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拳の剣聖  作者: 心戒
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一章 17話

他の作者さんの作品を見て自分の無能さを実感する毎日でございます。


そこから先は一方的な展開だった。俺が拳を振るうたびに三匹の魔物どもの何処かしらが切断されたり、酷くボロボロの状態になっていく。

切れる場所は全て切った。残るは本体のみ。俺の視界に映る《耐久値》の数値はもはや風前の灯火だった。

……えっ? 酷すぎる? ……いや、うん、まぁ、分かってるんだけど……。こう、ね? ほら自分は無敵で相手徹底的にボコせます、なんて言われたらさっきやられた分とかも返したくなるじゃん?

と言うわけで俺は悪くない!

さて、言い訳もしたところでトドメを刺すか。

改めて三匹の魔物を見る。三匹とも何で生きているのかと全力で問いたいくらい酷い有様だ。……まぁ俺がやったんだけど。



ズズンッ……! ズズンッ……! メキメキメキィッ!!


「なんだっ!?」


突然あたりの木々が爆ぜるようにしてなぎ倒される。突然の爆音に俺は思わず身を竦ませた。その直後に——。


グルルルル……


静かだが、確かな殺意を持つ存在が喉を鳴らしている。

俺の本能が告げていた、何か来る、と。

そう、目の前に転がっている奴らよりもかなりヤバい奴が。

そしてそいつは姿を現した。先ずは巨大なギラギラと輝くように艶めかしくテカる()()()、次に俺の胴の三倍以上は太い丸太のような両腕。そこから更にグンと大きく背が伸びた。

いや、伸びたわけではない、ただ立ち上がっただけのようだ。


「マジかよ……」


俺の顔を絶望が彩るのにそう時間はかからなかった。いやだって、コイツどうやって倒すんだよ? 立ち上がっただけで4階建てのマンションみたいにでかくなったんだぜ!? どうしろと?


あまりにも巨大すぎるこの化け物は悠然と俺の目と鼻の距離を衝撃とともに通り過ぎた。その際俺には一切目をくれなかった。

気がつかなかったのか? とも思ったがそんなことはないだろう。存在を知った上で気にしていないと言うことだ。

そりゃそうだ、蟻と虎ぐらいは優に差がある体格差だ。人間が蟻を気にしないようなものだろう。


そんなことを考えていると、化け物は俺がボコボコにしたイモムシみたいな感じになった三匹の目の前で停止した。

ギョロッ、と巨大な目を動かしてジーッと三匹を見つめているようだ。

三匹は舐められまいと思い思いの威嚇をしている。そしてエーラウルフェンが唸った瞬間、化け物はなんといつから持っていたのかバカでかい、振り上げるだけで思わず夜になったと錯覚するような大きな影を落とした棍棒で三匹をまとめて殴りつけた。


ガアアァァァァァン!!!


エーラエイプが地面を殴った音も凄かったのだが、この化け物の場合そんなレベルじゃなかった。殴った地面が抉られた。更に衝撃で大木の幹が大きく震える。

そして殴られた三匹は——。


「うっわ……」


もう衝撃で察してほしい俺としては描写はしたくない。言葉にしたらそれだけで吐きそうだ……。


口を押さえて口内にこみ上げそうになる酸っぱい何かを必死に押しとどめていると、徐に化け物がこちらを向いた。そして——目があった。

満月か何かに睨まれたかのようで、俺はその巨大な瞳から目を逸らせなかった。

完全に静止した俺の体は一歩も踏み出すことなくそこに留まり続けた。その間も化け物はこちらに足を進める、巨大な足で轟音を轟かせながら。


「ヤバイヤバイヤバイ!」


口は動く、だけど足は動かなかった。ただ純粋に怖くて身体が動かない。

蛇に睨まれた蛙というのはこんな気持ちになるのだろうか、とやけに冷静な頭で思う。


あ、やばいやばい化け物がこっちに棍棒を向けて——あ、あ、振り上げて——暴風とともに振り下ろしたぁ!!


「くっそ動けええぇぇぇぇ!!!」


ドンッ


「え?」


ガアアァァァァァンッ!!


俺は()()()()何者かに肩を抱えられ、勢いで押し倒され、て——。


「くぅ……!」


「おま、いや、君は」


「がう……、ダイ、ジョウ…ブ……?」

「え? あ、うん…」

「ココ、危ナイ……、ハヤク、ニゲロ」


俺の肩を抱く何者か、それは瀕死の美少女だった。ボロボロで、髪も身体も自分の血でベタベタなのにも関わらず見ず知らずの俺を美少女が案じてくれている。


「ッ、君はどうするんだい? 逃げるの?」


美少女は首を振って否定する。


「ココ、ワタシノナワバリダカラ、タタカッテ、オイダス……!」


犬歯を露わにして獣のように唸り始める。その仕草を見て俺は即座に制止した。


「やめろ! 俺達に勝ち目はない!」

「デモ……ココハワタシノ、ナワバリダカラ。ジャマスルナ」


俺は首を横に大きく振る。


「どうしてもやるのか……?」

「ヤル」


少女の答えに迷いなどは微塵もなく。俺はやれやれと息を吐く。


「分かった、なら俺もやるよ。一緒にあいつを倒そう」

「ダメ」

「え?」


少女は真剣な眼差しでこちらを見る。


「オンジン、ケガサセタクナイ……! カラ、ハヤクニゲル!」


怪我だらけの満身創痍の身体で俺をグイグイと押して避難させようとしている、のか?

