12話 必殺兵器
魔王城は山脈の中腹に位置しているため、空気が薄い。
魔族の人たちは慣れているみたいだけど、僕にはちょっと苦しい。
軽く体を動かすと、すぐに息があがってしまう。
でもまあ、魔王城で暮らし始めて一ヶ月ほどが経ったから、少しは慣れてきた。
すぐに息があがることもない。
魔王軍の一員になったわけだけど……
今のところ、平和な時間が続いていた。
戦いが起きたのは、初日だけ。
ヘベクが攻め込んできた時だけだ。
エクスエンドを落とされたことが堪えているのか。
それとも、軍部のトップであるヘベクが死んだことで、軍の機能が停止しているのか。
今のところ、アスガルド王国が侵攻してくる気配はない。
そのまま侵攻しないでほしい。
僕は基本的に、平和主義なんだ。
ただ……
ここで一つ、大きな問題が浮上した。
それは……寒さだ。
――――――――――
「あううう……寒い寒い寒い寒い寒いっ、寒いのだ!」
クロエはベッドの上で頭から布団をかぶり、ガタガタと震えていた。
吐息は白い。
魔王城は山脈の中腹にあるから、基本的に気温が低い。
少し前までは、ほどほどに暖かったんだけど……
最近は天気が変わり、寒い日が続いていた。
気温としては、マイナスに突入するかしないか、そんなギリギリのところかな。
「か、カナタぁ……」
「どうしたの? そんなに情けない声を出して。魔王としての威厳とか気にしないの?」
「寒いから口がかじかんで、うまく声がでないのだ! 寒いのがいけないのだ!」
「確かに寒いよね」
「カナタは、なんで平然としている? 大丈夫なのか? 寒さに強いのか?」
「強いと言えば強い方かな」
北海道出身なので、0度なら、わりと暖かいかな? なんて感じてしまう。
まあ、錯覚のようなものだから、寒いものは寒いけど。
「うぅ……カナタ、なんとかならぬのか? 我は寒くて寒くて仕方ないぞ。まあ、これは毎年のことではあるのだが……あううう、やっぱり慣れないのだ」
ガチガチと震えながら、クロエがそう言う。
ずっとこんなところにいても、寒さに慣れるわけじゃないみたいだ。
「うーん」
確かに、今日は寒い。
クロエが風邪でも引いたら大変だ。
なんとかしてみよう。
部屋の壁をコンコンと叩いたり、顔を近づけて覗き込んだり、色々と調べてみる。
「部屋の作りはしっかりしているかな? 経費節約なのか、色々な素材が使われていて、耐久性とか耐火性は不安だけど……少なくとも、隙間風とかはないはず」
断熱材でも召喚して、仕込んでみようか?
でも、壁一面に仕込むとなると、けっこうな量が必要になる。
というか、この世界のものと混ぜることができないから、こっちは時間経過で消えてしまうだろう。
「他に暖を取る方法というと……やっぱり、アレかな?」
「なにか思いついたのか?」
「高さの低いテーブルと、大きな布団ある?」
――――――――――
高さの低いテーブルに布団をかける。
その上に、重り代わりの台を乗せる。
最後に、電源内蔵型のヒーターユニットを設置する。
ヒーターユニットは、しばらくすれば消えちゃうだろうけど……
それでも、その間は温まることができるだろう。
「なんだ、これは? 布団……にしては、妙な使い方をしているな? ふむ、奇怪だな」
「この中に足を入れてみて」
「こうか?」
言われるまま、クロエは即席こたつの中に入った。
瞬間、
「ふぉおおおおおっ!!!?」
とんでもなく奇妙な声をあげた。
クロエは子供のように目をキラキラと輝かせて……
ビクビクと大げさに体を震わせて……
そして、その顔は、たちまちとろけてしまう。
「な、なんなのだ、これは……温かい、すごく温かいぞ……はぁあああ」
一瞬でこたつの虜になったクロエは、体の半分くらいをこたつの中に埋め込む。
この世の幸せを全部味わっているような、そんな顔をして……
こたつの温かさに浸る。
「ふにゃあああぁ……これは、すごいのだ……とろけてしまうのだ……あふぅ」
「これ、僕の……故郷にある暖房器具なんだ」
異世界人であることは、まだ隠しておくことにした。
クロエなら……と、思わないでもない。
ただ、もしもクロエにまでひどいことを言われたら、僕は立ち直れない気がした。
だから、逃げてしまう。
弱いな、僕は。
「ほう、カナタの。なんていう名前なのだ、これは?」
「こたつ、って言うんだ」
「こたつ……こたつ……こたつ……」
何度か呟いて、
「こたつか……お前、かわいいヤツだな。今なら、魔王軍四天王の座を授けてもよいぞ?」
こたつを大事に思うあまり、ついには言葉をかけ始めた。
こたつを四天王に任命しようとする魔王……
できることなら、勇者としてこんな光景は見たくなかった。
でもまあ、仕方ないのかもしれない。
魔王すらも堕落してしまう。
一瞬で虜にしてしまう。
こたつには、それだけの力があるのだから。
「はぁあああ……今日はもう動きたくないぞ。仕事は終わりだ。我は、こたつでゆっくりとすることにした。そう決めた」
「魔王がそんなのでいいの?」
「よいのだ。だって、動きたくないのだ」
「……まあ、いっか」
たまには、こんな風にのんびりと過ごす日があってもいいと思う。
そんなことを思いながら、クロエと一緒にこたつで温まるのだった。
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