表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/28

21話 王の過ち

 ハイアム・ネス・アスガルド。

 アスガルト王国、23代国王。


 彼の王としての資質を一言で表すのならば、どうなるか?

 それは……暴君だ。


 為政者としての能力は問題はない。

 やや高慢であり、外交手腕に多少の難はあるものの、大きな問題なく国をまとめてきた。

 突出して優れたところはないが、愚劣というわけでもない。


 それが彼の評価ではあるが……

 ある時期を境に、ハイアムは暴君と化した。


 聖戦を謳い、魔族を相手に宣戦布告。

 税を倍以上に引き上げて、戦争を続けた。


 異世界から勇者を召喚して、コストを抑えているとはいえ、ゼロにはならない。

 人的資源、物的資源が減り続け……

 徐々にアスガルド王国は疲弊していくが、それでもなお、ハイアムは戦争を続けた。


 魔族にトドメを刺すわけでもなく。

 従属にするわけでもなく。

 ただただ、いたぶる。


 忠臣に諌められても、国が疲弊しても、そんなことは関係ないというように魔族を相手にした戦争を続ける。

 それこそが生きる意味だというように。


 故に、ハイアムは暴君なのだ。


「陛下」


 玉座の間にて、ハイアムは軍部のトップであるヘイズ・アッカバーンの報告を受けていた。

 ヘイズは、先の戦いで戦死したヘベクの息子だ。

 元々、一人の軍人として任務に励んでいたが……

 ヘベクの戦死により、軍部トップの座が転がり落ちてきた。


 ヘイズは思わぬ昇進に戸惑いながらも、己の務めを果たそうと、日々奮闘している。


「先の戦いにて、勇者サラシナが行方不明になりました」

「死んだのか?」

「捕虜になったか……あるいは、見つからないような場所で死んでいるか。どちらかでしょう」

「まったく、使えない勇者だ。せっかく、このわしが力を授けてやったというのに」


 異世界から勝手に召喚しておいて、戦いを強制していながら、この言葉。

 ハイアムの心の在り方が、そのまま言葉に出ているかのようだった。


「いかがされますか? 勇者さまを立て続けに失い、また敗戦を重ねたことで、我が軍の士気は低下。また、軍の予算も少なくなっており、これ以上の戦は……」

「税を上げればいい。それだけのことだろう」

「し、しかし、それは……」


 現状、かなり税を引き上げている。

 さらに増税となると、民の反発は必至だ。

 最悪の場合、反乱が起きるだろう。


 ヘイズはそのことを伝えて、考え直すように求めるが……


「戦を続けるには金が必要なのだろう? ならば、民から徴収しろ」

「ですが、今言ったように、これ以上は……」

「黙れっ!」


 ハイアムが玉座を叩き、その音で、ヘイズはビクリと体を震わせた。


「これは聖戦なのだ! 魔族を駆逐しなければ、我ら人類に未来はない。そのために、今は苦しくても戦うしかないのだ。それがわからない愚か者だというのか!?」

「い、いえ。そのようなことは決して……」


 聖戦だというのならば、なぜ、相手に猶予を与えるのか?

 なぜ、一気に殲滅してしまわないのか?

 なぜ、国を疲弊させてまで、いたぶるような真似をするのか?


 そのような言葉が、ヘイズの喉元までこみ上げてきた。

 しかし、それ以上は続かず、押し黙ってしまう。


 彼は実直で真面目な軍人ではあるが、真面目すぎる故に、己が仕える主に逆らうということは考えられない男だった。

 間違っていたとしても、歩み続けることしかできない。


「お前の父親は優秀ではあったが、魔族によって殺されてしまった。ならば、お前がすることはただ一つ……わかるな?」

「父の……仇を取ること、でしょうか?」

「そう、その通りだ。一匹でも多く、魔族を駆逐してくるがいい。そのために、また勇者を召喚しておこう」

「……はっ」


 この戦争はいつまで続くのだろう?

 この王はいつまで王であり続けるのだろう?


