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11話 続・魔王軍の食糧事情の改革

 結論から言うと、僕の検証は成功した。


 召喚したものは、一定時間で消えてしまう。

 しかし、混ぜるなどして、この世界のものに馴染ませることができれば、消えることなくそのまま残る。


 そのことが証明されるように……

 一週間後、肥料を撒いた畑は、見事な野菜を見につけていた。


 他の畑と比べると10倍以上の成長速度で、なおかつ、実もとても大きい。

 肥料が消えず、この世界に残ったという証拠に他ならない。


「おおっ、すごいのだ! こんなに大きくておいしそうな野菜、見たことがないのだ!」


 みずみずしい野菜を見て、クロエがおおはしゃぎした。


「……じゅるり」


 ついでに言うと、目をキラキラと輝かせて、よだれを垂らしていた。

 野菜をロックオンするように、じっと見つめている。


「えっと……食べる?」

「よいのか!?」

「新鮮だから、そのまま食べられると思うよ。はい、どうぞ」


 トマトを取り、クロエに渡した。


「おぉ……手にしても形が崩れないトマトなんて、初めて見たぞ!」


 それ、腐っているんじゃあ……?


「ふふふ、いただきますなのだ! あーむっ」


 小さな口をいっぱいに開けて、クロエはトマトにかぶりついた。

 何度か咀嚼して……

 たちまち、その顔が笑みでいっぱいになる。


「ふぉおおおおお!? なんなのだ、これは!? うまい、うますぎるのだ! こんなトマト、食べたことがないのだ!」

「どれどれ」


 僕も味見をする。


「うん……懐かしい味。というか、いつもの普通のトマトかな?」

「こ、これが普通だと……!? カタナは、いったいどのような味覚をしているのだ? おかしい、おかしいぞ! これほどのトマトを普通と言えるその胆力……さすが、勇者だな」

「いや、こんなことで感心されても……」


 トマトは本当に普通の味だ。

 日本にあるスーパーやコンビニで買えるようなもの。


 逆に言うと……

 クロエは、そんな当たり前のトマトも食べられないくらいの生活を送っていた、ということになる。


 まあ、日本のトマトも、長年の品種改良の末に誕生したものだからな。

 異世界で……

 しかも、岩だらけの山脈地帯で栽培するトマトとなれば、どうしても劣化してしまうのは仕方ないだろう。


「なにはともあれ、良い検証ができたかな」


 この世界のものと混ざれば、召喚したものは消えない。

 一歩、大きく前進した。


「カナタ、カナタ! これからは、こんな野菜を毎日食べられるのか!?」

「みんなの分を栽培して、安定的に供給するのに時間はかかるから、すぐにっていうわけにはいかないけどね」

「おー、すごいぞ! さすが、カナタなのだ! 我は、そなたを誇りに……ん? でも、どうやって野菜を育てるのだ? カナタが取り出したひりょーとやらは、カナタにしか召喚できないのであろう? たくさん召喚することはできないのではないか?」


 クロエが指摘するように、魔王軍の畑全部を賄う肥料を召喚しようと思ったら、えらいことになる。

 僕は魔力が一瞬で尽きて、干からびてしまうと思う。

 小刻みに召喚することはできるけど、それだと時間がかかりすぎる。


 なら、どうするか?


