、そのラインハルトの居る修練場に向けて歩き始める。そうしてマサツグが修練場に居るラインハルトの所まで歩いて行くとラインハルトは笑顔でマサツグを迎え入れては軽くマサツグの肩を叩き、感謝の言葉を口にする。
__コッ…コッ…コッ…コッ……パァン!!
「いやぁ~!すまんな!!…
あまり時間を取らせるつもりは
無いから安心してくれ!!」
「ッ~~!…い、いえ…大丈夫っすよ?…
で何かあったのですか?…」
ラインハルトはマサツグの肩を軽く叩いたつもりなのだがマサツグは前のめりに仰け反り、その様子に気が付いていないラインハルトは自身の足元に置いてある袋に手を掛けては何かを探す様にガサゴソと漁り始める。そしてマサツグは叩かれた肩に手を置いては痛いのを我慢して返事をし、ラインハルトに用件を尋ねると目的の物を見つけたのかラインハルトは袋から有る物を取り出すと立ち上がり、その取り出した物を手にマサツグの方へと振り返る。
「いやいや…そんな大した物じゃない!…
ただ自室を整理して居たらこれを見つけてな?…
もうワシが使う事はいないし、
かと言って捨てるのは勿体ない!…
そこでこれを冒険者殿にと…」
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ウェポンベルト
レア度 S
武器スロットが一つ解放される皮で出来たベルト。
アイテムポーチの空き欄・インベントリ・装備欄を
圧迫する事無く、瞬時に武器を切り替える事が
出来る出来る冒険者の必需品。この他にも
鉄・竜皮と色々種類が有るのだが、見た目が違う
だけで性能は一緒。
アイテム放棄不可。
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「……これは?…」
「ん?…何だ知らないのか?…
っと言っても冒険者殿はまだ駆け出しだったな?…
知らなくても仕方ないな…では説明しよう!…
これはウェポンベルトと言ってだな?…
他の動きに干渉する事無く瞬時に武器を
切り替える事が出来る上に同時に武器を
複数携帯出来る様になる優れもののベルトだ!…
ワシがまだ冒険者として活動していた時の物なのだが…
…さっきも言った通り捨てるのも何か勿体なくてな?…
かと言ってワシが使うと言った訳でも無いし…
如何しようかと悩んで居た所…冒険者殿の事を
思い出してな?…それなら冒険者殿に譲ろうかと
思った次第で…」
「ッ!…良いんですか!?…」
ラインハルトがマサツグの方に振り返り、その手にした物を差し出すとそこには年季の入った一本の皮ベルトが握られていた。それを見てマサツグが不思議な表情を見せては恐る恐るそのベルトを受け取り、ラインハルトにベルトについて質問をするとラインハルトはマサツグの反応に戸惑った様子を見せるも直ぐに理解し、説明し始める。そしてこのベルトが冒険者にとってどれほど重宝するものかと言う事を知ったマサツグが驚いた表情でラインハルトの説明を途中で切る様に尋ねるとラインハルトはマサツグの突然の反応に戸惑いつつもマサツグに返事をする。
「ッ!…あ、あぁ!…構わない!!…
元よりそのつもりだ!!…
…それにワシの馬鹿弟子の非礼の
侘びでもあるからな?…」
「へ?…あ、あぁ…そう言えば…
ハイドリヒが師匠!!って…
将軍の事を言ってたっけ?…」
「…大方この騒動はあの馬鹿の
余計な事から始まったのだろう!…
自分に歯向かって来たのが冒険者殿で…
{歯向かって来た=自分と対等に見てくれた}と
言う感情が暴走してこうなったのだろう…
まぁ…この国でハイドと真面に対抗出来るのは…
王と王妃とワシ位だしな?…如何にも今年で
成人と言うのにまだまだ子供の部分が抜けて
居らんし…このままでは良い婿殿を
見つけられるかどうか?…」
ラインハルトがマサツグに渡したベルトはハイドリヒがやった非礼の侘びだと苦笑いしながら答え、その言葉にハイドリヒの師匠がラインハルトである事をマサツグが改めて認識すると、ラインハルトはハイドリヒの性格を良く知っているのか淡々と腕を組んで呆れた様子で自分が推理した事件の経緯を話し始める。そしてその推理を聞いたマサツグが…
{さすが師匠!…
弟子のことをよく分かっていらっしゃる!…}
「まぁ…そんな事に浮かれて目的を忘れてしまっては
本末転倒というもの…」
