極端に生きる2
「何かを書かなくちゃいけない」
自分の良心にせかされてパソコンを起動する。午前11時。
「」……登場人物に何かを話させて起点にしようと思うのだがもう10分も鍵括弧の中は空っぽなまま。
書いては消してるわけでもない。ずっと空白、虚無。
「ほら!バカの考え休むに似たりっていうっしょ?だから俺は動きを止めないの!」
最上先輩の声が頭に浮かんでイラつく。
動くことさえできないでいる俺はそれ以下だと言うのだろうか。……記憶の中の先輩と喧嘩をする自分はなんて滑稽なんだろう。このまま進まない原稿を見つめていたって仕方ない。
俺は、MMOにログインした。
操作を試行錯誤して覚え、なんとか慣れてきた頃、肩が凝っているのに気づき、座ったまま軽くストレッチする。ストレッチをしたときバキバキっとすごい音がしたのにビックリして、ふと、どのくらいの時間を過ごしていたのだろうかと時計を見上げた。時計の短針が11を指している。長針が9のところ。なんだ大した時間過ごしてないじゃないか。歳を取ったかな。窓の外が暗いことを見ないことにしてそう自分をごまかした。12時間なんて経ってないんだ。小説を書きたいと勢い込んで、たったの10分も集中して書けなかったのにゲームに飲食を忘れてのめり込んでいた事実がなんだか恥ずかしいことのように思われた。
「ご飯でも食べて少し寝たら書くか」
自分にそう言い訳をして、一旦ゲーム画面から離れた。
ご飯食べて、寝る。原稿用紙に文字が書かれることはない。そんな日々が1年続いた。
MMOのなかでの人間関係もでき、時間がある俺は画面の向こうではレベルも高く、ゲームに関して博識のため大人気者。控えめに言ってスターだ。
「……書かないとな」
MMOの友人とお喋りをしながら、
そう、言葉だけを呟く。書く気はあるんだと誰に向けているのか分からないポーズをとる。
お腹が鳴った。冷凍食品をレンジで暖める間も視線はゲームに注がれている。
世には、作家なんてごまんといる。
このゲームのこのキャラを動かせるのは自分だけだ。今、ゲームで俺の手伝いを望む人の数と俺が執筆し始めるのを望む人の数どちらが多いだろうか?答えのわかりきっている質問を自分に投げ掛け、書かない理由を自分に納得させた。
俺は今日もパソコンの前で甘い夢を見続ける。
はいっ!!当初の予定から大幅に変更しました!
完成を急いだ作品です。
というのもこれで書こうとしていたテーマを別タイトルで書く方が愉しくなりそうでしたので。
宙ぶらりんのままは申し訳ないので、物語の区切りをつけさせてもらいました。読んでくださりありがとうございます!