25話 王都決戦・その1
「国の未来のため、民のため……王よ、あなたを斬る!」
まず最初にヘイズさんが飛び出した。
重い鎧を着ているとは思えない速度で駆けて、そのまま剣を突き出す。
驚くべきことに盾を貫いて、一人の騎士を倒した。
戦うところは初めて見るんだけど……
この人、とんでもない実力を持っている。
盾を貫通させる攻撃なんて、普通、できるわけがない。
「おおおぉ!」
ヘイズさんの部下たちも突撃を開始して、敵と激突する。
さすがにヘイズさんほどの力はないものの、それでもなかなかのものだ。
一対一に持ち込めば、かなりの確率で敵を圧倒している。
質はこちらが勝っている。
しかし、数は相手が上だ。
大きな差ではないため、うまくいけば押し切ることはできるけど……
下手をすれば、そこそこの確率で、逆に押し込まれてしまう。
でも、そんなことは僕とクロエが許さない。
「ふはははっ、我が力に恐怖しろ! 絶望するがいい! 我こそは、魔王クロエ・サタナエル! 漆黒の闇にて、汝らの心を飲み込む者なりっ!!!」
クロエはノリノリで魔法を連打していた。
バスケットボールくらいの黒い雷撃が、敵兵を次々と打ち倒していく。
すごい。
みんな一撃だ。
中には盾や魔法で防ごうとする人もいるけれど、そんなものは意味ないというように、黒の雷撃は全てを貫いている。
クロエ……強かったんだなあ。
魔王になるくらいだから、弱いとは思っていなかったけど……
でもさ、普段が普段じゃない?
だから、強いけどドジとか、肝心なところでミスをするとか、そんな失礼なことを考えていたんだよね。
でも、実際はそんなことはなくて……
たっぷりの余裕をもって、歴戦の騎士たちを打ち倒していく。
なかなかできることじゃない。
「どうだ、カナタよ!? 我は強いだろう!? 惚れ直したか!?」
戦いの最中なのに、僕に対するアピールも忘れていない。
ホント、余裕あるなあ。
「惚れ直すかはともかく、強いと思うよ」
「やったのだ! カナタに褒められたのだ!」
「がんばろう」
「うむ、がんばるぞ! そして、もっともっとカナタに褒めてもらうのだ!」
やる気いっぱいのクロエは、さらにハイペースで魔法を乱打した。
時折、ヘイズさんを巻き込みそうになっているが、手は止めない。
ちょっとしたハイになっていて、本人もそのことに気づいていないのだろう。
こうなったクロエは、僕でも止められないような気がした。
というか、僕も巻き込まれそうだ。
ヘイズさんには申し訳ないが、自力でなんとかしてもらおう。
「さてと」
僕もがんばらないといけない。
拳銃を召喚して、襲い来る騎士たちを撃ち抜いていく。
この世界、まだ鉄というものが普及していない。
武具のほとんどが青銅だ。
そんなもので鋼鉄の弾丸を受け止められるわけがなくて……
銃弾は盾や鎧を貫通して、騎士たちの命を奪う。
騎士は愚かな王に従っているだけ。
それなのに、命を奪うのはひどい、なんて思う人もいるかもしれない。
でも、ここで手加減をするなんていう選択肢はない。
前にも言ったけど、これは戦争だ。
命のやりとりをするのが当たり前の場所である。
第一、騎士という職業を選んだのは、その人自身なのだ。
他に選択肢がなかった、という人もいるかもしれないけど……
そんな事情は、ぶっちゃけ、僕は知らない。
仕方なく、で人を殺すのなら、そもそも騎士なんてやるな。
望んでいないのならば、まずは自分が死んでほしい。
仕方ないからといって、他人を殺そうとする時点で、その人に正義なんてものは欠片もないのだ。
だから、遠慮なく戦う。
迷うことなく殺す。
「にしても……?」
数が多いな?
