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3話 魔王に誘惑された

「世界の半分をやるから我の恋人になれ!」

「……はい?」


 今、なんて言ったのかな?


 おかしいな……

 死ぬ間際だから、幻聴でも聞いたのかな?


「今、なんて?」

「むう……一世一代の乙女の告白を聞き逃すでないわ、この馬鹿者め!」

「ご、ごめん……」


 確かにその通りだと思い、僕は素直に頭を下げた。


 でも、いや待てよ? と思う。

 そもそも、僕は今、告白をされたのだろうか?

 あれ、勘違いとか幻聴とか、そういう類じゃないの?

 本物の告白なの?

 だとしても、もっと言い方というか、言葉のチョイスがあるような……?


「もう一度、言うぞ? 世界の半分をやるから、我の恋人になるがいい!」

「え? なんで? えええ?」


 今度は、僕が挙動不審になる番だった。


「我は、お前が、す、すすす、好きに……気に入ったのだ!」


 今、言い直した?


「よくよく考えれば、殺してしまうよりは味方にした方が良さそうではないか。人間の最強の存在である勇者が、我ら魔族の味方となる。それに、我も幸せになる。うん、良い考えではないか。我ながら、よくぞ考えついた。偉いぞ、我。我、完璧」


 相当、無理のある話に聞こえるんだけど……


「して。返事は?」

「えっと……いきなりそんなことを言われても、ちょっと。それに、僕は一応人間だから、魔族の味方をするわけには……」

「……こ、断るのか? 我の誘いを断るつもり、なのか……?」


 魔王は泣きそうになっていた。


 かなりショックらしい。

 尻尾がヘナヘナと力なく床に垂れていた。


 なんか、僕の方が悪いことをしている気分になってきた。


「えっと……ちょっとまってね。真剣に考えてみるから」

「う、うむっ。うむうむうむ! 考えろ、たくさん考えろ!」


 まだ終わりじゃないと知り、魔王は一気に元気を取り戻した。

 幸いというか、魔王は僕を尊重して、考える時間をくれるみたいだ。

 なので、じっくりと考えてみる。


「うーん」


 人を裏切り、魔王と手を組む。

 言葉だけ見ると、もしも実行したら、僕はとんでもない罪人だ。


 でも……

 そもそもの話、こんな状況になったのは人に裏切られたからなんだよな。

 最初に裏切ったのは人の方だ。


 それに、断ったとしたら、処刑されるのは免れない。

 生き延びるためには、仕方ないという考えもある。


 というか、今更城に戻れたとしても、ひどい扱いを受けるのが目に見えている。

 今までが今までだからなあ……

 待遇改善なんてありえないし、悪化することしか考えられない。


 なによりも……

 魔王と話していると、この子が『悪』とは思えないんだよなあ。


 ちょっと抜けていて、でも、とびきりかわいい女の子で……

 こうしてきちんと話をしたからこそわかったんだけど、とても純粋な子に見える。


 異世界に召喚されて、ロクな情報を与えられることなく、先入観だけで魔物や魔族と戦ってきたけれど……

 本当に魔物や魔族は悪なのか? 魔王は悪なのか?

