「勇者探しの放浪戦士とレベル9999の村人」【一発ネタ】
魔王を倒すと噂される最強の勇者パーティ。
そのパーティは徐々に完成しようとしていた……。
王様
「勇者は! 勇者はどこにいる!」
この世のどこかに生まれているはずの勇者。
残すところ、彼だけが見つからない。
彼さえ見つかれば……彼さえいれば……。
王の命により、勇者探索の任についた戦士は、わずかな噂を頼りに、辺境の村を訪れていた……。
【ムクノムロ村】
戦士
「ここがムキッ……。ムクノモ……。ムカノ……勇者がいるかも知れん村か!!」
彼は舌が長い。
戦士
「おい、そこの」
戦士は草原と村の境目に立つ男性に声をかけた。
村の入り口には、村人が一人立っている事がある。
「ここは〇〇の村だよ」と言うためにだ。
近代化が進んだ村では「そんな看板にもできる仕事、わざわざ人にやらせる必要はない」として、廃れている文化。
しかし、辺境の地たるこの村では、人ばっかり余っている。
なので、こういうことも仕事としてカウントしないと食いっぱぐれるものが出てしまうのだ。
村人
「ここはムクノムロ村だよ」
戦士
「……」
見事に一発でムクノムロ村と発音した村人だったが、戦士の興味はそんなところに向いていなかった。
彼の目線は、村人の頭上に向いている。
村人
「ん? なんだよ? 俺の頭に何かついてるのか?」
戦士
「ほう。『ここはムキゥッ……村だよ』以外にも言葉を喋れたのか」
(レベル22……まぁ村人としては平均的、か)
村人
「なんだと……!? 失礼なヤツだな! 僕は大卒だぞ!」
村の前に立つ村人の中には、死ぬまでその仕事を続ける者もいる。
不幸にも、そういう者は言語能力が衰え、「ここは〇〇の村だよ」としか喋れなくなってしまうのだ。
戦士
「ふぅん……」
(ステータスもそこそこ。とはいえ、コイツは勇者じゃないな)
村人
「さっきから何を……あ! お前まさかっ! 僕のステータスバーを見てたのか!?」
戦士
「失敬失敬」
ステータスバーとは、その者の名前、身体能力が記された板である。
ステータスバーを見たい相手に話しかけ、視線を頭上に向けるだけで簡単に見える。
しかし、一般的に、相手に許可を取らずにステータスバーを見るのはマナー違反とされている。
なので、話している相手の頭を見る、というのはこの上ない無礼行為なのだ。
村人
「うわぁ……初対面でいきなりステータスバー見んのかよ……」
戦士
「悪いね。まぁ俺も王からの命を受けて来てるもんでね」
村人
「さっすが……都会の人は貞操観念がおかしいね」
戦士
(ステータスバーくらいで貞操観念は大袈裟だろうよ)
村人
「アレだろ? アレ、あのコボルトとかともさ、ヤっちゃうんだろ?」
戦士
「は?」
村人
「フッフヒッ……そ、そんでさ、首絞めてめちゃめちゃに注ぎ込んでからさ……」
村人はハァハァと息を荒げ、訳の分からない言葉を吐き始めた。
口元は歪に釣り上がり、頬も少し紅潮しているように見える。
キモ。
戦士
「さよなら。僕急いでますんで」
村人
「え? あ、はい」
戦士
(辺境の村には変なヤツ居るなぁ〜。娯楽が少ないからかな?)
あたりを見回す。
村の風景を見て感じるのは、やはり「狭い」という事だ。
何しろ住宅が6軒しか見当たらない。
異常なまでの狭さだ。
戦士
「明らかに村人の数と家の数合わねえよ……」
「ハァ……まぁ良いや。とりあえず情報収集だな」
村の住人たちの話を聞ける場所はどこかにないだろうか。
例えば、住人たちが一堂に会するような場所が。
戦士
「う〜ん……村長の家とかか?」
(しかし、村長の家ったって、どれか分かんねえよ)
途方に暮れながらあたりを見回す戦士。
すると、その目にひとつの看板が映った。
戦士
「ん?……あの看板は」
看板が指し示す建物へと、戦士は歩み出した。
ーーーーーーーーー
戦士
「この家か……」
村から離れたところにある一軒の民家。
戦士はその前にいた。
先程、戦士が見つけた看板。
それは、「酒場」のそれであった。
酒場で情報を募ると、その場にいた全員が
「村はずれの民家にすげえ奴がいる」と口を揃えて言った。
なんでも彼は「すごすぎて村から外れたところで暮らしている」そうな。
正直、戦士はそこまで期待していなかった。だが、まぁせっかくここまで来たんだし、という事で寄っていく事にした。
戦士
「ごめんくださ〜い」
コンコン、と玄関ドアをノックする。
すると、程なくしてドアが開いた。
村人
「はい……?」
戦士
「あ、私、王都にて戦士をやっております。王の命を受けて旅をしている途中、アナタがすごい! という噂を耳にしたのですが……」
村人
「はぁ。と言われましても……」
戦士
「え?」
(嘘だろ?)