護衛の騎士は十人ちょい。
それだけの数は、もうとっくに倒したはずなんだけど……
未だ、敵の姿は残っている。
というか……十人以上に増えている?
「イッシキ殿、これはいったい……?」
ヘイズさんも異常を感じ取り、部下と共に、一度戦線を下げた。
クロエも牽制の魔法を放ち、距離を取る。
そんな僕たちを見て、ハイアムがニヤリと笑う。
「気がついたようだな」
「騎士の数が減っていない気がするんだけど……これは、あなたの仕業かな?」
「さてな。わしから言えることは、ただ一つ。我が国のため、おとなしくこのまま死ぬがいい。貴様のような使えない勇者はいらぬ」
「お断りするよ」
ハイアムは、自身が優位に立っていると思っているのだろう。
その証拠に、口元に抑えきれない笑みが浮かんでいる。
他者より上に立ち、なぶり、そんなことで優越感を覚える。
救えない王だ。
さて。
そんな王に、その認識が間違っていることを教えてあげないと。
「クロエ、ヘイズさん。一度退くよ」
小声で二人に言う。
「なんだと? 我はこの程度でやられたりはしないのだ。敵がどれだけいようと、全て薙ぎ払ってくれるのだ」
「それは疲れるでしょ。もっと良い方法があるから、僕に任せてくれないかな?」
「むう……カナタがそう言うのなら、わかったのだ」
クロエは納得してくれた。
さて、ヘイズさんの方は……?
「わかりました。部下たちも全員、ですね?」
すぐに了承してくれる。
しかも、こちらが望んでいることも見抜いてくれるという、優秀っぷり。
この人、魔王軍に欲しいな。
寝返ってくれないだろうか?
まあ、そんな交渉は後で。
今は、ハイアムをぎゃふんと言わせてやろう。
「二人共、合図で」
「うむ」
「はい」
心の中でカウントを開始。
5……4……3……2……1……
「今っ!」
僕の合図を受けて、クロエとヘイズさんはすぐに部屋の外に出た。
やや遅れて、味方の騎士たちが続く。
少し遅いけれど、許容範囲。
最後に、僕が部屋の外に出て……
「さようなら」
笑顔で扉を閉めた。
扉の向こうから、ハイアムが「逃がすな!」と叫ぶのが聞こえてくる。
でも、ハズレ。
逃げたわけじゃないんだよね。
ただ、玉座の間に留まると巻き込まれるから、退避しただけ。
「というわけで……これで終わり、っと」
玉座の間の真下の部屋に設置した爆薬を、遠隔で起動する。
ゴォッ! という轟音が響いて、地震が起きたように建物が揺れた。
続けて、扉の向こうから無数の悲鳴が聞こえてくる。
それを耳にしたクロエは、唖然としつつ、問いかけてくる。
「カナタよ……いったい、なにをしたのだ?」
「真下の部屋を爆破して、玉座の間を崩落させて、一網打尽にしたんだよ」
「なんと、まあ……」
呆れるような感心するような、そんな微妙な顔になる。
「あの……イッシキ殿は、こうなることを予想していたのですか?」
「うん、ある程度は」
普通、本拠地に攻め込まれた場合、王のような重要人物はシェルターなどに退避する。
それをしないで玉座の間に留まっていたということは、そこが一番安全だということ。
ならば、そこをまとめて全部、吹き飛ばしてしまおう……というのが、僕の考えだ。
多少、あらっぽいものの、まあ、なんとかなったと思う。
「しかし、次から次に敵が湧いてきたのは、なんだったのだ? うっとうしくて、仕方なかったぞ」
「ああ、あれは……」
「カナタは心当たりがあるのか?」
「根拠のない推測になるけどね。でも、ほぼほぼ間違いないと思っているよ」
「おお、さすがカナタなのだ! で、あれはなんなのだ?」
「召喚だよ」