表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

泣いてる女の子

 ある日、僕は小学校の校舎の片隅で泣いている女の子を見かけた。

 彼女はグスグスと鼻水をすすりながら泣いていた。


「どうしたの?」


 声をかけると、女の子は顔を上げて僕を見た。

 低学年の子だろうか。

 クリクリッとした大きな瞳が印象的だった。


 女の子は僕の顔を見ながら「ひっくひっく」と声を震わせている。


「何かあったの?」


 再度尋ねると、彼女はしゃくりあげながら答えた。


「みんながね……私をいじめるの」

「いじめる?」

「お前は魔女だって……」

「ま、魔女?」


 思わぬ返答に言葉が詰まる。

 確かに彼女の着ている洋服は黒いワンピースで、頭に付けているカチューシャも黒。よく見れば、履いている靴も靴下も黒かった。

 でもだからって魔女って……。


「そっか、それはひどいね」

「私、魔女なんか嫌いなのに……」

「魔女、嫌いなの?」

「うん、嫌い。大嫌い。だって、可愛くないんだもん……」


 そういう問題なのか?


「魔女って、可愛くないの?」

「可愛くないよ。だって、魔女だもん」


 うん、わからない。

 でもひとつはっきりしてるのは、この女の子は魔女が嫌いだということだ。

 だから僕は努めて明るい声でこう言った。


「僕は好きだけどな、魔女」

「……え?」

「だってさ、魔女だよ? お空を飛んだり、魔法を使ったりするんだよ? カッコイイじゃない」

「かっこいい? 魔女が?」


 きょとんとしながら首をかしげる女の子。

 どうやらそういった感情はまったくないらしい。


「魔女はね、男から見たらカッコイイ存在なんだよ。もし目の前に魔女がいたら、僕はすっごく興奮するけどなー」

「ほ、ほんと!? ほんとに!?」


 とたんに目をキラキラと輝かせて身を乗り出す女の子。

 あまりの迫力に少し腰が引ける。


「な、なに?」

「私かっこいい!? 興奮する!?」

「はい?」


 女の子は恥ずかしそうに小さな声で何かをつぶやくと、突然空に舞い上がった。


「はいぃっ!?」


 思わず目ん玉が飛び出しそうになった。


 なに?

 なんなの?

 空飛んだよ、この子。


「見て見て! 魔法も使えるよ!」


 言うなり、彼女は飛び回りながら手から小さな炎を出現させた。

 もう何が何やらわからない。


 ほんとに?

 ほんとに、この子魔女なの?


 ポカンと見上げてると、女の子は颯爽と降り立って恥ずかしそうに笑った。


 黒いワンピース、黒いカチューシャ、黒い靴。

 ……そしてチラリと見えた黒いパンツ。


 僕はコホッとひとつ咳をして、パチパチパチと拍手した。

 女の子は「えへへ」ととても嬉しそうにしていた。




 この数十年後、僕らは結婚する。

 これはその出会いの物語……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