その1 「何言ってんだ?」
「何言ってんだ?」
心底呆れたように。
何より馬鹿にした口調で返す。
水際ヒロシはそれくらい驚いていた。
理解できないという方がより正確だろうか。
とにかく、目の前にいる連中の言い分に全く納得出来なかった。
事の起こりは同業者の寄り合いでのこと。
茶飲み話程度の付き合いの集まりである。
それほど重要な事は話し合ってる場では無い。
ある程度顔をつないでおこうという程度の関係を保つ集まりだ。
ヒロシはこういった集まりに全く興味が無い。
なのだが、一応生産職を担ってる身として顔を出してはいた。
こんな所に来るよりも、少しでも道具を作っていたかったが。
そんな場での出来事である。
何やら話があると言ってやってきた数人の同業者。
職種は違うが、この界隈ではそれなりに有名な連中である。
そんな奴らがわざわざ末席に一応身を置いてる程度のヒロシに用件を切り出した。
特に珍しい内容ではない。
このゲームの攻略組に納入する道具の制作に協力しろというものだ。
そこで出たのが、冒頭の一言である。
「なんで俺があいつらの為にやらなきゃなんねえんだよ」
このヒロシの答えに全てが詰まっていた。
かつて、とある出来事があり、ヒロシは攻略組との縁を切っていた。
ブロック機能により個別の接触を拒絶。
また、冒険者のパーティ・クラン・ギルド・集団。
そういった物もブロック対象としている。
これにより対象との接点は無くなっていた。
そこまでするくらいには、攻略組の事を毛嫌いしている。
「攻略組ってのを鼻にかけてるあんな連中になんで協力しろって?」
これが理由だった。
ゲーム攻略。
それはこの空間においては特別な意味を持つ。
何せ、現在プレイヤーはこのゲームにとらわれている。
ログアウト不可能で、無理にやれば現実の肉体が死亡する。
抜け出す唯一の方法は、ゲーム攻略だけ。
これを達成するために最前線で活動してるのが、攻略組と呼ばれる者達である。
それだけに攻略組の態度は目に余るものがあった。
確かに全員が生き残る為には攻略組のようなゲーム攻略を目指す者が必要だ。
それは事実だろう。
特に生きて現実に帰ろうとする者達にとっては。
しかし、そうであるから笠に着る者も多い。
実際、その横柄さや横暴さで知られる者達もいる。
それが通用するのは『攻略組』であるからだ。
このゲームから抜け出すため、終わらせるため。
解放されるために行動している。
そして、何はともあれ結果をだしている。
だから、誰もが支持をしている。
イヤイヤながらも。
誰だって命がかかればそうなるだろう。
そして、攻略を盾に攻略組は横暴で横柄な態度をとる。
ヒロシもそうした横暴さに接した者の一人だ。
このデスゲームが始まってしばらくしたあたりの頃である。
ボスをいくつか撃破し、攻略組の活躍が知れ渡ってきたところだった。
その頃のヒロシは、攻略組に嫌悪感をもっているわけではなかった。
とりたてて優遇してたわけでもなかったが。
だからこそ、プレイヤー全員に等しく接していた。
生産した物品をあらゆるプレイヤーに販売しながら。
そこで問題が起こった。