泣いてる女の子
ある日、僕は小学校の校舎の片隅で泣いている女の子を見かけた。
彼女はグスグスと鼻水をすすりながら泣いていた。
「どうしたの?」
声をかけると、女の子は顔を上げて僕を見た。
低学年の子だろうか。
クリクリッとした大きな瞳が印象的だった。
女の子は僕の顔を見ながら「ひっくひっく」と声を震わせている。
「何かあったの?」
再度尋ねると、彼女はしゃくりあげながら答えた。
「みんながね……私をいじめるの」
「いじめる?」
「お前は魔女だって……」
「ま、魔女?」
思わぬ返答に言葉が詰まる。
確かに彼女の着ている洋服は黒いワンピースで、頭に付けているカチューシャも黒。よく見れば、履いている靴も靴下も黒かった。
でもだからって魔女って……。
「そっか、それはひどいね」
「私、魔女なんか嫌いなのに……」
「魔女、嫌いなの?」
「うん、嫌い。大嫌い。だって、可愛くないんだもん……」
そういう問題なのか?
「魔女って、可愛くないの?」
「可愛くないよ。だって、魔女だもん」
うん、わからない。
でもひとつはっきりしてるのは、この女の子は魔女が嫌いだということだ。
だから僕は努めて明るい声でこう言った。
「僕は好きだけどな、魔女」
「……え?」
「だってさ、魔女だよ? お空を飛んだり、魔法を使ったりするんだよ? カッコイイじゃない」
「かっこいい? 魔女が?」
きょとんとしながら首をかしげる女の子。
どうやらそういった感情はまったくないらしい。
「魔女はね、男から見たらカッコイイ存在なんだよ。もし目の前に魔女がいたら、僕はすっごく興奮するけどなー」
「ほ、ほんと!? ほんとに!?」
とたんに目をキラキラと輝かせて身を乗り出す女の子。
あまりの迫力に少し腰が引ける。
「な、なに?」
「私かっこいい!? 興奮する!?」
「はい?」
女の子は恥ずかしそうに小さな声で何かをつぶやくと、突然空に舞い上がった。
「はいぃっ!?」
思わず目ん玉が飛び出しそうになった。
なに?
なんなの?
空飛んだよ、この子。
「見て見て! 魔法も使えるよ!」
言うなり、彼女は飛び回りながら手から小さな炎を出現させた。
もう何が何やらわからない。
ほんとに?
ほんとに、この子魔女なの?
ポカンと見上げてると、女の子は颯爽と降り立って恥ずかしそうに笑った。
黒いワンピース、黒いカチューシャ、黒い靴。
……そしてチラリと見えた黒いパンツ。
僕はコホッとひとつ咳をして、パチパチパチと拍手した。
女の子は「えへへ」ととても嬉しそうにしていた。
この数十年後、僕らは結婚する。
これはその出会いの物語……。