 そのことを、僕自身の目で確かめる良い機会なのかもしれない。


「……うん、わかったよ」

「おおっ、承諾してくれるか!?」

「恋人、っていうのはナシにしてくれない?」

「ふぁあああ……」


 魔王が涙目になった。

 あと一つ、ショックなことがあれば、一気に涙腺が決壊してしまうだろう。


「ただ、手を組むのは良いよ」

「む? それは……我ら魔族の味方になる、ということで間違いないか?」

「うん、それでいいよ。恋人うんぬんは、さすがにいきなりすぎるから……まずは友達から、っていうのでどうかな?」

「おおっ!」


 一転して、魔王は元気になった。

 キラキラと目が輝く。

 尻尾がピーンと立つ。


「うむ、うむ! それで構わないぞ! 友達からというのは引っかかるが……まあ、それも最初だけのこと。そなたを我の虜にしてやるぞ!」


 魔王は僕の拘束を外した。

 そして、これからよろしくと、笑顔で手を差し出してくる。


「その前に……」

「うん? どうしたのだ?」

「名前を聞かせてくれないかな? 考えてみれば、僕、君のことなにも知らないんだよね」


 それこそ名前も知らない。

 そんな相手と戦っていたなんて……

 いくら他に拠り所がなかったとはいえ、国の言いなりになりすぎていたかもしれない。


「我は、クロエ・サタナエルだ」

「クロエ・サタナエル……名前で呼んでもいいかな?」

「うむ、好きに呼んでいいぞ!」

「ありがとう、クロエ。それと、これからよろしくね」

「うむっ、よろしくなのだ!」


 元気いっぱいのクロエと握手をした。


 こうして……

 僕は、魔王と手を組むことになった。




――――――――――




「どうか、考え直していただけませんか?」


 牢から解放された僕は、クロエに誘われるまま、魔王城の会議室へ移動した。


 そこで、クロエは幹部を集めて、僕と手を組むことにしたと告げた。

 それに対する第一声が、考え直してください、というものだった。


「勇者と手を組むなど、前代未聞のことです。普通に考えて、百害あって一利なし。魔王さま、どうか再考を」


 魔王軍、最高幹部の四天王の一人が、クロエに頭を下げつつ、そう進言した。

 見れば、他の四天王、幹部たちも似たような感じで、僕を受け入れることに反対する姿勢を見せていた。


 まあ、仕方ないよね。

 僕が魔族だとしたら、同じように反対していたと思う。


 例えるなら、苛烈な業界競争を繰り広げている中、ライバル店のエリートを自分の店に引き込むようなものだ。

 普通ならスパイを疑うし、素直に協力してくれるなんて考える人、いるわけがない。


「むううう……! なにが不満なのだ、我の決定に不服があるというのか!」


 ただ、クロエは納得できないらしく、子供のように頬を膨らませて、体いっぱいに不満をアピールしていた。

 意外と子供っぽい。

 人の国から聞かされていた、冷徹無比で、極悪非道の魔王というイメージは皆無だ。

 ちょっと子供っぽいけれど、親しみやすくて、好感が持てる。


「人間の力を借りる必要なんてありません。所詮、人間は愚かで脆弱な存在。我々、魔族からして見れば、虫のようなものです」

「その虫のようなものに、我らは今まで苦戦させられてきたのだぞ? ならば、味方になれば相当な戦力アップを図ることができるではないか」

「……確かにその通りですが、相手は勇者ですよ? 我々、魔族の味方をするなんて、とても思えません」

「カナタは誓ってくれたぞ。我の、こ、こここ、恋人候補……と、友達になってくれるとな!」


 若干、ヘタれたな。


「信じられませんな」

「むうううっ、お前、部下のくせに生意気だぞ!」

「魔王様の部下だからこそ、主が暴走した時は、止めなければならないのです」

「むぐぐぐっ……!」

「第一、その人間は使えるのですか? さきほどは、戦力アップになるかもしれないという魔王様の話を受け入れましたが……よくよく考えてみれば、我らに敗北した身。そのような輩を雇用しても、大して使えないだけなのでは?」


 うんうんと、他の四天王のみなさんも頷いた。


「ならばっ、お前たちがカナタの力を試してみるといい!」


 え?


「戦うなりなんなりしてみろ!」


 待って。

 勝手にそんなことを決められても……


「カナタは強いぞ! お前たちなんて、みんなみーんな、一撃でコテンパンだぞ! その力、身を持って味わってみるがいい!」


 ものすごい話が盛られている!?


