プロローグ 後編
お待たせしました、マイペースで申し訳ありません。
「転生……ですか?」
「そうじゃ」
「他の人達は皆転移で、俺だけ転生なんですか!?」
「正確には、お主も転移だったんじゃよ」
「それがそちらの手違いで転生になってしまった、だからそれを教えるために私をここに呼んだ、と言うことですか?」
「申し訳ないが、概ねその解釈で合っておる。燐よ、誠に申し訳ない」
突然のカミングアウトに少々驚いたが、老人が頭を下げて謝罪してきたのでこれ以上は何も言えなくなってしまった。それだけこの老人の行動に想いの重みがあるんだなと一人納得した。
「まぁ、事情は分かりました。それで、私はこれから此処から転生する、ということで良いんですかね?」
「そうじゃが、燐よ。お主さえ良ければじゃな、転移した時に近い状態でお主をアガルティアに送り込むことができるんじゃ。この話をするためにレヴィはお主を此処に呼んだのじゃ」
うん?
「私を此処に呼んだのは貴方ではなくレヴィなんですか?」
「に、人間如きが妾を呼び捨てるでないわ!」
俺の言葉に隅の方で小さくなっていたレヴィが猛火の如く憤慨しはじめる。だがこの怒りは恐らく照れ隠しなのだろうと、なんとなく想像できる。
「レヴィ!! ……この後じぃじから話があるのでな……? 大人しくしておれ」
肝が冷えるとはまさしく今の俺の心境を表すのに相応しい言葉だと思う。老人の声は先程の優しげな声が想像のつかないほど、確かな威圧を伴って俺の鼓膜を震わせた。
「ま、まぁまぁ……、と、ところで先程のお話なのですが」
「む?うむ。決まったかのう?」
レヴィに向けていた威圧を解きこちらを向く。チラリと見て見たがレヴィは威圧から解かれた直後からカタカタと小刻みに震えていた。
「はい、是非私を転移に近い状態で転生させてください」
「うむ、分かった。それならば先ずはそなたを調べさせてくれい」
え、なんで?
「何故ですか?」
「そなたの身体にあるあらゆる情報を新しい身体に入力しなくてはいかんのじゃよ。これを怠った場合の措置はワシ等にはどうすることもできんのでな。それに色々便利になるはずじゃ」
「なるほど……? 分かりました」
(お主……分かっとらんじゃろう)
「何か仰いましたか?」
「ゴホンッ、いや、なにも。それより作業を始めるでな、こちらに」
そう言うや否や何も無かった場所にフッと白く簡素な椅子が出現した。促されるままにそこに座ると、次はこれまた何処から出てきたのだろうか、数枚の資料の様なものをこちらに手渡してきた。
「少しばかり時間がかかるのでな、それの記入をして待っていておくれ」
そう言って俺の手に渡された資料には、
「キャラクターメイキング?」
要するに、RPGなどでよく見るパラメーターが載っていた。
「一応転生じゃからな、ある程度の容姿も変更できるのでな、なりたい容姿の特徴をそれに記入するがよい」
マジか! なんていう神対応! これはいいなぁ、じゃあどうするか。超絶イケメンにでもしてもらおうか、とか思ったのだが。
いかん、具体的なイケメンの想像ができん……!某俳優さんやアイドルの顔ぐらいしか思い浮かばない……! なんてこった!
