一章 13話
遅くなりました!申し訳ありません!
しかし、今回は後編がそれなりによくできたと思いますので、よければ見ていってください。
さて、突然だが俺は今どこにいるのか、誰か教えて欲しい。
今の状況を説明すると、俺は今恐らく逆さまの状態でどこかにいることは間違いないだろう。何故かって? 現在俺の頭に冗談でもなんでもなく血がのぼっているからだ。まぁ今の状態では果たして血がのぼる、と表現していいのかどうか正直なところ不明だが。
次に、俺の今の視界が真っ暗であることから何かで包まれているだろうと説明ができる。と、いうよりこれは土だ、間違いなく。
だってなんか湿ってるし。大量の砂つぶがベットリと俺の顔全体に塗りたくられているような感触がするし。泥パックってこんな感じなのかなぁ、なんて我ながらのほほんと考えていた。
しかしそんな時間はとある闖入者により阻まれることになる。
「(ニュッ)」
「!? ひぃやぁぁぁぁ!!?」
突然正体不明の柔らかヌメヌメテカりんこな紐状の存在であろう物体が俺の首筋を優しく撫でる。
俺は驚いた衝撃で狭い空間で頭をぶつけた。
「いった!」
ニュルン
「!? ぎやあぁぁあああぁぁぁ!!!」
俺の起こした衝撃で驚いたのだろう、その正体不明の存在が首筋からなんと器用に這ってこようとしているではないか! その感覚たるや言葉では説明できない!
俺は必死に服の中に入ってきた存在を追い出そうと身動き出来ない体をなんとか揺すってみたり壁に当たった衝撃で振り落とそうと試みる。
「ウオオォォォ出てけえぇぇぇ!!!」
しかし服の中の物体は中々出てこない。躍起になって追い出そうとしていると遂に限界がきた。
「おわっ、まぶしッ!! …………ッ」
俺を覆っていた土が段々崩れ、気持ちのいい陽の光が入ってきた。それと同時に俺は服に中にいるであろう物体の正体を見ることになる。
——至近距離で。
ニョロ、ニョロ、ニョロン
ここで手短に説明しておこう。俺は虫があまり得意ではない、が触ることはできる。恐らく勇気を振り絞れば黒い流星や多脚狩人もまぁいける。
だが——
「コイツはムリだァァァ!!!」
ジタバタ必死にもがき残りの土の壁を粉砕し、数秒かけて脱出する。
目の前の存在、ミミズのぬらりとした体の映像が俺の脳内を支配する。だが、それでも今俺にはやらなきゃいけないことがある!
「あ、リン! やっと見つけ……」
「うわぁぁああああぁぁぁぁ!!!」
何か人の声がした気もするがそんなのに構っているわけにはいかない!
できる限りの速さで俺はプチプチとシャツのボタンを外して行く!
(もっとだ、もっと早く! 早く脱いで追い出さないと!!)
「きゃあ!? り、リン何してるの!?」
誰かが何かを言っている気がする、だがそれは俺にとって好都合だ! 服を脱いでお願いすればこのぬらりとした物体をその誰かにとってもらえると思ったからだ。
だがここで最悪のアクシデントが発生することになる。
「! ガッ!?」
スルン、と艶かしい感触を残してソイツは俺のパンツの中に侵入してきたのだ。
ここで遂に俺の理性は完全に飛ぶこととなる。
「り、リン何してるの!? なんで服を脱いでるの!?」
その人は俺の行動が理解できないようだ。だがそんなことを考慮している間などなく俺はズボンのベルトを外し終えズボンを脱ぎ捨てる。
一刻も早くアイツを追い出さなくては! と俺の頭はそのことしか考えられない。当然俺は今自分がどこで何をしているのかを考慮することはなかった。
そしてそのタイミングでアイツが動き出す。
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!! 誰かコイツを取ってくれぇぇぇぇ!!!」
「キャアアァァァアアアアァァァァッ!!!」
スパァン! と勢いよく最後の砦を捨て去り猛然と近くにいた人物に助けを乞う。
だがしかし、その人物は俺の大事な場所に何故か知らんが器用にくっついているコイツを取り除いてくれることはなかった。
そしてその代わりと言えばいいのか何処かで見たような火球がこちらに迫り、そして——
ドグアァァァァァン!
最近とても身に覚えのある衝撃と共に俺の身体は宙を舞い空を飛んだ。
「……ハァ…ハァ…。……あ、しまった、あの方向は……!」
そんな言葉を耳にしながら俺は某菓子パンたちの敵に当たるバイキン男の気持ちを味わいながら空の旅をやむなくすることになった。
俺がとりあえず空の彼方に姿を消した頃、大きな穴ができた畑のある家から老人が出てきた。
「なんじゃアーリィ、またやったのか……」
「だだだだって、リンさんが突然裸になって……!」
「そうかい……。じゃがなぁ、飛ばした方向かなりまずいぞ? 大丈夫か、あの少年」
「あんな変態知らないわ! ……って言いたいけど確かに不味いわよね……」
「狂戦士の餌食にならなければよいがのう……」
「うっ……! わ、分かったわ、行ってくる」
「うむ、気をつけてな」
「はぁ、今更ながらリンって人本当にリラを助けてくれたのか心配になるわ……」
足取りも重くアーリィはエーラの森に向かって行くのだった。
さて諸君、突然だが質問したい。一体ここはどこなのかと。
今俺の視界にはできれば許容したくない出来事が広がっている。それは何か? そうだな、説明しておこう。
まずは緑、適度に日差しが入ってくることもあり、揺れる木々の葉が日光を浴びてサラサラと音を立てて幻想的な風景を生み出す。
これだけ聞くとここはいい場所、なんだろうな多分。
しかし——
「ガァァァ!!!」
「うっ……」
「ゴアァァァァァァ!!」
「あ…ぐっ…!」
「ブルルルッ、ブルルッ!」
狼、ゴリラ、猪、そして——美少女、しかも血まみれ。
幻想的なこの場所で一体何をやっているのか、と嘆きたくなるくらい地面は大量の動物、いや魔物か? の体液でおどろおどろしい色を地面に滲ませていた。さらにその上にある魔物の亡骸が凄惨さを物語っている。
美少女はなんとか動物三匹の猛攻を決死の思いで防ぎ、避け、手に持つ等身大の馬鹿でかい斧で反撃を試みるが、うまく力が入っていないのか容易く避けられその隙を三匹に突かれジリ貧になっている。
さぁ、もう一度言おう。ここは一体どこなのか、誰か教えてください。出来れば現実逃避の仕方も教えてください。
『フォッフォッフォ! ここはエーラの森、通称狂戦士の森じゃのぉ』
「お前が答えんのかいぃ!!」
天を指差して思わず口走る。
(……って、あれ……、これまずくね?)
