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バンソー!  作者: 志馬なにがし
30/43

29km

 八月十一日(土)


 夏奈の横を秋穂さんがぴたり。夏奈に近寄らせてくれない。鬼木さんが秋穂さんへ「邪魔するな」って強めに言った。秋穂さんは髪をかき上げて聞く耳を持たなかった。さすが女王様。あの恫喝に屈しないとは。

 今日はLDS二〇キロ。夏奈+秋穂さん(伴走)と俺が後ろからついていった。

 さすが長距離をやっていたと言っていただけあって、一〇キロぐらいは余裕で走っていた。一二キロ地点でバテて俺が変わった。秋穂さんはなかなかキズナを手放してくれなかった。秋穂さんも子どもっぽいところがある。意固地になったら面倒だ。

 ちなみに美女二人を後ろから眺める景色は絶景だった。たぶん来年あたり絶景一〇〇選とかに載る。



 八月一二日(日)


 陸上競技場が空いているとかで今日もトレーニングに励む。それでも夏奈の隣には秋穂様がいる。秋穂さんは走るたびにお乳さまが揺れている。見るなって言われても難しい。

 今日は恒例インターバルトレーニング。

 一〇〇メートルのダッシュ&ジョグ×三〇回。鬼畜メニューだった。

 なんだかんだ秋穂さんは一七往復まで夏奈につきあっていた。その後は俺と夏奈だけで続けた。俺と夏奈は完走して、その後、自主的にLSDを流すように五キロだけ走った。

 秋穂さんは日陰で座っていた。すっげえ悔しそうに俺を睨んでいた。

 途中ギブするとき両手でおっぱいを鷲掴みにして呼吸を落ち着かせる。癖なのだろうか? その姿がマジでエロい。あと、唇を突き出して悔しそうにしていると夏奈にそっくりだなって思う。負けず嫌いは姉妹共通のようだ。


 ◎


 お盆の初日、つまり本日八月一三日は、毎年大きな花火大会が開催されるらしい。


 どうせ花火大会で店を開いても人が来ないからと店長は店を閉めていた。お前ら花火でも見てこいと言われた。


 この前夏奈と海を眺めた付近には海響館という水族館があり、今その水族館の周りにはいくつもの屋台が設置されている。大学生にもなって綿菓子をせがむ音葉のために俺たちは屋台に並んでいた。


 カラン、と音葉の下駄が鳴った。実家から送ってもらったという黄色の浴衣姿だった。小学校のころ、いっしょに花火を見に行ったときは互いにTシャツ姿だった。何気に音葉の浴衣姿は初めてだったりする。ひまわりの髪留めを褒めると、にんまりと満足そうだった。


「関門花火大会って言って、音葉は去年も見たけど、すっごい綺麗だよ」


 どうやら花火は海上で打ち上げる花火らしく、水面に映る花火が綺麗だと音葉は語っていた。


「対岸に門司港っていう街があるでしょ? あっち側でも花火が上がるんだ。対岸どうしで花火を打上げるんだ。タブルで楽しめるお得な花火大会なんだよ。はい、今日はお祝いだし」


 音葉はそう言って、爪ほどの綿菓子をくれた。ダイエット中だから甘いものなんて食べてない。少なくね? と思いつつ口にする。甘いよ……おいしいよ……ちょっと涙が出た。


「ちなみに墨田川花火大会、覚えてる?」


 音葉が綿菓子をはむはむしながら訊いてくる。


「ああ、行ったな。ごった返していたな」

「この花火大会も混むから覚悟してね」


 確かに、どこにこんなに人がいたんだ? と思えるくらい人がごった返している。市内全員集めてもこんなに人はいない気がする。


 車道は渋滞していて、さっきからクラクションの音がうるさい。警察官もさっきからホイッスルを拭くか叫ぶかしながら人混みを誘導している。正直人混みは苦手だ。


「はぐれるなよ」

「じゃあ手つないでよー」

「バカ」


 どうやら海響館近くは花火が間近に見えるが、人がごった返すらしく、少し離れたところにある亀山八幡宮という地元民しか知らない穴場スポットに向かっていた。店長が教えてくれた情報だ。


 人混みを避けながら五分ほど歩くと、正面に長い石畳の階段が出没してきた。これ上るの? とげんなりしたけど、人混みよりはマシか……と諦める。


「そういえば、夏奈ちゃんのお姉さんとは仲直りした?」


 仲直りも何もないんだけどなあ。


「なんで俺、あんな目の敵にされるんだろ」

「案外、かわいい妹を取られて悔しいのかもよ~」

「そりゃねえだろ。あの人この前、無駄な努力つって夏奈のこと笑ったんだぜ」


 あの日のことを思い出すと胸がムカムカしてくる。なんだあのドS姉は。


「本音がちゃんと言えない人もいるからね~」

「秋穂さんに限ってそれはないない」


 階段を上るついでに数えてみると七〇段くらいあった。あれだけ走っているのに、階段はしっかり疲れるってなぜだろう。そんなことを考えていると、「じゃあさ」と音葉は言って、神社前にある山の上に付き出した展望台みたいなところを指さした。


「直接聞いてみなよ」


 指の方向を見ると……夏奈だ。浴衣である。浴衣の夏奈だ。

 ちょうどその展望台が花火を見るスポットなのか、人が場所取りをしている。その一番海側のところで椅子に座って、ゆっくりとうちわを仰いでいた。


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