一章 9話
大変遅くなってしまい申し訳ありません!
待ってていてくれた方、もしいたらありがとうございます!
食事を終えて、軽く伸びをする。目の前の空になった皿を次々と重ねてリラの母親——アマリさん——にどこに持っていけばいいかを聞いた。
「あら、ありがとう。そうね、じゃあ裏の井戸の側にお願いしてもいいかしら?」
「分かりました」
「わたしも一緒に行きます!」
皿の塔を持ち上げ行こうとするとそんな声が後ろからかかった。
「あら、珍しい。じゃあリラにもお願いしようかしら。折角だからリンを井戸に案内してあげて?」
「まかせて!」
フンスと小さな胸を張り、当然だとばかりにやる気を見せるリラ。そんな様子を微笑ましく眺めていると、俺と同じく皿の塔を抱えたリラが
「じゃあ行きましょう!」
「ああ、よろしくね」
そしてそのままグラグラと揺れる歪な塔を持って家を出た。当然俺もそれに続く。
リラに案内されて家の裏に回れば確かに古い井戸があった。そのすぐ側にまず自分の塔を置いて、もうすでに限界がきているんじゃないかと思うほど歪になったリラの持っていた塔をそっと受け取りこれも地においた。
「…………。」
「何してるんですか?」
「え!? いや、何でもないよ!」
「?」
俺は慌てて井戸の奥へと向けていた視線を陽の当たる場所へと戻す。
いやだって気になるじゃん? 井戸だよ? あの超有名なRPGを知ってたら覗くでしょ! 何かがあるか無いかに関わらずさぁ!
(まぁ、何にもなかったんだけど)
人知れずにハァ、と溜息をつく。まぁ何かあったとしても降りるのは難しそうだし、そこまでファンタジーな世界じゃなさそうだしね?
「さて、じゃあ洗おうかな!」
腕まくりをしてはたと気付く。
「……ごめんリラ、これの水の汲み上げ方教えてもらえる?」
我ながらなんて情けない! とは思うが全く分からない以上教えてもらう以外に方法がないので仕方がない。
「えっと、分かりました!」
元気よく返事をしたリラは井戸のそばに寄り、説明してくれた。
「分かりましたか?」
「うん、よく分かったよ、ありがとね」
そういった俺の手はすぐそばにあったリラの頭を撫でる。
「……うぁっと! ごめん!」
勢いよくバッとリラの頭から手を退けると、その瞬間下を向いていたリラの顔が上がる。
「もっと!」
「え、えぇ? いいの?」
「お願いします!」
あまりの剣幕に思わずタジタジになる。
(えぇ……、なんなんだ一体……)
「ええとじゃあ、失礼して……(ナデ、ナデ)」
「んふふ〜」
頭撫でを再開すると、先ほどまでの顔が一変とろ〜ん、と溶けるように変形した。それはもうなにか悪い物でも食べてしまったんじゃないかと心配するほどの豹変ぶりだった。
「ええと……、リラ? そろそろやめていいかな」
「まだだめです〜」
「え〜、でもそろそろ食器洗わないと……」
「え〜? もう、しょうがないですね……、なら終わったらまた撫でて下さいね?」
「分かったけど……、そんなにいいの?」
するとリラは何を聞いているんだとばかりにキッパリと、
「それはもう!」
と言い切った。
「お、ほぉん……」
そんなにいいのか……。初めて知ったわ。
「と、それよりも早く始めないと!」
俺はいそいそとさっき教わった通りに井戸から水を汲み、木製のたらいに汲んだ水を注いでいく。その中に複数あるうちの食器の塔を入れて、これまたリラに教えてもらった植物性のタワシで汚れを落としていく。
どうやらこの世界には洗剤や石鹸といったものは無いらしい。形状を説明しても、どのようなものであるかを説明しても理解できていないことからそれが分かる。
あちらの世界で鍛えたこともあってか、この程度の家事なら手慣れたもので、それほど時間を置くことなく洗い終わった。というか見た目ほどの食器は無かったからなのだが。全部木製だし、一枚一枚が結構厚かったみたいだ。
