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9話 侵略される前に侵略

 ここで、簡単に位置関係を説明しておこうと思う。


 僕たちがいるところが、中央大陸と呼ばれている、一番大きな大陸だ。

 大雑把に言うと、『◇』のような形をしている。


 その中央大陸を囲むように、大小いくつかの島があるんだけど……

 まあ、今回は関係ないから割愛しておこう。


 中央大陸は、東が平野部。

 南が森林地帯。

 西が砂漠。

 北が山脈という風に、それぞれに特徴が現れている。


 東、南、西はそれぞれ人の国がある。

 北は魔族の領地だ。

 山は険しく、普通の人が気軽に立ち入ることはできない。


 天然の要塞なんだけど……

 その分、耕作に向かない地だ。

 大地は荒れ果てていて、まともに農作物を耕すことができない。

 この問題も、いずれ解決しないといけないな。


 あと、すでに領土の半分以上を失っているため、天然の要塞も意味はない。

 こちらもなんとかしないといけない問題だ。


「それで? 魔族の領土がどうかしたのですか? それと、防衛策がどう関係を?」


 一から説明をしていると、メリクリウスさんが焦れたように言う。

 慌てない慌てないと笑顔で言いつつ、本題に入る。


「まず、街をなんとかしておかないとね。そこを最前線の基地として利用されたら、準備が整い次第、頻繁に攻め込まれると思うから」

「まあ……それは確かに」

「あと、領土の回復をしておかないと。こういう土地だからこそ、領土はとても大事なんだ。少しでも多く、獲得しておかないと。今後、色々と必要になってくるよ」

「ふむふむ。なるほどなのだ。さすが、カナタ。よく考えているな!」


 クロエは納得した様子だけど、メリクリウスさんは違う。

 こちらを睨みつけているような、鋭い視線を感じる。


「あなたの言い分はわかりましたが……街を攻め落とす戦力は、どこから調達するのですか? 自慢ではありませんが、今の魔王軍に、それだけの戦力はありませんよ!」

「本当に自慢することじゃないね……」

「しかも、こいつ、胸を張って堂々と言ったのだ……」

「う、うるさいですねっ」


 たぶん、メリクリウスさんの仮面の下は、今、赤くなっていると思う。


「戦力については承知しているよ。今の魔王軍は色々とぽんこつだからね」

「カナタでも、ちょっとイラッときたぞ」

「あなたに言われたくありません! 誰が原因で、こうなったと思っているんですか」


 面倒な二人組だった。


「まあ、それはともかく……」

「話を逸らしたな」

「逸らしましたね」

「……それはともかく」


 聞こえなかったフリをして、強引に話を進める。


「戦力については、僕一人だけでいいよ」

「「は?」」


 クロエとメリクリウスさんが、なにを言っているんだこいつ? みたいな声を出した。


「なにを言っているんですか、あなたは」


 実際に、ほぼほぼ同じことまで言われてしまう。


「カナタだけで、エクスエンドを落とすというのか……? いや、待て。それはさすがに無茶だろう」

「そうですよ。確かに、あなたは私よりも強く……先の戦い、一人で敵軍を圧倒しました。しかし、街を落とすとなると、まったく別の話になります」

「どれだけの敵が待ち受けているか……我でも、一人で街を落とすことなんてできないぞ?」

「犬死以外のなにものでもありませんよ。考え直してください。あなたがどうなろうと知ったことはありませんが……」

「むうううっ」

「……この通り、魔王様が気にかけていますから」

「大丈夫。きちんと考えているから」

「本当なのか?」

「無茶はしないよ。約束する」

「……まあ、それならば、カナタを信じることにしよう。夫を送り出し、静かに待つのも妻の役目なのだ!」

「結婚してないよ?」

「ぐはっ、冷静なツッコミ……」




――――――――――




 そんなわけで……

 僕はエクスエンドの街に移動した。


 魔王城から、普通に歩いて半日というところかな?

 よくもまあ、こんな近いところに街を作ろうと思ったよなあ。

 発案者の度胸に、ある意味で感服する。


 というか、建設を許した魔王軍も魔王軍だ。

 完全に舐められているじゃないか。


「のうのう、カナタよ。これから、どうするのだ?」


 クロエも着いてきていた。

 メリクリウスさんには内緒で、こっそりとだ。

 後で怒られるかもしれないけど、そのときは、全力で僕は関係ないと訴えておこう。


「無茶をするつもりはないということは、戦いを挑むわけではないのだな? では、どのようにして、この街を落とすのだ?」

「この街に住むことはできない、危険だ……とか、そんなことを思わせて、自主的に退去してもらおうかな、って」

「ふむ? ……むう? 自主的に? そのようなことが……そうか、わかったぞ。毒を使うのだな? 水などを汚染して、ここを住めない土地にしてやるのだな?」

「発想がちょっと過激かな。そんなことをしたら、僕らが後々で利用することができなくなるよ。それと、戦いとは無関係の人を巻き込むつもりは、さすがないよ。そんなことをしたら、さすがに外道だ」

