一章 8話
たいっへんお待たせいたしました!
他の作者様の作品で勉強させていただいておりました。おかげさまで何度か心が折れかけましたけどw
「さて、では君の番だな。傷を見せてみなさい」
「え、いや、でも……」
「何を遠慮している? その傷は素人でも分かるほどに重傷だ。 手遅れになる前に早くしなさい」
「は、はい……、じゃあお願いします」
俺はリラの父親の目の前まで行く。
「立っているのも辛いだろう、とりあえずそこに座りなさい」
そう言って俺に地面に座るように促す。もちろん固い土の上じゃなくて柔らかい草の上だけど。
俺が促されるままに座ると、その俺の怪我の上に優しく手を触れさせた。
「『ヒール』」
リラの父親の置いた手の平が段々暖かい光を宿していく。そしてその光は俺の傷を覆っていった。感覚としてはなんと言えばいいのか……、兎に角不思議な感覚だった。ただ一つわかることは、痛みが和らいでいったということだけだ。
「すまない、私ではこれが精一杯だ。後は包帯でも巻いて安静にするべきなんだが……ふむ、そうだな……」
一拍置いてリラの父親は俺に言った。
「私達の家に来るといい、もう少し治療をしてあげよう。どうだい?」
「え、いやでも、そこまでしてもらうわけには……」
「なに、娘を救った命の恩人にどれだけ尽くそうが損はすまいよ」
「リンさん、その、ウチに来ませんか?」
「喜んでいかせていただきますッ!」
美少女レベルの幼女に家に来ないかと言われて断れる奴がいると思うか? いやいない。俺もそんな奴の一人だ。
「あ、ああ、では決まりだな。では、リン君で良かったかな? 案内するからついて来なさい」
「あ、はい」
「ではすまないがジョンさん、皆にリラの無事を知らせて来てはもらえないだろうか」
「お、おお! そうですな! 直ちに皆に知らせて参りましょう!」
「うむ、頼む」
「お任せください!」
ジョンさんはそう言って自分の左胸に右手の握りこぶしを当てお辞儀をすると、その場を後にした。
「ふむ、未だに彼奴も癖は抜けんか」
遠ざかるジョンさんの背中を見ながらリラの父親は小さく笑みを浮かべた。ジョンさんの後ろ姿が家屋の一軒に消えたのを見守ると、リラの父親はこちらに向き直る。
「さて、すまない、待たせてしまったな。では行こうか」
「はい」
俺が返事した途端、何かが俺の手に触れる。
「リンさん、手、繋ぎましょう!」
そう言いながら、リラはこちらの返答を待たずに俺の手に小さな手を握らせて来た。
「え、お、あ?」
「ね?」
「おおおおぅ!」
言葉にならない言葉で返事をする。今更だがまさかここまで女の子に免疫がなかったとは……。きっと今の俺の顔は真っ赤になっていることだろう。ニコニコとこちらに笑顔を向けるリラを見ていると顔の赤みが更に増して行く気がした。
「さぁ着いた。ここが私達の家だ」
そう言ってリラの父親は目の前の家の扉を開けた。
「さぁ、中に入りなさい」
「リンさん、早く入りましょう!」
「あ、うん、お、お邪魔します」
リラに手を引かれて中に入る。するとそこには木造の調度品で彩られたなんとも落ち着く空間が広がっていた。
(はぇ〜、すごいな……。家とは大違いだ)
目の前には木製のテーブルが、その脇には木製の椅子が、並んだ食器はどれもこれもが色は違えど全て木でできていた。思わずマジマジとそれらを眺めていると、そんな俺に声がかかる。
「そんなにこの家が珍しいかね? それとも何か面白いものでもあったかな?」
「あ、いえ、ただなんとなく気になって……」
「そうかな? まぁ見られても困るものでもないから好きなだけ見るといい。……さて、今から薬を持ってくるからそこに座って待っていてもらえるかな?」
「あ、はい」
「リラもそこで待っていなさい、今お母さんも呼んでくるからね」
「はい、分かりました」
リラの返答を聞くとリラの父親は階段を上がっていった。
リラの父親が上がっていって1分も経たないうちに上階が騒がしくなって来た。ドタバタと駆け下りる何者かの足音が聞こえて来たかと思えば、次の瞬間にはリラ目掛けて飛んでくる何者かの姿があった。
「リラ〜〜〜!!!」
「わきゃッ!? お母さん!?」
自身に飛びついて来た者に対し、リラは言った。
「もうどこに行ってたの!? お母さん本当に心配したんだから!」
