26話 王都決戦・その2
「召喚……?」
「つまり……」
前々から不思議に思っていたことがある。
ハイアムは、僕や渚……その他の勇者を簡単に使い捨てられるほどに、何度も何度も召喚を繰り返していた。
どんな原理かわからないけど、そんなことが簡単にできるわけがない。
個人でものすごい力を持っているか……
あるいは、力を補うような、巨大な施設が建造されているか。
僕は後者だと睨んでいた。
この世界に召喚された時、僕は玉座の間にいた。
渚も、玉座の間に召喚されたという。
そして、玉座の間には、王を称えるような豪華な装飾だけではなくて、なぜか、魔術的な意匠も施されていた。
ここまで揃えば、自ずと答えは出てくる。
玉座の間そのものが召喚装置として設定されているのだ。
次々と増援が現れたのは、離れたところにいる兵士を順番に召喚していたのだろう。
だからこその、あの自信。
だからこその、あの余裕。
少数である俺たちを見たハイアムは、次々と召喚を繰り返すことで、物量で叩き潰せると思っていたのだろう。
まあ、なにかしら企んでいるであろうことは読めていたので、叩き潰させてもらった。
ああいう輩はとんでもなくしつこく、諦めが悪い、って相場が決まっているからね。
「突入する前から、そこまで読んでいたというのか……それで、寄り道をして罠をしかけておいたのだな? むう……カナタは強いだけではなくて、全てを見通すような知恵を持つのだな」
「まったくですね、恐ろしい……イッシキ殿が敵でなくて、心底安堵していますよ」
二人の顔が若干引きつっているのは気の所為かな?
心配しなくても、僕は二人と敵対するつもりはないよ。
「それじゃあ、結果を確認しようか」
扉を開けて玉座の間に戻る。
玉座の間は、見事に崩壊していた。
天から隕石が降ってきたかのように、部屋の中央に大きな穴が空いていて、下の階が見えていた。
調度品などは、怪獣が暴れ散らかしたかのように、全てがなぎ倒され、壊されている。
玉座なんて、跡形もないくらいに粉々になっていた。
そして、昏倒している騎士たち。
あちらこちらに倒れていて、数を数えるのも面倒だ。
「王さまはどこかなー?」
銃を片手に、瓦礫の中を見て回る。
もしも逃げられたりしたら、かなり面倒なことになる。
再起を図られるかもしれないし、王族しか知らない秘密兵器があるかもしれない。
なので、ここで確実にトドメを刺しておかないと。
「なんか、今のカナタは、執拗に追いかけてくる死神みたいで、ちと怖いぞ……」
「迫力がありますね……」
「二人共、変なことを言ってないで、一緒にハイアムを探して」
「「はい!」」
二人はものすごく綺麗な敬礼を決めてみせた。
「ぐっ……!」
瓦礫が押しのけられて、ハイアムが姿を見せた。
どうやら生きていたらしい。
「そちらから現れてくれるなんて、サービスがいいね」
「小僧、貴様ぁ……! わしが面倒を見てやった恩を忘れ、このようなことをするとは……!」
「恩? なに言ってるの? 勝手に異世界召喚しておいて、しかも、無理矢理に戦わせて、さらにひどい待遇をしておいて……そんなことで恩を感じるわけないでしょ。あなた、ひょっとして共感性能力に欠けている?」
「おのれぇえええええっ!!! 生かして帰さぬぞっ、いいや、殺すだけでは物足りぬ! その肉、その魂、粉々に切り裂いてくれるわ!」
激怒するハイアムは目を血走らせて、口角から泡を吹き出していた。
クロエよりも、よっぽど魔王らしい。
ただ……ここまで追い詰められているのに、まだ殺すと口にしている。
それは、怒り故に状況を確認できなくなっているのか?
あるいは、余裕なのか?
どちらにしても、早く終わりにした方がよさそうだ。
僕は銃を構えて、引き金を引く。
乾いた音と共に弾丸が発射されて、ハイアムの額を撃ち抜いて……
キィンッ!