「ほぇ〜、リンさんすごいです! こんなに早く洗えるなんて!」
「そうかな? まぁ大したことないよ、慣れてるしね」
「でもでも、すごいです! わたしなんてちっとも洗えません……」
「あぁ〜……」
実は俺が洗っている間にリラが手伝いを申し出てくれていた。俺はそれをありがたく了承したのだが——。
「わっ!」
「うぉっと!」
「ご、ごめんなさい!」
「いやいや、いいよ、気にしないで」
なぜ泡も付いていない食器を持つたびに滑ってこちらに飛んで来るのか、不思議でしょうがない。そして木製なのに割れる皿。何かが憑いているんじゃないかと思うくらい酷かった。
「ごめんなさい……、わたしお皿を洗おうとするといつもこうなっちゃうんです……」
「いやいや謝らなくていいよ、誰だって得手不得手はあるんだから」
「えてふえて……?」
「んーとね、得意な事と苦手な事があるってことだよ」
「そうですかね……」
「きっとそうだよ、だからもし今度俺が苦手な事があったらまた手伝ってもらっていいかな?」
ちょっと涙ぐんでいた目元をゴシゴシと拭い、一転ニコッと笑って、
「はい、お手伝いします!」
と言ってくれた。
俺たちはそれから少しまったりしてから、洗い終わった食器を持って家の中に戻る。
部屋に戻ると、俺たちの存在に気付いたアマリさんが声を掛けてきた。
「あら、どうしてお皿を持ってるの?」
「いえ、もう洗ってしまったので片付けようと思いまして」
それを聞いたアマリさんは一瞬驚いた顔を見せたもののすぐに明るい笑顔を見せ、
「あらあらありがとう、助かったわ!」
と労ってくれた。
それからアマリさんと他愛のない会話をしつつ、指示に従って食器を棚にしまっていると窓から茜色の光が伸びてきた。
「あら、もうこんな時間なのね」
「? なにか気がかりなことでもあるんですか?」
「ええ……。リラがいなくなった時に上のお姉ちゃんが探しに行ったんだけど、まだ帰って来ないみたいなのよ……」
不安げに頰に手を当てそう言葉をこぼす。
窓から外へと顔を覗かせると夕陽がが徐々に徐々にと姿を消していく途中だった。
「あの子には一通り戦い方を教えてあるからあまり心配はないと思うのだけど……」
そう言うアマリさんの顔には言葉とは正反対の表情が見て取れる。
「ごめんリン君、留守番をお願いしてもいいかしら。ちょっと探しに行ってくるわ!」
「あ、それなら俺も手伝います!」
「ありがとう、気持ちは嬉しいわ。でもリン君はアーリィにまだ会ったことが無いから顔がわからないでしょう?」
「あ、そうですね……」
少し考えれば分かることなのに一体俺は何を言っているのか。
「すみません、じゃあ留守番は任せて下さい」
「ええ、お願いするわね。あ、でも今すぐに行くわけじゃないわよ? もしかしたら入れ違いになるかもしれないし、少しだけ待つわ」
ああ、確かに。 と思ったが未だに不安を拭えないアマリさんの顔をみると、それは望みが薄いだろうことが分かる。
それからは微妙な時間が流れた。何となくいたたまれない空気を肌で感じている俺はアマリさんが淹れてくれた薬草茶をすすり、どんどん闇を深める外を眺めていた。
遂には仄かに灯っていた夕陽も完全に姿を消し、辺りは完全に暗闇に包まれた。
その時、突然家の扉が音を立てて開かれた。それは外側から開かれたものでアマリさんやグリアスさん、ましてやリラや俺が扉に触れたわけでもない。ということは——
「アーリィ!!」
開かれた扉を抜けて来たのは美少女だった。身長は170cmぐらいだろうか。細い手足に、まるで透き通るように美しいきめ細やかな肌、母親譲りだと思われる夕陽を彷彿させる赤髪、身に纏っている茶色のマント越しでも分かるメリハリのある身体つき。一瞬でその様相に目を奪われた俺はアマリさんが声を上げるまでその美少女の服装に気がつかなかった。
「どうしたのその格好!?」
「うっ、うっ……、お母さん……」
