5巻だけない!
アニメ好きの友人がいる。
彼は毎日、近くのレンタルショップに行ってはアニメを借りてくる。それを深夜まで鑑賞し、翌日に返却しては次のを借りるというのを繰り返している。
そんな彼が言った。
「最近、おかしなことがあるんだよ」
普段から少し変わっている彼が「おかしなことがある」と言うからには余程の事だろう。
「どんな?」という言葉が自然と口に出た。
「DVDを借りに行くと、なぜか5巻だけが借りられてるんだ」
「5巻だけ?」
「そう、5巻だけ」
「別に何もおかしいことはないじゃないか。たまたま5巻を借りてた人がいただけだろ?」
「そうじゃなくて……。他のアニメも全部5巻だけが借りられてるんだよ」
「他のアニメも?」
「そう、他のアニメも。ジャンル・年代問わず、20作品以上のアニメの5巻だけがなくなってるんだ」
確かにそれはおかしな話だ。
仮に、いろんなアニメを1巻ずつ借りていっているならわかるが、一気に20作品以上のアニメの5巻だけを借りていくというのは考えられない。
「店員に聞いても教えてくれないだろうし。どう思う?」
「どう思う? と言われても」
「オレに対する嫌がらせかなあ」
「お前に嫌がらせして、どんなメリットがあるんだ」
「アニメの続きを早く観たいオレがウズウズしてるのを陰で笑ってるとか……」
「ずいぶん、手の込んだ嫌がらせだな」
嫌がらせの部類にしては最下級だろう。
面倒くさい上に金もかかる。
果たしてそこまでして彼にいじわるをしたいヤツなどいるのだろうか。
アニメ好きの彼は確かに変な男だが、嫌がらせを受けるような悪いヤツではない。
「たまたま5巻だけを借りようとした人が20人以上やってきたとか、そういう偶然じゃないか?」
ありえない仮定を述べてみる。
自分自身、あり得ないと思っているのだから、当然のごとく彼は首を振って否定した。
「そんなこと、あるかよ」
結局5巻だけが借りられてる理由は推論が出ないまま、とりあえず件のレンタルショップに行くことにした。
小さな町のこじんまりとしたレンタルショップだ。
あまり利用したことがないのでこうして入るのは初めてだったが、なかなかキレイな内装だった。最近の、所狭しとポスターを貼りまくるチェーン店のようなゴチャゴチャ感は感じられなかった。
そして、問題のアニメコーナー。
足を踏み入れると、そこには新旧様々なアニメDVDのパッケージがずらりと並んでいた。
パッケージだけ見ても面白そうなアニメが山とある。これは毎日来てしまうのも納得だ。
「ほら、これこれ!」
友人が面白そうに指差したのは、子どもに大人気の海賊アニメ。それと忍者アニメ。格闘アニメ。
確かにそのどれもが5巻だけなくなっている。
他の恋愛アニメでも、70年代アニメコーナーでも5巻だけがない。
「ほんとだ、ないな」
「だろだろ?」
なぜか嬉しそうな友人。
悲しいのはそっちのはずなのに。
「これはあれだな。きっとお前にこれ以上アニメを見てほしくないという店側の主張だな」
「なにそれ!? オレほど貢献してる客はいないぞ! 毎日5本以上借りてるんだから!」
「それを一日で観終わるお前がすごいよ」
そんな他愛もない会話を交わしていると、「すいませーん」と店員がカゴを持ってやってきた。
中には大量の返却DVD。
そしてアニメの5巻パッケージを手に取ると、その中に次々と返却されたDVDを入れていく。
「あれ? 5巻だ」
「ほんとだ、5巻だ」
ポカン、として見つめていると、店員は「あ!」という顔を見せた。
「もしかして、この中のどれかをお求めでいらっしゃいましたか!?」
「あ、いえいえ、そうではなくて……。いや、求めてたのは事実なんですが……いろんなアニメの5巻だけがなくなってて、なんでかなーって友人と話してたんです」
「ああ、それは申し訳ございません。もしお決まりでしたら、この中からお渡しいたしますが」
「あ、大丈夫です。ていうか、誰が借りてたんですか? そんなに大量の5巻」
「誰が……というか。警察に提供してたんです」
「け、警察!?」
なんだかとんでもない名称が飛び出してきた。
警察ってなんだ、警察って。
「なんでも、近くの貴金属店で窃盗事件があったらしくて。犯人が警察に追われてる際、ウチのレンタルDVDの5巻に指輪を隠したとかで」
レンタルDVDに指輪を隠した?
よほど焦っていたのだろうか。
そんなところに入れたら、あとで取りにも来れまい。
「でも、どれを探しても指輪が見つからなくて」
「5巻の中に指輪はなかったってことですか?」
「はい。でも念のため指紋を採取したいっていうんで提供していたんです」
なるほど、そういうことか。
誰かが観たくて借りてたわけではなかったのか。
なんとも紛らわしい話だ。
友人も事情がわかってホッとしたらしい。
「これで心置きなく借りられるな」
気を取り直して、新たなアニメDVDをチョイスし始めた。
こういう時の彼の顔は本当に生き生きしている。
まるで子どものようだ。
そんな彼を見て思った。
よし、せっかくここまできたんだ。
自分も何か借りよう。
いろいろとアニメを見て回り、棚にあった特撮アニメを一本手に取る。
『特捜戦隊ゴーカンジャー』
昔懐かしの特撮アニメ。
小さい頃、ハマって見ていたやつだ。
子どもの頃を思い出す。
童心に戻ってもう一度観てみようと弾む気持ちでパッケージからDVDを抜き取った。
すると、そこには……。
キラキラと輝く指輪が入っていたのだった。
おっふ。
「吐け! 指輪はどこに隠した!」
「いででで! わかった、言うよ、言いますよ! 指輪はレンタルショップのアニメDVDの中に隠したよ」
「どんなアニメだ!」
「特捜戦隊ゴーカンジャー……」
「なに!?」
「ゴーカンジャー」
「……なんだって!? もう一度言え」
「だから! アニメのゴーカンジャー!」
ゴーカンジャーを「5巻じゃー」と聞こえたというお話でした。
※ちなみに、ゴーカンジャーというアニメは架空の作品です。




