その7 「いやー、長かった」
最上位プレイヤーが集まった攻略組。
それにヒロシ達の集団がおいついてきた。
依然として攻略組が最強であるのには変わらない。
だが、能力の差は縮まってきた。
その為、攻略組の価値は相対的に低下した。
何より大きいのは、攻略組でなくてもボスを倒し始めたこと。
このデスゲームからの解放は攻略組でなくても出来るという可能性を示した。
それが更に風向きを変えていく。
攻略組であるという利点、優位な部分を薄めるくらいには。
ボスの攻略も可能なくらいの人材・装備が揃い始めた。
これにより攻略組の独占状態だった、最上位の狩り場・素材の確保が出来るようになった。
そこで入手する素材で最高品質の物品が作成可能になる。
いくら攻略組がそれを独占しようとしても、数の多いヒロシ達の集団が押し寄せるのでそれも難しい。
そんなヒロシ達の側のプレイヤーを倒そうにも、単独行動機能が働いてるのでそれも出来ない。
せいぜい、先に敵を倒して戦利品の入手確率を上げるだけ。
なのだが、多勢に無勢でそれすらも難しくなる。
絶対的な人数が足りないのだ。
人数において10倍の開きがあった。
その人数差が展開力の差になっていく。
攻略組の手が回らない場所は確実にヒロシ側がおさえる。
そして、攻略組が入る場所にはヒロシ側が何倍もの数で押し寄せる。
ボスも含めて、敵の落とす戦利品争奪において著しく不利になる。
だんだんと攻略組と言われてた者達は、装備の質において追いつかれ、追い抜かれていった。
そして、それが続いてるうちに、能力の方も追いつき追い越すようになる。
そもそも、展開力が違う。
動員できる人数が多いならば、その分だけ危険を分散出来る。
その数の力で、より上位のボス棲息地に突入していける。
そこならば経験値も素材もより上位のものが揃ってる。
逆転するのも当然だろう。
かくて攻略組は徐々にヒロシ側の集団に追い越されていく。
やがて上位から脱落し、中堅へ。
その中堅でも更に差をつけられていく。
やがてその姿は、攻略組の名にふさわしい最前線ではなく。
もっと程度の低い場所で見られるようになっていく。
それはヒロシ側のプレイヤー達が既に行かなくなったような場所だ。
そういうところでしかまともに素材も経験値も手に入らない。
より上位の狩り場はヒロシ側のプレイヤーがいて話にならない。
侵入を妨げられるわけではないが、取り合いになっても勝てないのだ。
結果、経験値も素材もたいして収穫が出来なくなる。
それならば、程度の低い狩り場に居た方が実入りが良い。
そこで稼ぐしかなかった。
だが、そうしてがんばっていても差は開くばかりである。
生産職の方も同じだ。
まず、資金力が違う。
規模において10倍の差のあるのだ。
その分、稼ぎに差が出るのは当然。
その資金力でヒロシ側は次々に施設を購入していった。
このゲーム、存在してる建物などを購入する事が出来る。
そして購入した建物には入場制限などを含めた設定が出来るようになる。
当然ながら、攻略組はブロック対象になる。
このため、建物の購入を巡って攻略組とヒロシ側で壮絶なせめぎ合いが行われた。
なのだが、それすらもヒロシ側の工作の一つだった。
彼の目標はもっと別の所にある。
このゲーム、建物だけでなく土地を購入する事も出る。
こうした場合、土地そのものへの入場制限などが可能になる。
これにより攻略組が入る事が出来ない場所を作る事が出来る。
当然、そこに建物を作る事も可能だ。
こうして攻略組が入れない場所を作る。
そして、邪魔を気にする事無く生産活動が出来るようにする。
可能ならば、NPCも移動させる。
そうして町を作っていく。
それがヒロシ達の目的だった。
プレイヤー同士では価値のない金銭。
その有効活用方法でもある。
ヒロシ達にとってはあっても意味が無いものだが、NPC相手ならそうでもない。
使わないで余る金を使って自分たちの空間を作る。
それがヒロシの狙いだった。
そもそも、接点があるから争いが生じる。
だったら、その接点を無くせばいい。
そんな単純な事から始めた事だった。
それでも騒動は生まれるだろう。
だが、攻略組とのいざこざは確実に排除できる。
それだけでも大きな成果である。
そもそも、こうした排除は攻略組もやってる事だ。
