24話 玉座の間の支配者
ヘイズさんの演説により、多数の敵がこちらに寝返った。
しかし、まだ王に味方をする者は多い。
こちらの話を信じていない者……
王がもたらす利権にしがみついている者……
王が玉座を降りるようなことになれば、非常にまずい事態になる者……
それらの人は、未だこちらに剣を向けてきている。
その人たちは、もうどうすることもできない。
邪魔をするというのなら、排除するだけだ。
中には、やむを得ず、という人もいるかもしれないけど……
だからといって、こちらがやられてやる義務も義理もない。
この戦い、遊びでやっているわけじゃない。
魔族の生き残りをかけてしていることだ。
それを邪魔しようというのならば。
なおかつ、戦場に立つというのならば。
その生命、遠慮なく刈り取らせてもらう。
「というわけで、さようなら」
こちらに向かってくる兵士たちを、銃で打ち倒した。
敵兵は、皆、鎧兜を身に着けているものの……
それらの素材は青銅だ。
銃撃を防げるわけもなく、次々と倒れていく。
「す、すごいですね……」
ヘイズさんが感心するような恐れるような、そんな微妙な声をこぼした。
「イッシキ殿は策だけではなく、優れた武勇もお持ちとは」
「うーん。これは武器によるものだから、僕の力ってわけじゃないんだからね」
「カナタよ、謙遜するでないぞ。その武器は、確かにすさまじい性能を持つが……選ばれた使い手でないと、まともに扱えぬだろう?」
そう言うクロエは、銃の試し打ちをした時のことを思い出しているのだろう。
銃は簡単に撃てるけど、上手く扱えるかどうかはまったくの別問題だ。
慣れていないと、的に当てることはかなり難しい。
それどこか、反動で手や腕を痛めてしまうこともある。
クロエの場合は、僕のいたずらでマグナムを渡したため、引き金を引いた瞬間、反動でひっくり返っていた。
……うん、ごめんなさい。
あの時のことは反省しています。
とまあ、そんな経験があるからなのか、クロエは銃のことを、呪われた魔剣のように語る。
それを聞いたヘイズさんは、僕を見る目に尊敬の色を宿して……
うーん、居心地が。
「そ、それはともかく」
こそばゆい気分なので話を別のものに移動させる。
「ヘイズさん。王がいるところまで、あとどれくらい?」
「あと少しです。5分とかからないでしょう」
「敵の戦力はわかったりするかな?」
「この騒ぎです。向こうも防衛のために、城中の兵力を集めていると思います。ただ、主力部隊はエクスエンド攻略に出ているため、それほど質は高くないかと」
なら、このメンバーでも問題ないかな?
一応、最大戦力としてクロエがいるし……
……あれ?
そういえば、クロエがまともに戦うところを見たことがないな。
実力社会の魔族の中で、魔王を務めているんだから、けっこう強いと思うんだけど……うーん。
普段のクロエを見ていると、ちょっと……いや。
けっこう不安になってしまう。
あと……
王について、ちょっとした懸念事項があるんだよね。
なので、保険をかけておくことにしよう。
「ヘイズさん。王がいる玉座の間の、真下の部屋に案内してもらえる?」
「え? あ、はい。わかりました」
寄り道をして、玉座の間の真下の部屋へ。
真下は客間になっていた。
客間にしては広く、パーティー会場? と間違えるほどだ。
たぶん、上に玉座の間があるため、設計上の都合、こうなってしまったのだろう。
「これでよし、と」
とあるものを召喚して、客間に設置。
ヘイズさんに、この部屋に誰も立ち入らせないように頼み……
再び歩みを再開。
僕たちは、玉座の間に突入した。
「……騒々しいな」
玉座に座るアスガルト王国、国王。
ハイアム・ネス・アスガルドは、突然の乱入者に驚くことはなく、眉をぴくりとも動かすこともなく、ただ一言、そうつぶやいた。
なかなかの度胸だ。
これだけの騒ぎの中、まったくうろたえていないなんて。
王を務めるだけの強い心は持っているかもしれない。
ただ、それが正しい方向に向いていたかというと、そうではない。
「貴様らっ、陛下の前で無礼であるぞ!」
護衛らしき騎士が十人ほど。
剣の柄に手を伸ばして、いつでも抜剣できるように構えつつ、鋭く叫んだ。
しかし、それくらいで怯む者はこちらにはいない。
むしろ、ヘイズさんがそれ以上の声量で、それ以上の迫力を持って、弾劾の言葉を放つ。
「意味のない戦争を続ける愚かな王、ハイアム・ネス・アスガルドよ! あなたは、もはや王の器にあらず。素直にその玉座から降りるというのならば、命まではとるまい。しかし、あくまでも権力に執着して、愚かな妄想を広げ続けるというのならば、この場で斬り捨ててくれよう!!」
「……愚かな」
刃のように鋭いヘイズさんの言葉に、しかし、ハイアムはまるで動揺を示さない。
それどころか、ヘイズさんを憐れむようなため息をこぼしてみせた。
「わしは、この国を思えばこそ、戦争を続けていたのだ。民を思えばこそ、魔族を滅しようとしていたのだ。その思いを履き違え、このような暴挙に出るとは……私利私欲に走っているのはどちらだ?」
自分こそが正しいと言うように、ハイアムは逆に問い返してきた。
その態度からは、絶対的な自信が見える。
いや。
自信というよりは、盲信に近いものだろうか?
