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第十話 来ない災厄

「おお……! 半年かかるって言われていた工事が、たった一日で出来ちまった!」


 出来上がった城壁を見て、現場監督のおじさんが叫ぶ。

 ずいぶんと大げさな人だなぁ……。

 わざわざ冒険者を雇ったんだから、これぐらいは当たり前じゃないか?

 街全部をぐるっと囲むとなると一週間はかかるだろうけど、防壁があるのは街の北側だけ。

 これなら一日で仕上がっても当たり前だと思う。


「すごいよ、ノリス師匠! こんな立派な城壁、見たことないぜ!」

「そうかな? ちょっと低かったから伸ばしてみただけだけど」

「ちょっとじゃない! 平屋が二階建てになるぐらいは変化してるわ!」


 もともと完成していた部分も、魔物の大発生を相手にするには心もとなかったんだよね。

 だから監督の許可を得て新たに石を積みなおしたんだけど、思いのほか好評だ。

 城壁の上に人が通れる通路と簡易的な楼閣を設けたのが良いらしい。


「これなら、大発生が起きても大丈夫だな」

「そうね、シロヤマグマが突撃してきても破れなさそう」


 石組の強度を確認して、驚いた顔をするリリーナさん。

 彼女は改めて俺の方を見ると、ふうっと息をつく。


「さすがだわ。『空色の剣』に所属してただけのことはあるわね」

「大したことないですって。俺はFランクのポーターで、恥ずかしいぐらいで」

「そんなことないわよ。あーあ、おかげさまで私は当分の仕事が飛んじゃったわ」

「え?」


 それはどういうことなのだろう?

 俺が聞き返すと、リリーナさんは少しおどけた様子で言う。


「ここの護衛の仕事よ。この区画の壁ができるまでって契約だったけど、一日で終わっちゃった。割が良かったから気に入ってたんだけどね」

「あー……。」


 俺が急ぎ過ぎたせいで、間接的にではあるけどリリーナさんの仕事を奪っちゃったわけか。

 監督のおじさんが喜ぶものだからどんどん進めたのだけど、悪いことしちゃったかも。


「出過ぎたことをしました、すいません」

「ああ、気にしないで。工事が早く済むに越したことはないから」

「そうだぜ、これで一安心ってもんだ。ほっとしたよ」


 妙に安心した様子を見せるおじさん。

 何かこの町に、差し迫った危機でも迫っていたのだろうか?

 

「……もしかして、戦争でもあるんですか?」

「あはは、違うわよ。ここ最近、定期的にあった魔物の大発生が途絶えててね。次は大規模になるんじゃないかって心配されてるのよ」

「そういえば、ミリアさんもそんなこと言ってたような」


 ここ最近は大発生がないから、シロヤマグマの素材が貴重になっているとかどうとか。

 この前、ギルドでシロヤマグマの素材を売ろうとした時に言われた気がする。

 

「ええ、ギルドの方でも近いうちに調査するみたい。もしそれで何かあれば、強制依頼の発動とかもあるかもね」

「強制依頼ですか……怖いなぁ」

「ノリス師匠なら大丈夫ですって!」

「先生なら、岩を投げるだけでも敵を撃退できるかも……」

「そんなことはないよ。『空色の剣』にいた頃にも、強制依頼には何度か参加したけど足止めぐらいしかできなかったし」


 俺を持ち上げてくるレイドルフとフォルトナに、それとなく釘を刺す。

 過度に期待されても、俺に大したことなんてできないからな。

 あまりハードルを上げられても困る。


「足止め……ですか。ちなみに、敵は何体ぐらいいたんです?」

「えっと、確かあの時は……ゴブリンが一万ぐらいかな」

「一万でしゅか!?」

「まだ少ない方だよ。ゴブリンエンペラーの軍だったら、五万はいるからね」

「いやいやいや! エンペラーって、国がつぶれるレベルですよぅ!」


 すごい勢いで首を横に振るスージー。

 そんなに恐れるほどの相手……だっただろうか?

 エンペラーといったところでゴブリンだし、大したことないはずなのだけれども。

 俺たちも一度だけ戦ったことはあるが、その時は俺が取り巻きを抑えているうちに他の四人であっさりと倒してしまったはずだ。

 

「やっぱり規格外というかなんというか……」

「さすがです師匠! 俺、どこまでもついていきます!」

「いや、そんなついてこられても困るよ!?」

「私もついていかせてください!」

「いや、だから!!」


 キラキラした目でこちらを見てくるレイドルフたちを、何とか振り払おうとする。

 俺はあくまでもFランクのポーター。

 将来有望な冒険者が目指すべき目標としてはあまりにも低すぎるだろう。

 ほかのセレナとかアマリアとか、参考にすべき冒険者はたくさんいる。


「しかし……報酬の方はどうしような?」

「はい?」


 困ったように顎を擦った監督に、俺はおやッと首を傾げた。

 すると出来上がった壁を横目で見やりながら説明する。


「半年分の仕事をしてもらったわけだろう? だったら報酬も半年分払うのが筋だと思ったんだが、それだけの予算を用意するのが難しくてな」

「とんでもない! 一日分だけでいいですよ!」

「だが、仕事をしてもらって報酬を払わないというわけにもな。この仕事は領主様の依頼だから、領主様のメンツにもかかわるだろうから……」

「構いませんよ、一日しか働いてないんですから! それで半年分貰っちゃったりしたら悪いですって!」

「いや、だがなぁ……」


 そのまま監督と話し合いを続けることしばらく。

 結局俺は、すぐに用意ができる一か月分の日当を受け取ることになった。

 

「そこまでのことやったかなぁ……?」

「やったわよ!」


 まあ、とにかく無事に仕事が終わってよかった!

 初仕事が失敗だったらさまにならないもんね!


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