なのにその肝心の手にはほとんど力が感じられない。こんな状態で戦うのなんて無茶にも程がある。先ほどの三匹を万全の状態だったのにも関わらず倒せなかったのに、それらをさらに上回るこの目の前の巨怪を相手にするなどただの自殺行為だ。


俺は尚も背中を押してくるか弱い感触に向き直り少女の肩を抱き一息に告げる。


「俺は君を守るって決めたんだ。だから俺は逃げない!俺は君を守りたい!」

「オ、オォ……?」


なんだこいつ、とでも訴えかけられるかのような困惑した目で見られている気もするが知るか。

半ば強引に少女の方を抱き寄せそそくさと木の陰に連れて行き強引に座らせる。


「いいか、俺が戦っているうちに出来るだけ遠くに逃げてくれ。俺もあんなの倒せると思ってないし、君が逃げたら俺も逃げるから」

「ダメダ、ワタシモタタカウ!」

「無理だ!! 逃げろ!!」

「ッ!!」


有無を言わさぬ剣幕で俺はそう怒鳴る。少女は驚いて顔を下に向けている。


「お願いだから、逃げてくれ…!」


最後に強く肩を抱き、離れ一目散にダッシュする。方向は勿論——。


「ゴギャアアァァァァァァ!!!」

「うるせぇんだよぉッ!!」


雄叫びを上げ、俺は拳を巨人のぶっとい足に振り抜いた。


ゴツッ


鈍い音がして巨人の足の耐久値がほんの少し減った、が巨人はどこ吹く風で不思議そうに攻撃をしたこちらを眺めるようにみている。

と思った次の瞬間である。


「ゴッ…グフッ……!」


無言で放たれた予想以上に速かった巨人の拳に俺は全身を叩きつけられ、塵芥の如く吹き飛ばされた。


「ガッ、ゴッ、グッ、ゲハッ…!」


地面を跳ねるように転がり続けた俺はそれだけで自身の身体がボロボロになったことを察した。

満足に起き上がれるような状態では無かった。


「カハッ…、くっそ、いてぇ……!」


俺の口からは多量の血液が吐き出された。こんな体験初めてだ。まぁ、当たり前だろうが。

だが不思議なことにそんな痛みは徐々にではあるが俺の身体から抜けていく。とここで俺は思い出す。

そういえば今の俺には〔自動回復〕というものがついているのだと。


「へっ、へへ……、いてぇ、けど、これなら戦える……!」


未だ痛みの残る身体をゆっくりと起こしていく。巨人はそんな俺を見て露骨に驚いていた。

理由はなんとなく予想はつく。恐らく自分の攻撃で俺が死ななかったからだろう。どう考えてもあんな攻撃受けて死なないやつ普通はいないだろう。正直俺だってなんで生きているのか分からん。


もう大体痛みの抜けた身体を念のため軽く動かし正常に動くのを確認する。


「っし、大丈夫そうだな」


確認を終えたところで俺は再び巨人と相対した。先程は足しか見ていなかったが、さっき殴られたお陰か今度は冷静になって巨人の全体の耐久値を確認できた。



森林の主


頭 20000

目 8000

胴体 62000

右腕 30000

左腕 30000

右足 44967/45000

左足 45000

棍棒 27500



「強すぎだろ……」


あまりの戦力差に思わず絶望で足元がぐらつく。膝をつきそうになったがそれは堪えた。もしついてしまったら俺は多分なりふり構わずにこの場から逃げ出そうとするだろう。

なんとか持ち直し、ゆっくりと深呼吸した。敵を前にして何故こんなことが出来るかと思うのだが、アイツは先程俺が耐えたことを若干不審に思っているのだろう、あの巨人なりに警戒しているのだろうか。


「ふぅ……、よし!」


心の準備を整えた俺は先程教えてもらった構えを作り、戦闘態勢に入る。


「まずは足を削る……! うおおぉぉぉぉ!!!」


一目散に俺は大樹の如く聳え立つ巨人の右足に狙いを定め——


「くらええぇぇええぇぇぇ!!!」


拳を振り抜いた!


バキィッ!

スパァンッ!


「…………え?」


俺が振り抜いた拳の先には右足が——ない。いや、違うこれは——!


『チュートリアルを再開します』


そんな声が俺の頭で木霊したことは言うまでもないよなぁ……。



みじかっ!? て思った人、先生怒らないから手ェ挙げて。

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