籠る息
僕は今、意中の異性の隣に座り一緒に勉強している! あの人が好きな教科は日本史なんだと聞き偶然を装いながら近づき隣に座ることに成功した。偶然を装うことに必死すぎたから不自然に思われていないだろうか…そんなことを考える間も無く隣の人の横顔に吸い込まれてしまいそうだ。向こうの反応を見るに、それほど嫌じゃなさそうと思ったけれど、もし思い違いだったら…と考えるとなんだか心に暗い雲がかかったような気がする。
ここまで来て疑うことはないだろうが僕はその人がとても好きなのである。いつかは冷めるものだと思うが今はその人以外考えられなくなっているのだ。「ぁ…、なぁ…、」と小声で話しかける声、忘れていた。勉強しに来てたんだ。この人は寡黙だが話してみるとユーモアのある人だということをみんなに知って欲しいが、なんとなく自分だけの秘密にしてしまいたいからまだ誰にも言ってない。この人と知り合ってから2ヶ月経った。今はカイロがないととても厳しい季節なんだけども…
この人は健康体なんだろうか全然寒そうにない… 悴む指を温もりで包み込んでテキストのページをめくり、伸びをしながら隣を見る。この一連の動作を続けている。今ここで時が止まればいいのに… 止まるわけないか。
そんな意味のないことを考えているうちに何やら日が傾き始め閉館の音楽が鳴り始める。
向こうは満足げな表情をしている。大好きだ。 ああ伝えたいな…少しゆっくりめに開く自動ドアを抜けながらそう思った。別にこの気持ちを伝えたくなったのは今だけじゃない。出会った時から伝えれるものなら伝えたかった。家の位置が逆だからあの人と反対の方向に帰らないといけない。ずっと続けばいいのにと思っていた時間が終わりを告げようとしている。でも伝えた瞬間に全てが崩れてしまうことは私にはわかる。友達がいなくなるのも知っている。だから自分に嘘をつかなきゃいけない。私はあの人のことが好きだ。結ばれたい。ただ永遠に叶わないのだろう。
ああ、神様…いるんですか?いるわけないですよね。こんなひどい仕打ち…あんまりです。僕の身体が女であれば…私の身体が女であれば… でも私はその願いが無意味なことを知っている。大きな溜息が一つ、白い私の魂が空へ消えていったようだ。