プロローグ おまけ
プロローグが終わると言ったな、アレは嘘だ。
「行きおったか」
ヴァンデルは燐が光に溶けるように消えた様を見てそう呟く。
随分と騒がしい転生者だった。話して見て分かったが、燐は心根は優しい少年だ。神様と呼ばれるワシらに対して普通であれば手助けしたい、などとは中々言葉にできないだろう。それを燐は物怖じすることなく堂々と言った。これだけで燐という人間の性格が何となく見えた。あの少年には出来るだけ良い道を進ませてあげたい。だが。
「ふむ……、やはり気にかかるのぉ」
「何がじゃジジイ?」
「レヴィや、お主もこれを見たじゃろう」
先ほど燐から受け取った資料をヒラヒラと動かす。しかしこの子は。
「うむ、見たぞ!」
「何か思うところが無かったかの?」
「字が難しくて全く読めなかったぞ!」
「……やれやれ。レヴィや、何度も言ってるじゃろう? もう少し字の勉強をしなさいと……」
情けない。やはり甘やかしすぎたのだろうか。いや、恐らくそうじゃろう、今時の神が字すら読めないなどと本来はあってはならない。しかしこの子は……。
「ふぅ……、レヴィや、後でじぃじがしっかりと字を教えてやるからな?」
「え〜〜? 妾この後遊ぶ予定が……」
「覚えるまで遊ぶのは禁止じゃ、分かったかのぅ?」
有無を言わさない笑顔で強く言う。拒否は絶対に許さん。
「ひゃ、ひゃい」
「うむ、では話を戻そうかのう。燐の資料じゃが、これはワシから見ても不可思議な場所が一つある」
「ひゃい」
「それがな、この部分じゃ。どれレヴィ、見てみぃ」
レヴィの前に資料を出し問題の箇所を指を指して示す。
「う、う〜〜ん……。……あれ? 読めない……」
「そうじゃろ、ワシも読めん。」
そうなのだ。他の部分は全て読めるのに、この部分だけ全く読めぬ、何じゃこれは。
「スキルの文字が全く見たことがない文字で記されているのじゃ。だからレヴィが読めずともいいのじゃ」
「そ、そうなのか!? ならばワシは勉強する必要がないという……」
「レヴィ……?」
「ひゃい、ごめんなしゃい……」
やれやれ。
「しかしのぉ、これがアガルティアの中で人々に知られたら面倒くさいことになるかもしれんのう。……ふむ、ちょっと表記を弄っておくか。レヴィよ、ちぃと手伝ってくれんか?」
「う、うん手伝う!」
コキコキと首を鳴らして本来の仕事場へと戻る。ああ首が痛い。ジィッと資料なんて眺めてたから肩が凝ってしまった。
ヴァンデルはそうボヤきながらレヴィを連れて、燐と同じようにその部屋を後にした。
今度こそプロローグをやっつけたはず。
しかし手強かった。とりあえず今度こそ次回からは本編入ります!