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バンソー!  作者: 志馬なにがし
8/43

7km

 大学からいつもの競技場までは約三キロ。

 二〇分かけてゆっくり走っていけば、ちょうどアップにもなる。


 最初の一キロは体が温まるまで軽めのジョグ。


 風が頬を撫でる。視界の端に映る景色が素早く通り抜けていく。は、は、は、と自分の呼吸音に混じって、この前買ったイヤホンから音楽が流れてくる。スマホとベアリングするコードレスタイプだ。腕に絡まったりする心配はない。


「ずっと、さがーしていたー、りそーのー自分ってー、もちょっとかっこよかったけれ~ど~」


 小声で歌うとか、もはやノリノリ。

 ついでに俺はこの前買ったシューズの感触を確かめる。一歩踏み出すたび着地の反発力が推進力に変わっていく。うん、イイ感じ。

 おおっと。オーバーペース気味だな。この前買ったシリコン製のランニングウォッチをチラッと見た。これじゃキロ五分ペースだぜ。いけね。


 ちなみに夏奈曰く、ランナーたちは走るペースをキロ〇分って表すらしい。一キロメートルを何分かかるペースで走っているかという意味だ。キロ五分とは、時速一二キロ。ちょっと早めのジョギングペース。このペースだと陸上競技場に着くころにはぜえぜえになってしまう。


 あくまでアップは「体を温める」が基本だ。ペースを落とそう。


 汗をかいても体を冷やさないようにこの前一式そろえたウェアでしっかり保温。このウィンドブレーカーは、脇下にあるファスナーを開くと、中に涼しい風を取り込めるタイプのものだ。そこで温度の調節ができる。

 しかし保温が大事とはいえ、やせ我慢はしてはいけない。


 水分補給と同じくらい重要なこと――それは体温調節。


 俺はウィンドブレーカーを脱いで火照った体を冷たい空気に晒す。

 半袖から涼しい風が入って気持ちいい~。

 この前買った偏光サングラスを取って、青空を仰いだ。


 今日は五月晴れだ。日差しが強くて気分が晴れる。


 こんな日はどうしても走りたくなる。

 どうも、ランナー早淵です。

 最近、少しだけランニングが楽しいです。


「ウザくない?」


 競技場につくなり、音葉に嫌悪感丸出しの顔をされた。


 そして不満たらったらの顔して訊いてきた。


「なんで夏奈ちゃんの伴走なんかしているのさ」

「……なんでって言われても」

「でたでた。友くんの、そういうところはちょっとムカつくかなー」


 肩をぽかっと叩かれた。


「夏奈ちゃんにイイ格好したいだけなら走るの止めちゃえ、ロリコン」


 最近、音葉が厳しいんです。しゅんとしていると、音葉はチッ! とあからさまに音葉は舌を打った。正確に言うと、舌打ちできないおこちゃま舌な音葉さんは、声で「チッ!」と発声していた。


「しかもまた痩せてない? ダメだよ。ダメなんだよ……。今日も走る前にこれ飲んで」


 そう言いながら音葉はランチボックスからごそごそとタンブラーを取りだした。何が入っているかというと、前にも飲まされた、スニッカーズとカロリーメイトを牛乳でどろどろに溶かした特製ドリンク(、、、、、、)だ。確実に糖尿病を誘発しそうなその飲料は、試算すると一〇〇〇キロカロリーを超えている。


「いらないよ」

「トイチで金借りてんの、だれだと思ってるの?」


 黒目の光が失われた感じの、すっごい恐い顔して俺にカロリードリンクを渡してくる。


 こいつ、俺を脂肪肝にして屠殺後しめたあとフォアグラでも取る気なのかな?


 一気に飲む……喉にひっかかる……飲む……飲む……飲み……干した……。鼻血が出そうだ。すると追い打ちをかけるつもりなのか、音葉はもう一本取り出した。


「おーい、夏奈~」

 夏奈を発見し、早急に脱出。「ちょっと!」とか後ろからなんか声がするけど、無視だ無視。


 今日も夏奈と走ることを約束していた。

 ふたりで走るときは二〇分で一〇周――四キロほどを走って、一〇分休憩する。そのサイクルで俺たちは走るようになっていた。しかしどうやら六キロぐらいが俺の限界らしく、終盤は足が笑って、最後には俺がギブアップする形になっていた。夏奈は物足りなそうにしていたが、今日もありがとうございました、と控えめに笑う。それが毎回申し訳なかった。


 付き合わせているから。

 いっしょに走ってもらっているから。

 実は早淵さん嫌なんじゃ。

 自分の要求を口にしないのは、そんなことを考えてそうで不安になる。


 ……健気というか、慎ましいというか。そんなところも可愛いけれど、無用の遠慮なんだ。

 だから今日、出会い頭にこんなことを口走っていた。


「今日は二〇周いってみよう」


 二〇周――距離にして八キロ。

 もっと走りたそうにする夏奈に対して、俺ができる精一杯の距離。

 高校の部活でもそんな距離走ったことがない。すでに三キロ走っている俺からすれば随分無謀な挑戦であった。


「ええっ! いいんですか!?」


 言った瞬間、飛び跳ねるように喜ぶ夏奈。……もう後には引けなくなったぜ。

 夏奈はワクワク顔して髪の毛を一本に結わいながら、


「じゃあ今日はちょっとだけゆっくり走りません? いつもは一周二分くらいだと思うんですけど、一周二分二〇秒くらいで走りましょう。キロ五分三〇秒ペースです。そのペースなら早淵さんは休憩なしでも走れると思うんです」

「休憩なし? 無理無理、無理だって」


 さすがに俺は途中で休憩を挟みながら二〇周走ろうと思っていた。


「早淵さんならできますよ~」「無理」「できますよ~」「無理」「できます」


 最後に夏奈にニコッとされて、コロッと「じゃあやるよ」って、そうやって今日も夏奈と走ることにした。


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