戦士は戦慄した。
村人の頭上に戴く、ステータスバーという名の冠。
そこに刻まれていた数値は……。
戦士
「レベル9999って!?」
村人
「はぁ」
ーーーーーーー
しばらく戦士は驚き放心していたが、村人が沈黙を破り、
村人
「立ち話もなんですから、どうぞ中へ」
と家の中に誘った。
村人Lv9999
「あぁ、どうぞ。その辺にくつろいでください」
戦士
「え、あ、はい。恐縮です」
戦士
(にしても、レベル9999って……。一体何してたらそんな事になるんだ……?)
村人Lv9999
「すみません、大したもてなしも出来ませんで……。お茶、どうぞ」
戦士
「ありがとうございます」
村人Lv9999
「あと、こちらもどうぞ。飴です」
戦士
「ど、どうも……」
(お茶受けにアメ玉かよ……)
村人Lv10000
「うぅ〜ん……うまい!」
戦士
「ブゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」
戦士は盛大に茶を吹き出してしまった。
しかし、それも無理はない。
今、目の前で「有り得ない事」が起きたのだから。
村人Lv10000
「うわっ!? どうしました!? お茶不味かったです?」
戦士
「イヤイヤイヤイヤ!! アンタ今なんでレベル上がったんだよ!?」
「なんでこんなアメ玉舐めただけでレベ……ってコレ」
(ストレンジ・キャンディーじゃねえかァァァァァァァ!!!!!!!!!!)
ストレンジ・キャンディー。
それはレア度5の高レアリティアイテム。
その効能は『レベルを1アップする』。
戦士
「アナタまさか、毎日コレを……?」
村人Lv10001
「ええ、まぁ最近はよく食べますね」
戦士
「また上がっとる!!!」
村人Lv10002
「んふぇ? ん何がですか?」
戦士
(まさかコイツ……)
戦士は慌てて村人レベル9999改め、レベル10002のステータスバーを確認した。
戦士
(やはり……!! コイツ……全然戦闘経験がない!!)
戦闘経験回数はたった4回。
つまり、この男、ダンジョンに入ったことすらないと思われる。
戦士
(しかもステータスが低すぎる!! レベル1万超えてんのにHPは4桁にも達してないのはおかしいだろ!!)
戦士
(たしかにレベルはスゲェけどさぁ! 高けりゃ良いってもんでもないのよ!?)
村人Lv10002
「あの、何か?」
戦士
「えっ? あ〜いや、珍しいスキル持ってらっしゃるなと思いまして……」
村人Lv10002
「ああ。僕のステータスバーを見てらしたんですね」
戦士
「え、ええまぁ。この《短剣の絶技》とは一体、どんな……?」
もしかしたらステータスではなく、スキルがすごいタイプかもしれない。
そう判断した戦士は尋ねた。
村人は答えた。
村人Lv10002
「はい。包丁で魚を捌く時、うまく捌けます」
戦士
「……」
本当か?
ステータスバーを確認する。
《短剣の絶技》
魚を捌く際、包丁を装備しているなら、成功率を+50する。
戦士
「なるほど……」
(なんだこのゴミスキルは!?)
戦士
「ではこの、《獣の懐柔》とは?」
懐柔というくらいだから、ビーストテイム系の魔術か何かではないだろうか。
村人は答えた。
村人Lv10002
「はい。土下座すれば戦闘から離脱できます」
戦士
「……」
ステータスバーを確認する。
《獣の懐柔》
土下座をし、自分は弱いということを徹底的に相手に伝える。
そうした場合、「ちっ……次は容赦しねえからな」と容赦してくれる可能性を+50する。
戦士
「なるほど……」
(いや戦えよ!!)
戦わないからお前はいつまで立っても弱いんだろうが!
村人Lv10002
「他にも《値切りの極意》とか、《皿洗いの絶技》とか、色々と……」
戦士
「あ、もう結構です。分かりました」
村人Lv10002
「あ、そうですか?」
ーーーーーーーーー
戦士
「それでは、お邪魔しました」
村人Lv10002
「いえ、大したおもてなしもできませんで。またいらしてください」
戦士
「ありがとうございます。さよなら」
村人に背を向けて歩き出す戦士。
その目に夕日が見えた。
もう夜が近い。
戦士
「……とんだ徒労だったな」
たしかにあの村人はすごかった。
レベル9999(話している途中に10002に上がったが)は物珍しい。
しかし……。
戦士
「レベルなど所詮、飾りに過ぎぬのだな……」
いくらレベルが高かろうが、いくら装備が良かろうが、戦闘経験や知識がなければそれまでだ。
戦士
「大切なのは、その者の技量。ただそれだけだ」
本当に大切な者は、レベルなどというただの数字に影響されるものではない。
死闘の中で鍛えられたスキルが、
窮地の中で磨かれた能力が、
放浪の中で繋がる絆が、その者の真の強さとなるのだ。
だから、アメ玉で不正に挙げたレベルに価値はない。
戦士はこれからも、それを胸に旅を続けるだろう。
戦士Lv9999
「レベルなど、ただの飾りさ!!!! ハッハッハッハッハッ!!!!」
民家でシコたまストレンジ・キャンディーをかっ喰らった戦士は、上機嫌で笑った。
ちょっと前からレベル999999999の村人〜とか一般人が〜みたいな作品が多く見受けられたので、
《実際に村人が強くてもこんなもんでは?」という自分の感想を形にしました。
皆さんはどう思いますか?