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第十三話 ミスリルの剣

「こいつだ」


 やがてノーランドさんが持ってきたのは、細身の直剣であった。

 鞘の造りは質実剛健としていて、あまり派手さはない。

 恐らくは、専門の職人ではなくノーランドさん自身が用意したものだろう。

 柄の部分も簡素なつくりで、パッと見た限りはさほど高くはなさそうだ。


「これが……ですか?」

「ああ、持ってみろ」


 そう言われて剣を手にすると、驚くほどに軽かった。

 これはもしや……!

 抜いてみろとばかりに手を振るノーランドさんに促され、俺はゆっくりと鞘を引いた。

 するとたちまち、明るく輝く刃が姿を現した。

 この白みの強い色彩と綿のような軽さは間違いない。

 ミスリル製、それもかなり高純度のものだ。


「いいんですか!? これだけの剣、相当な値段になるはずですけど……」


 顔を強張らせながら、ノーランドさんに尋ねる。

 ミスリルと言えば、大陸南部にある数か所の鉱山からしか産出しない希少な鉱石だ。

 加工にも非常に手間がかかり、ゆえにミスリル製の武具には法外な値段が付く。

 『空色の剣』のリーダーであるセレナが愛用していたのも、ミスリル製の双剣だ。

 あの剣は確か、古代遺跡から発掘されたものだから……売れば数千万はするだろうか。

 さすがに現代のものだから価値は落ちるだろうけど、この剣も相当に値が張るはずだ。


「構わねえよ。こいつなら、仮にうまく行かなくても壊れやしねえだろう」

「なるほど、それで」


 ミスリルは魔法への抵抗性が強い金属である。

 付与魔法をかけるのもひと苦労で、うまくやらないと簡単に解けてしまう。

 逆に付与魔法が失敗したとしても本体が破損するリスクなどはほとんどない。

 単に、魔法が付与されないだけで済むだろう。

 普通の剣で付与が失敗した場合、剣そのものが壊れることもあるので、これは賢い選択だ。

 とはいえ、これほど高価なものを実験台とするには勇気がいるだろうけれど。


「だ、大丈夫なのか!?」

「そうよ! 先生とはいえ、そんなのをもし壊したら……」


 あまりの高額品の登場に、戸惑いを隠せないレイドルフたち。

 スージーさんも、思い切り首を横に振ってそれとなく挑戦をやめるように促してくる。

 しかし、ここで引き下がってしまっては何にもならない。

 リスクも少ないことだし、俺は皆を制するとすぐに付与魔法の準備に取り掛かる。


「ちょっと、場所を開けてもらってもいいですか?」

「ああ、構わん」


 ノーランドさんの許可を取ると、商品の一部を動かして床の一角を確保した。

 そしてストレージの中から魔法陣を描いた布を取り出すと、皺のないように丁寧に広げる。

 その中心に剣を置くと、魔力を注いでいく。

 ゆっくり慎重に、それでいて正確に。

 掌で押し広げた魔力の膜によって、剣を包み込んでいく。

 それと同時に魔法陣が発光し、魔力に情報が刻み込まれていった。


「ふぅ……ふぅ……」

「あ、あの! 大丈夫ですか?」


 しばらく作業を続けていると、スージーが不安げな顔をしてのぞき込んできた。

 俺は額に浮いた汗を拭うと、ゆっくりと首を縦に振る。

 さすがにミスリル製の剣だけあって、付与には少しばかり骨が折れた。

 しかし、できないほどではない。

 時間遅延、剛性強化、耐腐食、耐熱、軽量化、自己修復……。

 付与魔法の中でも、基本的なものを次々と掛けていく。


「よし、できましたよ!」

「ほう……。見せてくれ」

「はい、どうぞ!」


 俺が剣を渡すと、ノーランドさんは懐からルーペを取り出した。

 そして剣身に傷がないことを確認すると、その柄を軽く指先で弾く。

 キィンと透き通った金属音。

 それを聞いたノーランドさんは、目を細めながら満足げにうなずく。


「剣自体に異変はないな。とりあえず最悪の事態は起きなかったってわけだ」

「ほっ……よかった」

「とりあえず、弁償はしなくて済みそうだわ」

「だが、まだ魔法がきちんとかかっているかどうかわからん。すぐに確認しよう」


 そう言うと、ノーランドさんはそそくさと店の奥へ向かった。

 やがて店の玄関がトントンと叩かれ、ローブ姿の男が姿を現す。

 年の頃は、ざっと四十前後と言ったところ。

 痩身で背が高く、手には短い杖を握っている。

 装備と雰囲気からして、流れの魔導士であろうか。


「大将に呼ばれてきてみれば……。まさか、こいつらなのか?」


 俺たちの顔を見ながら、やれやれとため息をこぼす男。

 こちらをバカにするような眼差しに、たちまちレイドルフたちはムッとした顔をする。

 ううーん……あんまり感じのいい人じゃないな。

 俺たちが互いに顔を見合わせていると、ノーランドさんが戻ってきた。


「よう、よく来てくれたな」

「ほかでもない大将の頼みだからな。で、物はどこだ?」

「これだ」

「ほう……。驚いたな、ミスリル製か」


 剣の材質を確かめると、ほほうと感心したような顔をする男。

 彼は手に魔力を込めると、それを剣へと流し込み――。


「これは、これは……!!」


 次第に男の顔が引きつり始めた。

 やがて彼は、俺たちの方を向くと興奮した様子で言う。


「この付与魔法を施したのは誰だ!?」

「俺、ですけど」

「あなたが!!」


 男は俺に近づいてくると、急に手を握ってきた。

 それに戸惑いながらも応じると、彼は声を大にして叫ぶ。


「どうか、私に付与魔法を教えてください!」


 ……またこのパターンか!!

 俺、ただの荷物持ちなんだけどなぁ。

 

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