他になにも信じることなく、自分こそが絶対的に正しいと信じて疑わず……
僕からしたら、独りよがり極まりない感情だ。
さすがというか、なんというか……
異世界の人を召喚して、自分たちの代わりに戦わせよう、なんてことを考える人らしい。
とても、らしい。
なにも変わっていない。
僕をこの世界に召喚した時から、なに一つ、変わっていない。
安心した。
これなら、思う存分にやることができる。
「やあ、王様」
「む?」
ヘイズさんには悪いけど……
ここからは、僕のターンだ。
勝手に異世界に召喚されて、戦いを強要されて、虐げられて……
恨みがないわけがない。
それなりの報復をさせてもらうとしよう。
「久しぶりだね。僕のこと、覚えている?」
「お前は……見覚えはあるが、誰だ? 思い出せないな」
「さすが、王様。用がなくなった人のことは、あっさりと忘れるなんて。清々しいほどのクズだねえ」
「貴様……!」
さすがのハイアムも、真正面からクズと言われれば怒るみたいだ。
こちらを睨みつけている。
でもね?
怒っているのはお前だけだと思うなよ。
クロエのような女の子をいじめて……
魔族の人たちを迫害して……
そして、大事な幼馴染である渚も巻き込んだ。
ふざけたことをしてくれた礼、必ずしてみせる。
「なにも知らぬ愚か者ばかりか……まったもって、愚者というのは理解できないな。大義が、正義がどちらにあるか理解できぬとは。いいか? このわしは、魔族のせいで辛く苦しい時代を……」
「あー、そういうのいいから」
「む?」
「自分はこんなに不幸なんだ、かわいそうなんだ。だから、ひどいことをしても仕方ないよね。そんな話、興味ないんだよ。あなたの自分語りなんて、どうでもいい。第一、ひどい目にあったからといって、それを周りにも押しつけていい道理なんてないんだ。あなたがやっていることは、ただ、子供がわがままで暴れている……それだけだ」
「貴様ぁあああああっ!!!」
今度こそ、ハイアムは完全に怒ったようだ。
目を血走らせるようにして睨み、口角から泡を吹き飛ばすような勢いで叫ぶ。
「……」
ふと、クロエがぽかんとしているのが見えた。
「どうしたの?」
「お、おおう……カナタは怒ると怖いのだな」
「そう?」
「うむ。我が怒られたわけではないのに、ちょっと、漏らしてしまいそうになったぞ」
女の子がそういうことを言わないで。
「でも、今のカナタはかっこよくもあり、頼もしいのだ」
「任せてくれていいよ」
「そういうわけにはいかないのだ。カナタに任せるだけではなくて、隣に立つ者として、我も働かなくてはな。そもそも、これは魔族のための戦いでもある。ならば、魔王である我が先陣に立たなくてはいけないというもの」
「クロエはしっかりしているね」
「おぉ、カナタに褒められたのだ! やる気100倍、殺る気1000倍なのだ!」
今、物騒な言葉を使わなかった?
いや、まあ、僕がどうこう言える立場じゃないんだけどね。
「イッシキ殿、サタナエル殿。私も一緒に……!」
ヘイズさんが剣を構えた。
それに合わせて、僕も銃を抜く。
「その者たちを皆殺しにしろ!」
ハイアムの命で騎士たちが動いて……
玉座の間の決戦が開かれる。