序章
――さあ、勇者一行よ! 見事私を打ち倒し、世界の平穏を取り戻してみせよ!
今代で一〇八を数える魔王家の長い歴史の中でも、魔王としての素質が高く、初代と並ぶほどとまで言われた私は、その勇者一行との戦いの後、戦いによる疲労と老衰により、この世を去った。
愛すべき家族、愛すべき部下達、そして愛すべき人間達に囲まれて。
悪逆非道、悪の権化の名を冠し、縦に生きた魔王は、幸せを感じながら、去った。
――そして私は次なる生を享けた。
違う世界で、違う種として。
両親の悲喜交交な表情と、歓迎とは程遠い、殺伐とした雰囲気の中。
人間として、前世の記憶を有したまま、この”エルルコニッグ”と呼ばれる世界に、生まれ落ちた。
人間としての始まりは、私にとって衝撃の大きいものとなった。
まず初めに、前世の記憶が存在していたこと。
これがあったせいで、私が死んでしまったという事実に気づくのに、数秒を要した。
何故ならば、あの日皆に見送られて意識を手放した後、再び目を開けるまで、記憶らしい記憶は一切存在せず、この世界に生まれているからだ。
前世が魔王だったからか、それともその時の強大な力がそうさせたのか、はたまた、こちらの世界の父上か母上がそういった術を心得ているのか。
勿論、私が魔王だった以前の前世の記憶は持ち合わせていない。
二つ目に、まだか弱い体と小さな頭脳で、簡単な思考を巡らせたり、魔法を行使することが出来たこと。
人間の子供として生まれたことは、両親の特徴を見て、すぐに理解することが出来た。
そして前世の世界では、人間の子供達が魔法を行使出来るようになるまで、どれほど卓越した才を持ってしても、六年という歳月を重ねなくてはならなかった。それには、自我が芽生えた直後から、魔法の根本的な仕組みや、所作、精霊の類などの知識の習得があった為である。
だが、私は自立すら出来ない赤子の体で、本や食器類の比較的小さなものなら、数秒程度動かすことに成功した。
後に聞く話だが、この世界でも基準はそれほど変わらない様で、まだ会話の出来ない頃の両親との意思疎通に使おうと試みたものの、この体とだけあって、使用後は疲労で直ぐに眠気が襲ってくるという副作用があった。その上、この年齢で行使出来る人間の赤子が普通は居るはずもなく、めでたく私は《泣かない霊体質の赤ん坊》という噂を立てられることとなった。
そして最後に、両親や周囲の様子が異様だったこと。
私の世界では、子が誕生するとなれば街はその親子を祝福し、また新たな勇者が誕生するのではないかと、種族を問わず盛り上がりを見せるものだった。
しかし、私の新たな母上は、悲しさや嬉しさを含んだ笑顔で『ごめんね』と何度も呟き、父上はただ無言で涙を浮かべ、悔しさを露わにしているのである。
幾つも理由を考えたが、納得の得られる回答は出せず、それが解ったのは、私が六歳になった頃だった。
――両親が揃って他界したのだ。
なろう処女作(何番煎じ?)です。
勝手がまだまだ分かりませんが、今後とも宜しくお願いします。