27話 王都決戦・その3
「死ねいっ!」
ハイアムはその身にまとうオーラを飛ばすように、腕を振るう。
その軌跡をなぞるようにして衝撃波が発生して、崩壊した玉座の間が荒れ狂う。
その威力は、思わず顔をひきつらせてしまうほどだ。
巨大な石柱が粉々に砕けてしまう。
しかも、衝撃波は透明なため、視認することができない。
小さな瓦礫などが打ち払われるため、目に見えなくても、なんとか軌道が予測できるのだけど……
それでも、目に見えないというものは厄介で、最初は回避に専念しないといけない。
「でぇいっ!」
ヘイズさんの剣の腕はさすがと言うべきで、ハイアムの衝撃波を避けつつ、勢いよく切りかかっていた。
しかし、刃がハイアムに届くことはない。
その直前で透明な壁に弾かれてしまう。
よくある結界の一種だろうか?
物理的なダメージは通らない。
クロエの魔法も防がれた。
物理と魔法、両方を無効化するような能力を有している?
その上で、強力な衝撃波を放つ攻撃能力も使える?
攻防一体の能力という可能性は……低いか。
不可視の盾に衝撃波……あまり関連性はない。
だとしたら、なんでもできるというような、チート能力なのだろうか?
ここは異世界。
チート能力は、当たり前のように存在するのかもしれないけど……うーん。
……なんて、ハイアムを打倒するための策を考えつつ、牽制で銃弾を叩き込む。
全て不可視の盾に防がれた。
しかし、牽制にはなるらしく、その間は衝撃波が襲ってくることはない。
攻撃と防御、どちらか一つしか選べないということか。
「あわわわっ、か、カナタよ! あやつ、むちゃくちゃではないか! 攻防一体で、付け入る隙がないぞ!?」
クロエが器用に衝撃波を避けつつ、慌てた様子で言う。
「落ち着いて。クロエは、さっきの城を吹き飛ばすような一撃以上の攻撃を出せる?」
「だ、出せないこともないが、どうするのだ?」
「さすがに、無敵なんてことはないと思うんだよね。こういう時のパターンは、想定以上の過負荷をかけてやること。そうすれば、アイツの盾は破れると思うんだけど……どうかな?」
「あれ以上となると……城下町が半分以上消し飛ぶことになるぞ?」
「さすがに、それは……」
「他は、溜め時間が1時間ほどかかる魔法があるぞ」
「よし、クロエはこのまま牽制をよろしく」
「あれ!? 見捨てられた!?」
ガーンとショックを受けたような顔をするクロエは置いておいて。
僕は、能力を使うために魔力を右手に集中させる。
こういう時のために、色々と策は考えてきたけれど……
でも、新しいものを思いついた。
というか、ハイアムが教えてくれたんだよね。
召喚魔法の可能性を。
「というわけで……渚!」
僕は能力を使い、この場に渚を召喚した。
右手から放たれた光は人の形をとり、やがて、渚が現れる。
「へ!? な、なんで……あたし、砦で国の兵士たちと戦って……」
「渚!」
「彼方? え? なにこれ、どういうこと?」
「細かい話は後。今は、渚の馬鹿力を、あの王様におもいきりぶつけてやって!」
「馬鹿力って言わないでくれる!? あたしのは、能力なんだから!」
なんてことを叫びつつも、即座に渚は動く。
さすが、幼馴染。
僕が望むことをすぐに理解してくれて、的確に行動してくれる。
「はぁあああああっ!」
「なぁ!?」
渚はワンステップでハイアムの目の前に移動すると、全力を込めた正拳突きを繰り出した。
ちなみに、渚は空手の有段者。
お手本のような綺麗な正拳突きは、計り知れないほどの威力を秘めている。
ガシャアアアアアッ!!!!!
ガラス板を何枚も重ねて一気に叩き割るような、けたたましい音が響いた。
ハイアムの無敵の盾は、ここに破れた。
「これで終わり、僕を召喚したのは失敗だったね」
「ま、まてっ、わしと手を組もうではないか! その力と知恵があれば、世界を征服することも可能だ! その暁には、半分をおまえにやろうではないか!? だから……!」
「あいにく、もう予約済みなんだ」
銃を構えて、引き金を引いた。
「……」
あれだけ騒いでいたのに、最期は静かなものだ。
額に穴を開けたハイアムは、ぐらりと体を傾かせて……
ゆっくりと倒れた。
もう二度と、起き上がることはなくて……
ここに、戦いは収束する。
「「「オォオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!」」」
騎士たちの勝利の声が城からあふれ、街にまで響き渡るのだった。
――――――――――
ヘイズさんたちが勝利したことにより、反乱軍は解放軍へと名前を変えた。
王が倒れたことを知り、残りの兵士の大半は投降した。
忠誠が厚い臣下も多少はいたものの、儚い抵抗しかすることができず、すぐに鎮圧された。
突然の戦乱に、アスガルト王国の民は混乱したものの……
しかし、すぐに歓迎することになる。
やはりというか、ほとんどの民が愚王が繰り返す戦争に疲れ果てていたのだ。
魔族が危険な存在ではなくて、和平を結ぶことができると知ると、誰もが戦いの手を止めるよう口にする。
当たり前だけど、戦争を望む者なんてごくごく少数だ。
そのことを最後まで理解できなかったハイアムは、死ぬべくしで死んだのだろう。
ある意味、哀れな王だ。
まあ、同情はしないけどね。
個人で復讐をするならともかく、他人を巻き込み、国そのものを巻き込むなんてありえない。
為政者であるのならば、なおさらだ。
次の指導者は、満場一致でヘイズさんが選ばれた。
ヘイズさんは、自分はそのような器ではないと辞退しようとしていたが……
この際、王としての能力の有無は関係ない。
皆を率いて革命を成功させたリーダーとして、旗印にならなければいけない。
でなければ、すぐに国は混乱してしまう。
就任式は後々になるが、ヘイズさんは新しい王として玉座についた。
そんな彼と魔王軍は和平を結び、ようやく平和を勝ち取ることができたのだった。