表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

貧乏女神様

 雪が降りしきる12月──。


 財布の中を覗くと、そこには貧乏女神様がいた。

 白いローブに身を包み、ちょこんと座って僕を見上げている。

 大きな黒い瞳に、長いまつげ。銀色の長い髪はまるで絵本に出てくるお姫様のようだ。

 僕は「はあ」と白い息を吐きながらため息をついた。


「まだいるんですか?」


 その問いに貧乏女神様は「ええ」とにっこりほほ笑む。

 眩しいくらいの笑顔だった。

 彼女は数週間前からなぜか僕の財布の中に住み始めている。

 同時に、ものすごい勢いで余計な出費がかさんでいった。

 買ったばかりの革靴は底が抜けたり。

 高かったスーツはペンキ塗りたてのベンチに座ってダメにしたり。

 度重なる不運の連続で、僕の財布の中身は空っぽ状態。

 これ以上損をしたくない一心で、今ではよれよれのスーツに履き潰した革靴を履いている。


「あの、お願いがあるんですが……」


 僕は財布の中の彼女にささやくように声をかけた。


「はい」


 貧乏女神様は笑顔で僕に目を向ける。


「できれば、その……出て行ってほしいんですけど……」


 僕のその言葉に、貧乏女神様が悲しげな表情を浮かべた。


「私、お邪魔ですか……?」

「いや、お邪魔というかなんというか。実はあなたが僕の財布の中にきてから、出費がかさむんです。ふところが寒くなるんです」

「貧乏女神ですから」


 ニッコリと微笑む貧乏女神様に、僕は何も言えなくなってしまった。

 こんなにきれいな女性に微笑みかけられたら、これ以上出て行けとは言いづらい。

 僕は二度目のため息をついた。


「でも」と貧乏女神様は言う。


「心配いりませんよ。必要最低限のお金は残しておきますから」


 わけがわからない。

 それは逆に言えば、必要最低限以外のお金はなくなってしまうということじゃないか。


「どうして僕なんですか?」


 思わずそう聞いてしまった。

 もしも貧乏女神であるならば、もっとお金を持っていそうな人のところに行けばいいのに。

 しかし僕の問いかけに貧乏女神様はニコニコしながら答える。


「それは……あなたの心が温かいから」

「へ?」

「あなたのふところが、ポカポカしてるから」

「僕は寒いんですけど……」


 そう言う僕に、貧乏女神様はクスクスと笑う。

 うまいこと言った、と思われたのだろう。

 きれいで美しい笑顔だった。

 そんな彼女の姿に、僕もなんだか笑いが込み上げてきた。


「ふふ……ふふふふ……あはははは」


 僕が笑ったのが嬉しかったのか、貧乏女神様も一層大きな声で笑った。


「あはははは」

「うふふふふ」


 雪が降りしきる12月。

 ふところは寒いけれど、なんだか心は温かかった。

 こんな気持ちになれるのなら、貧乏女神様がいても別にいいだろう。


 僕はそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