「む。そう言われてみるとそうだな……では、どうするつもりなのだ?」

「毒は使う。けど、あくまでも微量。それと、ちょっとした仕込みをする。それで……そうだな、一週間くらいで人はこの街から撤退すると思うよ」

「バカな、一週間だと!? いくらカナタの言うことでも、そのようなことできるわけがない! 我をバカにしているのか?」

「本気だよ。バカにしてもいない」

「しかしだな……むう。信じていいのかどうか、迷うぞ。やはり、ここでカナタを撤退させたほうが……」


 クロエが信じてくれないと、ここで連れ戻されてしまうかもしれない。

 それは困る。

 時間をかけてしまうと、軍部が再編されて、新しい部隊が送り込まれてくるかもしれないからな。


 魔王軍に負けた部隊は、エクスエンドにいくらかいる。

 名誉挽回のために魔王軍を監視しようとしたり、あるいは、次回の侵攻に向けて援軍を待っていたり。


 僕らと……というか、クロエと面識のある兵士がいないと、今回の策は難しい。

 だから、今のうちに動く必要がある。


「そうだね、なら……もしも失敗したら、僕がクロエのいうことをなんでも聞く、っていうのはどうかな?」

「な、なんでもだと!? 本当になんでもなのか!?」

「うん、なんでも」

「我の……こ、こここ、恋人になれといえば、カナタは我と付き合うのか!?」

「いいよ」

「よしっ、乗った! いいか、カナタよ。我は、その取引に釣られたわけではないからな!? あくまでも、カナタの作戦を信じて、賭けてみようと思っただけなのだ!」


 ものすごくわかりやすい子だ。

 クロエは、このまま、まっすぐに育ってほしい。


「じゃあ、まずは僕の策を実行するということで決まりだね」

「うむ。カナタの手腕、見届けさせてもらおう」

「なら、色々と動こうかな」


 こうして、僕はエクスエンドの街を落とすための行動を開始した。




――――――――――




 一週間後。

 エクスエンドの町並みはそのままに、人は完全に消えていた。


「……バカな」


 その様子を見て、クロエが目を丸くしていた。

 ぱくぱくと口を開け閉めして……

 次いで、こちらを見る。


「か、カナタはなにをしたのだ……? 本当に、一週間で街を落としてしまうなんて……しかも、戦わずに」

「色々と仕込んでおいたものが、全部うまくいった結果かな」

「仕込み……? この街の井戸に、城から持ち出した微量の毒を混ぜていたな。あと、酒場などで、我の呪いが降りかかるとか、そんなよくわからないことを言っていたな。言っておくが、我は呪いなんて使えないぞ?」

「使える使えないは、この際、どっちでもいいんだ。呪いを信じることが重要なんだ」

「む?」


 この街に来た僕は、まずは、井戸に毒を混ぜた。

 そして、クロエの言うように、魔王の呪いが降りかかるという話をあちらこちらでばらまいた。


 結果、どうなったか?


 たくさんの人が原因不明の体調不良を訴えて……

 魔王の呪いが降り注いだと人々は信じ込み、慌ててこの街から撤退した、というわけだ。


「ふむ……毒の効果を呪いと錯覚させて、その恐怖で撤退させたというわけか」

「そういうこと。人は、呪いとか目に見えない脅威に対しては、必要以上に反応する傾向にあるからね。しかも、魔王の呪いときた。兵士はともかく、一般人はたまらずに避難するよ。で、一般人がいなければ兵士たちも補給を保つことができず、撤退する」

「なるほどな。しかし、原因不明の体調不良はどういうことなのだ? 毒の効果としても、ちょっと違うし……なによりも、たくさんの人が体調を崩していたではないか。カナタが使った毒の量では、あそこまでの人数に影響はないはずだぞ」

「集団ヒステリーだよ」

「しゅうだんひすてりー?」

「簡単に言うと……強く思い込むことで、あるはずのないことが本当に起きてしまう、一種の病気だよ」


 そのために、魔王の呪いという実体のない噂を流した。

 最初に体調を崩した人は、毒の影響によるものだろう。


 しかし、それを見た人は、本当に魔王の呪いがあるのでは? と思った。

 その中で強く思い込んだ人が集団ヒステリーにかかり、症状を発症する。

 そこからは簡単だ。

 連鎖的に感染者が広がり、本当はない魔王の呪いに苦しめられて……

 そして、撤退……ということになる。


 もちろん、確実に集団ヒステリーを誘発できるという自信はなかった。

 3割くらいの確率で考えていた。

 でも、失敗したら失敗したらで、他に策を考えていた。


「なるほど……すごいな、カナタは。まるで、軍師ではないか。本当に勇者なのか? 実は、王国一の軍師ではないのか?」

「勇者だよ。これらの知識は……まあ、色々とあって」


 異世界の知識だよ、なんて言っても信じてもらえるかわからないので、そこら辺は適当にぼかしておいた。


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こちらも読んでもらえるとうれしいです。
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