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1話 異世界召喚

 僕の名前は、一式彼方。

 男。

 15歳。

 名前の通り、日本人だ。


 元職業は、高校一年生。

 現職業は、勇者。


 うん、なにを言っているかわからないよね。

 頭がおかしい、って思われることは重々承知だ。

 でも……残念なことに、これ、現実なんだよね。




――――――――――


 召喚1日目。


 気がついたら、見知らぬ場所にいた。

 映画のセットにあるような、謁見の間。

 豪華な玉座に、これまた豪華な衣服をまとう男の人が、どっしりと構えて座っている。


 その左右に文官らしき人が一人ずつ。

 そして、部屋の端にずらりと兵士たちが。

 金属の鎧を身にまとい、腰に剣を下げている。


 なんのコスプレ?

 と思ったのは少しの間。

 その光沢や重量感から、本物であることを理解する。


「よくぞまいった、勇者よ」


 玉座に座る、王様としか言えないような人から、威厳のある声でそう呼びかけられた。


 勇者って……僕のこと?

 思わずぽかんとしてしまい、それから、不思議そうに自分を指差す。


「異世界の勇者よ。魔王を討伐して、この世界を救ってほしい」


 そう、おきまりの台詞をいただいた。


 これは、もしかしてもしかしなくても……

 異世界召喚というやつ?

 最近では、わりとありふれたジャンルだ。

 漫画やラノベなんかでブームになり……それから、一つのジャンルとして定着したような気がする。


 しかし。

 でも、まさか。


 その異世界召喚を、身をもって体験することになるなんて。

 正直に言うと、僕は、この時ちょっとだけワクワクしていた。


 漫画もラノベも好き。

 おまけにゲームも好き。

 そんな身としては、異世界召喚なんてものを経験することは、かなりうれしい。


「わかりました。精一杯、がんばります!」

「うむ、期待しているぞ」


 こうして、僕は勇者になった。

 後にして思えば、もっとよく考えるべきだった。


 まあ、考えてもどうしようもないという、最初から詰んでいた状態だったんだけどね。




――――――――――




 召喚7日目。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……し、死ぬ……」


 僕を召喚した国は、ブラック企業顔負けの超ブラック国家だった。

 ノルマが課せられていて、魔物を倒さなければ罰が待っている。

 罵詈雑言は当たり前で、体罰を超えて虐待レベルの暴力が日常茶飯事。


 僕、勇者だよね?

 特別な存在なんだよね?


 なんてことを思ったんだけど、どうも、それは違うらしい。

 僕のような異世界人は大量に召喚できるらしい。

 僕は、あくまでも数多いる勇者の一人で、便利な駒。

 魔王を倒すことができなければ用済み、という奴隷のような扱いだった。


 高校生になって、初めてのバイトの経験を思い出したよ。

 そこは工場で、重い荷物を運ぶところだった。

 高校生なのに22時以降も働かさせれるし、休憩もないし、給料も事前に聞いていたものの半分以下。

 僕は三日目で逃げ出した。


 ただ、今回は逃げるわけにはいかない。

 逃げたとしても、異世界だから行き先がないんだよね。

 結局、ブラック国家の言いなりになるしかない、っていうわけ。


 支度金として、銀貨一枚をもらい、いきなり魔王討伐の旅に放り出された。

 銀貨一枚は、日本円で換算すると1000円。


 1000円で魔王を討伐しろって、ふざけているんだろうか?

 でも、ゲームの世界だとこんなものだから、ある意味で正しいのだろうか?