 不敬とわかりつつも、ヘイズはそう考えずにはいられなかった。


「そういえば、エクスエンドはどうなっている?」

「先日の作戦で取り返す予定でしたが……失敗してしまったため、魔族に占領されたままになっています。魔族の連中は、エクスエンドを砦として使用しているらしく、新たに防壁などが築かれている模様です」

「不愉快極まりないな」

「ただいま、奪還のための部隊を編成しているところです。数日中には完了して、出撃できるでしょう」

「うむ。期待しているぞ。そして……エクスエンドを奪還したのならば、燃やせ」

「……は?」


 ハイアムがなにを言っているのか理解できず、ヘイズは、ついつい間の抜けた声をこぼしてしまう。

 王の前でとんでもない失態だ。

 しかし、ハイアムは気にした様子はなく、言葉を続ける。


「エクスエンドは燃やせ」

「それは……火計をせよ、ということでしょうか?」

「それはそれで構わないが……とにかく、燃やせ。魔族のような汚らしい連中が利用した街など、そこにあるだけで許せぬ。全てを燃やし、魔族の痕跡を消すがいい」

「……」


 ヘイズは絶句した。

 エクスエンドは、魔族領に対する最前線基地として利用されていた街だが、軍事的価値が全てというわけではない。

 人が暮らす家があるし、畑もある。

 なによりも、エクスエンドを故郷と慕い、今も街に戻ることを夢見ている民がいる。


 それなのに、魔族が関わっただけで燃やしてしまうなんて……

 ヘイズの手がブルリと震えた。


「どうした?」

「……いえ、なんでもありません。王の御心のままに」


 ヘイズは頭を下げて……

 ハイアムに見えないようにしつつ、大きな決意をするような顔をした。




――――――――――




 情報収集に出かけて、破壊工作に出かけて……

 それから一週間後。


 そろそろかな?

 なんてことを思いつつ、部屋でのんびり過ごしていると、慌ただしい足音が聞こえてきた。


 バンッ、と勢いよく扉が開かれて、兵士が入ってくる。


「失礼しまぐあっ!?」

「本当に失礼なヤツなのだ、お前は!」


 クロエの投げた木片がヒットして、兵士が頭を抑えてうずくまる。

 涙目になっていて、かなり痛そうだ。


「ちょっとクロエ、なにしているの?」

「我とカナタの蜜月を邪魔する不出来な部下におしおきなのだ!」

「さすがにかわいそうだよ、渚じゃないんだから」

「ちょっと彼方、それどういう意味よ?」


 同じく、部屋に入り浸っている渚がジト目を向けてきた。

 この前、作戦に協力してもらったことで、捕虜から客将にランクアップした。

 僕と同じだ。


 正直言うと、クロエは渋っていたんだけど……

 アスガルド王国を落とすのにどうしても必要だ、と説得したところ、渋々ながらも了承してくれた。


 僕がされてきたことや王国の内情を知り、渚も未練なく寝返ってくれた。

 これで、こちらがわの戦力がさらにアップして……

 前々から考えていた作戦が実行できるようになった。


「それで、どうしたの?」

「はっ……偵察部隊が、人間の軍を発見したとのことです。前回と同じように、敵はアスガルド王国。目的は、エクスエンドの奪還かと思われます」

「勇者はいる?」

「もうしわけありません。かなりの数のため、ハッキリとしたことは確認できず……しかし、イッシキ様やサラシナ殿のような外見、特徴を持つ人間は、今のところ確認しておりません。勇者が紛れ込んでいる可能性は、低いとは言えませんが、高いとも言えないかと」

「ふむふむ」


 これは……待ち望んでいたチャンスが来たかな?


「ま、まずいぞ、カナタよ。エクスエンドの防衛網はまだ完成しておらぬ。大軍で攻められれば、かなり厳しい戦いになるぞ」

「うん、そうだね」

「……慌てておらぬな? まるで、このことを予想していたかのようだ」

「予想していたよ」


 魔族を迫害することが目的で戦争を起こすような相手だ。

 エクスエンドが占領されたなら、全力で取り返しに来ることは当たり前のこと。


 それに、渚の時に失敗しているから、さらなる大軍を投入することも想定していた。

 全部、思い描いていた通りに事態が推移している。


「敵軍の数は?」

「完全に把握できていませんが……おそらく、我が軍の10倍以上かと……」

「じゅ、10倍だと!?」


 クロエが大きな声をあげた。

 その気持ちも、わからないでもない。


 街を守るには、敵の三分の一の戦力で済むと言われているが……

 10倍となると、明らかなキャパシティオーバーだ。

 僕と渚、勇者の能力をフル活用しても戦況を覆すことはできない。

 詰みだ。


 ……と、普通ならそう思うかもしれない。


「ど、どうするのだ、カナタよ?」

「この状況を利用して……アスガルト王国の中枢を壊滅させる」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿期間中ということで、新作を書いてみました!
こちらも読んでもらえるとうれしいです。
↓のリンクから飛べます。
天使学校の子供先生~スキル「年上キラー」で、最強天使たちを魅了します~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