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13話 訓練改革

 魔王城は寒い日が続いていた。

 こたつの魅力に囚われたクロエは、毎日のように、僕にヒーターユニットを要求するんだけど……

 このままだと引きこもりになりそうな気がしたので、一週間に一度だけにしておいた。

 クロエが涙目で怒ったものの、甘やかさないで、我慢した。


 それはともかく。


 寒い日が続いているけれど、働く人は働いている。

 その筆頭がメリクリウスさんだ。




――――――――――




「よしっ、いいぞ! その調子で、次は素振り千回だ!」


 魔王城の中庭で、メリクリウスさんの指導の元、兵士たちの訓練が行われていた。

 かなり寒いんだけど、皆、めげることなく剣を振っている。

 気合たっぷりだ。


「……それはいいんだけど」


 傍らで訓練を眺めつつ、ふと思う。

 この訓練……ものすごく無駄じゃないかな?


「なにが無駄だと言うのですか?」


 メリクリウスがんがこちらを見た。

 たぶん、仮面の下は僕を睨んでいる。

 しまった、無意識のうちに声に出してしまっていたみたいだ。


「魔王様に対して失礼を働くだけではなくて、今度は私にケチをつけにきたのですか?」

「クロエに失礼をしたことなんてないよ?」

「名前で呼んでいることが失礼なのです!」


 言われてみれば、その通りだ。

 僕は、最近魔王軍に加入したばかりの新人。

 一番の下っ端。

 そんなヤツがクロエを呼び捨てにするなんて、失礼極まりないだろう。


「でも、クロエがいいって言っているから、やめないけどね」

「くっ……この人間、殴りたいです!」

「ホントに殴らないでね? そんなことされたら、たぶん、骨折するから」


 召喚という能力で、ある程度、戦うことはできるけど……

 肉体の強度がすごいとか、そういうわけじゃないんだよね。


 メリクリウスさんみたいな武闘派……

 しかも、やたら頑丈そうなフルアーマーに身を包んだ状態で殴られたら、とんでもなく痛そうだ。


「邪魔をするなら帰ってくれませんか?」

「うーん」


 邪魔をするつもりはないけど……

 魔王軍の一員として、できることはしておこうと思う。


「メリクリウスさんが今、している訓練だけど、ちょっと効率が悪いような気がするんだ」

「やはり、ケチをつけにきたのですか……!」

「ケチとかそういうのじゃなくてさ。僕なりのアドバイスだよ」

「誰があなたのような者のアドバイスなんて……と普段なら言うところですが、一応、あなたがそれなりの成果を叩き出していることは承知しています。私の訓練にどんな問題があるのか、聞きましょうか」


 よかった、話を聞いてくれるみたいだ。

 メリクリウスさんは、脳筋のように見えて、わりと寛容な人なのかもしれない。


「個人を鍛えることは不要なんて言わないし、必要なことだけどね。でも、戦争をするなら、全体の連携を磨かないと。そのための訓練を第一にした方がいいと思うよ」

「? なにを言っているのですか、あなたは?」


 僕が未開の地の言語を喋ったような感じで、メリクリウスさんは不思議そうな声を出した。


 えっと……

 もしかして、もしかしなくても。

 個人の訓練をするだけで、全体の連携を磨く訓練はしていない?


 まさかとは思うけど、でも、今の反応を見る限り、そうとしか思えない。

 物資が枯渇しているだけじゃなくて、戦術なども衰退しているみたいだ。


 まあ、それも仕方ないのかな? と、よくよく考えて思う。


 魔王軍は、今を生きるのに必死で精一杯で、かなりギリギリだったみたいだ。

 そんな状態では、なにか新しいことを開発しようなんてことはできない。

 不可能とは言わないけど、なかなかに難しい。


 でも……それだけ追いつめられているのに、どうして、今まで滅んでいないのか?

 アスガルド王国の地力だけで魔王軍に勝てそうな気がするのに、なんで、勇者なんて召喚したのか?

 なかなかに謎が尽きない。


 それはともかく。


 今は、魔王軍の一員として、僕にできることをしよう。

 地力を底上げして、少しでも余裕が持てるようにしよう。

 余裕を持つことができれば、色々なところに目を向けられるようになるし、新しいことを自力で思いつくことができる。


「僕がここに来た時のように、決闘をするなら、個人を鍛えることは問題ないよ。というか、それ以外は意味がない。でも、決闘をする機会なんてあまりないよね? むしろ、大人数で激突する戦争がメインだよね?」

「なにが言いたいのですか?」

「大規模な戦闘の際は、個人の技能よりも、全体の連携の方が優先されるんだよ。上の命令を忠実に、失敗することなく遂行する連携能力。それこそが、兵士に一番求められる要素だよ」

「それは……そうかもしれませんね」


 意外と言うと失礼かもしれないけど、メリクリウスさんは、わりとあっさりと僕の言葉を受け入れた。

 頭の固い人と思っていたけど、そうじゃないのかもしれない。


 こと、戦闘に関しては冷静な判断ができるのかな?