 もうわけがわからないよ。


 幸いにも、とある能力のおかげで、僕はなんとか魔物と戦うことができた。

 とはいえ、簡単にいくなんていうことはない。


 相手は魔物とはいえ、命を奪うんだ。

 平和に育ってきた普通の高校生には、なかなかに重い。

 最初は手が震えて、胃の中のものを全部ぶちまけた。


 でも、逃げることはできない。

 仕方なく、戦い続けているんだけど……

 召喚されて一週間なので、まだ命のやりとりに慣れなくて、戦いにもたついていた。


「勇者さま、大丈夫ですか? しっかりしてくださいよ」


 城から派遣された兵士が、やれやれという感じで声をかけてきた。


「ご、ごめん……うん、もう大丈夫だから」

「本当ですね? まあ、一応信じますけど……」

「それじゃあ、次の街へ行こうか」


 体と心を削るようにしつつ……

 魔王討伐のため、勇者の旅は続く。




――――――――――




 召喚30日目。


「おい、さっきのふざけた行動はどういうことだ!?」

「ぐあ!?」


 同行している兵士に蹴られて、僕は地面を転がる。


 最初は敬語で、丁寧な態度で接してくれていた兵士も……

 今やタメ口が当たり前。

 というか、上から目線がデフォルト。


 それだけじゃなくて、機嫌が悪い時は暴言が飛び出す。

 あと、今みたいに殴られることもしょっちゅうだ。


「魔物を逃がすなんて、なんでそんなふざけたことをしているんだよ?」

「でも……あいつらは攻撃的じゃないし、ただ、エサを求めていただけだ。親子だったから、食い扶持もあぐ!?」


 顎を蹴り上げられた。

 歯が折れるかと思ったけど、幸い、そうはならなかった。


「魔物はみんなぶっ殺すんだよ! そんなこともわからねえのか! ちっ……これだから異世界人は。つかえねえな」

「……ごめん」

「謝るくらいなら、ちゃんと戦えよ! てめえは、そのためだけに召喚されたんだ。まともに戦えないなら、廃棄処分にするぞ!」

「……廃棄……」

「いいな、わかったな!? 返事は、はいかイエスの二つだけだ」

「……はい……」


 僕は地面に倒れたまま、小さく頷いた。


 異世界に召喚された勇者は大活躍して、色々な人に尊敬されて、大きな名誉を得る。

 財も得るし、かわいい女の子にも好かれる。


 そんなものは、やっぱりというか、創作の中だけのことで……

 現実はひどく過酷だった。


 この世界の人は、僕を戦いの道具としてしか見ていない。

 ちゃんと戦えなければ、今のような目に遭う。


 でも、戦うことを拒否することはできない。

 そんなことをしたら、兵士の言う通り、本当に廃棄処分されてしまうだろう。


 それはイヤだ。

 死にたくなんてない。


 だから、僕は生きるために……

 体と心を鍛えて、鍛えて、鍛えて……徹底的に鍛え抜いた。




――――――――――


 召喚180日目。


 罰と称して、憂さ晴らしに殴られることが当たり前になっていた。

 当然、逆らうことは許されない。

 人間サンドバッグだ。


 大怪我をしない程度に痛めつけられて……

 回復魔法をかけられて……

 そして、また痛めつけられる。


 僕は泣くのを止めた。

 痛い目に遭ったけれど、おかげで体が鍛えられた。


 罵詈雑言も当たり前だ。

 学校のいじめのようなノリで、僕は、ほぼほぼ毎日、色々な嫌がらせを受けていた。

 これもまた、兵士の憂さ晴らしなんだろう。


 ひたすらに耐えた。

 おかげで、心が鍛えられて、刃のように鋭くなったと思う。


 そんなこんなで……

 色々なことに我慢しつつ、国の命令に従い戦い続けた。

 戦って、戦って、戦って……

 人としてなにかを失うような感覚を得つつ、僕の旅は続いた。


 そして、今日。

 ついに、魔王城にたどり着いた。

19時にもう一度更新します。

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新作投稿期間中ということで、新作を書いてみました!
こちらも読んでもらえるとうれしいです。
↓のリンクから飛べます。
天使学校の子供先生~スキル「年上キラー」で、最強天使たちを魅了します~
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