21km
昨日のこと。
トレーニング後、鬼木さんから「明日、ふたりとも暇か?」と誘われた。
なにやら店長も鬼木さんに誘われていたらしく、朝、店長が車で迎えに来てくれた。助手席には夏奈が乗っていて、後部座席には音葉も乗っていた。「あれ? 音葉も?」と訊くと、俺が休んでいた一週間の間に話は決まっていたらしい。
音葉が隣に座った俺の腹をつまんできた。そしてニヤリとしやがった。ああそうだよ痩せねえよお前のせいでな、と言うと、鞄から特大おにぎりを出してくれた。美味し美味し。
車に揺られること一時間。
住宅が立ち並ぶ県道を進むと大きな湖があった。その湖のほとりに公園の入り口があった。公園と言うか遊園地。園内には動物園もある。
音葉と夏奈を車に置いて、クーラーボックスを担いだ店長に連れられて芝の広場まで進んだ。区画が整理され、「俺たちのブロックは……」と店長が探して、あったあったとレジャーシートを広げる。
レジャーシートを広げただけで店長は汗をかいていた。
三日坊主で止めると思ったけど店長のランニングも続いていた。というよりずっと夏奈のために送迎続けている。何気に親戚思いだ。
周りを見渡すと、同様にレジャーシートを広げる人たち。テントを立てている人たちもいる。
「店長……ここはなんなんすか?」
「早淵知らずに来たのかよ……。これパンフな」
店長が手渡してくれたパンフにはこう書いてあった。
【BBQリレーマラソン】
BBQ!? BBQってあの炭火でお肉とかソーセージとか焼いちゃうやつの俺大好きバーベキューのBBQなのだろうか。ちょっとテンション上がる。いやMAXテンション上がる!
「それにしても、リレーマラソンってなんです?」
「タスキを回して、みんなで四二・一九五キロを走るんだと。それが終わったらバーベキューで肉祭だ」
そう言って、店長はクーラーボックスを開く。そこには……。
「肉の宝石箱やないっすか! サシが! サシが! ダイヤモンドみたいに輝いていますよ!」
「この日のために、俺の仕入れルートをフル活用して極上肉を取り寄せておいた。いい感じに熟成され水分も抜けてちょうど食べごろ。この肉を炭火で炙れば、口に入れた瞬間……溶ける!」
「おぉおおおおおおおおおおおお! 店長一生ついていきますマジごっそうさんです!」
もう口の中涎でだらっだら。今なら生でも食べられる気がする。
「まあまあ、落ち着け落ち着け。走った後だ走った後」
「俺今日ならいくらでも走れますよ!」
「言ったな?」
ニヤリとして、店長は「じゃあこれに着替えろ」と黄色の全身タイツを渡してきた。
着替えると、これも、と亀の甲羅を装着させられる。店長は店長で何やら着替え始めた。そしてトゲトゲした甲羅を店長は背負う。
「店長……それなんすか」
「お? どう見てもクッパ様だろ」
「それは見たらわかりますよ。んで俺がノコノコでしょ? なにゆえこんな格好になったかって話っす」
そのときだった。何やら会場がざわつきだしたのだ。
「あのあの子たち」「かわいくない?」「やっべー仮装賞取ったっしょ」
声の方に顔を向けると、赤と緑の帽子をかぶった二人組がこちらにやってきた。
「友くんっ! えーっと、どうかな?」
「変じゃないでしょうか……早淵さん」
音葉と夏奈だ。
「……とても似合っています。はい」
ふたりともタンクトップにオーバーオールスカート姿。タンクトップは帽子の色と同じ、赤と緑。そして口元にはチャーミングが黒い髭があしらわれていた。見るからにマリオ&ルイージだ。オーバーオールの太い肩ひもがタンクトップの肩回りを上手い感じに隠していて、タンクトップじゃなくてビキニでも着ているんじゃないかって錯覚させられる。それが少しエロい! 音葉はマリオ。夏奈はルイージだった。背的にそうしたんだろう。
音葉は少女のようなあどけなさが残っていた。オーバーオールが少しだっぽりしている。帽子が少し大きくて手袋もクッション生地なのか少し大きい。加え、白いニーソだった。絶対領域がむちっとしている。かわいい、に振り切った着回しだ。人によっては泣いて喜んで崇め奉るほどのロリ力を保持しているんじゃなかろうか。
夏奈は言わずもがなだった。音葉とはベクトルが少し違って、腰が締まったオーバーオールをすっきりと着まわしている。レース地の手袋と短い白いソックス。かわいさの中に細部に美しさを宿している。そしてボディラインが主張しまくり。そして腰が締まっている分胸が大きく見える。ていうか……夏奈って実は大きいのだろうか。そういや秋穂さんが大きいから夏奈も……いかんいかんいかんいかんいかん!
――敬虔なる美少女教徒として有名な早淵さんですが、ふたりのコスプレを見て、早淵さんも思うところがあるんじゃないですか?
早淵:いや、まさか幼馴染の音葉さんのロリ顔がこんなにコス映えするとは思いませんでしたね。夏奈さんも夏奈さんもですよ。まさか隠れ巨乳だとは思いもしませんでした。今まで見抜けなかったことに悔いが残ります。それにしてもいいもの見せてもらいましたね~。いやー美少女って、ほんっっっとに、いいものですね。
俺 史 上 最 大 の 興 奮 !
生きていてよかった。生まれて初めて命に感謝した。
神様ありがとう!
そのときだった。ふたたび何やら会場がざわつきだしたのだ!
何だ何だ!? と否応なしに期待が膨らむ!
「え……あ、あの人」「見ちゃいけません!」「うぇえええええええええ」
空に響くは阿鼻叫喚。
ど、どうした? と顔を向けると……。
あけみちゃんがやってきた。
ピーチ姫の格好をしたあけみちゃんがやってきた。
「クッパさん、クッパさん。あの人、さらう気になります?」と店長に訊くと、「金、貰ってでも嫌だな」と答えた。