天に向けた視線をジリジリと下におろして行く。するとそこには——化け物がいた。
化け物はもう美少女に見向きもしない。今この三匹の視界にいるのは。
少し右に移動してみる。三匹の首が左に動く。次は左に走ってみる。三匹の首が右に動きこちらに歩み寄ってきた。
「もしかして……俺ですかぁ……?」
涙ながらに自信を指差す。帰ってきたのは——。
ギュルルルルル
ダラァ……
「グォォォォォ!!!」
猪は腹の虫、狼はヨダレ、そしてゴリラは当たれば死はおそらく免れない剛拳を振り下ろした。
「あっっぶねぇぇぇ!!?」
辛うじて拳を避け、しかし衝撃に吹き飛ばされ地面を転がる。
俺はよろよろと立ち上がり拳が当たった地面を見た。
「……マジかよ」
見れば地面は割れていた。それだけで拳の破壊力がどれだけの威力であるかは想像に容易い。
「シャレになんねぇぞコレは……!」
三匹に視線で牽制しつつ逃走経路を探る。
(逃げられそうな場所は……、くそっどこだ!?)
「ブルルルルルッ!!」
一瞬経路を探すため視線を外したことを好機と見たのか猪がまるでダンプカーの如く迫る!
「う、うおおおぉぉぉぉ!!?」
これも間一髪でハリウッドダイブでその場から飛び退いた。
すぐさま視線を猪に向けると、俺は信じられないものを見ることになる。
「木が、折れてやがる……!!」
猪が通った道。そこには結構な樹齢であろう樹木がそこにあったはずなのだが。
バキバキメキィッ
けたたましい音を立て周囲の細い木と枝を巻き込み、樹木が倒れ伏す。
「どうすりゃいいってんだ!?」
そう悪態を吐くもそれで状況が好転する筈もなく。
「ガァァアアアァァァァ!!!」
「!? ゴォッ!!」
いつの間に背後にいたのだろう、三匹のうちの最後の一匹狼が俺の背中を強く打つ。当然俺の体は慣性に任せ木の葉の如く吹っ飛ばされた。
二、三回身体を強かに打ち付けその度に俺の口から苦悶の声が漏れる。
最後に俺は木に叩きつけられようやくその身体は停止した。
辛うじて焦点の定まらない目を後ろへ向けるとそこには、整然と立ち並ぶ自然の強者どもがこちらを見ている。
それは、今までの生活の中では一切向けられたことのない種類の視線だった。だが俺はそれを本能で理解してしまっていた。
即ち、獲物を見る目だ。
この時点でもはや俺には生きる気力などなかった。ただ自然の摂理に従い弱者が強者に捕食される。耐え難い宿命であると共に逃れられない宿命であることは既にその身で理解した。
絶望と恐怖で頰が濡れる。足は既に震え、腰は完全に抜けていた。
三匹の地面を力強く踏みしめ、草木を潰して歩く音を聞きながらその時が来るのを待つ。
「……うぅ……」
「あっ…、え…?」
俺の声に呻き声が聞こえた。戸惑い俺がそちらの方向を見ると。
「うっ……、うわぁぁぁ!!」
雄叫びをあげ、ボロボロの身体で自身の身長ほどもある凶悪な斧を振りかぶり美少女が一目散に三匹へと駆け出して行く。
「む、ムリだ! 無茶だよ!!」
思わずそう叫ぶが。
「ギャッ!!」
美少女はいとも容易く三匹にあしらわれる。狼の爪に斧を飛ばされ、猪が美少女の身体を飛ばし、地面をマリのように跳ねているところをゴリラの剛拳が襲った!
後に残ったのは、見るも無惨な美少女の身動きしない体のみ。
そして何を思ったのだろう、ゴリラがもはや生きているのかすら怪しい美少女の身体に向かって拳を振り上げた。
そこから何が起こるのかなど簡単に想像ができる。
だから俺は。
「やめろおぉぉおおおぉぉぉぉぉ!!!」
大声で三匹に叫んだ。
ピタッとゴリラは拳を止めた。狼はこちらを面倒臭そうに見た。猪は鼻息荒くこちらを睨む。
こんなことをすればこうなることは分かっていた。でも止められなかった。
俺よりも小さな少女が俺よりも酷い目にあっているのに、何もしないなんてできなかった。
俺の頭には、今はこの考えしかなかった。
少女を助ける、と。
どうでした、いかがでした?
ちなみに自分はどうしてこうなった。という気持ちでいっぱいです!
本当にどうしてこうなったんだろうね!?
次回もなるべく早くあげるよう努力したいと思います!