004 味覚あるぞ
鏡を戻して床を拭いてテーブルをしっかりセットして椅子に腰掛ける。
じいさんがお茶を入れている。
「ところでクララ、金ないならどうやってお金稼いでるんだ?」
「か、稼がない」
「稼がないってどういうことだよ?
不動産とかあんのか?」
「こ、言葉のまま。
稼がない。働かない」
ん?ダメな奴の匂いがしてきたぞ。
「なぁ、クララ。おまえもしかして働いたことないのか?」
「ないよ」
「なんでいきなりフランクになったんだよ。
今までぶつ切りで喋ってたのによ!
それこそ言いにくい発言だろ!!」
「お嬢様は我がジュベール家の一人娘。
働く必要などないのです」
「いや、まぁよ。金あるなら良いだろうけどよ。
金ないんだろ?
父ちゃん、母ちゃんはどうしたんだよ?」
一気に暗い空気になるのを感じる。
「ふ、2人とも死んだ」
「お、おう。そうか。残念だったな」
さすがにちょっと無神経すぎたか……
「けど、まぁ。
俺なんてもう前に居た世界に帰れないらしいし、人間から石になっちまったしよ」
「い、石は嫌いじゃない」
「言ってくれると思ったよ!
良かったよ!いつもの調子で」
「お茶ができあがりました。どうぞ」
席にお茶が置かれてクララがすする。
俺の前には置かれない。
「おい、セバス。
俺の分はねぇのかよ?」
「石にクチはありません」
「あるだろ!クチ!
喋ってるだろ!」
ん?待てよ?
あるのかクチ?
俺は立ち上がって鏡をじっくり見てみる。
ダンボーの口の部分は5センチくらい凹んでるだけだ。
凹みの底もはっきり見える。
そして喋るとクチ? の部分が少しだけど動く。
飲食できないな、これ……
まぁ、いいや。
声帯もないのに喋れるんだからどうにかなるかもしれない
試してみよう。
「セバス、俺にもお茶くれよ!
試してみたいんだ!」
「はぁーーー」
セバスはハッキリため息をついて俺にもお茶を出してくれる。
口の部分に流してみる。
「あれ、お茶の味するぞ?
普通に味する。
仕組みはわからんけど」
これは良かった。味覚はある。