とラインハルトの推理が当たって居る事に感心し、ラインハルトはラインハルトでまるで自分の娘の様にハイドリヒの婿探しの心配をしていた。そんな話をして居ると訓練場の方から一人…訓練を軽く終えたと言わんばかりの金髪女性が軽装で汗を流しながらこちらに歩いて来る。
__コッ…コッ…コッ…コッ…
「…ふぅ……師匠!…朝の訓練!!…
終わりました!!!…
……ん?…っ!…お前!…」
「げ!?…ハイドリヒ!…」
薄手のシャツに下は軽く鉄板が付いたライトレギンス、動く際邪魔にならないようポニーテールのその恰好は何処をどう見てもその辺に居る駆け出し冒険者と変わらない姿で、額の汗をタオルで拭いながら歩いて来た金髪美女は言うまでも無く騎士団長(姫様)。ハイドリヒが訓練を終えたと敬礼をしながらラインハルトに報告し、次にラインハルトがマサツグと会話して居る事に気が付くと、ハイドリヒは漸く見つけたと言わんばかりに少し驚いた表情を見せる。そして見つかったマサツグもハイドリヒの顔を見てはあからさまに嫌そうな表情を見せ、思わず後ろに仰け反って居るとラインハルトがハイドリヒの報告を聞いて、次の指示を出す!…筈なのだが?…
「お?…そうか!…よし!!…
では五分休憩の後!!!………
ところでハイド?…お前?…
冒険者殿に謝ったか?…」
「うぐ!?……ま…まだです!……
でもそれには訳が有って!!…」
「言い訳は無用!!…
とにかく今ここでちゃんと謝罪せんか!…
理由なら後で幾らでも聞いてやる!…」
「う!…うぅ…」
報告を受けてラインハルトがハイドリヒに次の指示を出そうと右手の人差し指だけを立て、スッと何処かを指差そうとするのだが次の瞬間固まる。そして約二分位だろうか、沈黙した後突如パッ!とハイドリヒの方を向いてはその人差し指もハイドリヒに向け、マサツグに謝ったかどうかを不思議そうな表情をしては尋ね始める。その質問にハイドリヒは戸惑った表情を見せては素直にまだと答えるも、直ぐに言い訳をしようとするとラインハルトが呆れた様子で叱咤してはハイドリヒに謝るよう指示をする。その叱咤を受けてハイドリヒが少し落ち込んだ様子を見せてはゆっくりとマサツグの方を振り向き、謝り始める。
「こ…この度は誠に申し訳なかった…
深く反省している…」
__ペコッ!!…
「お…おぉ…」
「…ハイドリヒもあの部屋での一連の後、
漸く冷静になったようでな?…
反省はしておるのだ…
何でも妙に冒険者殿の事が気になったとかで?…」
「ッ!?…うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!…
し、師匠!?…ちょっと待ってください!?…」
ハイドリヒは漸く落ち着きを取り戻した様子で反省し、マサツグの方に振り向くと素直に頭を下げて謝り始める。一見プライドが無駄に高そうな騎士様がちゃんとマサツグに頭を下げて謝り、その様子にマサツグが驚き戸惑って居るとラインハルトがまるで世話焼きかぁちゃんの様にあの客室の後の事をマサツグに話し始める。恐らく本人は良かれと思って言っているのであろう…一緒に反省して居る様な表情で語るのだが、言われている方は堪ったもんじゃないとばかりに慌てて叫んでは顔を赤くし、ラインハルトの口を押えようとする。
「モガッ!!…何をするか!!…ハイド!!…」
「それはこっちの台詞です!!!師匠!!!!…
それは言わなくてもいい話…」
「あぁ~!…あぁ~!…大丈夫!!…
大丈夫ですよ!?…もう気にしてませんし!…
ちゃんと反省した様子で謝ってくれてる
みたいですから!!…だからここで
ス〇リート〇ァイターをしないで下さい!!!…」
ハイドリヒに口を押えられラインハルトが戸惑い、ハイドリヒは必死に余計な事を喋らせない様にと抵抗する!その様子は次第の大暴れの様子と変わり始め、二人の騒ぎに衛兵や従者が集まり始めては乱闘騒ぎに発展する。その様子にマサツグが慌ててもう大丈夫と怒っていない事を挙げて止めに入るが、ハイドリヒは徐々にヒートアップして来たのかラインハルトの口を押える事に夢中になる。そしてハイドリヒのTPが切れたのか落ち着きを取り戻したのは数十分後…訓練以上に汗を掻いた様子でその場に四つん這いになっては息を切らし、ラインハルトはラインハルトで漸く落ち着きを取り戻したハイドリヒに困惑した様子を見せる。
__ぜぇ!!…ぜぇ!!…
「……?
