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22話 肉を切らせて骨を断つ

 高台に登り西の方を見ると、アスガルド王国の軍勢が見えた。

 地平線の彼方まで埋め尽くすほどの数だ。

 それを見た渚は、思わずため息をこぼしてしまう。


「まったく……あんな数を相手しろなんて、彼方のヤツ、実はドSなのかしら?」


 渚はエクスエンドの防衛を任された。

 指揮権を完全に譲渡されて……

 与えられた兵士の数は、魔王軍の9割。

 ほぼほぼ全軍を与えられることに。


 それでも足りない。

 敵軍は、こちらの3倍。

 勇者である渚がいても、圧倒的な物量に押し潰されてしまうのがオチだ。


 だから、この戦いで勝利は求めない。

 ただただ、ひたすらに耐えて、時間を稼ぐ。

 それだけだ。


「あたしらがここで敵軍の主力をひきつけているうちに、彼方たちが王都に潜入……そのまま王城を攻めて、王を討ち取る。確かに、それが成功すれば、この戦争はあたしたちの勝利になるけど……」


 彼方から聞かされた作戦を思い返して、渚は微妙な顔になる。


 敵軍の主力は、エクスエンド攻略に大半が割かれている。

 しかし、王都の兵がゼロになるわけではない。

 それなりの数が、未だ、配置されているだろう。


「王城になると、もっと兵士がいるはずだし……彼方のヤツ、そんなところを、どうやって攻略するつもりなのかしら?」


 彼方が連れて行った兵士は、魔王軍の総数の1割ほどだ。

 それと、クロエとメリクリウスの二人。

 たったそれだけで、なにをしようというのか?

 どのようにして、敵軍を突破するというのか?


「あー……ダメ、わからないし」


 考えても考えても答えは見つからず、渚は思考を放棄した。


「アイツ、昔から妙なところで大胆になるし……きっと、とんでもないことを考えているわ」


 そんなとんでもない策に突き合わされるクロエとメリクリウス……

 渚は、二人にちょっとだけ同情した。


「サラシナ殿! 敵軍に動きがありました」


 部下としてあてがわれた魔王軍の将軍から、そんな報告を受けた。

 渚は、ちらりと将軍を見る。


 ぴしっと、綺麗な敬礼をして報告をしていた。

 こちらに対する侮りや、人間にぶつけるような敵意などはまるで感じられない。

 それどころか、敬意すら持っているように見えた。


 渚は知らないが……


 魔族は実力こそ全て、という考え方がある。

 それ故に、まだ幼く、女の子であるクロエが魔王に就いているのだ。


 渚は元敵であり、勇者ではあったけれど……

 その力は圧倒的。

 小細工なしだとしたら、彼方やクロエにも勝利するだろう。


 その力を認められて、魔王軍の兵士たちは渚を頼りにしていた。

 信頼することに決めていた。


「……ま、悪くないわね。少なくとも、彼方にひどいことしたあんな王より、この人たちのためにがんばろう、っていう気になるわ」

「どういう意味でしょう?」

「ううん、なんでもないわ。気にしないで」

「はあ……」

「それよりも、迎撃するわよ。ただし、あくまでも、ここを守り、時間を稼ぐことが第一目標ということを忘れないで。決して無理はしないこと。それを、全員に徹底させてちょうだい」

「はっ!」

「それじゃあ……いくわよ!」


 こうして、エクスエンド防衛戦が開始された。




――――――――――




「そろそろ、エクスエンドでの戦いが始まった頃かな?」


 エクスエンドの方の空を見つつ、ぽつりとつぶやいた。


 僕たちは今、王都の手前にある平原に潜んでいた。

 敵軍の大半が出払っているのだけど、これ以上近づけば、さすがに気づかれてしまう。

 なので、合図があるまではここで待機だ。


「むう……カナタよ。あの女が心配なのか? 我というものがありながら、他の女のことを気にしているのか?」


 僕のつぶやきを聞き逃さなかったクロエが、子供のように頬を膨らませていた。

 かわいい。

 とても魔王とは思えないな。


「前々から聞こうと思っていたのだが、ナギサはカナタのなんなのだ? 知り合いとは聞いているが、どのような関係か、それは聞いていないぞ」

「ヤキモチ?」

「……そうなのだ」


 ツンデレみたいに否定されるかと思いきや、クロエは素直に認めた。


「我は、カナタが好きなのだ。それなのに、他の女のことを気にされたら、モヤモヤしてしまうのだ……あううう、でもでも、こんなことを言うとめんどくさいとか重いとか思われてしまいそうで、今までは黙っていたのだ。でもでも、やっぱりもう限界なのだ!」


