28話 そして……
「うむっ、さすがカナタなのだ!」
今日は作物の本格的な収穫日だ。
数ヶ月前……
魔王城の裏のわずかな畑を使い、ありったけの肥料を投入して、ありったけの種をまいた。
一度に大量の野菜を栽培すると、その土地の栄養がなくなってしまい、次回は悲惨な結果になってしまうのだけど……
魔王軍の食料事情はかなり切迫していたから、今回はその問題は無視することにした。
アスガルト王国との戦争も終わり、賠償としていくらかの土地をせしめたから、次はそこで農作物を育ててもいいからね。
そして、今日
無事に収穫の日を迎えた。
僕たちの前には、大きくみずみずしく育った野菜の山。
大成功といってもいいだろう。
「なあなあ、カナタよ。今日くらいは、贅沢をしてもかまわぬか?」
「贅沢、っていうと?」
「野菜パーティーなのだ!」
「ま、魔王さま、そんな贅沢をしてしまうなんて……!?」
クロエの発言に、メリクリウスさんが恐れおののいていた。
そんな二人を見て、渚が呆れる。
「野菜パーティーでそんなにテンション上がるなんて……」
「まあ、これが魔王軍の現状というか、本当の姿だからね」
人々を恐怖に突き落とすとか、そんなことはまるでなくて……
その実態は、僕らとなにも変わらない。
「まだ少し残っているから、収穫、僕らも手伝おうか」
「彼方ってば、あたしの力をあてにしてない?」
「してるね」
「即答!?」
「だって、渚の勇者の能力、便利過ぎるからね。身体能力強化とか、どんなチートって話じゃない?」
「あたしからしたら、彼方の召喚能力の方がチートに見えるんだけど……まったく」
ぶつくさと言いながらも、渚は素直に野菜の収穫を手伝う。
素直になれないけど、いい子なんだよな。
うんうん。
「ちょっと彼方、あんたも手伝いなさいよ」
「了解」
僕は手押しの収穫機械を召喚して、それで作物を収穫する。
「ちょっ、それ汚くない!?」
「別に勝負しているわけじゃないんだから」
「そうかもしれないけど……むう」
「おーい、カナタよ! ちょっとばかし、こっちを手伝ってくれぬか? 大根があまりに巨大化していて、我一人では力が足りぬのだ」
魔王で力が足りない大根って、なに……?
僕は、とんでもないものを育てていたのだろうか?
戦慄しつつクロエのところへ。
「……確かに、これはすごいね」
メートルを超えそうなほどの巨大大根が地面に埋まっていた。
これを引っこ抜くのは、力……というか、人数がいるな。
「ははっ、まさかこんなものができるなんてなあ」
なんだか楽しくなり、自然と笑顔になる。
それを見たクロエが、不思議そうに小首を傾げた。
「どうしたのだ、カナタよ。笑っているが、なにかおもしろいのか?」
「うーん、そうだね……」
この世界に召喚された時は、とてもじゃないけれど笑う余裕なんてなかった。
でも、今はこうして笑うことができる。
クロエがいて、渚がいて、メリクリウスさんがいて……
とても楽しい。
こういう時間はとても大事だ。
改めて、そんなことを思う。
「なんでもないよ。それよりも、収穫をがんばろうか」
「うむ!」
――――――――――
収穫を終えて、野菜パーティーを終えて……
僕はクロエと一緒に、自室でくつろいでいた。
戦争が無事に終わりました記念、ということで、またこたつを出している。
「ふぁあああああーーー、とろけるぅ」
クロエが堕落しきっていた。
こたつを大量生産すれば、世界征服も夢じゃないかな?
そんなことを思う光景だった。
「……カナタよ」
ややあって、クロエがこちらを見た。
その目はやけに真剣だ。
……下半身はこたつに埋まっているため、やや真面目さに欠けているけどね。
「カナタは、これからどうするのだ?」
「どうする、って?」
「カナタと因縁のある国……というか、指導者は叩き潰した。そうなると、カナタにはもう戦う理由がない。これから……どうするのだ?」
「そのことかぁ」
最初は生きるために戦い……
次は、恩を返すために戦った。
普通に考えるなら、次の戦いは地球に帰る方法を探すために。
各地を旅したりして、召喚に関する情報を集めるのが通常の流れになると思う。
ただ……そこまでして地球に帰りたいとは、もう思えないんだよね。
なんていうか……
今は、この魔王城が家みたいな感じだ。
そのことを伝えると、クロエが目をキラキラと輝かせた。
「では、カナタは我とずっと一緒にいるのだな!?」
「えっと……ずっとかは知らないけど、もうしばらく、ここにいさせてくれるとうれしいかな」
「うむ、うむ! そんなのは構わないのだ。ずっといてくれていいのだぞ? 文句を言う者なんていないし、いたら我が魔王制裁なのだ」
とんでもない暴君だった。
「クロエ」
「む?」
「えっと……これからもよろしくね」
「おおっ、ついにカナタがデレたのか!?」
「真面目な雰囲気なのに、ボケないでくれないかな? というか、どこでそんな言葉を……ああ、うん。わかった。きっと渚だね」
困った幼馴染だ。
「えへへ、我もよろしくなのだ!」
笑顔で握手をしようとして、
「失礼します!」
メリクリウスさんが乱入してきた。
最近、こういうことが多い。
もしや、狙っている?
「むう……どうしたのだ、メリクリウスよ。今、とてもいいところだったのに」
「すみません、魔王さま……しかし、緊急事態でして」
「ほう? 緊急事態とな?」
「リンドルをご存知ですか?」
「我をバカにしておるのか? アスガルドとは別方向にある、我が魔王軍と似た規模の小国であろう? とるに足らぬ国なのだ」
それ、自虐入ってない……?
「そのリンドルが……宣戦布告をしてきました」
「なんだと!?」
「なるほど……」
「イッシキよ、なにか心当たりがあるのですか?」
「僕らは戦争を終えたばかりだからね。当然、疲弊してる。国力も少ないから、回復までに時間がかかる。そこを狙って、リンドルは攻めてきたんだろうね」
「むう、なんてせこいヤツなのだ……カナタよ! 我らに牙を剥いたこと、やつらに後悔させてやるぞ!」
「そうだね、がんばろうか」
ふと、思いつく。
このまま一緒にクロエと過ごして……
このまま異世界で生きる。
それも一つの手で、悪くないといえた。
そのために……
「まずは……クロエと一緒に、世界征服でもしてみようかな?」
区切りのいいところまで書けたので、ひとまずここで終わりとなります。
手探り状態で書いてみましたが、いかがでしょうか?
少しでも楽しんでもらえたならうれしいです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。




