006 言わないんかい
ローラ達が帰ってから直ぐにクララは封筒からお金を取り出してセバスに渡す。
そして自分で吐いた床のツバを雑巾で吹きとっていた。
セバスはお金を数えると安心した様に言う。
「これで今月もなんとかやっていけそうです。
お嬢様」
「よ、よかった」
クララも安心した様に席につきお茶を飲み始めた。
俺はさっき目の前で起きた事を噛み砕くのに時間がかかって居た。
イケメンがムチャクチャかわいい子2人のオッパイを俺の目の前で揉んだ。
2人とも嫁。
ハーレムってやつだ。
やるせない。
悔しい。
うらやましい。
「なぁ、もしかしてフェルナンドって勇者召喚されたのか?」
「はい。
ローラ様が数年前に召喚され、ガーゴイルの城を落とし、王族から勲章を授与されています。
多額の報奨金もあったと聞いています」
あれだけカッコよくて強いんだな。フェルナンドは……
「おまえらはフェルナンドが出て来ると思って勇者召喚したのか?」
セバスもクララも何も答えない。
とても苦しい間だ。
数秒が数分に感じられる。
「い、石は嫌いじゃない」
「フォローになってねぇよ!
しかも暗に俺の質問にイエスって言っちゃってるじゃねぇかよ!」
クララは気を使ってくれたんだろうが……
「で、あの金はなんなんだよ?」
「ローラ様のキャルメオ家は遠縁ではあったものの、我がジュベール家と非常に懇意にされていました」
セバスが事務的に話す。
「そのため旦那様と奥様が五年前になくなってしまってからは、毎月お金を援助くださっているのです」
「そんなことしてもらってるのに、なんでクララはあんな態度なんだよ?」
「あ、あの子は昔から大っ嫌いだった。
ぶ、ぶりっ子で。いい子ちゃんで、私に無いもの全て持ってる」
「おい、嫉妬だな! 明らかに!
無いもの持ってるって言っちゃってるからな!」
正に悪役令嬢だな……
「い、石は嫌いじゃない」
「どういう意味だよ!!
俺でもわかんねぇよ。
ここでのその言葉の意味は!」
本当によくわからん。
「まぁいい。
それでオレ達はローラ達に貰った金で生活してるってわけだな」
「そ、そうとも言うかもしれない」
「それ以外の解釈ねぇよ!
認めろ!いい加減!」
「それでも今までは多額の財産と家がございました。
しかし、お嬢様は旦那様と奥様が亡くなられてしばらくして家を引き払いました。
この家に住み替え、仲の悪かったローラ様からの援助も受け入れました。
節約して暮らし、ひたすら資金を貯めたのです」
「心地良く援助受け入れてる様にはみえなかったけどな」
俺は軽口を叩く。
「それはすべてはこの勇者召喚の為でした」
俺は黙ってしまった。
さすがに軽くツッコム気になれなかった。
生活を賭けて、全てを賭けて、
この勇者召喚をしたのは今までの話ではっきり伝わったから。
そうして出てきたのが、石じゃ気落ちもするわな……
自分から喋る気になれなかったので、俺はクララからのあの言葉を待つ。
あの言葉
あの言葉
あのーー
「あーもう!言わないのかよ?
石は嫌いじゃないってやつ!
今、1番必要だったよ!!」
「い、石は本当に嫌いじゃない」
「ありがとよ!待ってたよ!
頼むぜ!本当!」