 乙女心全開で、クロエは頬を染めつつそんなことを言う。

 正直なところ、ぐぐっと来た。

 仕方ないよ。

 クロエみたいなかわいい女の子が、こんないじらしいことを言うなんて。

 普通の男なら、一発でノックアウトされていたと思う。


 でも、僕は我慢した。

 努めてなんでもないフリをしつつ、質問に答える。


「渚は幼馴染なんだ。家が隣同士で、物心ついた時からの付き合いで、いつも一緒に遊んでいたよ」

「むう、むううう、いつも一緒に……」

「この世界に召喚される前も、いつも一緒にいたんだけどあいた!? いたたたっ」


 気がつけば、頬を膨らませたクロエに脇をつねられていた。


「モヤモヤするのだ! そんなことを聞かされる我の身になるがいいっ」

「そんなことを言われても……」

「カナタは……ナギサのことが好きなのか?」

「んー……そういう気持ちはないかな。ずっと一緒にいたせいか、妹とか、そんな感じに思っているよ」

「そ、そうか……ふむ、それならばよいのだ! ふはははっ」


 模範的な回答を受けて、なぜかクロエが高笑いした。

 気分が高ぶっているのかもしれない。


 ……本当は、渚が中学生になった辺りから、女の子として意識している。

 いくら幼馴染だとしても、なんだかんだで女の子なのだ。

 思春期の男として、意識しないということは無理。


 でも荒れそうなので、黙っておくことにした。


「ところで」


 成り行きを見守っていたメリクリウスさんが口を開く。


「結局、どのようにして王都を攻めるのですか? 敵の大半は出払っているとはいえ、空になったわけではありません。それなりの数がいるでしょう。対する我らは、ごくごく少数。戦いになれば、勝ち目はないでしょう」

「大丈夫だよ。きちんと仕込んでおいたから」

「仕込み?」

「合図が来れば、すぐに突撃するんだけど……」

「合図?」

「そう。これから攻めてもいいですよ、っていう感じの合図。この前、王都に行った時にしこんでおいたんだ。そろそろ合図が来てもいいはずなんだけど……」


 その時だった。

 信号弾のような火花が王都から打ち上げられて、空高くに消えた。


「カナタ、今のは……!?」

「うん、合図だ」

「今のは王都内部からですね? いつの間に、部下を潜ませていたのですか?」

「部下じゃないよ。協力者だ」

「協力者?」

「行こう」


 不思議そうにするメリクリウスさんと、それとクロエと兵士たちを連れて、王都に向かう。

 敵兵に見つかっても不思議ではない距離なのだけど……

 迎撃のための兵が出てきたり、弓などで射られることはない。

 全て、順調にいっているということに他ならない。


「むう? なぜ敵兵が迎撃に出てこないのだ? これだけ近づけば、とっくに感知されていると思うのだが……」

「それと……内部の方から、なにやら騒がしい音がしていますね。いったい、どういうことなのでしょう?」


 不思議そうにする二人を連れて、僕たちは王城のすぐ手前に移動した。

 門は……開いている。


「なあ、カナタよ。これは罠なのではないか……?」

「ここまで不用心だと、逆に疑わしくなりますね」

「大丈夫、大丈夫。全部、うまくいっているから」


 不安そうになる二人を強引に連れて、門をくぐる。

 そんな僕たちの目に飛び込んできたのは……


「仲間割れ……?」


 アスガルド王国の鎧を着た兵士たちが、あちらこちらで戦い合っていた。

 門から堂々と侵入したこちらに気をとめることもなく、同士討ちをしている。


「ど、どういうことなのですか……?」

「革命だよ」

「革命……ですか?」

「右腕にバンダナを巻いているのが革命軍で、僕らの味方。メリクリウスさん。兵士のみんなと一緒に、彼らの援護をしてあげて」

「えっと……わ、わかりました。行きますよ、みなさん!」


 深く考えることや、説明を求めることは後回しにしたらしい。

 メリクリウスさんは、言われた通りに部下を連れて、戦いに参加した。


「カナタ、どういうことなのだ?」

「この前説明したけど、この国の王は、私怨で戦争を続けているというとんでもない愚か者だ。そんな王の下で暮らしている人は、普通に考えて不満が溜まる。それは、わりと限界に達していて……反乱が起きる寸前だったんだよ。事実、前に潜入した時に、革命軍を見つけることができた」

「まさか……その連中と手を組んだのか?」

「正解」

「ふむ、なるほどな……敵の敵は味方、ということか」

「僕たちも革命軍も、無意味な戦争をなくすという目的は共通していたからね。なら、協力できるんじゃないかと思って、この前、コンタクトをとったんだ。それで、同時に動いて、今日この日、国を落とすことにした。彼らの協力があれば、最小限の戦力で城を落とすことができる、っていうわけ」

「すごいな、カナタは……前に王都に来た時から……いや、それよりも前からこうなることを考えて、計画して、動いていたというのか」

「これだけを考えていたわけじゃないけどね」


 保険として、他にもいくつか策を考えている。

 なので、色々と考えた中、その一つがヒットしたような感じだ。

 そのことを話すと、クロエは呆れたような感心したような顔になる。


「複数を考えて、同時に動かす方がとんでもないぞ……むう、カナタの底が知れないのだ。本当に人間か?」

「変に思った?」

「いや。ますます惚れてしまったのだ!」


 こんな風に、ストレートに気持ちを表現できるクロエの方がすごい、なんてことを思う僕だった。

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新作投稿期間中ということで、新作を書いてみました!
こちらも読んでもらえるとうれしいです。
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