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10話 魔王軍の食糧事情の改革

 無事、エクスエンドを落とすことに成功した。

 メリクリウスさんを呼んで、占領してもらい、魔王軍の砦に変える。


 また、いくらかの傭兵を雇い、防衛網を構築することにも成功した。

 僕のオーダー通り、念話による通信網を確立した。


 これらの成果のおかげで、魔王城の防衛力は格段に上昇しただろう。

 まあ、完璧というわけじゃないし、まだまだ改善するところはあるんだけど……

 今はこれくらいでよしとしておこう。


 今の魔王軍は、防衛だけじゃなくて、他にもテコ入れしないといけないポイントがある。

 次にテコ入れするポイントは……ずばり、食料事情だ。




――――――――――




「うーん」


 自室……というか、クロエと一緒の部屋で食事を食べる。


 魔王軍の食事は、基本的に自給自足だ。

 魔王軍に食料を売ってくれる人なんていないから、自分で賄うしかない。


 いくつかの畑があり、そこで作物が育てられている。

 ただ……


「正直、微妙だよね」


 魔族領は山脈地帯にあり、その土地は痩せ細っている。

 まともな作物がとれるはずもなく、取れたとしても味のしない野菜ばかりで、栄養価が真面目に心配になる。


 こんな食事をしていたら、士気なんて保つことができないし……

 それ以前に、栄養不足で倒れる人が出てきそうだ。

 なので、食糧事情を早急に改善しないといけない。


「とはいえ、どうするかな?」


 あれこれと考えてみたものの、これだという策は思いついていない。

 あと少しで思いつきそうなんだけど……

 残りの一歩がなかなか埋められなくて、頭をモヤモヤさせてしまう。


「どうしたのだ、カナタよ。腹が減っているのか?」


 一緒に食事を食べているクロエが、不思議そうに尋ねてきた。


「ちょっと考え事をしてて」

「どんなことなのだ?」

「魔王軍の食糧事情を、なんとか改善できなかなあ……って」

「おおっ、カナタはそんなことまで考えてくれていたのか!? 我はうれしいぞ。さては、我に対する愛だな? くふふ、カナタもかわいいな」

「いや、愛じゃないかな」

「はぐぅ!?」


 クロエが涙目になり、がくりと倒れ込む。


 しまった。

 考え事をしていたせいで、ストレートに言ってしまった。


「えっと……それはともかく、クロエは、おいしいものを食べたくない?」

「食べたいぞ!」


 瞬時に気持ちが切り替わり、元気になるクロエ。

 それでいいの……?


「食べたいが……しかし、こればかりは、カナタでもどうすることはできないだろう? 魔族と交易をしてくれるような人間はおらぬし、栽培するにしても、土地が痩せこけているからのう……素材がなければどうすることもできん」

「そこなんだよね、問題は」


 クロエもなんとかしようとしていたらしい。

 しかし、同じところで考えに行き詰まり、それ以上は進んでいないみたいだ。


「どうしようかな?」


 食料を召喚しても意味はない。

 そのうち消えてしまうから、栄養となることはないし、カロリーも摂取できない。

 一時的な満腹感、幸福感は得られるかもしれないけど、それはごまかしのようなものだ。


 あと、魔王軍全員の腹を満たすだけの食べ物を召喚することはできない。

 そんなことをしたら、すぐに魔力が尽きてしまう。


「うーん……ちょっと、試してみようかな?」

「なにか思いついたのか?」

「思いついたというか、僕の能力を、もうちょっと検証しておこうかな、って」




――――――――――




 異世界に召喚されて、すぐに戦いを強制されたため……

 十分に能力を検証することができていないんだよね。


 召喚したものは、時間が経てば消える。

 召喚には魔力が必要。

 わかっていることはこの二つだけ。


 でも、もしかしたら、隠された能力があるかもしれないし……

 能力について勘違いしている部分があるかもしれない。


 まずは一つ、確かめてみようと思う。


「なあ、カナタよ。畑に来てどうするつもりなのだ? もしかして、これが最新の流行の畑デートというやつか? 大自然と触れ合い、農作物を育むと同時に、愛も育むのか? おおっ、想像したら興奮してきたぞ!」


 ……クロエの元気は、いったい、どこから出ているんだろう?