何をそんなに慌てる必要があったのだ?…
別に問題無いであろうが?…」
「将軍!…それ以上は!!…
これ以上はハイドリヒのTP…
もといスタミナが…」
「……?…そうか?…
まぁ、冒険者殿がもういいと言うなら
ワシは構わんのだが…」
ハイドリヒが息を切らして居る一方で、ラインハルトはと言うと不思議そうな表情をして見せては汗を掻いては居るものの、ハイドリヒ程息を切らしてはいない。まるで慣れて居ると言った様子で地面に這い蹲るハイドリヒを見下ろしては余裕とばかりにハイドリヒへ慌てた理由を尋ねると言う追撃の一言を浴びせる。その様子にマサツグも徐々にハイドリヒが不憫に思えて来たのか、ラインハルトにそれ以上攻めない様にと声を掛けると、ラインハルトはマサツグの言葉に疑問を持った表情を見せるも納得した様子でこれ以上の追撃を止める。そしてその一連の様子を目にしたマサツグが苦笑いをしつつ、ラインハルトの意識をハイドリヒから逸らそうとするのだが、思わず口が滑る。
「あははは…
それに姫様には良い物を見せて貰いましたし…」
「……え?…」×2
「……あっ…」
マサツグはただラインハルトの注意を引こうと何も考えずに今までにあった事を話題に出すのだが、選りによってまさかのあの客室での騒動で更に自分の本音を諸に口に出してしまうと言う失態をここでやらかしてしまう。それを聞いた二人が少し間を置いた後困惑気味にマサツグに尋ねると、マサツグも少し間を置いて気が付いた反応を見せては三人ともその場に固まっては沈黙してしまう。
「………。」×3
マサツグは完全にしまった…地雷を諸に踏み抜いたと心の中で漏らしては次の行動を考え、ラインハルトは冒険者もやっぱり男よなと言った様子でニヤッと笑みを浮かべ、最後にハイドリヒは耳まで真っ赤にしてその場に固まりワナワナと震え始める。そうして三人がそれぞれ違う反応を見せては如何するかと言った様子で固まって居ると、先に動いたのはハイドリヒであった。
__ザッ!ザッ!…スッ…
「ッ!!…あ!…えぇ~っと…ハイドリヒさ…」
「わ!…」
{あ…これアカンやつや…}
「忘れろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ハイドリヒは漸く動けるようになったのか何も言わずに無言でスッと地面から立ち上がってはマサツグの方に近付き、その際訓練場から持って来たであろう木刀を手にするとギュッと握って見せる。その様子にマサツグが気付き慌てて声を掛けようとするがハイドリヒは震えながらも無言で木刀を構え、掠れ声で何かを囁き俯くと今にも火が付きそうな勢いで顔を真っ赤にする。ハイドリヒの様子にマサツグが何かを察して逃げる体勢を整え、いつ来るかと身構えて居るとハイドリヒはバッ!と顔を上げては目に若干の涙を溜めて簡単に叫んで見せる。そしてマサツグに向かい木刀で斬り掛かろうとすると、マサツグはその一太刀目を回避して見せて踵を返して王城から…ハイドリヒから逃げる様にしてその場を後にするのであった。…因みに余談だがマサツグが逃げた後…ハイドリヒは意外にもマサツグを追い掛ける事はしなかったのだが、その様子を後ろで見ていたラインハルトがニヤニヤとしながら見ており、それに気が付いたハイドリヒは顔を赤くしてラインハルトに襲い掛かったと言う…
…さて、話は戻って王城を後にしたマサツグ、何とか無事にハイドリヒから逃げる事に成功し、王都の広場までやって来ると広場では昨日の御前試合の話で持ち切りなのか異様なまでに盛り上がっていた。多くの者が新聞らしき物を手にまだ興奮冷めやらぬと言った様子で話し、そしてその話題となっていたのは当然とばかりに駆け出し冒険者vs騎士団長の話であった。
「おい!!…昨日のアレ!!…見たか!?…」
「当たり前だろ!?…
あんなの今まで見た事ねぇよ!?…」
「騎士団長様が!!…騎士団長様がぁぁ!!!…」
「アレが駆け出しって!…
今の時代はアレが普通なのか!?…」