それをより大規模に行ってるだけである。
何せ、最初にヒロシが攻略組をただした頃から行われている。
それと同じ対応をとっただけだ。
問題など何もない。
そのような状況が進み、攻略組は更に凋落していく。
呼び名として攻略組とは言われてるが、その実態は攻略とはかけ離れたものになっていた。
最前線の攻略は既にヒロシ側のプレイヤーによって進められている。
そしてゲーム攻略も視野に入ってきている。
実現するまでまだ時間はかかるだろうが、いずれは到達可能だと考えられていた。
「いやー、長かった」
未だに監禁されたままのヒロシは、届いた報告に笑みをこぼす。
「こっちに来てから2年か」
「ご苦労様です」
「まったくだ。
あいつら、俺のこと忘れてるのかな?」
「それはなんとも。
一応、常々確認はしてるんですけどね」
「まだしらを切ってるのか」
「今更本当の事も言えないんでしょう」
「困った連中だね」
「でも、おかげでゆっくり休む事が出来てるけど」
その通りである。
指示は出してるが、それ以外は何も出来ない。
実務については他の者に頼りっぱなしだ。
楽と言えば楽である。
もっとも、そうさせてしまってる事は申し訳ないと思ってもいる。
「まあ、あいつらが解放しないなら、最後までこうしてるしかないけど」
「本当に、とことんまで邪魔しかしない奴らだよ」
「まったくだ。
こんな事したって意味ないのにねえ」
本当に意味がなかった。
監禁の目的には、外部との接触を断つ事があるはずだ。
しかし、このゲームではそれが不可能である。
なので、離ればなれになっても、指示は出せる。
組織・集団の運用において、これで障害は大幅に取り除かれてしまってる。
それどころか、ヒロシの無事とその境遇を知ることで、攻略組への適意がより一層たかまった。
それは団結を生み出し、巡り巡って攻略組の不利を招いた。
「何がしたかったんだろうな、あいつら」
少なくとも、こんな事をした連中が求めた状況にはなってない。
「なんにせよ」
一番の疑問。
それへの答えは永遠に聞けそうに無い。
「こんなところで利権作ってどうしたかったんだろ?」
所詮はゲームである。
利権があるといっても、ここから解放されれば終わる。
それなのにこの場でしか意味が無い利権を作り上げてどうしたかったのか?
それがさっぱり分からない。
褒められたものではないが、RMT──リアル・マネー・トレードという現金を用いた取引が出来るわけでもない。
それ以外に何らかの利益があるのかもしれないが、それを思いつく事も出来ない。
一時的な優越感は得られるだろうが、そんなものに何の意味があるのか?
ヒロシにはさっぱり分からなかった。
「そんで、最後の仕上げは?」
「一応してます。
けど、意味ありますかね、これ?」
「分からん」
それはなんとも言えない。
だが、本当にこのゲームを攻略し、ここから解放されたら。
それも必要になるかもしれない。
そう考えての最後の策を放っておく。
「一応伝えてはあるんだろ?」
「ええ、全員に」
「それならいい」
参加する者がどれだけいるかは分からない。
だが、少しでも同意してくれる者がいればありがたい。
「どのくらいなの、やるって言ってるのは」
「ほぼ全員ですね。
まだ伝えてない人もいるだろうけど」
「なんとまあ……」
結果は望外のようだった。
やがて。
このゲームを攻略し、生き残った全員が解放される。
ヒロシと共に動いた者も、攻略組も、それ以外も。
それだけはこのふざけたゲームを実施した連中もしっかり守った。
永遠に閉じ込める事無く。
現実に復帰したヒロシ達は、早速連絡をとりあう。
その為に連絡先登録の情報を受け取っていた。
様々な賠償や保証よりも優先して。
そして、連絡をとりあうためだけにゲームを起動。
さすがにフル・ダイブではなく、外部入力──携帯端末を通してではあるが。
それによりお互いに呼び合う事に成功した。
攻略組に対抗した者達同士で。
そこからの話は早い。
ゲーム内で既に決めていた通りである。
連絡がとれる者で集まり、結束していく。
そして協力し合って行動を開始していく。
何せ数十万人の大所帯である。
それらが協力しあえばかなりの事が出来る。
趣味の集まりから、事業まで。
彼らは一丸となって行動していった。
一つの目的の為に。