「うそだぁ!?」
ハイアムに当たる直前、銃弾が弾かれた。
まるで、透明な壁がハイアムの前に設置されているかのようだ。
「くくく……わしがなにも備えていないと思っていたか? 呑気に構えていると思っていたか? 笑わせてくれる!」
ハイアムが勝ち誇るように笑う。
その体には、オーラのようなものがまとわりついていた。
あれがハイアムに妙な力を与えているのだろうか?
「ふんっ、ならば我の攻撃を食らうがいい!」
続けて、クロエのターン。
漆黒の球体が手の平から放たれて、ハイアムに迫る。
老躯を飲み込むように、漆黒の球体が巨大化するが……
キィンッ!
再びガラスが割れるような音が響くと、攻撃が無効化されてしまう。
「な、なんだと!?」
クロエにとっては必殺の攻撃だったらしく、防がれたことで動揺を露わにする。
「バカな、我の上級闇魔法を防ぐとは……直撃すれば、その身だけではなくて、城ごと吹き飛ぶような威力なのだぞ!?」
「うん、そんなものをほいほいと使わないようにね?」
「あいたぁ!?」
クロエにおしおきのチョップをしつつ、しかし、視線はハイアムから外さない。
「さあ、死ぬがいい!」
ハイアムが腕を薙ぐ。
左から右へ。
その軌跡に従い衝撃波が発生しれ、荒れ狂う嵐となって俺たちを飲み込む。
「おふたりとも、私の後ろへ!」
俺たちをかばように、ヘイズさんが前に出た。
盾を構えて、しっかりと床を踏みしめて、衝撃波に耐える。
助かった。
ハイアムの攻撃は思った以上に早く、対処が間に合わないところだった。
それにしても……この力はいったい?
追い詰められて、突然、力に覚醒した……なんて都合のいい展開が?
だとしても、人の身を超えている。
勇者とかならば納得だけど、ハイアムは普通の人間のはずで……ん?
「むううう、なんなのだ、あの人間は。いきなり強くなって、反則なのだ! いったい、なにがどうなっている?」
「……ああ、そうか。なるほど、そういうことか」
「カナタよ、なにかわかったのか?」
「推測になるけどね」
「聞かせてくれ。今は、現状を打破するための情報が一つでも欲しい」
「あの力は、勇者のものだ。その力をどこから得たかっていうと、召喚によるものだと思う。召喚装置を破壊する前に……いや、それよりももっと前かな? こういう事態を想定して、自分の体に力を降ろしていたんだろうね」
僕のように、召喚した勇者が全員従順とは限らない。
召喚されたその場で暴れだすという可能性もある。
召喚時は、大量の兵士を同席させるなどの対策を講じていたが……
最大最強の切り札は、ハイアム自身なのだろう。
あらかじめ、自身に力を降ろしておいて……
いざという時は、その力を行使する。
ハイアムは誰も信じていない。
だからこそ、最大の力は自身が手にする。
滑稽な王だ。
「では……ヤツは、勇者を制圧できるような、勇者以上の力を持っているというのか?」
「だと思うよ。それ故の自信、それ故の切り札」
「敏いな、勇者よ。その知識、その力。わしのために使えば、もっと長生きできたものを……どうだ? 今からでも遅くはない。わしに忠誠を誓うがいい」
「あなたに仕えるなんて、心底ごめんだね」
「それは、我ならばよいということな? のう?」
「うん。クロエならいいよ」
「お、おぅ……まともに答えられるなんて……はぅ、照れてしまうぞ」
こんな時でも、クロエはマイペースだ。
でも、そんなところが頼もしくもある。
「所詮、愚者は愚者か……そのまま死ぬがいい」
ハイアムが悪意と敵意をぶつけてきて……
僕たちは、それぞれ構えて……
最終決戦がスタートする。




