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極端に生きる  作者: まさるしー
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MMO初心者

小説を書きたい思いが溢れて、仕事をやめた。

こまめに書きためたネタ帳を見て構成を練り、文章にするだけ。

辞めた翌日には原稿用紙50枚分程度は書けているつもりであった。

仕事をしてた時より遥かに時間と机に向かう体力があるが筆が進まない。

扶養する者も世話する物もいないし、

趣味はといえば小説を書くことくらいなので、

計算上はこのままの生活を一生続けられる。

[なんだかなぁ]

ふと西城先輩の言葉が浮かぶ。

いつも自信満々で人に囲まれポジティブな彼は

「人生は短いし、まぁ、生きてさえいれば取り戻せない失敗もそうないよ」

共に飲みに行くと、決まってそういい、その度に新しい何かを熱っぽく語るのだ。そんな風に生きてみたいと……その熱にほだされて行動してしまった。

「あー、だめだ」

悪い癖が出てる。

勤め人の頃は仕事が悪いといい、

今は先輩の言動がこうさせたという。

僕はいつだって何かのせいにして正当化する。その思いを打ち消したくて声を出す。


[今日は何をしようか?]

スマホで検索する。内容はなんでも良かった。

なにもしてない自分から調べものをしている自分になれる。

一歩も動かぬばかりか他人を羨むばかりの自分から

能動的な動きのよい自分に格が上がったように感じられ、幾分か気分がいい。

[……とはいえ]

この行動は私から小説を書く情熱を奪っていることにも気づいている。

ネタが思い浮かべばネットに繋ぎ、似た構想の書籍を見つけては自分が書く必要がないと書くのをやめてきた。

タイトルと数行書いただけの文章ファイルが私が「夢に向かって頑張っている証拠」だった。

その時、「MMO:Mの世界」という広告が目に入った。

''自由度の高いMMO。自在なキャラメイクであなたの思いのままの生活を分身に送らせませんか?''

……これなら。

なりたい自分になれるだろうか?

吸い寄せられるようにダウンロードをクリックした。


「さぁ!ここに押印をおねがいできますか?」

人好きのする笑顔で男が差し出してきたのは婚姻届である。

「……どなたかとお間違えではないですか?」

やっとのことで言葉を絞り出す。

男は私の言葉など聞こえない様子でさらに踏み込んでくる。

「あっ!?急に言われても、印鑑ありませんよね?取りに帰ります?

待ちますよ。なーに!女の支度を待つのは男の甲斐性ってね!

そうだなぁ、あそこ!」

男がすぐそばの喫茶店を指差す。

「あそこでのんびり待ちますよ……あっ!?もしかして送った方がうれしいですか?……いやでも僕たちまだ出会ったばかりですし、お家デートというのはまだちょっと早いですよね?いやま、貴女が、どうしてもって言うなら僕も男ですから恥はかかせませんけども!」

男の声が遠くで聞こえる。……出会ったばかりというかすれ違い様の出来事というか。

なんだろう、最近のナンパ師は振りきれているなぁ。

ぼんやりと考えていると

「大丈夫ですか?」

別のプレイヤーが声をかけてくれる。

「お嬢さん!押印してくれませんか?」

私が振り向くより先に、男はそのプレイヤーにも声をかける。

「……あの?」

そのプレイヤーもそう言ったきり黙ってしまう。

「では!!まってますね!!」

男はウキウキと喫茶店に消えていった。


ダウンロードして1時間。チュートリアルが終わった矢先の出来事である。

「自由だなぁ」

玖美と名付けた分身にやれやれと言ったポーズをさせて一人発言する。

「MMOは初めてですか?」

先ほど大丈夫かと助けてくれたプレイヤーが近づいてきて言う。

「あっ、はい。そうなんです」

「女性キャラだと声かけられやすいからねぇ……適当にあしらうといいよ?」

フル最高レア度で揃えているアバター装備を見る限り、かなり先輩プレイヤーらしかった。

「ありがとうございました。あの、よろしければお友達になっていただけますか?」

失礼のないように丁寧な言葉遣いを心がける。

「あぁ、鞠って名前です。お名前をお聞きしても?」

「玖美です」握りこぶしをぶつけ合うモーションをして

「じゃ!なんか困ったら連絡して」

颯爽と鞠さんが立ち去っていった。かっこいいなぁ。

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