ヨロヨロと覚束ない足取りでアマリさんにもたれかかるようにしてすがりつく。
「リラ……が…見つからなかった、の……」
嗚咽を漏らしながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。その言葉には無念や悲しみが込められているのが分かる。
「アーリィ……、大丈夫よ、リラはもう見つかったの」
「……ッ本当!?」
ガバッと伏せた顔を上げ降って湧いた朗報に希望を見せる。
そんな様子のアーリィにアマリさんは諭すように優しくリラが無事であることを伝えた。
「うっ、良かった……! 良かったよぉ〜!!」
今度は安心でその顔を涙で濡らした。すると騒ぎを聞きつけたのだろうグリアスさんとリラが上の階から降りて来た。
「お姉ちゃん……」
「アーリィ」
「リラ!!」
「わぷっ」
アーリィはリラを見るなり、思いっきり飛びついた。
やかましい音を立ててリラを巻き込んで倒れこむ。
「リラぁ……! 良かった、良かったわ無事で……!」
「お、お姉ちゃん……、ごめんなさい……」
「いいの! リラが無事ならなんでもいいの! リラぁ〜!」
床をゴロゴロと転がりながらリラを抱きしめているアーリィを見ていると、あちらの世界で似たようなものを見たことを思い出す。
(紫藤が抱き枕を愛でているときあんな感じだったよなぁ……)
いかんいかん。スケベな友人の欲望とアーリィの大切なものが無事だった時を一緒にするなんて絶対ダメだ。
「アーリィ、その辺にしなさい?」
ニコニコと微笑みながら言ったアマリさんの額にはその顔に似つかわしくない青筋が浮かんでいた。
「お姉ちゃん、そろそろくるしい……」
「あっ、ごめんねリラ!」
「ううん大丈夫……」
「アーリィ、リン君が固まってるから早く離れなさい?」
アマリさんの声色には確かな覇気が潜んでいた。
「あ、いえお構いなさらず!」
「あ、ごめんなさい! お客さんかしら?」
「まぁ、お客様だけどちょっと違うわ」
「どういうこと?」
アーリィは意味が分からないようで首を傾げている。
「この人、リン君って言うのだけどリラを助けてくれた恩人よ」
「リラを助けてくれた!? リラは自分で家に戻って来たんじゃないの!?」
「いいえ、魔物に襲われているところを助けてくれたのよ」
「まままま魔物!? リラ大丈夫だった!? 怪我してない? ああどうしよう! リラの身体に傷が付いてたりなんてしたら……!」
「アーリィ落ち着きなさい。リラは怪我なんてしてないわ、間一髪のところをリン君が助けてくれたんだから」
そこまで話して漸くアーリィはこちらを向いた。
「あなたが助けてくれたの?」
「え! ああ、いや、はいそうです」
「……本当に?」
「はい。……うぇッ!?」
俺の再度の返事を聞いたアーリィはその場で下を俯きプルプルと震え出した、かと思えば次の瞬間に先程リラにしたのと同じようにこちらに飛びついて来た!
再び倒れるアーリィ。さっきと違うのはリラに代わりに俺を巻き込んだことか。
「ありがとう! ありがとう! ありがとう! ほんっとうにありがとう!!」
うん、お礼はいいんだ、お礼は。だけど今問題なのはそこじゃない、胸がッ、胸が俺の胸板にぃ!! ふにっと来てる、来てます! 何という幸福感! これが女の人の胸の感触かッ!素晴らしい、エクセレントッ!
「おい! リン君の顔色がおかしいぞ! っおいアーリィ、リン君の首がキマってるぞ! 早く離せ!」
「ああっ、ごめんリン君だっけ!? 大丈夫? しっかりして!」
ああ、だんだんと頭がぼうっとして気持ちよくなって来た。そうか、女の人の胸はこんなにも…気持ち……よかっ————
その後の記憶はちょっと思い出せない。
時間かかった割にはこんなものか……とか思わせたらごめんなさい!
でもおかげさまでネタは結構溜まっているので、頑張ってペースを上げて書き上げたいと思います!