{…皆さん昨日の御前試合で大盛り上がりしてますが……
その戦っていたご本人さんには興味が無いようです…}
広場では誰も彼もがあの騎士団長が負けた!?と言うのが信じられない様子で盛り上がり、その話で盛り上がっている者達が手にしている新聞の記事にもマサツグとハイドリヒの戦いの事について書かれていた。チラッと程度でしかマサツグは確認出来なかったものの、その記事にも今回のダークホースとマサツグの事が掛かれており、その事にマサツグが戸惑いを隠せない様子でギルドに向かい歩いて居ると、その道中で悲鳴にも似た女性達の声がチラホラと聞こえて来る。その女性の誰もが新聞を手に涙を流し、その様子に他の冒険者が驚いて居ると、誰もがその騎士団長を倒した本人には気付かない様子で話を交わし合っていた。そんな様子を目にしつつもマサツグが歩いてギルドに辿り着くとギルド内でもその話が話されており、やはり当の本人が近くに居ようとも気付かない様子でワイワイと盛り上がる!そんな様子にマサツグが嬉しい様な…悲しい様な…微妙な気分になるのだが、そんな気持ちを置いといて受付カウンターに行くとそこには今までマサツグの対応をして来てくれていた受付嬢が笑顔でマサツグを出迎える。
「あっ!…お疲れ様です!!
マサツグさん、昨日は御前試合でご活躍でしたね!!」
「え?…あぁ…
でも全然気付いて貰えてないみたいだけどね?…」
「あはははは…
あっ!…でもでも凄かったですよ!?
私も少しだけ抜け出して見に行っちゃったのですけど…
まさかあんな結末が待っていたなんて…
…マサツグさんの将来が楽しみです!!」
受付嬢の見た感じはヒューマンで茶髪のショートヘアーに黄色の瞳で可愛い感じの女性、更に判り易く説明すると艦○れの飛龍に良く似ており、胸のボリュームを数十グラム落とした…そんな感じである。いつも誰であろうとニコニコと対応し、皆からも人気の有る受付嬢らしい…そんな彼女と他愛もない会話をしたのはこれが初めてであり、今後マサツグがこの大陸で活動して行く際、最もお世話になる人物の一人になるとはこの時マサツグは気付かないのであった。そしてそんな彼女がマサツグの将来を楽しみにして居ると笑顔で話し、その答えにマサツグが苦笑いをすると受付嬢に仕事が有るかどうかを尋ねる。
「あははは…それはどうも…
…さて、何か駆け出しに
優しい良い依頼はありませんか?」
「ッ!…えぇ~っと…
じゃあちょっと待ってくださいねぇ?…」
__ゴソゴソ…ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!…
「…ッ!?…」
マサツグにクエストが無いかを尋ねられ、受付嬢がピクっと反応するとカウンターの下から紙の束を取り出してはカウンターの上に並べ始める。恐らくその紙の束はクエストの依頼書なのだろう…しかしそのクエストの量が膨大なのか紙の束はまるでタ〇ンページ一冊分の様に見え、その紙の束がマサツグの目の前でドサっと取り出されては五冊分がマサツグの目の前に並べられる。その様子にマサツグが驚いて居ると受付嬢は慣れた様子でその紙の束を捲って行き、中から幾つかの依頼書を引き抜いてはマサツグの前に出して行く。その殆どが素材集め…下級モンスターの素材だったり薬草だったりと色々有るのだが、中でも金回りの良いクエストを受付嬢が更にピックアップするとその依頼書をマサツグに見せる。
「そうですね?…今の所でしたら…
つのウサギの毛皮10枚の入手と言った
物資調達が数百件位に…
貿易都市のクランベルズまでの護衛とかですかね?…
どちらも然程難しくは無いと思います。」
「ッ!…じゃあ、そのウサギの毛皮10枚ってのは
今から取って来ないと駄目な奴?…
多分手持ちに有ると思うんだけど…」
__ガサゴソ…ガサゴソ…
「…?いえ…既にお持ちなのならそれを納品して
クエスト完了と言った事は出来ますが…」