ギュッと我が子をもう何処へも逃さないとばかりにリラを抱きしめるリラの母親。その母親の瑠璃色の瞳からつーっと流れる雫を目にした瞬間、あちらで起きた出来事の記憶がフラッシュバックした。
(そういえば、俺もこうやってお母さんに抱きしめられたことがあったっけ。確か俺も勝手に家抜け出して冒険だーとか言って迷子になったんだよなぁ……。結局お母さんが見つけてくれるまで家には帰れなかったんだっけ。それで怒りながらも泣きながら抱きしめてくれたんだよなぁ。今どうしてるんだろうな、お母さん)
遠い世界にいる肉親を思い浮かべながら目の前の人達を見る。その時、胸の奥に湧き上がった寂しさは決して気のせいではないだろう。
さて、母親の抱擁が終わると若干涙目になっているリラがそこにいた。抱かれている間は結構苦しそうにしていたのだが、それは敢えて言うまい。親子の再会に水を差すのは愚かと言うものだろう。
再会を終えたリラの母親はこちらに向き直り深々と頭を下げた。
「娘を助けてくださり、本当にありがとうございました」
さっきまでの態度は何処へやら。キリッと顔を引き締め謝罪するその様は凛とした騎士を思わせた。
とそこで、道中リラと話した内容を思い出す。リラの母親と父親は元騎士団で、村人のほとんどが騎士団所属だったと言う。
なるほど、確かに。とリラの母親の佇まいを見て思わずこぼした。
「? 何か言いました?」
「あ、いや、何でもないです。それより、俺がリラを助けたのは俺がただ助けたいと思って助けたので、別にお礼を言われる謂れはありません」
気恥ずかしさから思わずそう言った。
「まぁ! 貴方聞いた? 『俺が助けたかったから助けた』ですって!」
声を上げて二階にいるであろうリラの父親に話しかける。するとちょうどよく降りて来ていたのか、リラの父親が姿を見せた。
「ああ」
「貴方が私に掛けた言葉そっくりじゃない!?」
「ッ、ああ」
「貴方が私にプロポーズした時の言葉じゃない!?」
「うん、うむ、そうだにゃ」
すごい、真顔で噛んだぞ。
「『俺が君を助けたのはどうしても君を助けたかったからだ。君を失いたくないからだ! 私は君が好きなんだ!』って言ってくれたわよね!」
「…………」
あれ、どうしよう、リラの父親を見ていたら涙が出てきた。
「あの後の夜は生涯『わ』忘れられないわ……!あの時の貴方は『わーわーわー!!』」
ついに堪え切れなくなったのだろうリラの父親が涙目で大声をだしてリラの母親の話を強引に遮った。
ゼェゼェと肩で息をしていたリラの父親は呼吸を整えると、キッ! とリラの母親を睨みつけた。
「アマリ、いい加減にしないかッ!」
「あらあら、怒られちゃったわ? 残念だけどこのお話はまた今度ね」
「金輪際よしてくれ……」
最後に弱々しい声でそう呟くリラの父親は、何もかも諦めきった顔をしていたのは言うまでもない。
「さて、と! それじゃそろそろ美味しいご飯の時間にしましょうか!」
ニコニコしながら立ち上がったリラの母親がそう言った。
「はい、わたしもお腹がペコペコです!」
「あ、では俺はこれで……」
と、家族の様子を見て家を出ようとしたのだが。
「待ちなさい」
そう言って俺を呼び止めたのは。
「リラのお父さん……。いやでも、邪魔しちゃ悪いですし……」
そう言った俺に対して、リラの父親はやれやれとかぶりを振った。
「さっきも言ったばかりだろう? 娘の恩人に対してどれだけ尽くそうが私たちには何の損もないんだ、むしろ恩人に対して礼が出来るから満足感が満たされていくんだ」
堂々とそんなことを言ってくれるリラの父親は、さっきまで凹んでいた人と同一人物とは思えなかった。というか、いつ立ち直ったんだこの人。
そんなことを考えていると今度はリラが、またもや手を引いて来た。
「リンさんも一緒に食べましょう?」
可愛らしいクリクリとした翡翠色の瞳をこちらに向け、上目遣いで、そう言った瞬間俺の口は勝手に動き出した。
「ご馳走になりますッ!」
ニコニコと微笑みながらリラの母親が用意してくれた温かい食事は、語彙力の足りない言葉で表現すると。
大変美味でした。
どうでしたでしょうか、日をまたいで書いていたので所々おかしなところがあってもおかしくありません。ですので、もしおかしいな、というところがありましたら、罵詈雑言も交えてご報告ください!
……すいません、やっぱり罵詈雑言は無しでお願いします。