 欲望かな?

 だとしても、魔王だからそれで正解なのかもしれない。


「とりあえず、僕の能力について、一歩踏み込んで検証してみようかな……って」

「ふむ?」

「というわけで、召喚」


 大きな袋が両手の内に現れる。

 ズシリとした感触と、なんともいえない独特の匂いが漂う。


「む? 妙な匂いだな……それは、いったいなんなのだ?」

「肥料だよ」

「ひりょー?」

「簡単に言うと、植物の成長を促してくれる、元気の素」


 僕が召喚したものは、一定時間が経過すると消えてしまう。

 だから、肥料などを召喚しても意味がないと考えていたんだけど……


 この世界のものと一体化したら、どうなるんだろうか?

 もしかしたら、この世界に馴染み、そのまま残るかもしれない。

 そんなことを思いついたんだ。


 というわけで、さっそく肥料を畑に撒いてみた。

 農業は素人だけど、やりすぎに注意ということくらいはわかる。


 これくらいかな?

 ほどほどの料を、10メートル四方の畑に撒いてみた。


「カナタよ。これで作物が元気に育つのか?」

「まだなんともいえないかな。召喚した肥料が、うまくこの世界と馴染んで、残ってくれればいいんだけど……」


 肥料は土に混ぜたので、もう見た目で判断がつかない。


「ひとまずは、様子見かな。元気に成長したら、うまくいったということで」

「楽しみだな!」

「まだ成功したわけじゃないよ?」

「カナタのやることだ。絶対に成功するに決まっているぞ」


 期待に応えたいと思うけど、こればかりは確約できない。


「それにしても……クロエは、どうして僕のことをそんなに信用するの?」

「うん? どういうことだ?」

「僕は人間で、おまけに元勇者。普通に考えて、裏切るとかなにか企んでいるとか、そういうことを疑うと思うんだけど」


 クロエの態度がおかしいだけで……

 メリクリウスさんの反応が、本来は当たり前のものなんだよね。


「我は、カナタが好きだからな!」

「そんな理由?」

「バカにするでない。『好き』という気持ちは、なによりも強いのだぞ? 誰かを好きだからこそ、その者のためにがんばろうという気になれる。強くなることができる。そうではないか?」

「それは……」

「色々な原動力で我らは動いている。その中で、好意という感情は、ひときわ強いエネルギーになるぞ。好意故に成長して、好意故に突き進む。それが、真理というものだ。我は間違ったことを言っておるか?」

「……いや、合っていると思うよ」


 まさか、魔王であるクロエの口から、そんな言葉が聞けるなんて思ってもいなかった。

 クロエは、僕の好感度を上げるために取り繕っているわけじゃなくて……

 本気でそう言っているように見える。


 こうなると、アスガルド国王から聞いた、魔王は血も涙もない悪魔という話がますます怪しくなってくる。

 というか、メリクリウスさんも、当たりは強いものの、基本的に紳士だし……

 ホント、どういうことだろう?

 近いうちに、この点について調査した方がいいかもしれないな。


「まあ、それはわかったけど……でも、なんで僕が好きなの?」

「だ、だって……我にかわいいなんて言ってくれた者は、カナタが初めてなのだ。我は魔王だから、誰もそんなことは言ってくれないし……だから、すごくうれしかったのだ」

「だからといって、たった一言で……理屈に合わないよ」

「知らないのか、カナタよ?」


 クロエはたっぷりの笑みを携えて言う。


「恋というものは、理屈に合わないものなのだ!」

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新作投稿期間中ということで、新作を書いてみました!
こちらも読んでもらえるとうれしいです。
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天使学校の子供先生~スキル「年上キラー」で、最強天使たちを魅了します~
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