一章 2話
いやぁ、意外と結構書けましたね、力作です!
「ギャンッ」
「ん?」
眩い光に包まれたかと思うとそんな獣の悲鳴のような音が聞こえた。一体何事かと確認しようとするがいまだに眩しくて目を開けられない。
「ん、あれ?」
グッ、グッっと体を動かそうとしてみても体がうまく動かない。いや、上手く身体に力が入らないといったほうがいいか。
色々となんとか動こうとしているうちに段々と視界が晴れてきた。やっとさっきの音、と言うか声の正体が分かるな。
未だに光は残っているものの、目の前にあるモノはなんとか視認することができた。
「ん? え、なに?」
俺の目の前には狼がいた。牙を剥き出しにしてこちらに敵意を露わにしている。
(え、これ襲われるんじゃね!? やばいやばいやばいって! ってうわ、こっち来たぁぁぁ!!)
しかし。
「ガァァァ!! 」
こちら目掛けて跳躍して襲いかかって来た狼は何か見えない壁のようなものに弾かれた。
俺はそのことに心の底から安堵した。マジで。
(狼の口マジこわっ……、あんなのに噛まれたらひとたまりもないだろ!)
ふと見てみると狼はこの光に阻まれて攻撃が届かなかったらしい。だが、その光は名残惜しそうに一瞬瞬いたかと思えば霧のように消えてしまった。つまり、今の俺には身を守るものがなに一つ無いことになる。
そして俺の前方には再度こちらに今にも飛びかかって来そうな狼が。
(うっし逃げよう!)
勝てるわけが無い。そう結論を出した俺は狼に視線で牽制しながらジリジリと後ずさりをする。
(あともう少し、もう少し距離ができれば多分、逃げられる……。そぉっと、そぉ〜っと……)
ジリ、ジリ、ジリ、コツン。
と、俺の足に何かが当たった。なんだ岩なんて後ろにあったっけ? そんなことを思いながら足に当たったものの正体を確かめる。
(なん……だと。)
俺の足が当たったのは岩では無かった。もっと言えば無機物では無い。そう、可憐な、可憐な小さな女の子だった。
年齢で言えば10代ぐらいだろうか。淡い青色の短髪の少女がそこにいた。
(というか足! 俺の足に当たってるぅ!)
足ですら認識してしまう女の子の感触。正直彼女いない歴イコール年齢の俺にとってはそれは反則的な衝撃だった。
そして気付いてしまう。
(この子、怪我してんじゃん!)
みるからに痛々しい足の傷が。こんな足では歩くことならともかく走るなんてできそうに無い。さらにタイミングの悪いことにこのタイミングで狼が三度俺に襲いかかって来た。
「うわあぶなっ!?」
咄嗟に身をよじろうとした、だが。
(今避けたら恐らくこの子が襲われる?)
そう考えると同時に俺の身体は動きを止めた。そして時を同じくして左肩に鈍痛が走る。
「いってぇぇぇぇ!!!」
今まで生きて来た中で初めて感じた痛みだった。獣の牙というものは想像以上に痛かった。ズブズブと身体に異物が侵食していくのが分かる。
俺は力を振り絞り未だにその牙を立てている狼を思いっきり抱きしめた。まぁ俗に言うさば折りみたいなものだ、正しいやり方なんて分からないから力の限り抱きしめただけなんだが。
「キャインッ!」
ミシミシミシッと音がした瞬間狼は俺の肩から牙を離す。それに安堵したと同時に俺も体の力を抜いてしまい、狼を逃がしてしまった。
狼は空中で体勢を整え軽やかに地面に着地した。狼の口元からは俺の血液であろう液体が滴っている。それをこれ見よがしに実に美味そうにその長い舌で舐めている。
普段の俺ならこの時点で痛みに負け恐怖に震え戦意を喪失し、出来る限り迅速にこの場から離れることに尽力していたことだろう。しかし。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、うん大丈夫、平気だよ……っつぅ…」
「ご、ごめんなさい!」
「なんで君が謝るの?」
「だ、だって、私のせいでお兄ちゃんが怪我…っしちゃってっ、私の、せいでっ……!」
女の子が耐えきれずに泣き出してしまった。
(この子は、なんて優しいんだろう。別に自分のせいじゃないのに、ただ俺が勝手に首を突っ込んだだけなのに)