受付嬢から差し出されたクエスト二つの内、ウサギの毛皮の納品書を目にするとマサツグがこれなら直ぐに納品出来ると言った様子でアイテムポーチを漁り始めては受付嬢に質問をし、その質問に受付嬢が若干戸惑いながらも大丈夫と答えるとマサツグが持っていると言うウサギの毛皮が出て来るのを待つ。そしてマサツグがアイテムポーチ内を引っ掻き回し、最初の大乱闘戦で手に入れたウサギの毛皮を取り出すとカウンターの上に置いて見せるのだが、次の瞬間受付嬢の様子が豹変する。
「…んん~…ッ!…あっ!…あったこれこれ!」
__ドサァ!…
「ッ!?……」
「ふぅ…これでいけるかな?…
…って、受付嬢さん?…」
マサツグがウサギの毛皮を取り出しカウンターの上に置いた瞬間、受付嬢が驚いた様子でその毛皮に顔を近づけてはマジマジと観察し、毛皮を依頼分取り出したマサツグが少し不安を感じながらも安堵してはクエスト完了出来るかと尋ねる。しかしその問い掛けに受付嬢は答える事無くただその毛皮をジッと観察して驚き、何か困惑した様子を見せるとマサツグの不安を煽り始める。その険しい様な難しい様な良く分からない表情にマサツグが困惑して居ると、次の瞬間受付嬢が顔を上げてマサツグの方を振り向くと奇妙な事を聞き始める。
「……これ!?…何処で取って来たのですか!?…」
「……へ?」
最初はただ戸惑った表情を見せて居た受付嬢だったが、マサツグが取り出した上毛皮を手に問い詰めるよう顔を近づけると、まるで子供が玩具を見つけた様に目を輝かせては興奮した様子でウサギの上毛皮を何処で手に入れたかと尋ねる。その予想外の質問を受けてマサツグの目が点になり、更に困惑した様子で戸惑い答えられずに居ると、受付嬢は更に興奮度が振り切り始めたのかマサツグが持って来た上毛皮を握ったまま、いかにこの上毛皮が凄いかを語り始める!
「これ!!…
全部一級品レベルの上毛皮ですよ!?…
それをこんなに!?…
一体何を如何すれば!?……
加工した形跡も無いし!!…
養殖されていた形跡もない!!…
完全な天然もの!!!…
こんなの何処をどう探しても
まず見つかりませんよ!?…」
「そ…そうなの?…
ただ平原でウサギに襲われた時に
手に入れただけなんだけど?…」
「ッ!?…そんな!?……いいですか!?…
つのウサギの上毛皮はスプリング大森林の奥にいる
ランスラビットって言うモンスターでないと
手に入らないんですよ!
それにランスラビットのレベルは15~20。
初心者が戦ったらボコボコにされるレベルです!
一対一の戦いならまだしもまず群れで行動する為、
勝てない相手です!」
「だ…だろうね?…俺…群れで襲われたし…」
「それにさっきも言いましたが
この上毛皮さらに質の良い物です!!
これ程の物を手に入れようとするなら
スプリング大森林の更に奥…
大樹の園に行かないと手に入らない代物ですよ!!
それが如何して平原に居ると言うのですか!?!?」
「そ…そう言われても…」
上毛皮一つでテンション爆上がりの受付嬢…その気迫はもはやハイドリヒ以上でそのテンションが上がって行く度にマサツグへ顔を突き合わせ、白状するよう差し迫って行く。その際上毛皮が如何言ったものなのか?…何処に行かないと手に入らないのか?…そう言った話を交えて受付嬢がマサツグに迫って行くのだが、肝心のマサツグはと言うと差し迫られているこの状況下でまともに喋れる訳も無くただ押し込まれて行った。挙句の果てにはカウンターに足を掛け飛び越えようとし、その事に気が付いた他の冒険者が見えるのでは!?と淡い期待を持ち始める!
__オオォォ!……
「ッ!?…」
__…バッ!…バッ!…ススス…
「す……すいませんでした!!
つい興奮してしまいました…」
だがここで受付嬢がハッ!と周りの視線に気が付いた様子で辺りを見渡すと冷静さを取り戻したのか直ぐにカウンターの中へと戻って行き、顔を赤くしてはマサツグに謝罪をする。その際何処からか舌打ちが聞こえて来た様な気もするのだが、それより受付嬢のあのテンションの上がり方の方が気になると言った様子でマサツグは胸を抑えて心音を抑えようとするのであった。