「では、そのようにいたしましょう」


 最初からこういう流れに持っていくことが目的だったらしく、四天王のみなさんは反対することなく、クロエの話を受け入れた。


 まいったな。

 戦うことは好きじゃないんだけど。




――――――――――




 場所を変えて、魔王城の中庭へ移動した。

 ちなみに、魔王城は大きく、『回』という漢字と似たような形をしている。

 中庭は、その中央部分だ。


「おいおいっ、貧弱な人間だなあ! 息だけで吹き飛ぶんじゃねえか?」

「やれー、やっちまえ! 人間の勇者なんてぶっ殺しちまえ!」

「一発で捻り潰してくださいよー!」


 話を聞いたらしく、魔王城の魔族、魔物が全員集まってきたらしく、相当な人口密度だった。

 中庭の中央に、急遽設置された簡易決闘リングを囲むように、魔族、魔物たちが集まっている。


「では、我が審判を務めるぞ」


 そう言って、僕と四天王の一角……メリクリウスさんの間に、クロエが立つ。


「ええ、問題ありません」


 メリクリウスさんは、ガチャと鎧を鳴らしつつ、小さく頷いた。


 ちなみに、メリクリウスさんは、騎士のような全身鎧を着ていた。

 顔も見えない。

 声もくぐもっていて、性別もわからない。


 ぱっと身、人の騎士のように見えるけど……

 鎧の隙間から黒いオーラのようなものが溢れ出していたり、その手に持つ剣が赤く輝いていたり、人じゃない要素がある。


 メリクリウスさんと戦ったことがないから、よくわからないけど……

 たぶん、その剣を使って戦うんだろう。

 なら、僕も剣を手に、相手をした方がいいかな。


 そう思い、僕も剣を抜いた。


「これは、相手の力を測るためのものだ。故に、殺しはなしだ。よいな?」

「一応、手加減はしますけどね……ですが、やむをえず殺してしまう場合もあると思うのですが、それについては?」

「いいぞー、メリクリウスさまー!」

「そんなヤツ、ぶっ殺しちまえー!」


 メリクリウスさんの軽口に、周囲の観客たちのボルテージは最高潮に。

 そんな観客たちをクロエはギロリと睨みつけて、黙らせてから、メリクリウスさんに言う。


「そういう場合は……まあ、仕方ない。カナタは、それだけの男だった、ということになる」

「了解しました。それを聞いて安心しました」


 フルフェイスヘルムの下で、メリクリウスさんがニヤリと笑ったような気がした。

 あ。

 これ、確実に殺しにかかってくるな。


「まあ、カナタはメリクリウスなんぞに殺されるどころか、負けることなんてありえないからな! けちょんけちょんにされると思うが、なに、安心するがいい。もしもメリクリウスがカナタに殺されそうになったら、我が止めてやるぞ。はっはっは!」

「ぐっ……!」


 クロエさん。

 君、なんでそんなことを言うの?

 メリクリウスさんのことを挑発しているの?

 本当は、僕のこと、間接的に殺そうとしていない?


「……人間よ。たった今、貴様の運命は決まりましたよ」

「えっと……参考までに、どんな運命か聞かせてほしいな」

「細切れです」


 バラバラ殺人事件!?


「では、始めるぞ」


 え!?

 いや、ちょ……!

 まだ心の準備が……


「始め!」

「はぁあああああっ!!!」


 開始の合図と共に、メリクリウスさんが突撃してきた。

 一刻も早く僕を斬りたくて仕方ないという感じで、普通の人なら視認できないような速度で剣を振り下ろしてくる。


 でも……僕、普通の人じゃないんだよね。


「ほいっと」

「な!? 武器を捨てた!?」


 残念ながら、僕は剣を使えない。

 単なる格好つけのために手にしただけだ。

 僕の本当の戦い方は別にある。


「召喚」


 そうつぶやくと、僕の右手にどこからともなく拳銃が現れる。


 これが僕の能力、『召喚』だ。

 イメージできるものならば、瞬時に召喚することができる。


「ほい、っと」

「なっ!?」


 銃を盾のように扱い、メリクリウスさんの斬撃を受け流した。

 色々な戦いを経験してきたので、こういう技術も得た。


 全力だったのだろう。

 メリクリウスさんの体勢が崩れる。


 銃で剣を撃つ。

 刀身に強い衝撃を受けたことで、メリクリウスさんは剣を手放してしまう。

 その剣を僕が拾い、メリクリウスさんの喉元に突きつけた。


「これで終わりだね?」

「ば、バカな……!? 全てを断ち切ると言われている私の斬撃が、子供をあしらうかのごとく……しかも、なんだ今の動きは!? 水が流れるように一切の無駄がなく、しかも速い……それに、その妙な道具はいったい……くっ」


 メリクリウスさんは悔しそうにうめきつつも、それ以上の行動に移ろうとしない。


「……私の負けです」


 がくりとうなだれつつ、メリクリウスさんは素直に降参してくれた。

 よかった、荒事にならないで。

 これから一緒のところでがんばる味方を斬りたくなんてないからね。


「やったのだ!」

「うわっ!?」


 突然、クロエが抱きついてきた。

 不意打ちのため、支えきれず、一緒に倒れてしまう。

 それでも、クロエは構わずにこちらの胸元に頬をこすりつけてくる。


「さすが、カナタだ! 我がカナタが絶対に勝つと信じていたぞ! うむっ、本当にさすがなのだ! かっこいいぞ、カナタ!」

「うん、ありがとう」

「今日から、我と一緒だからな? 絶対に離してやらないからな? だから、カナタも我の傍を離れるでないぞ! よいな!?」

「えっと……まずは友達からだよ?」

「はぐ!? う、うむ……わかっていた。わかっていたぞ? あわよくば、この勢いに乗り、ドサクサに紛れて……なんていうことは、企んでおらぬぞ?」


 企んでいたんだね。

 ウソがつけない子だ。


 でも、そんなクロエのことを好ましく思う自分に気がついた。

 この子と一緒なら、魔王軍で……新しい生活をうまく送ることができるかもしれない。


「クロエ」

「うむ、なんだ?」

「これからよろしくね」

「あ……」


 クロエは、一瞬、きょとんとして……


「うむっ、よろしくなのだ!」


 花が咲いたような笑顔を見せるのだった。


19時にもう一度更新します。

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新作投稿期間中ということで、新作を書いてみました!
こちらも読んでもらえるとうれしいです。
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