暫く考えて見たが、もう想像できない顔は一切破棄して今の自分の顔のパーツをあれやこれやイジって、まぁ、イケメンじゃね? という感じの顔を作ることに成功した。もはや原型が残っていないように見えるのだが、まぁいいだろう。
「よし、解析完了じゃ」
おっと、どうやらあちらの作業も終わったようだ。
「では燐よ、出来上がった資料をこちらにおくれ」
「はい」
出来上がった資料を老人に渡した。老人は繁々とそれを眺め、うむ。とか一人納得していた。一体何がうむなのか。その納得した顔がニヤニヤしながらこちらを見ていることと関係しているのだろうか。いや、ないだろう、小さくなっていたレヴィを手招きで呼び、資料をこちらに向け人相を比べているのは全く関係ないことなんだろうな。
「見てみぃレヴィや、あやつこの顔自らのパーツを弄って造ったらしいぞぃ……ブフゥッ」
「ジジイ、流石にそんなこと言うのはダメではないのか……? プププッ」
「おいテメェ等いい加減にしろやぁぁぁぁぁぁ!!」
いい加減現実逃避の限界に来ていた俺は耐えることができなかった。
「いいじゃん! イケメンの顔に憧れたってさぁ! 何がおかしいの!? 誰だってイケメンになりたいんだよぉ! イケメン僻んでるやつは大体イケメンじゃないから羨ましいだけなんだよぉ!! なんでそこまで……笑われなきゃ、いけないんだっよぉ!!」
「お、おおう……。すまん……」
「う、うむ……。妾も度が過ぎた……」
流石にバツの悪そうな顔をして二人の神様が謝罪をする。だがそんなの関係ない、コイツらは触れちゃいけない男の大事な部分を大きく傷つけたのだ……。
「す、すまんのぅ燐よ……。お詫びと言ってはなんじゃが、転生する際のスキルを一つ授けるからの、それで勘弁してくれんか?」
…………スキル?
「す、スキル?」
ようやく反応した俺を見て機を見つけたと思ったのか、一気に捲し立ててくる。
「そうじゃ! 本来ならのぅ原則一つだけなんじゃが、お主は『転移して転生』したからの。これで二つ確定なんじゃが、おまけでもう一つ授けてやろう!」
「グスッ……、それは本当ですか?」
「ああ、本当じゃとも! じゃからこちらにおいで、のう?」
ラァッキィ!
「……絶対ですよ?」
「ああ勿論じゃとも!」
「分かり、ました」
思わぬ幸運に胸躍らせながらも俺は、それを悟られまいとして泣いたフリを続けていた。——後から思い返してみれば心を読める時点でこんなことはなんの意味もなかったわけだが——
ようやく機嫌を直した俺は言われるままに指定された場所に待機する。
「よし、では燐よ。お主の望むスキルを一つワシに聞かせるのじゃ」
指定した場所に動いた俺を見て老人が声をかける。
「え? 三つではないんですか?」
「うむ、それなんじゃがな……。二つは既に決まっておってな、おまけの枠しか自由にできないのじゃよ」
「え、もう身体に情報を入れ終わったんですか?」
「いや、まだじゃ」
「それならまだ確定してないわけですから自由に変更できるのでは?」
俺なりに理解していたことを指摘するが。
「確かにその通りなんじゃが……。お主の場合は色々イレギュラーが起こっていてな、その二つのスキルは既にお主自身の魂にしっかり刻まれているのじゃよ。だからそれを下手に取り除こうとすると、ワシらでさえも想像のつかぬことが起こりうるのじゃよ」
申し訳なさそうにしながらそう説明してくれた。
「そう言うことなら仕方ないですね。ではどんなスキルがいいか、と言うことですが」
「うむ」
「鑑定スキル、というのはありますか?」
ピクリ、と老人の眉が動いた。
「無論、あるぞ」
「ではそれでお願いします」
「うむ、よかろう。とは言ってもそうじゃな……、普通のスキルでは先程の失礼の詫びにはならんじゃろう、最上級の鑑定スキルを授けよう」
「え、いいんですか! ありがとうございます!」
思った以上の結果に思わず頭を下げる。これは本当に感謝しないとな。
どんな世界でもやはり情報というのは大事だ。俺は自分の頭があまり良くないのは理解しているので、手っ取り早く情報を集めるのなら何がいいか? と考え、結果鑑定スキルに落ち着いたというわけだ。
「では、色々と時間をかけてしまったが、そろそろ旅立ちの時間じゃ。これからアガルティアに送るでな、そこに円があるじゃろ? その中に入るがよい」
老人が指を指して示した場所には、この白い空間でもくっきりと浮かぶ光の円があった。
指示に従いその円の中に入る。すると俺が足を踏み入れた途端円は輝きを増し始めた。
「では燐よ、今から向かう世界では今度こそ悔いのないように生きるがよい!」
老人の声が大きく轟く。
今度こそ、か。
老人の声を反芻し、何度も何度も心に刻んだ。
やがて光は目を開けることも出来ないくらい眩い輝きになり、俺は堪らず目を閉じた。
ようやく次回から主人公は大地に立ちます。
ここからどんな行動をとるのか、それは私にも分かりません。