「腐葉土を作ろうか」




――――――――――




「カナタよ、できたぞ!」

「まったく、私になにをさせるかと思いきや、このようなことをさせるなんて……」


 クロエとメリクリウスさんのおかげで、ソレが完成した。


 深さ5メートル。

 横10メートル、縦10メートル。

 底と側面に木の板を貼り付けて、巨大な箱のようなものを作り上げた。


 その中に大量の落ち葉を敷き詰めて……

 そこに、僕が召喚した米ぬかを投入した。

 けっこうな量なので、わりと苦労した。


 そこに、さらに落ち葉をかぶせて……

 最後に全体に水をかけて、よく踏む。


「なあ、カナタよ。自分でやっておいてなんだが、これはなんなのだ? ただの枯れ葉にしか見えぬが……それと、さっきカナタが投入していたものはなんだ?」

「あれは米ぬかだよ」

「こめぬか?」

「米の表面に……って、米を知らないなら説明のしようがないか。まあ、とにかく、発酵を助けてくれるものだよ」

「はっこー?」

「こうしておくと微生物が増えて、さっきの肥料なような役割を果たすことができるんだ」


 肥料を大量に召喚することはできないけど、多少の米ぬか程度なら問題ない。

 それを利用して、肥料代わりの腐葉土を作る。

 こうすれば、それなりの農作物が採れるようになると思う。

 それが、僕の考えた魔王軍の食糧事情の改善策だ。


 僕は農家の出というわけじゃないんだけど……

 テレビでアイドルが農作業をやっていた時に、この腐葉土が紹介されて、それを覚えていたんだよね。


「ほうほう。一見するとゴミにしか見えぬが、このようなもので、あんなおいしい野菜を作ることができるのか。素晴らしいな!」

「本当なのでしょうか? 私としては、信じがたいのですが……」

「すぐに使うことはできないけどね。普通は、三ヶ月くらいかかるみたい」

「そんなにか!?」


 すぐにトマトを食べられると思っていたのか、クロエがものすごくショックを受けたような顔をした。


「魔法を使って雨風をしのいでもらって、あと、常に温めてもらえるかな? そうすれば、強制的に活動を促すことができて、一ヶ月くらいに短縮できると思う」

「むう、それでも一ヶ月か……そこから栽培するとなると、なかなかに時間がかかるな」

「そればかりはどうしようもないかな。一瞬で野菜が採れるようになるなんて、それこそ神様の奇跡でしかありえないよ」

「まあ、仕方ないか。さすがに、一ヶ月と少しくらいの備蓄はあるし、なんとかなるだろう」

「皆が野菜を食べることができるなんて……うまくいけば、本当に食糧事情が改善されるのですね」


 メリクリウスさんがこちらを見た。

 フルフェイスヘルメットのため表情はわからないけど、なんとなく、柔らかい顔をしているような気がした。


「イッシキ、カナタ」

「うん」

「……一応、感謝しておきます」


 ツンデレかな?

 だとしたら、ものすごくかわいい人なのかもしれない。


「むう……我のカナタが、今、よからぬことを考えたような気がするぞ? むううう」


 そしてクロエは、僕の思考を読み取りでもしたのか、そんなことを口にした。

 クロエは、ヤンデレの素質があるのかもしれない。


「肉とか魚とかもなんとかしたいけど、それは後回しかな」


 こんなところだから獲物も少ないだろう。

 下手に乱獲なんてしてしまうと、そのまま絶滅なんていう恐れもある。

 そうなれば意味がない。


 まずは、この山脈に住まう動物や魚を増やさないといけない。

 そのためには生態系を調べて、どんなものが住んでいるのか調べて……

 こちらは、まだまだ時間がかかりそうだ。


「むう……すごいな、カナタは。まさか、このような方法を考えるなんて」

「どこで覚えた知識なのでしょうか? もしかして、この者、勇者ではなくて賢者?」

「いったい、何者なのだ……?」

「本当に、何者なのでしょうか……?」


 クロエとメリクリウスさんが、心底不思議そうに言う。

 異世界人です、なんて言ったら信じてくれるかな?


 ……いや、やめておこう。


 もしかしたら、快く思われないかもしれない。

 それだけじゃなくて、王国にいたように、迫害されるかもしれない。

 それはイヤだ。

 特に、クロエにそんなことをされるのはイヤだ。


「あれ?」


 なんで今、クロエのことを考えたんだろう?


「……まあいいか」


 特に意味はないと片付けて、僕は深くは考えないことにした。

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新作投稿期間中ということで、新作を書いてみました!
こちらも読んでもらえるとうれしいです。
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