 その他、クロエに関することは、ちょっとダメになる。

 たぶん、そんな感じなんだと思う。


「それで、どのような訓練をすればいいのですか?」

「あ、うん。それはね……」


 僕は日本にいた頃の記憶を思い返しながら、メリクリウスさんに訓練の方法を教えた。

 ちなみに、その訓練の内容は、とある戦争映画で使われていたものだ。

 海兵隊式。

 それ以上は言わないでおこう。




――――――――――




 数日後。


「これは、また……」


 メリクリウスさんは、目を大きくして驚いていた。


 訓練の成果は、数日で出始めていた。

 今まで、兵士たちはバラバラに好き勝手に戦うだけだったけど……

 今はメリクリウスさんの指揮にしっかりと従い、部隊ごとに連携を取っている。


 もちろん、完璧というわけじゃない。

 まだまだぎこちないところがあるし、連携ミスもたまにしてしまう。


 それでも、数日でここまでとは……驚くべき成長速度だ。

 やっぱり、人と違って、魔族は基礎能力は高いみたいだ。

 でないと、こんな風にはなれないだろう。


「イッシキ」

「あれ? 初めて名前で呼んでくれた?」

「そ、そんなことはどうでもいいのです。それよりも……あなたに感謝します。これで、我らが軍は、一段回、上に登ることができました」

「ううん、気にしないで。今は、僕も魔王軍の一員なんだからね。できることはするよ」

「気にしないで、と言われても、なにもしないわけにはいきません。信賞必罰。これだけの働きを見せたあなたには、なにか報酬を与えないといけません。それが、数多くの魔物と魔族の上に立つ、四天王としての私の役目です」

「そう言われても……」


 報酬って言われても、特に欲しいものなんてない。

 とはいえ、いりません、なんて言っても納得してくれない雰囲気だ。


 なんでもいいから考えないと。

 僕はメリクリウスさんに求めるもの、求めるもの、求めるもの……

 そう、それは。


「じゃあ、素顔を見せてほしいな」

「は?」

「だから、メリクリウスさんの素顔を見せてほしい。ほら、ずっと兜をかぶっているから、見たことがないよね? だから、気になるな―、って」

「私の素顔が報酬なんて……あなたは、からかっているのですか? そんなことをしても、なんの意味もないでしょう」

「そんなことないよ」

「なぜ?」

「なんとなく」

「まったく……」


 メリクリウスさんはため息をこぼした。

 呆れられてしまったかもしれない。


 次は、怒られるかもしれないな。

 バカなことを言わないで、ちゃんと真面目にしなさい、とか。


 なんてことを思っていたのだけど、意外にも、メリクリウスさんは素直に兜に手を伸ばした。

 パチパチと兜を固定しておく留め具を外す。

 そして、そっと兜を脱いだ。


「これでいいですか?」

「……」

「どうしたんですか? なぜ、黙っているんですか?」

「メリクリウスさんって……ものすごい美人だったんだね……」


 兜の中に全部収めていたらしく、サラサラの髪が風に流れた。

 凛とした表情は意思の強さを感じさせるだけじゃなくて、見るものを魅了するような艶がある。

 瞳は宝石のように輝いていて……


 ああもう、僕の貧弱な語彙力が恨めしい。

 メリクリウスさんの綺麗なところを言葉にしていたら、それこそ、一晩かかってしまいそうだ。


「な、なななっ、なにを……!?」


 メリクリウスさんが、ぼんっと赤くなった。


「そ、そのような世辞を……なぜ、まったくそんなことを……」

「いや、お世辞なんかじゃないよ? 本心だよ?」

「っ!?」

「……もしかして、照れている?」

「照れていませんっ! いませんともっ! ええ、そんなことはありませんっ!」


 どう見ても照れているんだけど……まあ、追求はしないことにした。

 メリクリウスさんもかわいいところがあるんだなあ。


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新作投稿期間中ということで、新作を書いてみました!
こちらも読んでもらえるとうれしいです。
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