俺がこの場に現れた時に聞いた獣の声、アレは俺が出現したタイミングでこの子を襲おうとしたんだろう。だから俺が纏っていた光が壁に役割を果たし、狼を弾き飛ばした。今思えばその時点で既にご馳走を目の前で邪魔されて怒ったんだろうな。どう見たって今狼の目には俺しか映ってないもん。後ろの女の子とかコイツ全然見てないし。
俺は女の子に近付き、そっと頭を撫でた。
「大丈夫、君のせいじゃないよ。だから泣かないで?」
「は、はい……」
「うん、いい子だ」
俺は頭をポンポンして腰を上げた。さて、今は俺に気が行って女の子のことなど気にも止めてないだろうが、俺が逃げるという選択肢を取った場合は間違いなく女の子にその牙を突き立てることだろう。 だから俺にはやはり元々闘う以外の選択肢はないのだ。それに女の子を見捨てて逃げられるほど俺は外道じゃないしな。勿論女の子が自力で逃げられるなら俺も逃げるが。
狼はこちらの様子を窺っている。多少は学習したのだろう。安易に飛び込んでは来なくなった。
俺はその隙に狼から目を離さないように何か武器になりそうなものを探していた。足元をガサガサと動かし、兎に角戦えそうなものを探した。
だが、そんな折に痺れを切らした狼が真っ直ぐに突っ込んできた。
「うわっ!? くそっ!」
ガチンと狼の顎が空を噛む。さっきその威力を思い知った俺はもうそんな易々と噛まれるようなヘマはしない。というかしたくない、マジで痛いもん。
「ああくそ、なんもねぇ!」
避けながら、躱しながら辺りを探すも武器になりそうなものは何も無い。あるのは広大な緑のみで、目的の物は見つからなかった。
その時、今まで突進して噛み付くという攻撃しかして来なかった狼が突如として跳躍して迫ってくる。俺はそれを見てしめた! と思った。痛いのには変わりないが、これがさっきと同じ喰らいつく攻撃だとしても、我慢すればまたさっきのように捕まえることができると思ったからだ。
だが、現実は甘くなかった。
「いったぁっ!?」
引っ掻かれた。右足をおおきく振りかぶって横薙ぎに振るってきた。そのため捕まえようとしていた俺は腕を、その鋭利な爪で引っ掻かれた。引っ掻かれたとは言っても獣の鋭い爪でやられたのだから、猫などに引っ掻かれるのとは訳が違う。例えるならそう、数本の刃物で切りつけられるようなものだろうか。咬まれたのもかなり痛いがこっちも本当に痛い。仮にコレが足だったとしたら間違いなく俺も動けなくなっていただろう。
俺は自分の腕を見る。酷く痛む箇所から俺が生きていた環境じゃ見ないレベルで血が流れている。腕を動かして見るが、すっごく痛むが我慢すれば意外と動かせた。
狼は俺の目の前でウロウロとしている。隙でも窺っているのだろうか。だとしたらかなりムカつく。
(ちくしょう、せめて一発ブン殴りてぇ……!)
幸いなのかなんなのか、引っ掻かれたのは左腕だったため結果的に利き腕は動かせる。
(もう武器もみつからねぇししょうがない、自分を囮にして飛び込んできたところにカウンターを喰らわせる!)
そうして俺は全身に神経を集中させた。なんの能力も持ってない俺が勝つにはもうコレしかない。そう自分に言い聞かせてその時を待った。
時間にして数分だろうか、それとも数十分だろうか。俺にとっては数時間にも等しい時が流れた頃、遂に狼が動いた。真っ直ぐにこちらに突っ込んできている。
(どっちだ!? 引っ掻きか、噛みつきか……!)
やがて狼が目の前まで迫ってくる。俺は狼が最後に取った行動でどう動くかを注意深く見定める。すると。
「バッ! なにぃ!?」
狼は直前で止まり、刹那俺の左を駆け抜けた。その先にあるものは。
「くそっ! 逃げろーーー!!」
「えっ、ヒィッ!?」
狼は一直線に女の子の元へと走る。必死に狼に追い縋るが、追い付かない。
(くそッくそッ! くそッ!! 間に合わない!間に合わない! くそったれ!!)
狼と女の子の距離はもう僅かしかない。数秒経たないうちに狼は女の子に襲いかかるだろう。
俺は、一縷の望みをかけて力の限り咆哮した。
「とぉまぁれぇぇえええぇぇぇッ!!!」
瞬間、世界が停止した。
改稿だ、改稿だ、改稿するんじゃあ!! あんな深夜のテンションで書いたものなんか意味ないんじゃああ!
リアルに赤面しちまった!